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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない
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応援要請を引き受けよう!

 ボスを倒して得られたのは、ボロボロの大きな槍が1本。

 それと小さい槍が5本。


 大きい槍は晴輝も火蓮も、拒絶されて持ち上げられない。ボロボロなのに武器であるようだ。

 引きずりマジックバッグに押し込んだ。


 次に小さいほうの槍。

 こちらは1本が20センチほど。

 棒手裏剣程度のサイズだ。


 晴輝は恐る恐る手に取るが、小さい槍に拒絶されはしなかった。


「このボスも手芸を?」

「まさかそんな」


 あれだけ苦労して倒したのだ。

 レアアイテムだと思いたい。


 晴輝が手に取り観察する。

 やはりどこからどう見ても、槍のミニチュアである。


 先端は鋭利で、少し触れただけで刺さりそうだ。

 石突き部分はストローのように中心部に穴が開いている。


「ほんと、なんなんだろうなこれ……」

「私にも見せてもらっていいですか?」


 晴輝がうち1本を手渡すと、


「キャッ!」


 火蓮がミニ槍を取り落とした。

 この光景、前にも見たな。


「持てないのか?」

「はい」

「ふむ」


 とすると……。

 晴輝は顎に手を当てる。


 考えられる可能性はふたつ。

 ミニ槍は短剣か、投擲武器のどちらかだ。


 ミニ槍のサイズでは短剣は無理がある。

 これで魔物に攻撃する光景を、晴輝は想像出来なかった。


 なので投擲用の武器とみて間違いないだろう。


 ストローのようになっているのは、刺さった相手の血を抜くためか。

 殺傷力が高そうだ。


「これ、使ってもいいか?」

「もちろんです」

「(ふりふり)」


 背後でレアが欲しそうに葉を揺らしてしているが、無視だ。


 これを武器として使うつもりなのか。

 射出する前に突き破って出てくるぞ。


「(にゅんにゅん)」


 え? 上層制覇の記念に?

 それならいいけど。


 レアに1本渡す。


 アイテムの確認を終えると、晴輝と火蓮は中層――10階への階段に向かった。



 階段を降りると、見渡す限り草原が広がっていた。

 空は青く、所々雲が浮かんでいる。


 遠くにはまばらに木が生えている。

 かなり大きな木だ。

 大きすぎて、遠近感が狂ってしまう。


「おお……!」

「わぁ……!」


 10層に降り立った晴輝らは、一様に息を吐き出した。


「凄いな」

「凄いですね」


 中層についての情報も、少ないながらWIKIに載っている。

 晴輝も火蓮も、中層の内面が大きく変化することは知っていた。


 だがダンジョンの現実は、晴輝の想像を容易く飛び越えた。


「本当にダンジョンの中に空が広がってるんだな」


 晴輝が想像していたのは天井画だ。

 きっと天井に、空の画が精緻に描かれているのだろうくらいにしか思っていなかった。


 だが空は、どこからどう見ても本物だ。

 印刷会社で働いていた晴輝の目でさえ、地上とダンジョンの空の見分けは付かなかった。


 10層はワンフロアだった。

 見渡す限り草原だが、地平線の辺りにダンジョン壁見える。


 ダンジョン壁に囲まれた箱庭。あるいは楽園といった趣がある。


(この階層から下へはどのように繋がっているのだろう?)


 ダンジョン壁のどこかに階段があるのか。

 あるいは、草原のいずこかに階段が隠されているのか。


 晴輝は顎に手を当てて考える。

 しかし答えは浮かばない。

 WIKIにも答えは書かれていない。

 なんせここは、晴輝らが人類で、始めて訪れた場所なのだから。




 初級冒険家と中級冒険家は、戦闘力に大きな隔たりがある。

 それは中層に出ると何かが変るからだと言われている。


 その“何か”は、もしかしたらスキル増加――開眼の類いではないか?

 晴輝はそう当たりを付けていた。


 なので、確認だ。


 晴輝は高揚を抑えながら、スキルボードを取り出した。



 空星晴輝(27) 性別:男

 スキルポイント:3→5

 評価:隠倣剣師

 加護:布者<????>NEW


-生命力

 スタミナ3

 自然回復2


-筋力

 筋力3


-敏捷力

 瞬発力3

 器用さ3


-技術

 武具習熟

  片手剣3

  投擲2

  軽装3

 蹴術1

 隠密2

 模倣2


-直感

 探知2


-特殊

 成長加速 MAX

 テイム1

 加護:1 NEW



「加護きたぁぁぁ!!」


 晴輝の全身が一気に沸き立った。


 あの憧れたのマサツグと同じ特殊スキル!

 それが手に入るとは!!


 晴輝は1度気持ちを落ち着け、加護の説明を開いた。


 加護:1(あらゆる神の加護が得られる)MAX3


 おお、と晴輝は胸の内で熱くなった息を吐き出した。


 神の加護……大きく出たな。

 とはいえ、文面から受けた印象ほどの効果はないのかもしれない。


『あらゆる神の加護が得られる』

 どの種類で、どの程度の加護かは書かれてない。


 受験生への『菅原道真のお守り』くらいの効果という可能性もある。

 あまり期待しすぎないほうが良いか?


 現在スキルボードで変化があったのはこれだけだ。

 初級冒険家と中級冒険家の隔たりが、加護の有無である可能性は高い。

 加護の効果はあまり侮らないほうが良いか……。


 説明を読んでも、どのような能力を引き延ばすスキルなのかが判らない。そのため晴輝は加護にポイントを振る勇気がいまひとつ持てなかった。


 ただ単に強くなるスキルならば良い。

 しかし『存在感の消失が』強くなるスキルならば危険である。

 晴輝の存在がいよいよ消滅しかねない。


 ポイントを振り分けるのは、スキルの評価がある程度定まった後の方が良いだろう。


 さらにこのスキル、他のものと違い0からのスタートではない。


 発現した段階で1。

 加護0という状態があり得ないのか。

 それとも発現するまでが0なのか。


 いずれにせよ、MAXにするために必要なスキルポイントが1つ減少しているのは喜ばしい。


「どうしたんですか?」


 火蓮が横からスキルボードをのぞき込む。


「中層に出てから、新しいスキルが現われたんだ。なんでも神様の加護がもらえるとか」

「しゅ、凄いですね! って、え……布?」

「…………」


 うん、それは気になってたさ。

 気になってたけど、触れたら負けかと……。


「布の神様って居ましたっけ?」

「…………」

「居たとしても、かなり、そのぉ……マイナー?」

「言わないで突っ込まないで」


 悲しくなるから。


 火蓮の言葉で、現実が急接近。

 体から急速に熱が奪われる。


「空星さん、私はどうですか?」

「ええと……」


 スワイプして表示を変える。



 黒咲火蓮(18) 性別:女

 スキルポイント:2→4

 評価:精霊師槌人

 加護:人者<?????>NEW


-生命力

 スタミナ1

 自然回復1


-筋力

 筋力1


-魔力

 魔力3

 魔術適正2

 魔力操作3


-敏捷力

 瞬発力0

 器用さ1


-技術

 武具習熟

  鈍器1

  軽装1


-直感

 探知1


-特殊

 運1

 加護1 NEW



「人者」


 人に近い者、という意味か。

 はたまた人間の神という意味か。

 これだけではまるで判断が付かない。


 レベルが上がると変る可能性は、あるか?

 ……あってほしい。


 布の加護をいただいた晴輝は、切に願った。


「やっぱりこれだけじゃよく判らないな」

「はい。あっ……いえ、なんでもないです」


 咄嗟に言葉を濁したが、晴輝には火蓮が言おうとした言葉がわかってしまった。


『布よりは良さそうな神様ですね』


 どうせ俺は布って名前の神様だよ!


 くそ。

 なんでこんな特殊なのが付いたんだ!!


 つい晴輝はやさぐれてしまう。


「レアはどうなんでしょうか?」


 火蓮の疑問に、晴輝は首を振る。

 まさか、と思う反面もしかして、とも思ってしまう。


 震える指を抑えながら、スワイプ。

 そこには――、



 レア(1) 性別:女

 スキルポイント:4

 評価:二丁葉撃魔

 加護:地者<???>NEW


-生命力

 スタミナ0

 自然回復0


-筋力

 筋力2


-敏捷力

 瞬発力1

 器用さ2


-技術

 武具習熟

  投擲3


-直感

 探知0


-特殊

 宝物庫2

 加護1 NEW



「……ついてるな」

「……ついてますね」


 驚愕だ。

 魔物にも加護が付くなんて。


 これは、レアが特殊なのか。

 あるいは中層の魔物にも加護があるのか。


 もし後者なら、ずいぶんと厄介である。


「しかし……地か」


 晴輝の肩を、レアがポンポンと叩く。


 そう落ち込まないでね、という言葉が聞こえる。

『地』を得た者の、遙かなる高見からの言葉が。


 ああ。

 今日も太陽がまぶしいな……。


 地下だけど。


          *


【気づかれる存在感への道】


『ついに中層到達!』


 どうも空気です(^o^)


 本日、ついに9階のボスを突破して中層に突入しました!


 ここまで長かったような短かったような・・・。


 これまでを思うと、とても感慨深い思いでいっぱいです。(>_<)



 中層は・・・すごいですね(^_^;)

 WIKIにもあった通り、ダンジョンの中なのに地上みたいでした。


 この空は、どこに続いているんでしょうかね・・・。

 案外他のダンジョンに続いているかも?


 晴れて中級冒険家になったとはいえ、まだまだ中層に入ったばかり。


 これから最深部に向けて、もっともっと強くならないと!(>_<)



 今日も一日、レベリング超頑張った!

 これでまた一歩、存在感が得られる未来は近づいたかな? かな?




 ブログをアップした翌日。

 晴輝の元に一通のメッセージが届いた。


「おおお!?」


 ブログの管理ページで『新着メッセージが届いております』の文言を見た晴輝は、しばしガッツポーズのまま固まった。


 もしかして……。

 中級冒険家になった途端に存在感が強くなったか?


 これは、加護を得たからか?

 布者ってよくわからない加護だけど!


「ふぉおおおおお!!」


 声を上げて深呼吸。


 一体どんな内容なんだろう。

 心臓が胸を叩く。


 晴輝は意を決してメッセージを開封。


 送信者はカゲミツ。


「はぁっ!?」


 あまりに想定外の名前に、晴輝は奇声を上げてしまった。


 送信者の名前は見たことがある、なんてものじゃない。

 マサツグが遠征するまでのあいだ、『ちかほ』の最高到達階層を更新し続けたランカーである。

 北海道といえば熊・カニ・カゲミツ! というくらい、冒険家のあいだでは知らぬ者はいない有名人である。


 おまけに目立つ!

 晴輝とは真逆に、とにかく存在感が強い。


 そのカゲミツからのメッセージだ。


(なにか悪い事をしただろうか?)

 晴輝の手は震え、汗が浮かぶ。


【応援要請】

『1度チャットで話をしたい』


 カゲミツからのメッセージはそれだけ。

 他にはチャット部屋へのURLと、パスワードが書かれている。


「応援要請ってなんだろう?」


 夢や憧れを抱いているとはいえ、晴輝は現実を忘れるほど自惚れてはいない。

 いくら中層に出たからといって、晴輝はランカーから応援要請を申し込まれるほどの人材ではない。


 中級冒険家は冒険家の1割しかいないが、冒険家の分母は何十万人。

 具体的な数値は調べようがないが、札幌だけでも百人はいる計算になる。


 おまけに初級冒険家の半分以上はエンジョイ勢。

 食糧の確保をしたりお金を稼いだり、攻略が目的ではない。


 中級冒険家は全体の1割だが、攻略を目的とした冒険家に限れば比率はぐんと上がる。

 つまり、中級イコール優れているという話にはならないのだ。


(大勢いる冒険家の中から、わざわざ俺を選んだ根拠はなんだ?)


 晴輝は首を捻る。

 だが捻ったところで、理由は思い浮かばない。


 ひとまずメッセージに返信をし、チャット部屋に入った。



【カゲミツの部屋 ※鍵付】


システムメッセージ:空気さんが入室しました。

システムメッセージ:カゲミツさんが入室しました。


空気:こんにちわー

カゲミツ:おう呼び出して悪いな

空気:いえー。一体どうなさったんですか?


カゲミツ:ちかほ中層でモンパレが発生したのは知ってるか?

空気:いえ初耳です!


空気:階層は?

カゲミツ:10階だ


カゲミツ:で、その討伐メンバーに空気を招待したい

空気:何故僕を?

カゲミツ:モンパレを殲滅したって噂を聞いた


カゲミツ:おまけに中級冒険家だ

空気:僕はまだ中級になったばかりです


空気:僕じゃ力不足じゃないでしょうか?

カゲミツ:やってみないとわからん


カゲミツ:だがこのままじゃ魔物が増えすぎてスタンピードを引き起こすかもしれん

空気:モンパレは時間経過と共に消滅するって聞いたことがありますが

カゲミツ:普通はする


カゲミツ:だがおそらく今回は特別だ


カゲミツ:モンパレの中に希少種がいた

空気:だから、スタンピードすると?

カゲミツ:可能性がある



 晴輝はモニターを眺めながら、唸った。



空気:カゲミツさんは24階まで探索されてましたよね?

カゲミツ:ああ

空気:それなら10層のモンパレといえども力押しでなんとかなるのでは?



 モンパレが忌避される理由は1つ。

 相性の悪さだ。


 モンパレでは次から次へと魔物が押し寄せる。

 魔物は屍を乗り越えながら、間合いを削っていく。


 人気武器である大剣や槍では、間合いを削られると最大威力を発揮出来ない。

 同じく人気武器の弓も、モンパレを駆逐する前に矢が尽きる。


 どれほど大量の魔物を葬れる冒険家でも、モンパレという特殊な戦況では戦いにくくなるものなのだ。


 魔物と実力の差が4階や5階程度ならば、四釜らのように命を落としかねない。

 だが10階以上実力が開いていれば、ごり押しで突破出来るように晴輝には感じられた。


 だが、



カゲミツ:実際にやってみたがダメだった



 カゲミツが晴輝の想像を否定した。



空気:何故でしょう?

カゲミツ:希少種が厄介なんだ


カゲミツ:希少種は亜人の上位種リザードマン


カゲミツ:30層の通常モンスターだ

空気:うわ・・・



 晴輝はチャットと同じく、モニター前でも呻いてしまった。


 通常モンスターは一般的に、五階下のボスと同じ強さだと言われている。

 10階の通常モンスターであれば、5階のボスと同等の力となる。


 5階のボスを倒せたら、10階の通常モンスターが倒せる計算になる。


 30階のリザードマンだと、25階のボス相当。

 24階で活動するカゲミツらではかなり厳しい相手である。


 さらに10階の魔物のモンパレを相手にしながらとなると、まともな戦闘など不可能だ。



空気:ますます僕の出番はなさそうですけど

カゲミツ:誰も希少種を相手取ってくれとは言わん


カゲミツ:俺らが希少種を引きつけてるあいだにモンパレを倒してほしい



 それなら可能か?

 晴輝はしばし考える。


 晴輝はまだ10階の魔物と戦った経験がない。

 冷静に自らの実力を見極める。


 少し難しいかもしれない。

 そう結論づけ、晴輝はキーボードを叩いた。



空気:申し訳ないですが僕じゃやっぱり力不足です

カゲミツ:そうか残念だ


カゲミツ:作戦に参加するだけでもすごく目立つんだがな



 瞬間。

 晴輝はガタっと椅子から立ち上がり、壊れるほど強くキーを押し込んだ。



空気:やります!


空気:やらせてください!!



 こうして晴輝の、10階に出没したモンスターパレード討伐部隊への参加があっさり決まった。

目の前に存在感をぶら下げられ、あっさり食いつく晴輝くん。

……ちょろい。

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