戦況を立て直そう!
全てのベロベロを倒し終えた晴輝は、その場に膝を突いた。
喉が痛い。
呼吸が熱い。
気持ち悪い。
咳をすると、血を吐きそうだ。
カラカラの喉を、持参した水筒で潤す。
その水を、たっぷり使ってレアのプランターを湿らせた。
近くにはもう、生きている魔物の気配がない。
先ほどまではあったヨシの気配もなくなっている。
きっとモンパレ討伐の成功を確認してすぐに、カゲミツの応援に向かったのだろう。
このまま倒れられたら、どれほど気持ち良いだろう?
快楽に誘惑される。
だが誘惑を断ち切り、晴輝は呼吸を整える。
カゲミツから貰った回復薬を服用。
体に付いた傷が、瞬く間に癒えていく。
傷が癒えると同時に探知を拡大。
カゲミツらの状況を空間から把握する。
「……まずいな」
カゲミツらが戦っている場所はすぐに見当がついた。
だがどうも、戦いは劣勢であるようだ。
カゲミツがボスに推されてる。
また離脱したまま動かないメンバーもいる。
丁度その時、晴輝の傍にある大量のヌメヌメウナギが、ズププ……とダンジョンに取り込まれ始めた。
討伐を始めてから約3時間。
3時間ものあいだ1体の魔物と戦い続けて決着が付かないのは、戦闘時間としてあまりに異常だ。
晴輝は急いで息を整え、隠密を展開。
カゲミツらの居る場所まで、全力で走り出した。
晴輝が駆けつけると、血だらけのカゲミツが一人でリザードマンを相手取っていた。
ボスの攻撃でカゲミツは満身創痍だった。
用意した傷薬を服用する暇もない。
ヴァンは攻撃を食らって離脱している。
回復するのを待っているのか、傷口を押さえたまま戦闘を睨み付けている。
晴輝の戦闘を補助したヨシが、ベッキーと併せて遠くから何度も矢を射る。
しかしその援護射撃も、尾と槍、それに鱗で完璧に防がれている。
背後からどら猫が回り込み攻撃を仕掛けるが、尻尾が邪魔で深く踏み込めていない。
24階を探索する冒険家が、手も足も出せてない。
それはカゲミツらが弱いからじゃない。
ボスがそれ以上に強いのだ。
ボスはエアリアルを、たった1匹で圧倒している。
これが、30階の魔物の実力。
以前、30階を攻略した勇者マサツグは、これを軽々と倒していたらしい。
さて一体彼は、どうやってこいつを倒したのだろう?
打ち倒す様が、晴輝にはまったく想像出来なかった。
考えているあいだにも、リザードマンの攻撃がカゲミツの肩口に突き刺さった。
「――っく!」
カゲミツがよろめき、大きな隙が生まれた。
ギラリ、ボスの目が殺意で光る。
そのとき晴輝の脳裡に、四釜らが魔物に食われ絶命する光景が蘇った。
背筋が、ゾワッと凍り付く。
「――ッ!!」
黙って見てる場合か!!
晴輝は即座にスキルボードを取り出し、スワイプした。
伊達充(24) 性別:男
スキルポイント:34
評価:大剣王級
加護:北風<???>
-生命力
スタミナ6
自然回復5
-筋力
筋力8
-敏捷力
瞬発力6
器用さ5
-技術
武具習熟
大剣5
重装4
-直感
直感3
探知2
-特殊
存在感 3
加護1
存在感、だとっ!?
「畜生ッ!! なんて神スキルを――じゃない!」
晴輝は頭を大きく振り、慌ててスキルをタップする。
伊達充(24) 性別:男
スキルポイント:34→24
評価:大剣王級
加護:北風<???>
-生命力
スタミナ6→10
自然回復5→10
-筋力
筋力8
-敏捷力
瞬発力6
器用さ5
-技術
武具習熟
大剣5
重装4→5
-直感
直感3
探知2
-特殊
存在感 3
加護1
晴輝は以前、目の前で四釜らが死んで行った光景を如実に思い出した。
あのとき迷わずスキルを振り分けていたら、彼らは生き延びたかもしれない。
もう手の届く範囲の命は失いたくない。
2度と同じ失敗を繰り返したくはなかった。
だからこそ晴輝は迷うことなく、カゲミツのスキルを振り分けた。
とはいえ現在はギリギリの戦闘中だ。
身体能力が急激に向上すれば、逆に体感覚が崩れてピンチに陥ってしまう。
なので晴輝はカゲミツの生存率を高めつつ、感覚をあまり乱さないスキルを振った。
「――とわっ!!」
晴輝のスキルのおかげか、致命的な隙を突かれたカゲミツは声を上げながら体を動かした。
ボスの槍の穂先が、カゲミツの体のギリギリを通り過ぎる。
続く攻撃も、カゲミツは回避していく。
彼の回避には先ほどのような危うさが感じられなくなった。
これでしばらくは持ちこたえられるか。
次に晴輝は自らのツリーを開く。
空星晴輝(27) 性別:男
スキルポイント:5
評価:隠倣剣師
加護:布者<????>
-生命力
スタミナ3
自然回復2
-筋力
筋力3
-敏捷力
瞬発力3
器用さ3
-技術
武具習熟
片手剣3
投擲2
軽装3
蹴術1
隠密2→3
模倣2
-直感
探知2
-特殊
成長加速 MAX
テイム1
加護:1
「ぎゃぁぁあ!!」
隠密が上がったぁぁぁ!!
「なぜだ!!」
晴輝はがくりと肩を落とす。
だが落ち込んでいる暇はない。
これだけの“事件”が起りながら落ち込む暇すらないとは。
なんて……なんて厳しい戦場なんだっ!!
血涙を流しながら、晴輝は死に物狂いで心を立て直す。
とはいえカゲミツのスキルの値でも、ボスにはまったく通用しない。
晴輝が自らの能力を、たった5ポイント上げたところで通用するとは思えない。
しかし、
「………………可能性は、あるか?」
ひとつだけ、カゲミツのスキルツリーで奇妙な部分に気づく。
何故様々なスキルが育っているなかで、彼の加護だけは1のままなのか?
マサツグはカンストしていた。
レアも、カンストさせた。
加護が現われた後、晴輝は身体能力の飛躍を感じた。
カンストさせたレアの投擲も、恐ろしい威力になっていた。
だからもしかするとこの加護というのは、晴輝が想像した以上の効果があるのではないか?
どの神の、どんな効果なのか。
それによって、結果が変るかもしれない。
いまは1ポイントが生死を分ける。
失敗は決して赦されない。
だが、レアの例がある。
試して損はないだろう。
晴輝はまず1つ、加護にポイントを振る。
スキルポイント:5→4
加護:布者<????>→透明者<????>
加護:1→2
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
透明!
透明になった!!
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
これはいけない。
スキル振りを停止すべきか!?
……いや、このままだと逆にマズイか?
振ればまた名前が変る可能性が。
「――くそっ!」
悩む暇がない。
カゲミツは現在、ボスを押さえ込んでいる。
だがそれも時間の問題だ。
後ろでボスを攻撃していたどら猫が、尾に吹き飛ばされて戦線を離脱した。
カゲミツの顔に苦悶が浮かぶ。
きっと撤退を考えているのだろう。
だがそれも、誰かが殿を務めなければいけない。
命を賭してボスを止めないと、逃げ切れない。
「もう、どうにでもなれ!!」
晴輝は意を決してスキルを力一杯タップした。
スキルポイント:4→3
加護:2→MAX
「――っ!?」
そうして神の名が判明した瞬間。
スキルボードを消した晴輝は、
――仮面を外した。
布で透明な神……いったい誰なんだ!?(すっとぼけ
物語はいよいよクライマックス。
果たして晴輝くんの加護は何なのか!?
乞うご期待!!




