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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない
42/166

新たな決意を固めよう!

 晴輝がダンジョンからの帰還したのは、大井素が地上に戻ってから3時間が経過した頃だった。


 事情聴取にかなりの時間が取られたが、加害者不在のため致し方ない。


 まさか特殊警察が自分の戦いを観戦するとは思いも寄らなかったため、はじめ晴輝はぎょっとしてしまった。


 彼らは自分を、四釜らを殺害したと疑うだろうか?

 あるいはレアを背負っていることで、冒険家としての信頼を失ったかもしれないと想像さえした。


 だが素直に事実を告げると、意外に彼らはすんなり受け入れてくれた。


 魔物を手なずけることは、いつかは出来て当然だと思っていたのだろう。

 頭の柔らかい人達で助かった。


 効力が弱くなってきたヌメヌメウナギを手に、晴輝は素材買取店に向かった。


「いらっしゃ――ヒッ!?」


 だから何故驚くのだ?

 晴輝は眉根を寄せながら店に足を踏み入れる。


「空星だが、大井素は戻ってきてるか?」

「……あ、空星様でしたか。奥へどうぞ」


 店員に伴われてバックルームに向かうと、椅子に座ってうなだれた大井素と、積み重ねられた毛皮の上に寝かせられた火蓮の姿があった。


「火蓮の状態はどうだ?」

「ひっ!? あ、か、空星さんでしたか」


 だから何故いちいち驚くんだ。


「……あのぉ」

「なんだ?」

「そのウナギをおろしていただけますか? 気持ち悪くて……」

「お、おう」


 なるほどこれに驚いていたのか。

 晴輝は備え付けのゴミ箱にウナギを投げ込んだ。


 すると大井素が物言いたげな視線を向けてきた。

 どうも店のゴミ箱に捨てたのが不服だったらしい。


 しかし捨てる場所が他にないので諦めて貰う。


「それで火蓮は?」

「怪我は背中の裂傷のみです。傷薬を所持していましたので、傷口ももう完璧に塞がっています」

「……空星、さん?」


 晴輝が近づくと、火蓮ががばっと起き上がった。

 だがすぐに顔を歪めて体を横に倒した。


「火蓮さん、激しく動いてはいけません」

「……なにか問題が?」


 晴輝は背筋が僅かに凍り付くのを感じた。


 火蓮は背中に大剣での攻撃を受けた。

 表面的では無い怪我を負ったのだろうか?


「顎を蹴られて脳しんとうを起こしてましたし、血が少し足りないんです」

「ああ、なるほど」


 背中の、特に中央部には無数の神経が集中している。

 火蓮はそんな場所を斬られたのだ。


 後遺症が残ってしまったのかと考えヒヤッとしたが。

 ただの血液不足で良かった。

 晴輝はほっと胸をなで下ろす。


 火蓮が装備していたムカデの胸当ては、現在彼女の横に置かれていた。

 背中を被っている甲殻がパックリ切り裂かれている。


 ラルスの一撃はそれほどの攻撃だった。

 切り傷だけで済んだのが奇跡である。


「きっとムカデの甲殻が割れたことで、致命的な衝撃が減算したのでしょうね」

「なるほど」


 ムカデの胸当てを作ったのは、よほど腕の良い職人だったのか。

 はたまた、火蓮のスキル『運』が呼び寄せた結果だったのかもしれない。


 晴輝がダンジョンでの一部始終を話し終えると、大井素が気遣うような表情を浮かべた。


「まさかモンパレが発生していたとは。よく生き延びましたね」

「いや……」


 その言葉を喜んで良いのかどうか、晴輝には判らなかった。


 モンパレから生き延びることは出来た。

 だが、四釜らを救うことは出来なかった。


 もう少し上手い方法があったのではないか?

 考え出すと、自らの対応の悪さに目が行って、暗くなる。


 晴輝の心内を察したのか、大井素が毅然として言った。


「空星さんが胸を痛める必要はありません」

「しかし」

「何事も因果応報です。良い行いにも悪い行いにも、必ず報いが訪れる。彼らは日頃の行いの報いを受けただけです。空星さんが気に病む必要はありません。そして、空星さんにもきっと報いがあるでしょう。私や彼らとは違って、良い報いが」

「……ありがとう」




 店を出ると、札幌市内はすべてが茜色に染まっていた。

 その中を、ゆったりとしたペースで進む。


 晴輝の背中を眺めながら、火蓮は唇を噛みしめた。


 出会ってからまだ日が浅いとはいえ、火蓮は晴輝の性格が判るようになってきた。

 複雑なようでいて、意外と単純な晴輝の人柄が……。


 今の晴輝は、酷く落ち込んでいる。

 理由は間違いなく、四釜らを助けられなかったから。


 人道を外れた人間を救う必要はない。

 大井素がそのような言葉を口にしていたし、火蓮だってそう思う。


 だが晴輝は違う。

 彼は相手が善であろうが悪であろうが、手の届く範囲にある命は全力で救う。

 それが冒険家を職業にした、彼の生き方なのだ。


 そういう人物でなければ、誰もが逃げ出すモンパレに突っ込んでまで、見ず知らずの火蓮を助けようとはしない。


 傷付くことを恐れず、たった一人でスタンピードに特攻などしない。


 そんな彼の心持ちが理解出来たからこそ、火蓮は唇を強く噛みしめた。

 彼を落胆させてしまった原因を作ったのは自分だ、と。


 もし火蓮がゲート付近で気を緩めなければ、四釜らの接近に気づけたかもしれない。

 そうすれば、背後から四釜らに切りつけられることはなかった。


 火蓮が斬られなかったら、晴輝一人を危険な目に遭わせることはなかった。

 彼一人だけに、冒険家3人の落命という重荷を背負わせることはなかった。


 晴輝にわざわざスキルボードを使ってもらって、強くなっておいてこの様だ。

 なんと情けないことか……。


 火蓮はまた、晴輝の足を引っ張ってしまった。


 失敗しないように気をつけても、頑張っても努力しても、結局、全てが裏目に出てしまう。

 動けば動くほど、空回りする。


 それが情けなくて、悔しくて、みすぼらしくて、目に涙が溜まっていく。


 今度こそは!

 そう意気込んだ分だけ、落胆の底は深かった。


「空星さん……済みませんでした」


 背後から火蓮の謝罪が聞こえ、晴輝は立ち止まった。

 彼女の落ちた肩が、僅かに震えている。


「なんで火蓮が謝る?」

「だって、私は役立たずだから。役立たずな私がいなければ……こんなことには――アデッ!?」

「つまらんことを言うな。殴るぞ」

「もう殴ってるじゃないですか!」

「チョップは殴るに入らない」


 晴輝は火蓮の額に、ウリウリと手の側面をこすりつける。


「あうううう」


 火蓮が頭を引っ込めて、恨めしそうに目に涙を貯める。


「一方的に因縁を付けて襲ってきたのはあいつらだ。あいつらの悪行を、自分のせいにするのは違う。それに――」


 晴輝は腰を折って視線を低くし、火蓮の瞳をまっすぐのぞき込んだ。


「今回は、俺も油断してた。あいつらが来るかも知れないというのに、気を抜いた。索敵の手を緩めた。だから火蓮が怪我をしたのは、俺のせいだ」

「ち、違います! 私は後衛だったんです。私が襲撃に、真っ先に気づけば――」

「俺がもっと強ければ、火蓮は傷を負わなかった! 覚悟を決めていれば、あいつらは死ななくてよかった!!」


 晴輝の内面でずっとくすぶっていた。

 その思いが、晴輝の口から勢いよく飛び出した。


 スキルボードを得てから、晴輝は全力だった。

 自分は全力で立ち向かっているのだと信じていた。


 身体能力は、全開だった。

 だがまだやれることはあったのだ。


 始めから成長加速をカンストさせていれば、四釜らを救える程の力に手が届いていたかもしれない。

 おまけに命を救う手段から、四釜らのスキル上げを除外した。


 晴輝は彼らの罪を赦すつもりは一切ない。

 だが犯罪を赦すことと、命を救うことは全くベクトルが違う。


 冒険家は命を守る“職業”だ。

 目の前の命を救えなければ、印刷の出来なくなったプリンタと同じ。ただの役立たずだ。

 冒険家じゃない。


 罪人の命も分け隔てなく救う。

 それが、冒険家という“職業”なのだ。


 だから命を救う。その一点を思えば、晴輝は四釜らのスキル上げも選択肢に入れるべきだった。

 もっと我武者羅になるべきだった。


 人命救助を、軽く考えていた。


 晴輝に足りていなかったのは、もう1歩踏み込んだ所にある覚悟だ。


 魔法というレアスキルを使える火蓮と、さらにレアなスキルボードを持つ晴輝。

 この二つを抱えた状態で、一切の悪意が向けられない保証はない。

 抱えていなくたって、厄介事は舞い込むものなのだ。


 今回のように、一方的に恨まれたりすることだってある。


 それらの悪意をはね除けられなければ、ただの未熟者だ。

 未熟者という誹りを受けても仕方がない。


 出来るならば二度と同じことを繰り返したくはない。

 だから晴輝は全力を尽くす。

 手の届く範囲の命は、絶対に見捨てないように。


 あるいは悪意を持った人間が、立ち向かうのも馬鹿らしく思わせるよう強くなるのだ。

 そう、晴輝は覚悟を決めた。


 もっと強くなるために。

 仲間を守り抜く力を、得るために。


「私も。私だって、もっと強ければ空星さんを危険な目に遭わせずに、一人で苦しませずに済んだんです――だからッ!」


 晴輝はぽろぽろと涙を流す火蓮の手を取り、握りしめる。


「もっと、強くなろう。一緒に」

「……はい」


          *


【ガチ勢】ダンジョンを全力で踏破しろ! 157階目【御用達】


65 名前:最前線に挑む名無し

 見つけた!

 どっかの冒険の書で噂になってた仮面男


66 名前:最前線に挑む名無し

 マ?

 どんな奴?

 話しかけてみたか?


67 名前:最前線に挑む名無し

 宙に浮いた呪いの仮面

 背には植物

 手は触手


68 名前:最前線に挑む名無し

 それなんて魔物?


69 名前:最前線に挑む名無し

 魔物じゃねーよ!

 ICカード使ってたから多分違う

 ……たぶん


70 名前:最前線に挑む名無し

 自信なくしてんじゃねえよww

 で話しかけたか?


71 名前:最前線に挑む名無し

 話しかけられるわけないだろ!!

 あれはほんとヤバイ!

 話しかけられる奴がいたらむしろ俺は尊敬する


72 名前:最前線に挑む名無し

 そこまでの奴だったか・・・

 奴に近づけるのはマサツグさんレベルの奴だけか


73 名前:最前線に挑む名無し

 じゃ俺には無理だww




【エンジョイ勢だって】ちかほについて語るスレ 70【生きている!】


110 名前:ちかほをエンジョイする名無し

 最新情報だ

 テイムスキルが見つかったぞ


111 名前:ちかほをエンジョイする名無し

 マジか!

 詳しく!!


112 名前:ちかほをエンジョイする名無し

 俺も詳しいところは知らん

 ただ魔物を手なずけた奴を見ただけだ


113 名前:ちかほをエンジョイする名無し

 >>112 無能

 もっと情報集めてから発言しろ


 ただまーいままでテイムしようとして散々失敗してきてるからなー

 やっぱ魔導具が必須なんじゃね?


114 名前:ちかほをエンジョイする名無し

 その手なずけた奴って誰よ?


115 名前:ちかほをエンジョイする名無し

 詳細は言えん

 身バレするからな

 ただあれだ

 やばそうな雰囲気をビンビン感じる男だった


116 名前:ちかほをエンジョイする名無し

 それってもしかして

 仮 面 の 男 ?




【絶対】モンスターパレードを報告するスレ 432【絶命】


21 名前:リア充にモンパレが突っ込みますように

 ちかほにモンパレ出現したらしい


22 名前:リア充にモンパレが突っ込みますように

 それならさっき仮面男が殲滅したらしいぞ


23 名前:リア充にモンパレが突っ込みますように

 仮面? 殲滅? 散ったんじゃなくて?

 てかそれどこの階?

 俺が聞いたのは10階なんだが


24 名前:リア充にモンパレが突っ込みますように

 え?

 8階だろ?


25 名前:リア充にモンパレが突っ込みますように

 え?

 ……え?


          *


【気づかれる存在感への道】


『みーつけたっ!』


 どうも空気です(^o^)


 先日依頼を受けて『ちかほ』を捜索しておりましたが、本日ついに、依頼を達成いたしました!!


 いやはや生きてて良かったです(>_<)


 依頼が終了してから、かなり沢山の魔物を倒して一気にレベルアップ!

 そろそろ中層も見えてきたかも(^ ^)


 ただ、このままじゃいけないなーって思うことがあって。

 自分はまだまだ初心者だって、思い知らされちゃいました。


 きっと、調子に乗ってたんでしょうね(^_^;)


 もっともっと、強くならないと!(>_<)


 これから3週間ほどフリーで活動できそうなので、ガシガシレベリングします!


 今日も一日、レベリング超頑張った!

 これでまた一歩、存在感が得られる未来は近づいたかな? かな?


          *


 ブログの閲覧者はいつも通り3人。

 だが何故か、更新してから4時間ほど経過したあたりで閲覧者が2人ほど増えてPVが5つ回転した。


 さらに、翌日になってブログを確認するとブックマークが1つ増えていた。

 これでブックマーク4つ!


「ひゃっほう!!」


 うれしさのあまり、晴輝はホテルのベッドで小躍りした。


 これはもしかして、存在感が強化されてるのでは?!


 テンションが上がった晴輝は素顔で街中に繰り出し、結局誰にも気づいてもらえなかったという。


「ふえぇ……」


 まだまだ存在感が強くなる道は遠いようだ。

本日もお付き合いくださいましてありがとうございました。

割烹に書いていた『ちょっと下がる展開』はここで終了です。


2章ラストに向かって駆け上がってまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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