防具の破損を伝えよう!
『【飛ぶ】仮面さんの出現を報告する書1【消える】』
158 名前:仮面さんを見守る名無し
仮面さん新情報あるがどうする?
159 名前:仮面さんを見守る名無し
教えろください!!
160 名前:仮面さんを見守る名無し
仮面さん足が石化してるってよ
161 名前:仮面さんを見守る名無し
・宙に浮かぶ仮面
・首から羽が生えている
・蠢く植物を背負っている
・身体は鱗で出来ている
・背中に白い顔がある
・腰の辺りに触手がある
・腹部に多足虫が寄生している
・分神体が出せる
・仮面が光る
・空を飛ぶ
・函館を支配している
・足が石化している←NEW
162 名前:仮面さんを見守る名無し
・・・さすが仮面さん
人外では飽き足らず
生命体すらも飛び越えるとは・・・尊い
163 名前:仮面さんを見守る名無し
ありがたやありがたや・・・
*
結局、ゴーレムは19階のボスだった。
初めて晴輝がゴーレムと接触した洞窟風フロアの奥に階段が出現していた。
その階段を下りて20階に到達。
晴輝らは、晴れて上級冒険家に昇格したのだった。
とはいえ、上級冒険家としての実力が備わったとは、晴輝も火蓮も考えはしなかった。
「まだまだですね……」
「ああ。もっと頑張ろう」
「はいっ!」
ゴーレムを軽く倒せるくらい強くならなければ、上級冒険家を名乗れない。
そんな気がしたのだった。
ゴーレムがドロップしたアイテムは、二つとも晴輝らがもらい受けることになった。
というのも、近接職であるヴァンでも、晴輝が楽に装着出来た下半身防具を装備出来なかったし、宝玉風のアイテムは火蓮しか持ち上げることが出来なかったためだ。
「その代わり、魔戦斧はヴァンさんが使ってください」
「いや……しかし……」
「命を賭けて守って下さったんですから、受け取ってください」
ヴァンは火蓮を救うために、その身を粉にしたのだ。
その対価くらいなければ、ヴァンの努力が報われない。
ゴーレムドロップの代わりにと懇願し、晴輝はヴァンに了承を得たのだった。
ダンジョンを出て朱音の店に入ると、暑さで蕩けていた朱音が俊敏に起き上がり嘶いた。
「あああああああ!!」
「……なんだ五月蠅いな」
「ああ、アンタ、その防具はなによ!? 思いっきり壊れてるじゃない!!」
青ざめた朱音が素早い身のこなしで晴輝に接近。
――速い!?
ゴーレム戦を経験しスキルレベルも肉体レベルもアップした晴輝だったが、朱音の動作は一切読み切れなかった。
(こいつ、本当にどれだけ強いんだ?)
朱音のスキルボードを覗き見たい衝動に駆られたが、いまはそれどころじゃない。
朱音が晴輝の胸に顔を近づけて、鬼の霍乱か……目に涙を浮かべていた。
彼女の接近に、何故かレアと火蓮が反応。
レアが晴輝の後頭部をペチペチ叩き、火蓮が晴輝の横で頬をぷくんと膨らませた。
二人のおどろおどろしい気配に、晴輝の背筋がだんだん冷たくなっていく。
(お、俺は何もしてないぞ!)
心の中で弁解するが、それが伝わっている雰囲気はない。
そもそも、朱音が近づいたからなんだというのか?
朱音はまるで、今上の別れに心を痛める乙女のような表情を浮かべている。
しかし――この女の表情を真剣に受け止めてはいけない。
そう、晴輝は経験上、理解していた。
「い、一菱の壱シリーズ防具が、めちゃくちゃじゃない! アンタ、どんな下手クソな戦い方してんのよ!?」
「…………」
ほらね?
晴輝が肩をすくめると、レアと火蓮が放出していた身の毛のよだつ気配が瞬時に消えた。
「下手くそとは心外だな。強い敵が現われただけだ」
「ふぅん。だからって防具をここまで壊すとか、アリエナイんですけど?」
「壊れる防具が悪い」
「ぐ……」
晴輝の言葉に、朱音は顔を引きつらせた。
言葉の意味を推し量れない鈍感男め……。
朱音はぐぬぬと口の中で、言いたいけれど言えない言葉をもごもご動かした。
普通は、武具破壊に特化した魔物と戦う以外に、ここまで防具が破壊されるまで戦う冒険家などいない。
それは、防具が破壊されるほどの相手は遙か格上であって、そのような魔物と戦えば命が危険だからだ。
ダンジョン素材で製作した武具は、装備者のレベルを反映する。
防具が破壊される=その防具を装備出来るレベル帯では勝ち目がないのだから、破壊されるまで粘るなどあり得ないのだ。
むしろ、防具より先に肉体が破壊される確率の方が高い。
何故、このアンポンタンは気付かないのか?
朱音が防具だけを気遣っているわけじゃないということに……。
(ほんと、死んだらどうすんのよ……)
しかし、だからといって素直にこの男の命を心配するほど、朱音は素直でも純粋でもなかった。
とにかく長く生きて、長く店に貢いでもらわねば!
いつもの理屈に落ち着けて、朱音は混乱していた感情の沈静化を図ったのだった。
「……ふっふっふ、言うじゃない。ならば絶対に壊れない防具を用意してあげるわ!!」
「ほう? そんな身の丈に合わない無謀な約束をして良いのか?」
「キィィィィ! そこまで言うなら、その仮面が木っ端微塵に吹き飛ぶくらい、ビックリさせてやるんだから!!」
仮面は存在感をアップさせる大切なアイテムなのだ。
木っ端微塵にされては敵わない。
晴輝は「楽しみにしてるよ」とだけ言って、肩をすくめたのだった。
「ヴァンさんは、これからどうしますか?」
朱音の店を出てから、晴輝は家に戻ろうとしていたヴァンの背中に声をかけた。
ヴァンは軽く空を仰ぎ、
「……そうだな。とことん鍛え直す」
「強くなったら?」
「……わからん。ただ……しばらくはここに居る」
「そうですか」
「なにかあったら、頼れ。俺も…………頼る」
「……はい!」
ヴァンから「頼る」と言われ、晴輝の胸が熱くなった。
K町に来た頃のヴァンは、自分でなんとかする、自分がなんとかしなければと躍起だった。
まさか頼ると言われるとは、晴輝は夢にも思わなかった。
だから少しだけ、胸が、熱くなった。
「……上級冒険家になったから、かな?」
そうかもしれない。
そうじゃないかもしれない。
とにかくいまは、ヴァンの言葉をただ、胸に抱いて……。
晴輝は、茜色に染まる休耕中の田園を眺めながら、熱い熱い息を吐き出した。
さて、と晴輝は火蓮に向き直った。
晴輝はどうしても、彼女に確認しておかねばならないことがあった。
「火蓮。俺の存在感は上がったか? 上がっただろ!?」
「え、ええと……」
火蓮が口をもごもごさせながら、目をスイィと泳がせた。
彼女の素振りを見て、晴輝は全力で否定する。
そんなハズはない。
ゴーレムは言ったじゃないか。(存在感の)力を示せと!
晴輝はゴーレムを倒した。
試練を乗り越えたのだ!
(であるからこそっ、俺は存在感アップのアイテムを手に入れたんだ!)
(存在感は、強くなっているはずなんだ!!)
「………………大変言いにくいことですが――」
続く火蓮の言葉を聞いて、晴輝は紺色に変わりつつある空を仰いだ。
今夜、晴輝は枕を濡らすだろう。
この世から、ありとあらゆる悲しみが消える日を、晴輝は切に願ってやまない。




