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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない
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閑話 とあるヒロインの1日

情○大陸風味

 語り始めた、いまの自分。

「(漠然とした不安)」

「(独りで部屋にいるときに、ふっと寂しくなることがある)」



 北海道某所。

 田園風景に囲まれた一軒家の二階に、彼女がいた。


【レア(0)】 職業:冒険家(自称)


 いままさに姿を現した日光を、彼女は全身で受け止めている。


~いまはなにをされているのですか?~

「(食事中よ)」


 彼女の言葉は非常に少ない。

 朝一の甘い日差しを取り込むのに熱中しているのだ。


 しばし日光に体を任せたあと、彼女はおもむろに近くにあった桶の水を土にかけた。

 そうすることで、プランターに詰め込まれた土が乾燥することを防いでいるのだ。


 水やりをおえると、再び日光に集中する。

 その眼差しは、とても真剣である。


 朝日が出てから1時間ほど経った頃、部屋に一人の男性が訪れた。

 顔は仮面で被われ、首からは羽が生えている。


 何故か体は見えにくい。

 仮面と羽以外の存在感が希薄なのだ。


「おはようレア」


 一見すると、魔物か悪魔と見まごう人物である。

 しかし彼こそが、彼女のパートナであった。


 彼女は男の鞄に入り背負われた。

 背中の鞄の中こそが彼女の仕事場だった。


 彼女は運転席に乗るドライバのように、男の方に手を置いた。

 その表情には、これからの仕事に向けた気合いが満ちている。


 家を出たところで、一人の女と合流する。

 女は男のチームメンバーである。


 その女に対し、彼女は威嚇を開始した。

 そうすることで、立場の違いを明確にしているのだ。


「ん? どうした?」


 不意に、気配に気づいた仮面の男が振り返った。

 だが彼女はすぐに雰囲気を取り繕う。


 朝一の威嚇は、決して男に気づかれぬよう行う。

 これこそが彼女の、プロフェッショナルとしての技量の高さの表れであった。


 彼女がこれから赴くのは『ダンジョン』。

 誰しもが知る、危険な場所である。


 命を落とす可能性のある『ダンジョン』。

 そこに足を踏み入れる彼女達は、いわゆる冒険家だ。


~なぜそんな危険な仕事を?~

「(彼を一人にすると、うっかり死んじゃいそうだから)」

「(保護者みたいなものよ)」


 魔物が現われると、男が魔物を討伐する。

 その男が、決して攻撃を受けぬようサポートする。


 男に近づくあらゆる危険を除去するのが、彼女の仕事だった。


 反撃や攻撃を、自らの弾丸で次々とはじき返していく。

 この間、男は常に動き回っている。


 動き回る男が背負った鞄に座した状態で、刹那に戦況を判断し、正確なポイントに弾丸を射出する。


 仮面の男には、決して指一本振れさせない。

 彼女の攻撃は正確無比だった。

 まさにプロフェッショナルの仕事である。



 今日も、男はダンジョンから無傷で帰還することが出来た。

 その結果に、しかし彼女は満足げな表情を浮かべることはない。


 あるのはプロフェッショナルとしての厳しい視線。

 ダンジョンを出られた彼女の仕事は、ここが正念場だった。


 このまま無事に、『何事もなく』家に帰らなければいけない。

 ――女を、仮面の男に近づけてはいけない。


 男に近づくあらゆる危険を除去するのが、彼女の仕事である。

 羽虫1匹近づけてはいけない。


 彼女は次第に、葉をトゲトゲと変化させていく。


「火蓮。今日は夕食を食べていくか?」

「は、はいっ!」

   「ちょおっと、空気のー!」


 遠くから、なんでも屋の女の声が轟いた。

 彼女ら全員が認める、アホの子である。


「空気ぃ、コレを貸してほしいんだけど」


 アホの子が女を指さした。


「どうしたんだ?」

「ちょっと採寸が間違ってるみたいなのよ」

「採寸?」

「ええ。アンタ、胸のあたりダブついてない?」

「うぐ――」


 アホの子の言葉に、女は心臓を打ち抜かれたように苦悶の表情を浮かべた。


「きちんとフィットするように直したいんだけど」

「なるほど。火蓮、時間はあるか?」

「え、ええ……はい」

「じゃ、行くわよ」


 アホの子が女を連れてプレハブに移動した。

 その姿を見て、彼女は葉を握りしめた。


 トゲトゲとした雰囲気を和らげる。

 これで平穏無事に、本日の大仕事が終わった。


 今日、彼女の表情に始めて、満足げな笑みが浮かんだ。



 家に戻ると、彼女は自室に入って日が落ちるまで、本日最後の日光に身を任せる。

 仕事を終えてもまだ、彼女は孤独な戦いが続けていた。


 冒険家にとって、体調管理は欠かせない。

 日が落ちるとすぐに眠りにつく。


「(……)」


 しかし、すぐに眠れるものではない。


「(漠然とした不安)」

「(独りで部屋にいるときに、ふっと寂しくなることがある)」


 一人、暗がりの中佇む彼女から、呼吸音が小さく響く。

 その音はやや、ため息に近かった。


「レア、起きてる?」

「(……!)」


 暗い部屋の中に、すぅっと光が差し込んだ。

 仮面の男が彼女に近づき、手を伸ばした。


 彼女は男に、触れられるがまま触れられる。

 時々思い出したように、男の手の甲をペチっと叩く。

 だが男はその衝撃も、喜んで受け入れる。


 時々、彼はこうして部屋に訪れる。

 その日の夜だけは、彼女は心穏やかに、ぐっすりと眠ることが出来た。



 最後に、彼女に尋ねてみた。


~この生活が辛いと感じたことは?~


「(あるわよ。もう辞めたいってね)」


「(けどね……)」


「(ずっと幸せで、何もかもが上手くいく。そんな世界なんてどこにもないのよ)」


「(幸せが姿を見せるのはいつも一瞬)」


「(その一瞬のために)」


「(私は生きていくのよ)」

※本編は以前行われた『神様の名前当てクイズ』で、正解者にプレゼントされたナンセンスなSSです。


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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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