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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
3章 最凶の魔物を倒しても、影の薄さは治らない
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ご当地グルメを堪能しよう!

4万ポイント達成!

これも皆様のおかげです。本当にありがとうございます!

 晴輝が油断せずに構えるなか、腰ほどある草の中から1匹の魔物が姿を現した。


「…………ミミズ?」


 現われた魔物は、ミミズのような見栄えをしていた。

 色は似ているが、サイズは2メートルほどもある。

 体のバランスはミミズよりも太くて短い。


「キャァァァ!」

「ンギャァァ!!」


 魔物が現われると、後方から火蓮と朱音の悲鳴が上がった。


 どうも、彼女たちはこの魔物の見栄えが苦手らしい。

 しかしそこまで嫌悪するものだろうか?

 晴輝は首を捻る。


 よく見れば可愛らしい姿をしてるのに……。


 晴輝はミミズのような魔物に斬りかかる。

 モンパレとリザードマンとの戦闘を乗り越えた晴輝の攻撃は、魔物の皮膚をいとも容易く切り裂いた。


 硬くはないが、弾性がかなり高い。

 鈍器攻撃では、ダメージが軽減される。

 また刃物での攻撃も、練度が低くければ弾かれそうだ。


 晴輝は魔物を攻撃しながら、観察を続ける。


 魔物が尻尾を上げた。

 反撃か?

 回避しようとしたその時、


「――うわ!」


 魔物が口から透明の液体を吐き出した。

 液体はノリのように体に付着し、晴輝の動きを阻害する。


 ベトベトで、ギトギト。

 その液体に顔を歪めた晴輝は、しかしピクピクと鼻の穴を膨らませた。


「……ん、んん!?」


 磯の香りがする。

 なんで……。


 磯の香りが、晴輝の海馬を刺激。

 バチバチ、と神経が繋がり、記憶が瞬時に蘇る。


「――ッ!!」


 その魔物の正体に気がついた晴輝は、全力で動いた。


 短剣2本を素早く動かし、魔物を輪切りにする。

 輪切りになった魔物の中から、液体と内臓が飛び出し地面で大きな音を立てた。


「キャァァァ!」

「ンギャァァ!!」


 魔物を倒し終えた晴輝の耳に、後方に控えていた女性陣2人の悲鳴が届いた。

 晴輝の探知が悶絶する2人と、もう1匹の存在感を捕らえる。


 新手か!?

「――ッ!」


 即座に振り返り、跳躍。

 しかし、


「ちょ、ちょっとアンタが前に出なさいよ!」

「な、なんで私なんですか? 朱音さん前衛ですよね!?」

「あんなキモイの殴れるわけ……じゃなかった、これは全てアンタの未来のために、アタシは心を鬼にして――」

「本音漏れてますよ!」

「あああアタシが戦ってもアンタはレベルアップしないでしょ! ほら前に出る!!」

「…………」


 出現した魔物を前に、火蓮と朱音が押し合いへし合い。

 朱音が腕力を武器に、火蓮を強引に前に突き出した。


 それを見た晴輝のテンションが一気にダウン。

 踏み出した足が、2歩目で止まった。


 魔物を前にして、一体なにをやっているのやら……。


 晴輝は『ちかほ』の10階で大量の魔物とリザードマンを倒して大きく成長した。

 そのため、車庫のダンジョンの魔物を相手にしても全く遅れを取らなくなっている。


 しかし火蓮は違う。

 成長加速のある晴輝と同等のレベルに至っているとは考え難い。


 ゴタゴタしている余裕はないと思うんだが……。

 火蓮と朱音が絡み合ってるあいだにも、ミミズ風の魔物は着々と二人に近づいていく。


「イヤャァァ!」

「ンギャァァ!!」

「……仕方ない」


 助けるか。

 晴輝はため息を吐き出し、足を踏み出した。

 その時、


 ――ッタァァァン!!


 空気が崩壊する音が響き渡った。


「な……」


 火蓮の魔法を直視した晴輝は、あまりの出来事に身動きが取れなくなった。


 魔法の直撃を受けた魔物は、地面で痙攣している。

 その体からは、うっすらと白い煙が立ち上っていた。


 晴輝はその目で確かに火蓮の魔法を捕らえた。

 だが以前とはまるで違う。


 晴輝がカゲミツの要請で札幌に行く前までは、火蓮の魔法はどれだけチャージしても白い塊にしかならなかった。


 だが今回は違う。

 火蓮の魔法は、まるで雷だった。


 雷のような細い筋が空中を伝い、魔物に直撃した。


 違いは形だけではない。

 速度もまた恐ろしくアップしている。


 まさに電撃。


 まさか属性が現われたのか?

 晴輝の体の芯から甘い痺れが末端まで広がっていった。


「火蓮、凄いな!」


 晴輝は感興に震えながら近づく。

 魔法を放った本人の火蓮はというと、


「ふにゅ……」


 白い煙を上げながらビクンビクン動く魔物を見て、目を回した。

 その姿を目にした朱音が苦笑を浮かべる。


「……」


 色々と聞きたい事があったのだが……仕方ない。

 一度疑問を棚上げし、晴輝はまだ絶命しきれていない魔物の処理を行った。


「火蓮。もう大丈夫だぞ」


 戦闘が終わり振り返ると、火蓮が青白い顔で地面に蹲っていた。


「……おい、大丈夫か?」

「だいじょ……うぇっ、ぷ」


 全然大丈夫じゃない。

 そんな心の声が聞こえてくる。


「空星、さんはよく、こんなものと戦えますね」

「こんなものって……。これだって食べ物なんだぞ?」

「アンタ、ミミズ食うの? 最低ね」


 朱音から冷ややかな視線を浴びる。

 晴輝は首を振り、否定。


「世の中には食用ミミズというものがあってだな――」

「それを今言う意味は?」


 朱音の目が据わった。

 これ以上口にするのは危険だ。

 晴輝は生命の危機を感じ取り、慌てて言葉を飲み込んだ。


「……これはミミズじゃない。ルッツだ」

「ルッツ?」

「ああ。おいしいらしいぞ」


 ルッツは嵐などの翌日に浜辺に打ち上げられる、海の生物だ。

 浜益町などで採れる珍味である。


 見た目のせいでゲテモノに分類されているが、味は格別と言われている。

 だが流通に乗らないため、晴輝は1度も口にしたことがない。


 1度食べてみたいと思ってたんだよなあ。

 晴輝はウキウキしながら、討伐したルッツの皮を持ち上げる。


 見た目は太いミミズだが、中身は水と内臓のみ。

 輪切りにすると中身がなくなって、ホルモンのような見栄えである。


 一体どんな味がするんだろう?

 味を想像しながら、晴輝はルッツを広げたり上に翳したり、裏返しにしてみたりする。


「うえっ、ぷ」


 嗚咽する火蓮に睨まれ、晴輝はルッツを素早く背中に隠した。


 あまり火蓮に見せると、折角のご馳走が塵にされかねない。

 晴輝は火蓮からマジックバッグを受け取り、中にルッツを詰めていく。


 結局10階は食べ物が出てくる食料階だった。

 そのことに、晴輝はほっと胸をなで下ろし、ルッツを嬉嬉として収穫するのだった。


          *


「ねえそれ、ほんとに食べられるの?」

「そうだが……」


 以前に熱石を入手していたので、晴輝はそれを使って七輪でルッツを素焼きすることにした。


 朱音が近くにいるのは、熱魔道具の使い方を教えてもらうためだ。

 決してルッツをお裾分けするためではない。


 だが彼女はどこから持ってきたのか、マイ箸を手にしている。

 食べる気満々である。


「別にお前は食べなくていいんだぞ」

「いいじゃない、そんなにあるんだから一口くらいアタシが食べたって」

「働かざる者食うべからずって言葉を知ってるか?」


 ルッツを討伐したのは晴輝と火蓮のみ。

 朱音は一切、ルッツを倒していない。


 それは彼女が戦わなかったからじゃない。

 戦っても、ルッツを倒せなかったのだ。


 朱音は決して弱くはなかった。

 むしろ泣きながら怯えながらの戦闘にも拘わらず、動きは素早く力強い。端から見ていて、晴輝は目を丸くした。


 だが朱音がルッツを殴りつけているあいだに、新たなルッツに背後から襲われた。

 その隙に、彼女は頭からルッツに飲まれてしまった。


 それが、何度かあった。

 火蓮曰く、ルッツに飲まれたのは今日だけではないとのこと。


 朱音はルッツを倒せなかった。

 ――いや、倒さなかったのか。


 晴輝には、どうも朱音はわざと敵に背後を取られるよう動いているように見えた。

 前衛として、明らかにおかしな動きだった。


 尋ねようとした晴輝に気がついた朱音が口の前で人差し指を立てた。

 彼女の瞳には、これまでにない強い光が浮かんでいた。


(……なるほどな)


 明らかにアンバランスな戦闘には、なにかしら狙いがあるのだろう。

 そう推測した晴輝は、朱音にすべてを任せることにした。


 きっとこれは、火蓮を育てるために必要なことなのだ。

 何故必要なのかは、晴輝にはさっぱり判らなかったが……。


「あ、そこ焼けてるわよ」

「おい」

「ほら焦げるからひっくり返しなさいよぉ」


 こいつ……。

 憮然としながらも、晴輝は焼けていくルッツを返していく。


 七輪の網の上に置いたルッツが、熱に晒され反り返る。

 そのルッツの身から漂う香りが鼻を抜けると、口の中に唾液があふれ出した。


 磯の香りが素晴らしい。

 晴輝の胃が、早くよこせと喚き立てる。


「火蓮。これ焼けてるから先に食べていいぞ」

「あ、ありがとうございます」

「ねえちょっとそれアタシのなんだけど?」

「……」


 チームメンバーでもなく、収穫の手伝いもしてない奴が、食材を口に出来ると思っているのだろう?


「食べたかったらルッツを狩って来い。そしたらいくらでも食わせてやる」

「えぇえ! そんな事言わないでさあ。ねえいいじゃん、ねえねえ!」


 晴輝は朱音を無視しながら、ルッツを次々と焼いていく。


 食事中なので、晴輝は仮面を外し脇に置いている。

 その仮面をつつきながら、朱音が仮面に向かって口を開いた。


「空気……じゃなかった、晴輝さんって意外と存在感あるわよねー!」

「喧嘩か?」


 いい加減にしろ。

 それは晴輝じゃない。仮面だ!


 晴輝はいよいよ朱音を意識の外に放り出した。


「では、すみませんお先に……」


 焼けたルッツを、火蓮が口に運ぶ。

 はじめは強ばっていた顔が、ルッツを口に入れた途端に一気に緩んだ。


「はえぇ……」


 ルッツを飲み込んだ後も、火蓮は放心状態のまま動かない。

 おそらくルッツは火蓮の人生において、最高峰の食材だったようだ。


 人は本当においしいものを食べた時は、「おいしい!」とか「すごい!」など叫ばず、ただただ呆然とするものなのだ。


 火蓮の至福の表情を眺めながら、晴輝も焼けたルッツを口に運ぶ。


「…………」


 言葉が、出ない。

 晴輝は一切言葉を口に出来なかった。


 歯ごたえがコリコリしていて、ひと噛みすると濃厚な貝のうま味が口の中いっぱいに広がる。


 味はミル貝に近い。

 しかし食感がまるで違う。


 この食感こそが、ルッツの味わいを大きく引き立てている。


 浜益の人達はこんなにも美味いものを独占していたなんて!

 けしからん!!


 晴輝と火蓮は、次から次へとルッツを口に運んでいく。

 止めようと思っても、箸は止まらなかった。


 いや、止めようと思うことすらない。

 とにかくこの味を1秒でも長く味わっていたい。

 ただそれだけしか考えられなくなっていた。


 空には星が現われ始め、太陽を失った風が涼しさを運ぶ。

 そんな中、


「アタシの分が、アタシの食べる分が……アハーハハァーン!」


 ただ一人、ルッツにありつけなかった者の慟哭が、広々とした田舎の休耕地に響き渡るのだった。


          *


【筋肉こそパワー!】


『無事生還したぞ★』


 やあみんな久しぶり。

 みんなの筋肉、ベーコンだ!


 マサツグのおかげで新宿駅の迷路から脱出することが出来たぞ★


 皆、心配してくれてありがとう。

 普段のたゆまぬパンプアップがあったからこそ、多少体脂肪が落ちた程度で済んだ。


 おかげでいまは筋肉がキレキレだ!


 みんなもきちんとパンプアップするんだぞ?

 いざというとき、筋肉は裏切らないからな!


 さて。

 いままで魔物にいいようにされてきた。

 その分を、そろそろ返してやろうじゃないか!


 さあ皆、拳を硬く握りしめろ!

 拳を握ったら、どうだ。

 盛り上がっくるだろう?


 橈側手根屈筋(とうそくしゅこんくっきん)が!!


 よぉしその調子だ。

 その調子で、新宿を取り戻そう!

 ハッスルマッスル!

ベーコンの文章ににじみ出る固有スキル。

彼の文章を、晴輝くんが参考にしているようです。


ルッツ:別名ユムシ。クロダイの釣り餌として有名。

おませさんには刺激的な見栄えです。(画像検索の際は要注意)

浜益のご婦人達はウッキウキでルッツを鷲づかみにします(ツヨイ

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