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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない
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チームハウスで顔合わせをしよう!

 討伐期間は1週間を予定。

 その間、晴輝は札幌で寝泊まりする。


 火蓮はカゲミツに誘われなかった。

 火蓮の魔法は単体攻撃のみ。手数が必要なモンパレでは不利である。もしカゲミツが彼女も誘ったとしても晴輝は断っただろう。


 しばらくのあいだ、一緒に狩りが出来ない。

 そのことに火蓮は多少の不満を示すと晴輝は考えていたが、彼女は晴輝の札幌行を応援してくれた。


『カゲミツさんに誘われるなんて名誉なことじゃないですか!』

『私の分まで頑張ってきてください!』


 火蓮に見送られて、晴輝は単独で札幌に移動した。

 ホテルの部屋を押さえてから、カゲミツに指示された住所へと足を運ぶ。


 晴輝が訪れたのは、『ちかほ』からそう遠くない場所にある一軒家だった。


 コンクリート製の建物で3階建て。

 10人くらいは余裕で暮らせる広さがある。


 インターフォンを押し込むと、すぐに扉が開かれた。


「はいは――ヒッ!!」


 現われたのは20代前半くらいの女性。

 その女性が晴輝を見た途端にギクリと体を強ばらせた。


 それでも即座に体勢を整えるあたり、彼女の実力の一端が窺える。


「驚かせて済みません。空気です」

「食う気!? ……あ、ああ空気ね。びっくりしたー」


 一体なにに驚いたというのか。

 言葉のニュアンスに、晴輝は大きな誤解を感じた。


 だが、ブロガーの空気だと判ってくれたらしい。

 警戒感がみるみる引っ込んで、2割ほど残った。


 ゼロにならないのは……仕方がない。

 初めて会う相手なのだ。

 警戒して当然だ。


 そう自らを納得させ、晴輝は女性に案内されて家に上がり込んだ。


 リビングに通された晴輝は、その奥でソファに腰を下ろしている男を見て目を細めた。


「おう、来たか」

「……どうも空気です」


 男は体から、決して無視を赦さぬ強烈な存在感を放っていた。

 どこにでもある普通の服を着ているというのに、あたかも照明で照らされたかのように輝いて見える。


「カゲミツだ。よろしく」


 その男の名はカゲミツ。

 ランカーの一人であり、北海道にいる冒険家の憧れの的でもある。


 そのカゲミツを前にして、晴輝の体が震え上がった。


 やばい。

 まぶしい!

 存在感が強すぎて消えてしまいそうだ!!


 まるで除霊師に出会った幽霊のように、晴輝の体がその男を拒絶する。

 晴輝は、自らの薄すぎる存在感の消失に怯え、震えた。


 カゲミツは北海道で最も有名な冒険家であり、

 そして、最も存在感のある冒険家だ。


 町を歩けば注目を浴び、ダンジョンに潜ればヘイトを稼ぐ。


 体は晴輝よりも一回り以上大きい。

 カジュアルな服を着ているが、その内面の筋肉の大きな盛り上がりが如実に感じられる。


 そしてなにより、マサツグのものに似た威圧感があった。


 もしカゲミツと戦闘で対峙しても、晴輝は一切抵抗する間もなく負けてしまうだろう。

 見ただけで力量の差を思い知らされる。


 着席を促され、晴輝は恐る恐るカゲミツの前に腰を下ろす。


 やばい。

 どうしよう。

 存在が消えそうなんですけど!


 本物の存在感を前に、仮面(かりそめ)の晴輝は落ち着かない。


 あるいはそれは、カゲミツの実力を感じ取ったからかもしれないが。

 いずれにせよ、晴輝はもぞもぞと、お尻の位置を動かし続ける。


「どうだ、俺のチームハウスは? デカいだろ」

「そうですね。チームハウスには初めて来ました」

「拠点を持ってるチームはなまら少ないからな」


 チームハウスはその名の通り、チームが利用する拠点だ。

 共に冒険する仲間と寝泊まりしたり、冒険で得たアイテムを保管したりする。


 大きなチームになると、このようなハウスを持つようになる。

 マサツグやベーコン、時雨などもハウスを持っている冒険家である。


 逆に、それくらいの冒険家でなければハウスを持てないとも言える。

 ハウスを持つだけでお金がかかるので、初級・中級程度の冒険家じゃハウスは持てないのだ。


 けど、いいな。秘密基地みたいで。

 晴輝の中に眠る少年心がくすぐられる。


「ああそうだ。これからはしばし共に命を賭ける討伐メンバーだ。敬語は使わなくていいぜ」

「けど……」

「空気のが年上だべ? 細かいこと気にすんな」


 確かに、ブログで公開している年齢は、カゲミツよりも晴輝の方が上だ。

 それが真実なら……という話だが。


 しかし相手はランカー。

 会社人を経験した晴輝にとって、目上の相手へのため口はかなりの勇気が必要である。

 むしろあえてため口を要求することで、相手の性格を見抜こうとしているのではないかと勘ぐってしまう。


 本当にため口で良いのだろうか?


 あれこれ考えているあいだに、カゲミツが立ち上がった。

 その膝が、僅かに震えている。


 日々のレベリングの疲れでも溜まっているのだろうか?


「まずメンバーを紹介だ」


 晴輝を出迎えた女性が招集をかけたのだろう。

 女性を先頭に、4名の冒険家がリビングに入り――、


 晴輝を見て一斉にびくついた。


 ……何故だ?


「俺の名前は伝えたな。メイン武器は大剣で前衛だ。次が――」


 カゲミツが小柄な男を指指した。


「アイツがヨシ。弓使いだ」

「ヨシです。よろしくお願いします」


 ヨシは男性だが、女性みたいに体のラインが細い。

 気が弱いのか、少しおどおどしている。


「次はベッキー。同じく弓使いだ」

「べ、ベッキーです。よろしくお願いします」


 ベッキーは晴輝を出迎えた女性だ。

 まだ少し腰が引けている。


「その横がヴァンで、俺と同じ大剣使いだ」

「……ヴァン」


 ヴァンはカゲミツと同じ。

 かなり筋肉があるのだろう。衣服の二の腕あたりが窮屈そうだ。

 何故か瞳が動揺している。


「最後がどら猫で槍使い」

「どど、どら猫です!」


 どら猫が慌てて背筋を伸ばす。

 あがり症なのか、体が震えている。


「これが俺のチーム・エアリアルだ」

「空気です。よろしくお願いします」


 挨拶のために立ち上がる。

 途端に、エアリアルのメンバーがびくっと体を震わせる。


「だからため口で良いって言ったべさ」

「はあ……」


 どうやら本当にため口で話して貰いたいらしい。

 カゲミツの不機嫌な雰囲気を感じ、晴輝は意を決する。


「わかった。……で、エアリアルはあがり症が多いのか?」

「なわけねえべさ」

「みんな強ばってるが」

「そりゃお前のせいだ!」


 カゲミツが顔を引きつらせながら息巻いた。


「俺?」

「噂で聞いてたが、初めて見るとなまら怖ぇぞその仮面」

「そうなのか」


 晴輝は無意識に仮面をなぞる。


「体の気配が希薄だから、仮面が浮いてるように見えんだよ」

「…………」

「しっかしその気配の絶ち方、尋常じゃねーな。開眼スキル持ちか?」

「……」


 晴輝の視界が、徐々に歪む。


 なな、泣いてないもん!

 欠伸しただけだもん!


 ずず、と鼻をすすって口を開く。


「素だ」

「は?」

「素で、存在感が薄……っく!」


 その言葉を口にした途端に、精神力がガリガリと削られた。

 奥歯を噛みしめ、意識の消失に耐える。


「ブログに存在感空気ってあったが、ありゃキャラ作りじゃなかったのか?」

「…………ああ」


 キャラ作りだったら良かったね!

 くそっ!


 カゲミツの確認が、晴輝の心を貫いた。

 そろそろ精神力がゼロになりそうだ。


 事実はいつだって……痛い。


「そうか。オレは空気の気持ちがよく理解出来るぞ!」

「は?」

「オレはな、隠密になりたかったんだよ……。けど、存在感が濃すぎて、気配が消せやしねえ!!」


 なんて羨ましい!

 晴輝は声を荒げて抗議したかった。


 だが彼の悲しみは本物だ。

 彼は本気で、存在感強に悩んでいるらしい。

 目に涙を浮かべて小刻みに震えている。


 横ではエアリアルのメンバーが「まーた始まった」と口にした。

 何度も愚痴として聞かされているのか、うんざりした雰囲気だ。


 存在感が強い呪いに打ち震えるカゲミツを、存在感が薄い呪いにむせび泣く晴輝が宥め、晴輝らはモンパレの具体的な作戦を話し合う。


 とはいえ打ち合わせる点はそう多くない。


 晴輝の担当はモンパレ。

 晴輝の補助に弓使いのヨシが付く。


 晴輝がモンパレを相手取っているあいだ、エアリアルは全力でボスを引きつけ、これを倒す。


 作戦はそれだけだ。


「カゲミツさん、モンパレ討伐要員は俺とヨシさんだけか?」

「おう兄弟。さん付けもいらないぞ」

「いやいや」

「オレらは互いに、存在感に悩みを抱える兄弟だべ?」

「お……おう」


 カゲミツに特殊な親近感を持たれてしまった晴輝は、曖昧に息を吐く。


 下っ端冒険家がランカー相手に敬称なしはさすがに失礼である。

 とはいえ否定も難しい。


「……善処しよう」


 そう言うに止めておいた。


「モンパレ要員のことだが、他にはいない」

「何故だ?」

「モンパレに切り込みたい馬鹿が他に居ると思うか?」

「……」


 誰が馬鹿だ。

 言い返したい。


 しかし彼の言うことは最もである。

 モンパレに立ち向かう馬鹿はいない。


 せいぜいが、モンパレに巻き込まれながらも魔物を倒して逃げ延びる程度だ。


 だからこその偉業。

 しかし存在感が空気だからスポットライトが当たらない。


「まあそれだけじゃないんだがな。いま、強い冒険家は軒並み新宿に向かってる。残ってんのはほとんどが上層レベリング組くらいだ。10階の魔物と戦えるだけの奴らを中途半端に集めても、被害が出るだけ。なら、モンパレを切り抜けられそうな冒険家と一緒に、少数精鋭で立ち向かった方が被害が抑えられる」

「うーん」

「なにも1度のアタックで成功させろって言ってるわけじゃねえんだ。やばくなったら即逃げる。力が足りねえなら、アタックを何度も繰り返して、徐々にモンパレを削ってく」


 確かに彼の言葉には一理ある。

 中途半端な人数・戦力で立ち向かっても、統率が取りにくく、またフォローに余計な労力が取られるため、逆に悪い喧嘩をもたらしかねない。


 一度で削りきるのではなく、遊撃しながらモンパレを削った方が、良い結果が生まれる可能性はある。


「サポートは全力でする。オレらがリザードマンと戦って生き残れるかは、空気次第だからな」


 彼らが晴輝をサポートするのは、あくまで自分達が生き残るため。

 ほどよくプレッシャを与えて、しかし与えすぎもしない。


 丁度良い発言。

 歓迎の意思が窺えた。


 晴輝はそこからカゲミツらと、具体的に攻略手順の確認に入った。


          *


【モンパレ】ちかほについて語るスレ 75【回避】


54 名前:カゲミツ★

 おい前スレでモンパレ突破した冒険家を教えてくれた奴

 いたら出てこい!


55 名前:モンパレを回避する名無し

 なんだどうした?


56 名前:カゲミツ★

 てめえか?!

 なんて魔物を俺に教えやがったんだよ!!

 チームハウスに来たアイツの姿見て

 ビックリしすぎて心臓爆発するかと思ったぞ!!


57 名前:モンパレを回避する名無し

 >>56 クソワラタ

 意外と小心者なんだな


58 名前:モンパレを回避する名無し

 宙に浮いた仮面に触手に植物だっけか

 マジで噂通りの奴だったか?w


59 名前:カゲミツ★

 >>57

 いやお前も間近で見てみろって

 宙に浮いた仮面がこっちに迫ってくるんだぜ?

 メンバーで泣きそうになった奴もいたぞ


 >>58

 触手はなかった

 代わりに羽が生えてた


60 名前:モンパレを回避する名無し

 羽www

 くそっww俺の腹筋返せwwwww


 で、マジで仮面は魔物なの?


61 名前:カゲミツ★

 魔物じゃないと思う

 ・・・たぶん


62 名前:モンパレを回避する名無し

 自信無くしてんじゃねーよwww


 で、これから狩りか?

 どうやって短剣で魔物倒してるか興味ある

 詳細報告を期待する!


62 名前:カゲミツ★

 おう

 まかせとけ!


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