新たな装備でパワーアップしよう!
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(まさか、まだ生きて――!?)
一瞬血液が凍りかけたが、なんてことはない。ダンジョンがゴーレムを呑み込んでいるだけだった。
しかしそれは、その階のボスを倒したときのみに見られる現象だ。
現時点で晴輝は、稀少種や唯一種、ダンジョン主を倒したときにこの現象を見たことはない。
「……こいつは、19階のボスだったのか?」
とすると、あの洞窟風フロアに20階に下りる階段があったことになるが。
晴輝は階段を目にしていない。
「もしかしたら、ゴーレムを倒したら階段が出現するパターンか」
他の階では、ボスを倒してから階段が現われたこともある。
あるいはゴーレムを倒すと階段が出現する仕組みなのかもしれない。
あとでもう一度、あの場所に戻ってみるか。
そう考えているあいだに、ゴーレムのすべてが地面に飲まれた。
「……どうだ?」
晴輝は自らを見下ろしながら呟いた。
ゴーレムは倒した。
晴輝はゴーレムに力を、存分に見せつけた。
(存在感は上がったか!?)
手を握ったり開いたりするも、変化は感じられない。
「……いや、自分で存在感が強くなったかどうかなんて気付かないか」
しかし、ゴーレムは力を示せと口にしていたのだ。
きっと何かはあるはずだと、晴輝は入念にチェックする。
すると、ゴーレムが飲まれた場所からズププ……と音を立てながら、2つのクリスタルが出現した。
(もしかして、これが存在感をアップのアイテムか!!)
胸を高揚させながら、晴輝はドロップアイテムにスキップで近寄っていく。
ドロップしたアイテムの一つは手の平サイズの、灰色がかった透明なクリスタルだ。
直径15センチほどで、楕円形をしたそれを手に取ろうとし、
「おぅ!?」
晴輝はクリスタルに拒絶され、指先が滑った。
危うく尻餅をつきそうになるのをぐっと堪える。
「んー、なにかしらの装備なのかな?」
見た目はただの宝石である。
装備品のようには見えない。
「……こっちの確認は火蓮達が目を覚ましてからにするか」
ダンジョンがアイテムを吸収するまでに、3時間ほど時間がかかる。
宝石をひとまず放置して、晴輝はもう一つのクリスタルに目を向けた。
それは白みがかったクリスタルの、下半身装備だった。
防具は一つに繋がっておらず、腰、太もも、それにスネを被うパーツに分かれている。
全体的に向こうがすけて見えるくらい淡い白色なのだが、所々、まるで文様のように濃い白が入っている。
試しに晴輝はその防具に触れた。
すると、
「お、こっちは大丈夫だな」
晴輝は防具に拒絶されることなく、持ち上げることが出来た。
見栄えは岩石で、手触りかなり硬質だ。
なのに重量はアルミニウムのように軽い。
「もしかしたら、これが俺専用の……存在感アップのアイテムか!?」
晴輝はウッキウキで下半身防具を装着していく。
防具の装着はとても簡単だった。
まるで晴輝専用にあつらえたように、ベルトがパチパチとストレスなく締まっていく。
「ふっふっふ……やはりこれは、俺専用の(存在感アップ)アイテムに違いない!!」
ぐへへと笑いながら、晴輝は防具を装備した自らを見下ろした。
まるで防具を着けていないかのような装着感。
ダンジョンの淡い光を呑み込み乱反射させる素材。
パッと見で、『こいつ出来る!』と思わせる威圧感も、防具は兼ね備えていた。
「素晴らしい!」
いいね、いいねと、晴輝はニマニマ笑顔を浮かべながら、新しい防具を入手した自らを見下ろし続けた。
「ん……あ、……空星、さん?」
新しい防具に見とれる晴輝の耳に、火蓮のか細い声が届いた。
どうやら目が覚めたらしい。
晴輝はスキップを踏みながら火蓮の元に近づいていく。
「目が覚めたか、火蓮。調子はどうだ?」
「…………あ、ああ、空星さん、ですね?」
「おう。……ん?」
火蓮の言葉尻によからぬ響きを感じて、晴輝は僅かに首を捻った。
一体、火蓮はどうしたというのか。
晴輝を見るなり、火蓮は顔を引きつらせた。
二呼吸ほどして何故か脱力したものに変わった。
「どうした火蓮? 調子が悪いのか?」
「いえ……。いつもの空星さんだなあって」
「お、おう。それよりどうだ? なにか違うか!?」
晴輝はパッ! と火蓮に腕を広げて見せた。
「……パワーアップしましたね」
「そうか? 参ったなあ!」
ぐふふ!
ああ、いよいよついに、存在感がパワーアップしてしまったと、晴輝は口元をだらしなく緩めた。
「う……ぐ、ここ……は?」
「ヴァンさん、大丈夫ですか?」
声を聞き、晴輝はすぐさまヴァンの元に駆け寄った。
彼は酷い怪我をしていた。
(後遺症とか、治りきってないところがなきゃ良いんだけど……)
そんな晴輝の真摯な思いに、
「……うわぁぁぁぁ!!」
ヴァンは、悲鳴を上げた。
悲鳴を上げて、ヴァンは白目を向いて仰向けに倒れてしまった。
「……やっぱり、まだ傷が治りきってなかったのか?」
「いえ、空星さんのせいですよ……」
「え? なんで!?」
何も悪いことはしてないのに。
そんな晴輝の驚愕に、火蓮は手遅れだと言わんばかりに首を横に振るのだった。
*
シャワーを浴びてぐっすり眠り、精神的休養を取得した後に、男は再び仮面の家の前に戻ってきた。
ここに来る前に、男は心の中で決断していた。
監視は、今日で最後にしよう……と。
そもそも仮面は日本や市民に対して、なんらかの反社会的行動を取るような素振りは、これまで一度だって見せたことがない。
家だって普通の戸建て住宅だし、関わっている人物だって信用のある者ばかり。
強大な力を手に入れた彼の暴走を怖れる、マサツグの不安はよく理解出来る。
だが、もし仮面が暴走したところで、マサツグが手を出さずとも、カゲミツや夕月朱音など、北海道に居る有力者が止めに入るだろう。
それほどまでに、カゲミツや夕月朱音などは、仮面の懐に深く食い込んでいた。
だからこそ、男は今日で最後にしようと思った。
監視しても仮面の姿が見えない自分などより、彼の姿が見える者が頑張れば良い……と。
仮面の家の監視を始めてから10時間。
太陽が茜色に染まる頃、男はダンジョンから出てくる3人組に冒険家を発見した。
「……やっと見つけた…………」
それは、仮面男を含む冒険家の集団であった。
この日、監視を依頼されてから、初めて見る仮面男の姿であった。
まるでコスタリカで幻の鳥ケツァールを追い求めて一週間、最後の最後でようやくケツァールに出会えたかのような、晴れやかな感動が男の胸にじんわりと広がっていく。
しかし、
「え? ……えっ?」
男は、仮面男を二度見した。
男は仮面男の見た目情報を掲示板などで入手していた。
曰く、呪われそうな仮面を付けている。
曰く、背中に蠢く植物を背負い、腹部は多足虫に寄生されている。
曰く、首に羽が生え、背中には白い顔が浮かび、腰からは触手が生えている。
いずれの噂も、あまりに人外じみて嘘のようであるが、一度彼の姿を見た者ならば、何度も首を縦に振るだろう。
噂は何一つ、間違ってはいない。
ただ1つ。
噂に足りないモノがあった。
そのたった1つに、男の心がへし折れた。
「…………帰ろう、東京に」
しばらく後。
この男は北海道の担当を外れ、ブレイバーを離脱。
本州の片田舎で、なにかを怖れるように、ひっそりと生活を始めたのだった。
いろいろとパワーアップ(意味深)しました。




