本拠地に戻ろう!
大井素の捜索を終えてから3週間。
晴輝らは札幌のダンジョン『ちかほ』でレベリングを続けた。
『ちかほ』でレベリングを続けたのはひとえに出張費がタダだったから。
1ヶ月間、食と住がタダ。
これを活用しない手はない。
車庫のダンジョンと違い、『ちかほ』には様々な冒険家がやってくる。
戦闘中に、他の冒険家と鉢合わせになることもしばしば。
晴輝のスキルボードや火蓮の魔法が露見しないよう、細心の注意を払いながらの冒険となる。
ストレスはかかる。
だがこの状況になれておかないと、どこかでボロが出る。
そうならないためにも、人に見られる可能性のある場所で戦って、ある程度慣れておく必要があった。
3週間のレベリングで、晴輝らは『ちかほ』8階の魔物を問題なく裁けるまでに成長した。
黒咲火蓮(18) 性別:女
スキルポイント:0→2
評価:精霊師→精霊師槌人
-生命力
スタミナ1→2
自然回復0→1
-筋力
筋力0→1
-魔力
魔力3
魔術適正2
魔力操作2→3
-敏捷力
瞬発力0
器用さ0→1
-技術
武具習熟
鈍器0→1
軽装0→1
-直感
探知1
-特殊
運1
きっと毎日寝る前に、筋トレを頑張ったのだろう。
火蓮は全力で魔法を打っても、杖が頭に直撃しない程度に筋力が増えた。
また全力で魔法を放っても、以前のように巨大な魔法が放たれることもない。
威力と範囲、それぞれの強弱をコントロール出来るようになったようだ。
晴輝はというと、
空星晴輝(27) 性別:男
スキルポイント:0→3
まずスキルポイントが3ポイントも増えた。
増えたタイミングは、おそらくモンパレ討伐時。
魔物をどれほど倒してもポイントはもらえない。
なので増えた理由は、あの異常なモンパレを引き起こしていた謎の物体の討伐だ。
晴輝にはそれ以外、思い当たる節はなかった。
しかし、希少種ならば討伐で得られるポイントは1だ。
3ポイント増加はいまのところ、スタンピードのボスを討伐したときだけである。
このことから、もしかするとあれはスタンピードを引き起こす魔物だったのではないか?
そう晴輝は踏んでいるが、いまとなっては確かめることが出来ない。
ポイントが3つも増えた。
理由はどうあれ、大切に使わせて貰う予定だ。
そして残るツリーだが――、
評価:倣剣師→隠倣剣師
-生命力
スタミナ3
自然回復0→2
-筋力
筋力3
-敏捷力
瞬発力2→3
器用さ2→3
-技術
武具習熟
片手剣3
投擲1→2
軽装1→3
蹴術0→1 NEW
隠密1→2
模倣1→2
-直感
探知2
-特殊
成長加速 MAX
テイム0→1
大事件だ!
隠密が育った!!
おかげで晴輝の存在感はうなぎ下がり。
仮面を外すと、時々火蓮も晴輝を見失う。
晴輝はしばし火蓮の探知スキルを上げたいという、強烈な衝動と戦った。
いまのところ、理性がギリギリ勝利している。
火蓮に比べて、晴輝のスキルの方が上昇率が高い。
短剣装備で手数が多く、また前衛で体を動かし続けていることも起因している。
だが一番は成長加速があるからだろう、と晴輝は考えている。
正確な対比は出来ないが、火蓮と晴輝でここまで上昇率が違うとなると、成長加速がスキルにも関与している確率は高い。
新たなスキル『蹴術』はその名の通り。
狩りで手数を増やすために蹴りを用い続けたことで出現した。
スキルが出現してから蹴りの威力が格段に上がった。
とはいえ晴輝にとって、蹴りはあくまで攻撃から攻撃までの隙間を埋める手段。
ポイントを振るつもりはない。
さらに魔剣も、着々と進化を続けている。
切れ味は既にシルバーウルフの短剣を上回り、剣の反りも深くなっている。
今後どのような形状になるか楽しみだ。
晴輝や火蓮同様に、レアもしっかり成長した。
レア(1) 性別:女
スキルポイント:0→2
評価:葉撃魔
-生命力
スタミナ0→1
自然回復0
-筋力
筋力2
-敏捷力
瞬発力1
器用さ1→2
-技術
武具習熟
投擲3
-直感
探知0→1
-特殊
宝物庫1→2
これまで足りなかった経験とレベルを底上げし、晴輝はK町へと戻っていく。
晴輝はこれからいよいよ、車庫のダンジョンの中層を目指す。
中級冒険家になれば上位1割。
1割しかいない中級冒険家になれば絶対に目立つはずだ!
隠密レベル2になんて、絶対負けない!
そう自らを鼓舞させて……。
*
「ん?」
車を止めようと自宅の敷地に入ると、ダンジョン改札口の前に見慣れぬ男3名が佇んでいた。
男たちとは知り合いではない。
見覚えがあるが……どこだったか思い出せない。
不安に駆られ、晴輝は小走りで近づく。
「なにかあったのか?」
「――ッ?!」
声をかけると、男たちが晴輝を見て一斉にぎょっとした。
……もしかして窃盗団かなにかか?
軽く疑い、すぐにその考えを否定する。
男達はいずれも20台前半くらい。
“一”のロゴの付いた武器をそれぞれ装備している。
防具は多くの冒険家と同様に、エントリーモデルですらない。
「……あ、もしかしてこの家の?」
「ああ。空星だ」
「空星……?さんですね。お久しぶりです」
久しぶりと言ったわりには、名前の後に『?』が付いたニュアンスがあった。
間違いない。
彼らは一切、久しいなどと思っていない。
だがそれは晴輝も同じだ。
彼らのことを覚えていない。
だから覚えていなくとも、恥じることはない。
堂々と言えば良い。
素直に言ってくれた方が、心が傷付かないんだぞ?
「僕らは前に、自衛団として防衛戦に参加しまして」
「ああ、その節はどうも」
「いえこちらこそ。実は少し前よりここのダンジョンをお借りしておりました。空星さんに挨拶をと思っていたのですが、ずっといらっしゃらなかったので……」
「なるほど」
彼らは晴輝が札幌にいるあいだに、車庫のダンジョンを攻略しに来ていたようだ。
ダンジョンは国の管理下にある。
いくら敷地内にあるからといって、所有権を主張することは出来ない。
とはいえ敷地内であれば、立ち入りを禁止することは出来る。
だが晴輝は、彼らを拒むつもりはない。
独占してもしなくても、晴輝にとってのメリットは大きく変らない。
「ダンジョンは自由に使ってくれていい。とはいえ、真夜中に来られても困るが」
「もちろん。俺たちには仕事があります。翌日に響くので夜には来ませんよ」
ハハハ。
よく俺が無職だと判ったな!
実際晴輝は冒険家として生計を立てているので無職ではない。
ただ、専業冒険家は少ない。
安定した職について、その上で余暇を冒険に当てる人が多数である。
「ちなみに空星さんはいまどこまで進まれてますか?」
「俺は5階だな。そっちは?」
「まだ1階です。ゲジゲジがうまく倒せなくて……防具が……」
「…………うん、頑張れ」
ゲジゲジには殺傷力はない。
攻撃に対処する力を養う相手としては最適だ。
その代わり、防具がカリカリ攻撃で破損するけれど。
彼らの武器は大剣と弓。
自衛団所属の男たちだ。
おまけに一度スタンピードを退けている。
ゲジゲジが倒せないほど弱いはずがない。
1階で足踏みしているのは、ノーダメージで倒すことにこだわっているからか。
とはいえ彼らの役目は体を張って魔物を止めることだ。
それでは少し、ゲジゲジとは相性が悪い。
ゲジゲジよりもブラックラクーンの方が倒しやすいかもしれない。
そこまで考え、しかし晴輝は安易に助言はしなかった。
他人に助言出来るほど、晴輝は強くも偉くもない。
「では僕らはこれから潜りますので」
「中で会ったら、間違えて攻撃しないでくれよ?」
「……はい。気をつけます」
晴輝は冗談のつもりだったが、男たちは神妙な顔つきで頷いた。
一体、何故真顔になったのやら。
もしかしてダンジョン内で攻撃してくるつもりか?
晴輝は現在、四釜らに襲撃されたばかりだ。
多少、彼らに対しての警戒感が上がってしまった。
*
ダンジョンに潜り晴輝の視線が感じられなくなると、男たちは胸から大きく息を吐き出した。
「何度見てもやばい仮面だな。見てるこっちまで呪われそうだ」
「ああ。なんであれ、宙に浮いてるように見えるんだろうな?」
「気配の消し方が上手いんだべさ」
「本体の気配が消えても、仮面の存在感が残ってたら意味ないだろ」
「いや……あの仮面が本体かもしれんぞ?」
「「あり得る!」」
自衛団に所属する笹森、高桑、稻の3名がチームを組んだのはスタンピードから後のことだった。
3名はそれぞれ冒険家資格を持っていたが、これまで積極的にダンジョンに赴くことはなかった。
理由は単純で、近くにダンジョンがなかったから。
希に『ちかほ』に行くこともあるが、遠征するのもお金がかかる。
無論、お金をかけて遠征する冒険家はいる。
だが皆が皆、そこまでの情熱を胸に抱いているわけではない。
暇つぶし程度の趣味として冒険家になってみた、という者が圧倒的多数。
彼らもそちらの側だ。
だがこうして新たなダンジョンが生まれ、またここでスタンピードが発生したことから、彼ら3名はチームを結成した。
ダンジョンでレベリングをして、少しでも町を守れる力を手に入れるために。
しかし現在。
彼らは1階のゲジゲジ討伐に苦戦していた。
苦戦といっても、倒せないわけじゃない。
一切攻撃を受けずに倒せないだけだ。
ゲジゲジは触角も手足も長く、おまけに素早い。
彼らの武器は大剣や弓だが、どうしてもカリカリされてしまう。
カリカリされて、すり減ってしまう。
「俺も短剣に変えようかなあ……」
己の大剣を見つめながら、笹森が呟いた。
「なんでだよ? いいじゃん、大剣」
「良くぁねーよ。大剣とゲジゲジの足の間合い、同じなんだぜ? 斬りかかるだけでカリカリされるわ」
「けど攻撃が通じるだろ。弓はほとんど弾かれる」
「カリカリはされにくいだろ」
「短剣のがもっとカリカリされるだろ!」
確かに。
笹森は唇を突き出した。
「けどなあ。アイツ……か、か……、あれ名前なんだっけ?」
「仮面さん」
「そう! 仮面さんは普通に短剣装備で狩りしてるべ? ゲジゲジ対策には効果的なのかもしれんべさ」
「ゲジゲジに対処するためだけに短剣を持つのか? やめとけやめとけ。いざメイン武器を変更しようとしても、レベルアップした後だと上がりにくくなるって話だぜ?」
「しかも中級クラスになると、どれだけ頑張っても武器の変更が出来なくなるとか」
ダンジョンで採取された素材で作った武器は使い手を選ぶ。
選ばれるために必要なのはレベル。
それと、使い手の練度と言われている。
レベルがいくら高かろうと、使ったことのない武器種は扱えない。
それならばと練度を上げようとしても、中級冒険家レベルになると上手く上がらないらしい。
考えられている理由は一つ。
同格以上の魔物と戦わないと、武器に選ばれるための練度を上げられないのだ。
中級冒険家と同格の魔物となると、誰でも使える地球素材の武器では歯が立たない。
故に、レベルを上げてからの武器変更が出来なくなる。
そう、掲示板では噂されている。
だからこそ初心者冒険家は、メイン武器の選定を慎重に行う。
先駆者の経験をなぞり、もっとも効率の良い武器を選ぶ。
それが、武器使用人口として顕著に現われている。
「中級になってから、短剣じゃ戦えねえ!ってなったら終わりだぜ?」
「そうそう。それを回避するために、大剣とか弓とかを選んだんだべさ」
「そうだけどよお」
笹森は仮面さんの姿を見ると、実は短剣もアリなのでは? と思えてくるのだ。
「それは気のせいだ。仮面さんが特別なんだよ。憧れちゃ行けないタイプのな」
「そうそう。オレらは堅実に、マサツグさんとか時雨さんの後追いをしたほうがいいべ」
ダンジョン攻略に抜け道があるなんて甘い話はない。
そう結論づけて、笹森・高桑・稻の三名はゲジゲジ狩りを開始した。
さて今日は何着、簡易防具が壊されるやら……。
主人公の名前は仮面さん!
お読み下さいまして有難うございました。
寒い日が続きます。
みなさま、お体には十分お気をつけください。




