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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない
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中層に向かって進んで行こう!

 朱音が晴輝に見せたのは、先日発注をかけた防具類と、以前に生産を依頼した武具だった。


 まず“壱”シリーズ、ワーウルフの短剣。

 中層に出現する魔物の素材を使っているだけあって、切れ味は凄まじい。


 ただ少し重い。

 晴輝は武器に、まだ完全に認められてはいないようだ。


 それでも問題なく使える重さではある。

 戦っていれば、すぐに重みに慣れるだろう。


 現在の晴輝の武器は魔剣とワーウルフの短剣。

 シルバーウルフの短剣は、使い始めてまだ2ヶ月も経っていないがお役御免となってしまった。


 少しもったいないが、もったいぶって命を落としては無意味だ。


 手、足防具も新調。これも‘壱’だ。

 以前の防具‘一’よりもランクが上だからか、晴輝の体により馴染んでいる。


 グリップもかなり効くので、急激な動きの変化にも対応出来る。


 次に火蓮。

 用意された鎧はムカデの胸当てだった。

 朱音はわざわざ同じ種類の防具を取り寄せてくれていた。


 手、足も晴輝と同様に‘壱’に新調。


 新たにワーウルフの毛皮で仕立てたローブが追加された。


 さらに朱音は、晴輝用に新しい鞄も用意してくれた。

 鞄なのに、“壱”シリーズ。

 下手な防具よりも防御力が高い。


 これで壺やプランターが割れるような、不慮の事故がある程度は避けられる。


 後衛の火蓮は、普段攻撃を食らうことがほとんどない。

 練度が上がりにくいので、どうしても耐久性が弱点になってしまう。


 ムカデの鎧とワーウルフの毛皮があれば、直接攻撃を食らってもある程度怪我が防げるだろう。


 ただ装備した本人は少し動きにくそうだ。

 彼女もまた、必須レベルに達してないのだ。


 歩けているので装備出来ないほどでもないはずだ。

 レベリングすれば少しずつ軽くなるはずなので、それまで頑張ってもらう。


 装備の全てがミドルクラス“壱”。

“壱”の中でも比較的安価なモデルではあるが、それでもかなりの値段を支払った。


 合せて300万。

 先日朱音からむしり取ったお金が、奪い返されてしまった。


 朱音の高笑いが、いまも耳に残っている。


 次はこちらのターンだな。

 ぐうの音も出ないほどむしり取ってやる。

 そう晴輝は心に決める。



 装備を一通り確認し、晴輝らは改札口に向かった。


「今日は9階を探索する」

「メロンは……」

「また今度だ」


 火蓮の顔に不服の色が僅かに宿る。


 彼女がここまで我を表すのは初めてだ。

 それも仕方がない。

 第1次スタンピード発生から、チョコやアイスなど甘味が気軽に食べられなくなったのだ。

 年頃の女の子が、久しぶりの甘味に魂ががっちり鷲づかみされても無理はない。


「メロン狩りをするなら行ってもいいぞ?」

「え!?」

「ただ俺は9階を目指す。あともう少しで中層だからな」


 あと少しなのだ。


 初級冒険家と中級冒険家では、実力が大きく異なる。

 どこがどう異なるかは定かではない。

『なろう』でも、正確な情報が出てこない。


『~~ではないか?』

『~~だと思う』

 そんな不確かなものばかりだ。


 だが10階に踏み込んだ冒険家と、そうでない冒険家には差が生じる。

 それがまことしやかな噂として、『なろう』に広まっている。


 一体なにが変るのか?

 それを、もうすぐ確かめられるのだ。

 足踏みはしてられない。


 少し前の晴輝なら間違いなく心ゆくまでメロン狩りに興じていた。

 しかし晴輝は今朝、3人の男たちの勇士を目撃した。


 弱くても、衣服の破片をまき散らしながらも、全力でゲジゲジと戦う彼らの姿を……。

 その姿に、晴輝は冒険家資格を手にしたときの、初心を思い出した。


 ダンジョンに憧れ、冒険に憧れ、強い存在感に憧れた。

 手垢の付いていない感情を……。


 おまけに新たな武具も入手した。

 今日の晴輝の、ダンジョン攻略への熱量は相当だった。


「我が儘を言って悪いな、火蓮」

「とんでもない! 中層を目指すんですから、よそ見なんてしてられませんよね!」

「……ありがとう」


 晴輝の熱意が伝わったのか。

 火蓮も中層への闘志をその目に宿して頷いた。


          *


 ゲートで8階に到達した晴輝らは、足早に9階を目指す。


 当然、メロンとの対面を果たすことになるが、時間はかけられない。

 収穫はほどほどに、サクサクと魔物を倒して進む。


 それでも、火蓮のおやつ分くらいは稼げたはずだ。


 8階のボスは、ツタに沢山のメロンがなっていた。


 近づくと全方位に種をまき散らす。

 ノズルと種の量が多いので、回避が非常に難しい。


 それが判っていたので、晴輝と火蓮、そしてレアの遠距離攻撃で一気に勝負を決めることにした。


 晴輝の投擲が葉を落とし、

 レアの弾丸がツタを千切る。


 最後に火蓮の魔法が、晴輝とレアが切り開いた先。

 魔物の根元を消し飛ばした。


 作戦がかっちり填まった、良い戦いだった。


 ダンジョンが明滅。

 ボスが地中に吸い込まれる。


 ドロップはメートル単価1万円のツタとメロン。


「またか……」


 晴輝はうんざりした表情で、半分に切れたメロンの食玩を手に取った。

 種や果肉、皮に至るまで精緻に作り込まれている。


 しかしここのダンジョンのボスのあいだで、食玩制作でも流行っているのだろうか?


 疑問に思いつつも、晴輝は食玩とツタを拾い上げる。

 その晴輝の肩に、軽い衝撃。


「ん?」


 レアが背後で、もの言いたげに葉を揺らしている。


「欲しいのか?」

「(コクコク)」


 遠慮がちに葉が揺れた。

 先日アイテムを奪った時に怒られたことを、レアはしっかり学習している。


「レアが欲しがってるが、火蓮はいいか?」

「はい」


 火蓮の許可も出たので、早速レアにプレゼント。

 レアは手にしたメロンを、大事そうに土中に埋めて1度頭を縦に揺らした。


『あ、ありがとね!』


 そんな声が聞こえてくるような、いじらしい揺れ方だった。

 可愛い奴め。


 肩に乗った葉を指先で軽く撫でてから、晴輝は9階に向けて移動を開始した。



 9階のゲートをアクティベートし、探索。


 出没したのは、アリクイの魔物だった。

 晴輝らの前に現われたアリクイが立ち上がり、両手を広げて威嚇した。


「……はぅ」


 その姿に、火蓮のハートが射貫かれる音が聞こえた。


「火蓮、あれは魔物だぞ」


 決して見た目に騙されてはいけない。


「え、ええ。判りますけど……可愛いですね」

「可愛いからって油断も同情も厳禁だ。俺だってゲジゲジ相手でも、全力で戦っていただろ?」

「……え、っと……はい」


 火蓮が何かを悟ったように、僅かに顎を引いた。

 瞳のハイライトが若干陰ったように見える。


 一体なにか不満があるのだろうか?

 愛すべきキャラであるゲジゲジにも、間違いなく全力で斬りかかっていたつもりだったのだが……。


 疑問を抱きつつも、晴輝は全力でアリクイに斬りかかった。


 近づくと、アリクイは手と舌で攻撃をしてきた。


 攻撃が、恐ろしく速い。

 動きが洗練されている。


 レアが“ダブル”で石を発射。

 火蓮も魔法を放ち、動きを阻害する。


 鈍化したアリクイを、晴輝が連続で切りつける。


 切れ味が良くなった魔剣があっさり皮を切り裂く。

 おニューのワーウルフの短剣が肉を絶つ。


「うお!?」


 短剣の威力に、晴輝は戸惑う。

 それも一瞬。


 即座に気持ちを切り替え、一気にアリクイを押し切った。


「……うん。問題なさそうだな」


 アリクイの実力は飼い主よりも下だった。


 とはいえアリクイは、決して弱くはない。

 飼い主が、階層に見合わず強すぎるだけだ。


 上層に亜人が出現するのは『ちかほ』だけ。

 通常は中層から出現する種族である。


「しかし、すごいな」


 ワーウルフの短剣の威力は、晴輝の想像を超えていた。

 さすがは‘壱’。中層素材で作った、ミドルクラスの武器だけはある。


 ワーウルフの短剣の切れ味に惚れ惚れしていると、反対側にある魔剣からなにやら嫌な雰囲気が漂ってきた。


 ……うん、判ってる。

 お前もちゃんと使ってやるから安心しろ。


 晴輝はアリクイを危うげなく倒しながら前へ。


「あの……」


 しばらく進むと、恐る恐るといった具合に火蓮が声を発した。


「ん、なにかあったか?」

「ひとつ、聞きたいんですけど――」


 意を決するように、火蓮が唇を震わせる。


「弾丸が発射されるレアのノズル。いつの間にか2本になってるんですけど!」

「――え!?」


 言われて初めて、晴輝も気がついた。

 確かに火蓮の言う通り。


 体から別れた太いツタ――攻撃用のノズルが1本から2本に増えていた。


 注目されたのが嬉しかったのか。

 レアは『シャキーン』と効果音を口ずさむように、ノズルを2本掲げて見せた。


「……格好いいなレア。羨ましい!」

「え、いや、その感想でいいんですか?」

「それ以外に他になにがある?」

「急にレアのノズルが増えたんですよ? おかしいって思いません!?」

「いや?」


 晴輝は首を捻る。


「レアだって成長くらいするだろ」


 レアは植物である。

 ぶんけつしても不思議じゃない。


「あ…………はい」


 ぽかんとした火蓮が、石でも飲み込むみたいに頷いた。


 この人は、これが平常運転なんだ……。

 そんな諦めの境地みたいな雰囲気さえ感じる。


 体が成長したということは、スキルも変化したかもしれない。

 そう思い、晴輝はボードを取り出した。



 レア(0) 性別:女

 スキルポイント:2→3

 評価:葉撃魔→二丁葉撃魔


-生命力

 スタミナ1

 自然回復0


-筋力

 筋力2


-敏捷力

 瞬発力1

 器用さ2


-技術

 武具習熟

  投擲3

   二重投擲0 NEW


-直感

 探知1


-特殊

 宝物庫2



「おお!」


 レアの技術が派生した!


「スキルレベルが3でも派生するのか……」


 きっかけはノズルの増加で間違いない。

 だが何故ノズルが増えたかは、定かでない。


 ノズルが増える前に行ったことといえば、ボス討伐と玩具の収納。


 レベルが上がると増えるのか、あるいは魔物がドロップする謎の品を宝物庫に取り込み続けると、体が成長していくのか……。


 晴輝の直感では、後者が近いように思う。


 だとすれば、魔物のドロップを収集し続けたレアは、一体どんな姿になるのだろう?

 少し気になる。


 ただ、レアはかなりえり好みが激しい。

 これまで散々戦ってきて強請ったアイテムは、ジャガイモ・魔石・ナス・メロンの4つのみ。

 それ以外は一切、興味を示さなかった。


 そのレアに、希少アイテムをプレゼントし続けるのは至難の業である。


 究極形を早く拝みたい気持ちはある。

 だがそれは日々の楽しみに、彼女の成長をゆっくり見守るしかないだろう。


「しかしこれで、少なくともどのタイミングでもスキルが派生する可能性が生まれたな」


 晴輝には既に、マサツグの『聖剣』のようにユニークスキルが開放される可能性がある。

 それが判っただけでも、かなり大きい。


 ほんの少しだけ、派生に期待する。

 それだけで、モチベーションが飛躍する。


 晴輝の体がほんわり温かくなる。


 いいね。

 実に良い!


 晴輝はボス部屋を目指しながら、派生スキルを願う。


(派生するなら、存在感アップスキル! 存在感アップスキルでお願いします!!)


 そんなスキルが現われる日を夢見て……。

そんな日は一生やって来な(ゲフンゲフン


拙作をお読み下さいまして、有難うございました!

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