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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない
48/166

中層の門番に勝利しよう!

 9階の捜索はあらかた完了した。

 残る部屋は1つ。


 その部屋が見える最も遠い位置に、晴輝と火蓮が佇む。


 アリクイが出没する階層なので、晴輝は大アリクイのボスを想像していた。

 しかし、少し想像が外れた。


 ボス部屋に居たのはアリクイ頭の人型モンスター。

 ベロベロという名の亜人だった。


 身長は2メートル。

 アリクイよりもスマートな体に、常時二足歩行。

 手には槍を持っている。


 晴輝が戦ってきた魔物の中に、武器を装備したものは居ない。

 かつてのどの魔物とも違う。


 さすがは中層への門番といったところか。


「……強そうだな」


 晴輝の背筋が震える。


 おそらく、相手に気づかれない位置に居るはずだ。

 しかしボスには、一切の隙が見当たらない。


 既にこちらの存在に気づいているのか。

 はたまた隙を生まないほど強敵なのか。


「どうか、後者であってほしいな」


 にやりと晴輝の唇が歪んだ。

 強敵への高揚感に、背筋を震わせながら……。


 その横でボスを眺めながら、火蓮が怯える。


 9階のボスは、中層手前ということもあってかかなり強そうだ。

 これだけ離れているというのに、ボスの強さを肌で感じる。


「……怖い」


 火蓮はボスが怖いと思った。


 この感情は、モンパレに放置されたときと同じかもしれない。

 きっとそれくらい、火蓮とボスの実力には差があるのだ。


 それでも前に進まなくてはいけない。

 冒険しなくては、いけない。


 相手の力に怯えたままでは、火蓮はいつまでも弱い火蓮を抜け出せない。


          *


「……いくか」

「はいっ」


 武具をチェックし終えた晴輝が、集中力を高めていく。


 今回は、部屋の外からの一斉射撃はしない。


 きっとそれじゃ、倒せない。

 放った弾がことごとく弾かれる様しか、晴輝は思い浮かばなかった。


 隙を作らなければ、遠距離攻撃は当たらない。

 なのでまずは、深く切り込む。


 集中力の、深い泉へ。

 落ちる、潜る。


「――ッ!」


 晴輝は全力で飛び出した。

 即座にボスが晴輝に気づく。


「……」


 槍を構えたボスが、

 にやりと笑った。


 ゾクッ、と晴輝の背筋が震える。


 20、10、5。

 間合いが消え、両者の武器が交わる。


 ――ィィィィイイイン!!


 腕力は互角。

 だが 身長と体重に差がありすぎる。

 それに得物の違いもある。


 故に、晴輝は押された。

 しかし慌てない。

 体を僅かに浮かせ、晴輝は相手の攻撃の威力をそぎ落とした。


 晴輝が次の攻撃姿勢に入るより早く、ボスが槍を動かした。

 振りかぶった槍が、鋭く晴輝に振り下ろされる。


 それを短剣で流し、魔剣で喉元を狙う。

 即座にボスが手を返す。


 手元を回転させ石突き。


 早い!


 踏み出した足でブレーキ。

 靴底が甲高く鳴く。

 体が軋む。


 晴輝の眼前を、石突きが通過する。

 その風音に、冷たい汗が噴き出す。


 いまの石突きを食らっていれば、晴輝は確実に昏倒していただろう。

 それほどの威力を、音から感じ取る。


 反撃が来る前にステップ。

 晴輝は相手の間合いから抜け出した。


 一瞬の交わりで感じる相手の力量。

 考えなしに戦っては、負ける。

 ゴリ押しが通用する相手ではない。


 だから集中しろ!

 集中し、集約し、観察し、想像し、想定し、試行する。


 相手のすべてを見極め、すべての攻撃を防ぐ。

 そうして相手の暴力を――上回れ!!


 晴輝は果敢にボスを攻める。


 ボスは晴輝のどんな攻撃も、槍を柔らかく使い防いでいく。

 無理に深く踏み込めば、鋭い反撃に退避を迫られる。

 かといって手をこまねいても同じだ。

 僅かな隙につけ込まれてしまう。


 いいね。

 実にいい!


 晴輝は笑う。


 久しぶりの強敵。

 久しぶりの全力。


 己の能力を限界まで振り絞る。

 それでもボスまでは、足りない。


 足りない部分を、レアが補う。

 射出されたジャガイモ石が、防ぎきれない攻撃を弾いていく。


 そのとき、

 レアが肩を強く叩く。


 晴輝は慌てて跳躍。

 その場から退避。


 晴輝の横を、白が色濃く渦巻く塊が通過。

 ボスの槍にぶつかった。


 ッパァァァン!!


 おそらくいままで入念にチャージしていたのだろう。

 飼い主でさえ蹴散らす威力の魔法。

 だがそれを、ボスは足を滑らせながら耐えきった。


 ギロリ。

 晴輝に向いていたヘイトが、火蓮に向かった。

 ボスが晴輝を無視して火蓮に接近する。


 まずいっ!


 火蓮ではボスの攻撃を防ぎきれない。

 慌てた晴輝は即座に移動。

 全力で火蓮に駆け寄る。


 だがボスが動くのも、ほぼ同時だった。


「レア!」


 晴輝の意図を汲んだレアが、ボスに射撃。


 脅威でないと踏んだのか。

 ボスはジャガイモ石を避けない。

 当たるに任せている。


 もうすぐ火蓮がボスの間合いに入る。

 その前に、


「ひゃっ!」


 晴輝は火蓮を抱えて部屋を脱出した。


 そのまま部屋から100メートル以上を走る。

 探知でボスが追って来てないのを確認して、スピードを緩める。


 背後を振り返り、ボスから逃げ切ったのを確認して晴輝は、大きく息を吐き出した。

 へたり込むように腰を下ろし、肩で呼吸を繰り返す。


「……危なかったあ」


 今のボスの動きは、かなり危険だった。


 これまでの戦闘で、晴輝は1度も魔物に横を抜かれることがなかった。

 あるいは抜かれても、火蓮の元にたどり着く前にレアと火蓮の攻撃で消し飛ばしてきた。


 だがベロベロは違った。


 晴輝と同等の速度で火蓮に迫った。

 レアの射撃もものともしなかった。


 いくら防御力の高い装備を身に付けていても、後衛の火蓮ではダメージを防ぎきれない。

 あのまま晴輝が救わねば、火蓮は今頃大けがを負っていた。


「今までの必勝パターンが通用しないとなると、厳しいな」


 戦略を変えなければ勝てる相手ではない。


 ヘイト管理はした方が良い。

 火蓮の強力な魔法だと、1撃でタゲを奪ってしまう。


 少々威力を絞り、手数を上げた方が良いか……。


「いや、もう少しレベリングした方が良いかもしれないな」


 今回のボスは、力量差がほとんどなかった。

 晴輝と同等か、それ以上だろう。


 であればレベリングをして、ボスを圧倒出来る力を身につけた方が良い。

 強い相手との戦いは面白いが、それで命を失ってはおしまいだ。


「…………ん? どうした?」


 考える晴輝の横で、火蓮が痛みを堪えるように唇を噛みしめていた。

 瞳にはうっすら涙が溜まっているように見える。


「怪我をしたか?」

「いえ……」


 火蓮がなにかをためらうように、深呼吸を繰り返す。


 だがみるみる顔が赤らみ、そして――、


「空星さんは、どうして私を助けたんですか?」

「私は頼りないでしょうか? いまの攻撃を、私が対処出来ないと思われたんですか?」

「い、いや……最悪を考えて行動するのは当たり前だろ?」

「私たちは、チーム、なんですよね?」

「俺は、仲間だと思ってる」

「じゃあどうして、“最高の状況”で私を助けたんですか!」


 ――決壊した。

 堪えきれず、火蓮は涙をボロボロと零した。


 火蓮は晴輝とチームを組んでいる。

 組んでいると、思っている。


 だがはたしてチームとは、こんなに他人行儀なものだろうか?

 連携さえ取れれば、チームなのだろうか?


 晴輝はいつだって、火蓮に優しい。

『ちかほ』で袖すり合っただけの赤の他人相手なのに、火蓮のレベリングを常に手伝ってくれた。


 当然ながら、火蓮は晴輝と恋仲ではない。

 家族はないし、親友でもきっとない。


 だが、仲間ではあると、思いたかった。


 彼の家にあるダンジョンに押しかけ、勝手にレベリングに付きまとい、彼の貴重な時間を割いている。


 さらに『ちかほ』ではスキルボードで得た力に溺れ、脇が甘くなり失敗した。


 数えてみれば成功なんてない。

 冒険家になってからは失敗続きだ。


 そんな奴が更に願うのは、図々しいと承知している。

 だが、火蓮は願わずにはいられなかった。


 このまま『最高の状況』を無視して晴輝が火蓮を救うなら、

 火蓮は、永遠に晴輝の足手まといにしかなり得ないのだから。


「私はいつも失敗ばかりしてます。また、失敗するかもしれません。信用がないのも自覚してます。ですが、空星さん。私も冒険がしたい。空星さんと一緒の、冒険がしたい。どうか、お願いです」


 火蓮は深々と頭を下げる。


「私を信じてください!」


 胸に溜まった感情の熱を吐き出すと、途端に震えが火蓮を襲う。


 もし彼に拒絶されたら……。

 ここで全てが終わってしまう。


 その終わりが顔を覗かせた。


「…………どうすればいい」


 だが、晴輝は頷いた。

 火蓮の意見に、耳を傾けてくれた。


 見えた終わりが、姿を消した。

 途端に体に、熱が舞い戻る。


 火蓮は袖口で乱暴に涙を拭う。


「自由に戦ってください」

「え……?」

「私のことは一切気にしないで。私がいないものと思って戦って下さい」

「でもそれじゃ火蓮が――」

「なんとかします」


 火蓮は毅然と言い放った。


 これからは晴輝が生み出した安全な道を歩くのではない。

 変化する戦闘に合せ、自らが道を拓くのだ。

 仲間と――空星晴輝と共に。


 だから、信用してくれ。


 その声に、晴輝はしばし瞑目した。


 晴輝の意識にあったのは、『最高の状況』という火蓮の言葉。

 あのタイミングは、晴輝にとって最悪だった。


 それを何故彼女は、最高だと口にしたのか?


 10秒。20秒。


 頭の中を巡るのは、先ほどの戦闘。

 飽和する殺意と暴力の嵐。


 その中に、キラリと道筋が見えた。

 いままで見えていなかった。

 ……いや、見えていたが無視をしていた、

 最善の道筋が。


「わかった。火蓮に任せる」

「――ッはい!」


 火蓮の笑顔が弾ける。

 それでもどこか、ぎこちない。

 少し緊張しているようだ。


 晴輝は一番最初にこのダンジョンに来たときの火蓮を知っている。

 弱かった頃の火蓮を散々目にしている。


 無理をすれば壊れるのではないか。

 失敗して、痛い目を見るのではないか。

 そんな不安が頭をかすめる。


 晴輝は、出来るなら彼女は傷付いて欲しくないと思っている。

 だからこそ『最善の状況』を無視して火蓮を救った。


 だが火蓮は言った。

 自分も冒険がしたいと。


 安全を第一に考えるばかりに、晴輝は過保護になりすぎた。

 火蓮から冒険のチャンスを奪っていた。


 そしてそのせいで、自らの攻撃手段を大きく制約していたことに気がついた。

 その反省と気づきが、晴輝に彼女の意見の採用を促した。


 装備を1度チェックし、体勢を整える。

 火蓮も念入りに装備を確認している。


 確認を終えて、どちらともなく頷いた。


「さあ、再戦だ!」


 口にすると同時に、晴輝は全力で駆け抜ける。


 火蓮のことは、もう考えない。

 考えるのは魔物――ボスを倒すことのみ。


 ボス部屋に入ると同時に、今度はボスからも打って出てきた。

 振り上げた武器が早々に払われる。


 一旦回避。

 回り込んで、バックアタック。


 だが遅い。

 簡単にボスに払われた。


 集中しろ。

 もっと、もっと集中するんだ!


 攻撃を、変化を、兆しを、見逃すな!!


 晴輝はさらに深く潜る。

 集中力の限界に向かう。


 2本の短剣を操り、ボスの槍を防ぐ。

 時々ボスが、口から舌を飛ばして晴輝を牽制する。


 おかげで防戦一方だ。


 腕力は向こうが上。

 だが速度は晴輝が僅かに勝っている。


 対処は出来ている。

 だが、打ってでられない。


 晴輝が防戦一方になるのは、なにかが足りないから。


 なにが足りない?

 なんだ?

 考えろ!


 刃を交えながら、目の前に現われた難問に、晴輝は唇を歪め笑う。


 そのとき、


 ――ッタァァァン!!


 ボスの頭が僅かに傾いだ。

 火蓮の魔法だ。


 途端にボスが火蓮に憎悪を向ける。


 咄嗟に晴輝はまた、火蓮に意識を向けそうになった。

 だが強い意志をもって、脊椎反射をねじ曲げる。


 ――ここだ。

 ここなんだ!!


 判断した刹那。

 晴輝は隠密をオン。

 空気に溶け込んだ。


 対峙していた相手の存在感が消失した。

 それに気づいたボスの動きに、僅かに躊躇が生まれた。


 だが遅い!

 晴輝は笑う。


 火蓮に向かったボスの背中に、晴輝はシルバーウルフの短剣を投擲した。

 狙い違わず、短剣がボスの肩口に深々と突き刺さった。


「ギャゴォォォォ!!」


 ボスの鼻と口で、空気が強く振動する。


 そのあいだも、晴輝はボスの死角に回り込む。

 死角に入ると隠密をオフ。


「――!?」


 晴輝を察知したボスが後ろを振り返る。

 その隙を、火蓮は逃さなかった。


 ――ッタァァァァン!!


 再びボスの頭部に魔法が直撃。

 ボスの瞳が、みるみる血走っていく。


 体を火蓮に向けると同時に、晴輝が背中を切りつけた。


「おいおい、俺のことも忘れるなよ」


 即座に隠密。

 振り返りながらの石突きを、辛うじて躱す。


 常にアドリブ。

 歩く道は、想定外。


 一歩でも踏み外せば……。

 考えると、震えが止まらない。


 しかし晴輝は笑う。


 いいね。

 実にいい!!


 この先に、確実な勝利が待っている。

 その道筋が、細く険しい道ながら、

 いまはっきりと出現した。


 再び晴輝がタゲを取る。

 危うい攻撃を、レアが防ぐ。


 時々火蓮の強烈な一撃。

 ターゲットが変化。

 晴輝が隠密。


 さすがにボスも、気配が消えた晴輝を無視出来なくなった。

 火蓮と晴輝のあいだで、ターゲットの天秤が大きく揺れ動く。


 この上ない、大きな隙。


「こっちだぞ」


 晴輝が姿を現した。

 途端にボスが反応。


 刹那。

 火蓮の魔法が飛来。


 ――ッタァァァァン!!」


 背中に刺さった短剣に魔法が激突。

 肩口の短剣を押し込み、切断。


 ボスの腕が、地面に落ちた。


「グアァァァァァァ!!」


 前屈みになったボスが、叫びながら肩を押さえた。


 憎悪に塗れた瞳を火蓮に向ける。

 残った手で槍を握り、腕に力を込めた。


 ボスが火蓮めがけて槍を投擲する。

 その前に、


「だから俺の存在を忘れるなよ……」


 晴輝がボスの延髄に魔剣を突き刺した。


 ブプ、と魔剣が深々と埋まる。


 1秒。

 ボスが大きく痙攣し、地面に倒れ込んだ。


 魔剣を引き抜き退避。


 10秒、20秒。

 僅かに痙攣していたボスの体が停止する。


 瞬間、

 ダンジョンが明滅。

 同時に、ぼぅと全身が熱くなる。


 かなり激しいレベルアップ酔いだ。

 だが、


「か、空星さん!」


 ふらふらとした足取りながらも、手を上げながら火蓮が近寄る。


 その手に、晴輝は勢いよく右手を重ねて叫んだ。


「……っしゃぁぁぁ!」


 晴輝と火蓮はこの日、互いの力で共に、中級冒険家へと至った。

仮面さんの能力について質問があったのでこの場でまとめて掲載。

1,装着感ゼロ。

 視界も遮断されず呼吸も苦しくありません。ゴムがなくても顔に張り付き、楽々着脱可。

2,存在感アップ。

 みんな仮面にクギヅケ。(やったね!


2章はまだまだ続きます。

そうして次回、活動報告に掲載した布がやっと登場。

お楽しみに。

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