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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
3章 最凶の魔物を倒しても、影の薄さは治らない
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11階に踏み込もう!

 翌日になって、晴輝は火蓮と共に10階に降り立った。

 本日は土曜日ということもあり、火蓮の育成係の朱音は店から離れられない。


 丁度良い機会だ。

 ここまでの疑問の一部を解消しようと、晴輝はステータスボードを取り出した。


「火蓮。昨日使った魔法は雷か?」

「えっと、たぶんそうです」

「いつから使えるようになった?」

「少し前からです。色々練習してたら出来るようになりました」

「ふむ」


 晴輝は右手を顎に添えた。

 加護かと思ってたんだけどな……。


「加護が現われてから、ダンジョンの外でも魔法が使えるようになったんです。それで、ホテルでも色々魔法について試してたら、出来るようになりました」

「おお、それは朗報だな」


 火蓮が外でも魔法を使えるようになった。それだけで、魔法のデメリットがかなり解消される。

 実に素晴らしい変化だ。


「……で、なんで朱音に魔法を見せたんだ?」

「それは……」


 晴輝の問いかけに、火蓮が口ごもる。


 なにか良くないことがあったのだろう。

 火蓮の顔が僅かに歪む。

 それでも、


「ヒミツ……ということではいけませんか?」


 彼女は説明を拒んだ。


 なにかしらの問題はあった。

 人前では決して魔法を使わない火蓮が、魔法を使ってしまう程の問題が。


 だがそれは、既に水に流されている。

 しかしいま事情を説明すると、問題を蒸し返してしまうかもしれない。

 だからこその黙秘。


 火蓮の苦笑から、晴輝はそう推測する。

 であれば、無理に聞き出す必要はない。


「判った」


 晴輝は余計な詮索をせず、頷くに止めておいた。

 いくらチームメンバーとはいえ、すべてを知らなければいけないわけではない。


 隠し事くらいあったって良い。


 晴輝はスキルボードをスワイプし、火蓮のツリーを表示した。



 黒咲火蓮(18) 性別:女

 スキルポイント:4

 評価:精霊師槌人

 加護:人者<?????>


-生命力

 スタミナ1

 自然回復1


-筋力

 筋力1


-魔力

 魔力3

 魔術適正2

 魔力操作3

  変化<雷>0→1 NEW


-敏捷力

 瞬発力0

 器用さ1→2


-技術

 武具習熟

  鈍器1

  軽装1


-直感

 探知1


-特殊

 運1

 加護1



「おお……派生してる」


 これで火蓮の魔法が雷で確定した。

 変化と名が付いているのは、魔力を操作して雷状に変化させているからだろう。


「そうだ、火蓮。加護を上げると強くなるが、振って良いか?」

「そうなんですね」


 火蓮が驚いたように目を丸くする。

 しかし、


「すみません。まだしばらくこのままでいいですか?」


 振ってくれ。

 そう言われると思っていた晴輝は、狐に顔をつままれた思いだった。


「……理由を聞いていいか?」

「もう少しだけ、自分の力だけでレベルアップしていきたいなって思って。こんな事言っておいて、もしかしたらすぐに頼っちゃうかもしれませんけど……」

「ボードを使えば、すぐに強くなれるぞ?」

「努力しないうちに力を手に入れたら、その力が、どれくらい努力しないと手に入らないものなのかが判らないですし。それに、いま楽をするとずっと努力出来なくなりそうなので。もう、手遅れかもしれませんけど」


 火蓮の瞳に宿った、以前よりも少しだけ逞しい光。

 それに、晴輝は口元を緩めた。


「そうか」

「ごめんなさい」

「いや、気にするな。もしスキルを伸ばしたくなったら言ってくれ」

「ありがとうございます!」


 変ったな、と晴輝は思った。


 自らの力で努力して強くなる。

 そう口にしたということは、火蓮の中にある、レベルアップへの貪欲さはいささかも衰えていない。


 変ったのは、強さの求め方だ。


 彼女が変化したのは、9階のボスと力を合わせて戦ったからか。

 あるいは朱音がスポンサードの候補にしたからか。


 スキルボードで加護を上げれば、火蓮は間違いなく強くなる。

 それも、最短で。


 だが努力した経験は追い詰められた時や、目の前に壁が立ちはだかった時に必ず役に立つ。

 そして手にした力の多寡を、見誤ることもない。


 火蓮の解答は予想外だったが、狙いは大歓迎だ。

 晴輝は彼女の意思を、笑顔で歓迎した。


「じゃあ早速見せてもらおうか。その努力とやらを!」

「――ヒィッ!」


 晴輝が俊敏に動き回り、レアがジャガイモを放って次々と引っ張って来たルッツの大軍に、火蓮は喉の奥から声を絞り出するのだった。

 それでも気を失わずに魔法を連発する辺りは、晴輝のせいで引くに引けない状況だからか。


 晴輝は火蓮よりも基礎レベルが先行している。なのでルッツはほぼすべて火蓮に処理して貰った。



 半泣きになった火蓮を引き連れ、晴輝は11階への階段を探す。


 中層からの階段の場所はダンジョンによって様々ある。

 壁際だったりフロアの中央部だったり。


 またすべてのダンジョンの中層がワンフロアなわけでもない。

 やはり中層に入っても、効率の良い攻略法は地道なマッピングしかないのが現状だ。


 晴輝は階段が壁際にあるのかと予測し、壁伝いに攻略を進めたが見つからない。

 どうも下への階段は、壁際以外のどこかにあるようだ。


 草木が繁茂しているため、遠目では階段の位置に見当が付かない。

 晴輝は腰ほどもある草をかき分けながら進んでいく。


 ルッツを倒しながらしばらく進むと、一際大きな木の下に一際大きなルッツを発見した。


 全長は5メートル。

 太さは直径1メートルはありそうだ。


「ボスっぽいな」

「ふにゅ……」


 ボスの姿を見た途端に、火蓮がへたり込んだ。

 もうルッツは見たくない!

 そんな声が聞こえてくる。


 ここまで火蓮は連戦続き。

 大事を取って、ボス戦は休ませることにした。


 両手に短剣を構え、一気に距離を詰める。


 背中のレアがジャガイモを発射。

 ボスに命中するも、体がジャガイモを弾く。


 レアの投擲は加護のおかげでスキルレベル以上の威力がある。

 にもかかわらず、ボスには一切通じない。


 ダメージが与えられないのは、ルッツは打撃系武器への抵抗が高いからだ。

 それでも衝撃は伝わる。


 ジャガイモ弾が命中したことで、ボスが晴輝に狙いを定めた。

 だが、体が巨大なだけあり動きは鈍重。

 晴輝がボスを振り切るのは簡単だった。


 晴輝が意識を、深く潜らせる。

 集中し、集約する。


 途端に目の前に、バチバチと光が浮かんだ。


 晴輝はボスの背後に回り込みながら、光の玉を選定。

 数カ所ほど浮かんだまま消えない光を発見。

 そこに、短剣を滑らせた。


「ボォォォッ!!」


 ボスが口で空気を震わせる。

 体を何度もくねらせる。


 晴輝は巨体を躱しながら、体を2つ3つと分割していく。


「……軽いな」


 手応えが軽い。


 晴輝が切りつけた光の玉は、新たに得たスキルによる弱点の可視化。

 ――弱点看破だ。


 その弱点を狙っただけで、刃はなんの抵抗もなく肉を断った。

 リザードマンを切りつけたときは、もう少し手応えを感じたのだが……。


「これは腕が鈍るかもしれないな」


 当然ながら、弱点を突く技術は必要だ。

 だが弱点看破による攻撃は、技よりも合わせが重要だ。


 晴輝は弱点が浮かんだ位置を、すべてイメージに刻み込める。

 相手の動きも、予測可能なレベルで記憶する。


 そんな晴輝にとって、弱点への合わせはさして難易度の高い業ではなかった。


 ただ観察し、記憶し、想定し、実践する。

 それだけで、これほど切れるのであれば、短剣技術がおろそかになる。


 上を目指すなら、弱点看破に頼らないほうが良いかもしれない。


「空星さん……」


 後ろから口元を押さえながら、火蓮が深刻な顔をして近づいてきた。


「あの、40センチくらいの刃物で、どうやって幅が1メートルくらいある胴体を切断したんですか? もしかして風の刃とか、そんな感じの新しいスキルですか?」

「ん、ああいや、普通の攻撃だよ。原理は竹割と同じ感じ」

「普通……」


 晴輝が今回狙った弱点は、いわば繊維の隙間のようなものだった。

 そこに刃を通すことで、繊維の結合が解れた。


 竹の先端に鉈の刃を入れると、中央までバリバリと割れる。

 それと似た現象が起っていると、晴輝は想像している。


 とはいえ本当にその原理で正しいかは不明だ。

 スキルボードで加護を一気に上げた弊害か、晴輝は未だにスキルを会得仕切れていない。


 力は扱える。

 だが自分の力じゃないみたいだった。


 いままで1ポイントずつしか振らなかったので、晴輝は判らなかった。

 リザードマンと戦ったときも、必至だったから気づかなかった。


 2ポイント以上振ると、こうも現実と実感が乖離するものなんだな……。


「普通って、なんですかね」


 自らの力がまだ馴染まず、手を握ったり開いたりする。そんな晴輝の横で、なにやら哲学的な命題を口にしながら、火蓮が顔を引きつらせていた。



 長時間のたうち回ったボスが絶命。

 フロアが明滅し、大木の下に階段が現われた。


「おお……」


 新たに現われた階段に、晴輝は目を輝かせた。

 この先になにが待ち受けているかを想像すると、居ても立っても居られない。

 体がぼぅっと熱を帯びる。


「よし、行こう」

「はい!」


 これからどんな冒険が待ち受けているかが楽しみな晴輝に、

 ルッツの呪縛から逃れられてホッとした火蓮が続いた。


          *


 11階は10階とほとんど同じ風景が広がっていた。

 だが、11階に降りると同時に嫌な雰囲気が晴輝の体にまとわりつく。


「……見られてるな」


 探知を拡大するが、すぐ近くに魔物の存在を感じられない。

 遠くを眺めると、ちらほらと動く草むらが確認出来た。


 その距離おおよそ1キロはあるか。

 魔物は、1キロ先から晴輝らに気がついているのだ。


 この階の魔物は知覚が発達しているようだ。


 ――遠くから、見られてる!

 ――なんて素晴らしい場所なんだ!!


 魔物1匹1匹に挨拶して回りたい!

 晴輝は鼻の穴を広げ、魔物の視線に興奮した。


 なんとか気持ちを静め、晴輝は周囲を警戒しつつゲートをアクティベート。

 すぐに魔物を探して歩き出した。


 すると、1匹の魔物が堂々とした足取りで晴輝の正面から近寄ってきた。


「……隠密タイプじゃないのか」


 同じ穴の狢かと思っていた晴輝は、僅かにガッカリする。

 だが気を落としてはいられない。


 草むらの向こうから現われたのは、ヒグマの亜人チャチャ。


 チャチャはアイヌ語で“じじい”。

 アイヌの説話の中で熊をじじいと表したことから、熊の亜人にこの名が付けられた。


 実に可愛らしい名前だが、侮ってはいけない。

 ヒグマは日本の陸上において最強の戦闘力を持つ生物である。


 鋭い爪は石油缶に穴を開け、その腕力は張り手だけで人間の首を吹き飛ばす。

 走力は時速50キロを叩きだし、持久力もある。

 犬の数倍優れた嗅覚で獲物を見つけ出し、何キロと執拗に獲物を追いかける。


 丈夫な毛皮と皮下脂肪はあらゆる攻撃を軽減する。

 銃弾さえも急所でなければ効かないほどだ。


 相手はそんな、戦闘力の高いヒグマの亜人である。

 チャチャという愛らしい名前が付いているが、晴輝は一切油断する気は起らなかった。


 チャチャが接近すると同時に、晴輝が短剣を抜いて間合いを詰めた。

 そして、一閃。


 短剣と爪が交わった。

※お詫びと訂正

『遠くから、見られてる!』という晴輝くんの言葉は、本人の感想であり事実とは多少異なっております。

この場にて、晴輝くんの勘違いの訂正とお詫びを申し上げます。


晴輝くん“は”見られてません。

残念だけど当然だよね……。

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