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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
2章 冒険家レベルが上がっても、影の薄さは治らない
36/166

救助の決意を新たにしよう!

 7階のシルバーウルフは上のものにくらべて毛の色がほの暗くなっていた。

 戦ってみるとやや7階のものの方が強く感じられた。


「なるほど。一応変化はしてるんだな」


 同じ種類の魔物でも、階が変化すると群れたり、僅かに強くなったりする。


 もちろんWIKIにもその旨は、『初心者必見! ダンジョン基礎知識』として書かれている。


 6階のシルバーウルフのレベルが10だとすると、7階は11か12といった具合か。

 その程度の、微妙な違い。


 だが3頭一斉に襲いかかってくると、大きな違いになる。

 情報を得ていても、実際に経験しなければわからない。


「おおー」


 晴輝は攻撃を避けながら、シルバーウルフの敏捷力や力強さ。それらが上昇したことによるコンビネーション力の向上に目を輝かせた。


 これは、久しぶりに面白い!


 噛みつきを足捌きで回避し、

 爪を短剣で防ぐ。

 体当たりされれば、別角度からの蹴りで方向をズラす。


 何度も何度も攻撃を躱し、防ぎ、ズラしながら、晴輝は笑う。


 まるで飼い犬と遊んでいるみたいだ。

 ああ、このまま1時間は遊んでいたい!


「空星さん。あの……攻撃していいですか?」

「あ、はいはい」


 シルバーウルフに夢中になっていた晴輝は、火蓮のか細い声に我を取り戻す。

 ここには遊びに来たわけじゃない。自重しなければ。


 晴輝はそれぞれ3頭を力一杯蹴り上げて間合いを取る。


「今だ」

「はいっ!」


 今度はさほど魔力を練らずに放ったのだろう。


 細い白い筋がシルバーウルフに向けて飛翔した。


 パチン。

 魔法がシルバーウルフに直撃。

 だが威力がない。

 ダメージを与えられない。


「弱すぎ。次!」


 襲いかかるシルバーウルフを再び蹴飛ばし、指示を出す。

 だが今度は少々強すぎた。


 火蓮が放った3つの魔法が、シルバーウルフの胴や頭を吹き飛ばした。


「……範囲は絞れたな」


 威力は強すぎたけど。


「ふえぇ……っぷ」


 内臓をまき散らすシルバーウルフを見て、火蓮が顔を青くする。


 彼女の前でいいだけシルバーウルフを解体していたのだが……。

 まだグロ耐性が出来ていないらしい。


 死体の解体と、生存状態の分解。

 彼女の中で、両者の意味合いは大きく異なるのかもしれない。


 晴輝らはシルバーウルフに魔法の練習台となっていただいた。

 5度目の戦闘でコツを掴んだのか、晴輝が前にいても巻き込まれないだろう範囲と、巻き込まれても死なない威力になった。


「すみません。結構時間がかかっちゃいました……」

「そうか? 早いくらいだぞ」


 正直晴輝は、10から15ほどの群れを犠牲にしなければ感覚を掴めないと予測していた。

 実際、晴輝が身体能力を上げたときはそれくらいかかった。

(1しか上げていないので、火蓮ほど戸惑いはしなかったが)


 これほど早く掴めたのは、彼女が魔力操作を自力で2に上げるほど努めていたからだ。

 やはりスキルに頼らぬ努力は重要である。


「空星さん。私たちって、こんなことばかりしていて良いんでしょうか?」

「ん? どういう意味?」

「やってることが、いつもと同じというか……」

「ああ」


 火蓮が言わんとしていることに気づき、晴輝は軽く顎を引く。

 確かに、大井素才加を助けに来ているというのに、普通のレベリングをしてしまっている。


 レベリングをしているように見える。


「さっきも言ったと思うが、遭難者を助ける奴が遭難したら意味がない。焦る気持ちはわかるが、確実に救出に向かうために必要な時間だ。相手はシルバーウルフだけじゃないしな」


 7階に訪れてからまだ出会ってはいないが、この階層からはシルバーウルフと一緒に、ごく少数ではあるが『飼い主』が出てくる。


 晴輝らに取ってシルバーウルフはもう危険の無い相手だが、『飼い主』は違う。

 WIKIの情報を見る限り、苦戦は必至だ。


 情報を思い出すと、晴輝の背筋がぞくっと震えた。


 早く戦ってみたい。

 どれくらい強いのか、確かめたい!


 早く出ないかな……。



 夕方4時になるまでマッピングをしながら7階を捜索したが、結局大井素の姿も『飼い主』の姿も確認出来なかった。


 一旦捜索を終わらせ、晴輝はゲートで地上に向かう。


 素材買取店に向かい、シルバーウルフの素材を販売する。

 とはいえ、晴輝らの目的は大井素の捜索である。

 約50頭分ほどの素材しか得られていない。


 それ以上戦ったはずなのだが、ほとんどが火蓮の魔法で散り散りになってしまった。


 いつもの6分の1だ。

 鞄から素材を出す時間が短くて物足りない。


 ……いや、相手が朱音じゃないからか?


 晴輝が訪れたときは「ひっ!」と悲鳴のような声を上げた店員だったが、なにか意を得たように(あるいは覚悟を決めたように)頷き、手早く査定を行った。


「お見積もりですが、毛皮と牙。合計してこちらの価格となりますがよろしかったでしょうか?」


 合計44,100円。


「そこから、空星様限定で査定を上乗せさせていただきます」


 パチパチと電卓を叩いて出た金額は46,305円。

 買取書にサインを入れて、チーム分配それぞれのカードにお金をチャージする。


「あ、空星様。ご注文の品が完成しておりますので隣の武具販売店にお立ち寄りいただけますでしょうか」

「はい。……はい?」


 ご注文。

 まさかワーウルフの短剣?


 いやさすが違うだろう。

 スタンピードが起ってから半月も経っていない。

 1ヶ月かかると言われた武具が出来ているはずがない。


 もし出来ていても、きっと装備出来ない。


 一体なんだろう?

 晴輝は首を傾げながら武具販売店へと向かう。


 買取店の店員に話を聞くことも出来たが、晴輝はあえてなにも尋ねなかった。


 これはサンタさんに貰ったプレゼントを開封する瞬間みたいなものだ。

 事前に中身を知らされるより、なにも知らずに開封する方が、わくわく出来るし、楽しいに決まってる。


「いらっしゃいま――ッ!? あ、ああー、空星様ですね」

「……何故名前がわかった?」


 さすがに堪えきれず、晴輝は困惑しつつも店員に尋ねた。


 先ほどの買取店といい、ここの店といい、何故名前を一言も口にしていないというのに彼女たちは晴輝の名前を知っていたのだろう?


 当然ながらいずれの店の店員とも初対面だ。

 名前を知られるようなことをした覚えはない。


「先輩……うちの夕月から伺ったんです。『変態仮面が現われたら、アタシの舎弟だから丁重にもてなしてくれ』って」

「誰が舎弟だ。俺はあいつの舎弟じゃない!」


 当然ながら変態仮面でもない。

 ただ奇妙な仮面を付けただけの紳士だ!


「俺とアイツは互いに金をむしり取り合う敵だ。舎弟でも仲間でもない」


 晴輝の言葉で、素材を売ったり武具を売りつけられたり。

 そんな状況が想像出来てしまったのだろう。


「心得ております。遠くに行っても、やっぱり先輩は先輩ですね」


 店員はクスクスと笑った。


「うちの夕月が発注しておりました、空星様と火蓮様用の防具が完成しておりますので、ご確認ください」

「……防具」


 だめだ。まるで思い出せない。

 晴輝は眉根を寄せながら、店員が台車を押しながらバックルームを出てくる様子をじっと眺める。


 台車に乗っているのは、黒い胸当てが2領だった。


 胸当ての右上には、ミドルクラスのロゴ“壱”が刻まれている。

 晴輝が装備している“一”シリーズよりも、値段も品質も格上の防具だ。


 これほど高レベルの胸当てなど、いつ発注しただろう?


 記憶の中でなにかが引っかかっているが、うまく引っ張り出せない。

 実にもどかしい。


「こちらはムカデの甲殻を用いた胸当てとなっております。試着されますか?」

「そうかムカデか!」


 店員の言葉で記憶がバチバチ繋がり、晴輝は手を打った。


 以前晴輝は希少種であるムカデを討伐し、朱音に素材を販売していた。

 その際、いつか使うだろうからと朱音が甲殻を2枚ほど預かってくれていた。


 まさかそれがここで出てくるなんて。

 いや、しかし絶妙のタイミングである。


『ちかほ』の6階から8階までは、それまで晴輝が足を踏み入れたことのない層だ。

 いくら出現する魔物がシルバーウルフだとはいえ、命を失うリスクは高まっている。


 いまあるゲジゲジのものより防御力が高いだろうムカデ装備があれば、命を落とす危険がぐんと遠ざかる。


 もしかすると朱音は、大井素が失踪した情報を得た段階で発注をかけていたのかもしれない。

 捜索に晴輝が行くだろうことを予測して。


「しかしすごいな……」


 晴輝はムカデの胸当てを装備しながら感嘆のため息を吐き出した。


「そうですね。先輩……夕月は腕は確かですから。お客様の好みをくみ取って商品を用意する、冒険家用武具のエキスパートなんです」


 腕は確か、か……。

 若干の含みのある言い方に、晴輝はついつい苦笑してしまう。


 当然ながら、店員が口にしたエキスパートという文言に偽りはない。

 見ただけで客の体格にぴったりな防具を発注できるスキルなんて、どこへ行っても重宝される。


 だが彼女の一番優れたところは、冒険家が必要だと思ったタイミングで、最適な武具を揃える手腕である。


「うん。ぴったりだな」


 晴輝は胸当てを装着して、その着心地に感動した。


 ゲジゲジとは全然違う。

 軽さ、しなやかさ、堅さ、動きやすさ。

 ゲジゲジ防具を装備したときも感動したのだが、今回のムカデ防具はすべてがゲジゲジの上を行っている。


 さすがはミドルクラス。

“壱”のロゴは伊達じゃない。


「火蓮はどうだ?」

「すごいぴったりです……」


 そう言って、火蓮は落ち込んだように胸当てを見下ろした。

 胸当てがぴったりだったのに、何故落胆しているんだ……?


 ムカデ防具を装備出来る実力があるかどうか不安だったが、晴輝も火蓮も無事装備に認められたようだ。

 防具が重く感じる制約を受けはしなかった。


「2領で値段はいくらだ?」

「お代は結構です」

「ん、どういうことだ?」

「こちらは必要経費ということで」


 そう言うと、彼女は真剣な顔つきで晴輝に顔を寄せた。


「様々な冒険家さんたちに救いを求めたのですが、大井素が自分の意思で潜ったこと、そしてスタンピード直後ということもあって誰も手を貸してくれはしませんでした。

 強い冒険家さんは新宿駅攻略に目が向いていますし、それ以外の冒険家さんですと8層まで到達出来ないようで……。

 依頼を受けてくれたのは、空星様だけです。空星様たちだけだったんです!」

「…………」


 店員の言葉に、晴輝はつい首を捻りたくなる。

 ここは北海道最大の都市。

 依頼を受けられる冒険家がいないなどあり得るだろうか? と。


 もしこれが下層の依頼ならば考えられる。

 だが捜索は上層だ。


 9階まで捜索出来る初級冒険家は、札幌にはそれこそ掃いて捨てるほどいる。

 おまけに依頼主は大企業である一菱系列。

 依頼を受けない手はないと思うのだが……。


 しかし、彼女がそう口にしているのだから事実なのだろう。

 晴輝は抱いた疑問を脳の片隅に追いやった。


「どうか。どうか、うちの大井素をよろしくお願いいたします!」

「……わかった」


 おそらく彼女は、最悪の事態を既に想定し終えているのだろう。

 たとえ骨が持ち帰られようと、なにも見つからなかったとしても、動揺しない覚悟がその瞳に宿っている。


「全力を尽くす」


 決意を新たに、晴輝は店を後にした。


 遭難中の大井素に、晴輝は心の中で檄を飛ばす。

 これだけ後輩に思われてるんだから、必死に生き延びていろよ! と……。


          *


【気づかれる存在感への道】


『救助へ』


 どうも空気です(^o^)


 先日よりシルバーウルフ狩りを行ってます。


 はじめは怖かったけど、いまではすっかり慣れて、逆に可愛いんじゃない? と思い始めています。


 どうにかしてペットに出来ないかな?(>_<)

 優秀な番犬になりそうですよね(^o^)ワンワン


 捜索依頼を受けて『ちかほ』ダンジョンにやって参りました。

 本日より捜索開始です!(>_<)


 範囲は6階から8階まで。

 急ぎ足で捜索するにはまだまだ力が足りないので、少しずつ捜索範囲を拡大していく予定です。

 なる早で頑張ります(= =;


 絶対に見つけ出すからね。

 だからそれまでどうか頑張って!


 今日も一日、レベリング超頑張った!

 これでまた一歩、存在感が得られる未来は近づいたかな? かな?


          *


【エビカニ】ちかほについて語るスレ 89【祭り】


67 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 おい今日仮面の男を見たぞ


68 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 なんだそれ?


69 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 前にマサツグさんが言ってた奴だと思う


70 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 >>69 詳しく


71 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 仮面が異様だった

 見た瞬間ヤバイ奴だって思う類いの仮面

 気配が薄いのに仮面の存在感が異様


 仮面だけ宙に浮いてるように見えたwww


72 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 なにそれこわい

 強そうだった?


73 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 装備は壱と一の混合

 上層クリア程度のレベルかな


74 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 へえ割と普通だな

 だが仮面装備となると・・・

 そんな奴札幌にいたかな?


75 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 地方ダンジョンで活動してるやつかもしれんぞ

 なんせいままで見なかったからな


76 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 なるほどあり得るな

 今度見かけたら話しかけてみて


77 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 了解

 もし強そうならうちのチームに誘ってみるわ


78 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 やめとけ

 あれただの雑魚

 大したことないから


79 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 なんだ初レスか?

 まず茶飲んで落ち着け

 つ旦


80 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 いやマジでただの見てくれの雑魚だぞ

 マサツグさんが話しかけたのはただ事件があったからってだけだ


81 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 事件てあれだろ

 いきなり冒険家が冒険家に斬りかかったやつ

 某チームメンバーが因縁付けたって噂だが


 あの仮面男は厄介ごと持ちか?


82 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 あれは仮面の男のせいだからな

 某チームに因縁があったのか

 初心者を見捨てたとか先に武器を抜いたとか

 マサツグさんに嘘吹き込んだんだよ


83 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 >>82 やたら詳しいな

 関係者か?


84 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 近くで見てただけだ

 あの仮面男

 みっともなく大声上げて喚いてたからな


85 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 ふぅん

 その男には関わらないほうがいいのか?


86 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 当たり前だろ

 ああいうコスい人間はそのうちダンジョンで死ぬ

 だからほっとけ関わるな


87 名前:ヒグマ・エゾシカ・名無し出没注意

 >>86 なるほど了解

 で

 お前は何者?

お読み頂き有難うございました。

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次回以降、偶数日に更新です。

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