新たな力で立ち向かおう!
8月30日に「冒険家になろう!~スキルボードでダンジョン攻略」漫画版2巻が発売となります。
皆様、何卒ご購入を宜しくお願いいたしますm(_ _)m
「――ッ!?」
見つかった。
見つかってしまった!
――あの化け物に!!
ぎょっとして、ゴーレムは動きを止めた。
次の瞬間。
――ッパァァァン!!
持ち上げた拳が、手首の辺りから切断されたのだった。
*
激しい地響きにより晴輝はゴーレムの居場所を突き止めた。
まるでなにかに導かれるように素早く移動。
すると、
――いた!!
晴輝の目にゴーレムの姿が映り込んだ。
まさに間一髪。
ゴーレムはいままさに、火蓮に攻撃しようというところだった。
だが、いまならまだ間に合う。
晴輝は素早く接近。
集中力を高めると、右腕に光が灯った。
――弱点看破の光だ!
「見ぃつけた!」
「――ッ!?」
その光に向けて、晴輝は気を込めた魔剣を滑らせた。
ゴーレムの腕と魔剣が接触。
瞬間。
――ッパァァァン!!
防御用の気力がはじけ飛び、ゴーレムの手首が切断された。
想像していたよりも、晴輝は腕を楽に切り落とすことが出来た。
さほど力が必要なかったのは、当然短剣スキルをカンストまで上昇させたこともある。
スキルによって、短剣を用いたときの攻撃力が恐ろしく上昇していた。
それともう一つ。
晴輝が攻撃する前に、ゴーレムの手首は既にひびが入っていたのだ。
そのひびは晴輝の目で捉えられるほどの弱点となっていた。
(あれはきっと火蓮の攻撃だな)
火蓮が予め傷を与えていたからこそ、ここまで簡単に腕を切り裂くことができたのだ。
晴輝が手首を切り落とすと、ゴーレムはまるで幽霊にでも出会ったかのように、ゆらゆら揺れながら後ずさる。
「……ええと?」
訳が分からず晴輝は首を傾げた。
先ほど晴輝から逃げ出した時もそうだった。
何故かは不明だが、ゴーレムは晴輝に怯えている。
晴輝はゴーレムになにかを仕掛けたつもりはない。
ただ一方的に攻撃され続けただけである。
怯えられるほどの恐怖を抱かせたとは思えなかった。
しかし、実際にゴーレムは晴輝を見て、怯えているようだった。
(……ま、いっか!)
ゴーレムへの疑問はぽいっと放り投げ、晴輝は鞄からポーションを取り出しヴァンに駆け寄った。
「……うわぁ、酷いな」
肉はそげ、骨は露出し、手足がすべて歪に曲がっている。
鎧の背中がひしゃげ、生まれた亀裂から血液が流れ落ちている。
鎧の中身がどうなっているか、晴輝には確かめる勇気はなかった。
ヴァンは、酷い有様だった。
それでもまだ、息はしていた。
とはいえ完全に虫の息。いつ止まっても良いほど弱々しい。
晴輝は急ぎ、マサツグから貰ったハイポーションをヴァンの口に注ぎ込んだ。
喉が渇いていたか。あるいは生存本能か。
晴輝が注いだポーションを、ヴァンは弱々しいながらも嚥下した。
すると、ヴァンの体の表面がブルリと痙攣した。
途端に浅い傷が消え、体がひとりでに動き、骨や関節が正しい方向に戻っていく。
それでもヴァンの顔は白いままだ。
ハイポーションは飲ませたが、回復するだけの体力が残っていないのだ。
急ぎ、晴輝はスキルボードを取り出した。
ヴァンのツリーにポイントを振って、治癒力を高めようと考えたのだが、
「――おっ?」
ツリーに表示されたヴァンのスキルを見て、晴輝は目を開いた。
板野達也(24) 性別:男
スキルポイント:33
評価:大剣王級
加護:力者(?????)
-生命力〈-〉
├スタミナ4
└自然回復3
-筋力〈-〉
└筋力6
-気力〈-〉
├気力3
├気量1
└気力操作0
-敏捷力〈-〉
├瞬発力4
└器用さ3
-技術〈-〉
├武具習熟
│├大剣5
│└重装4
└道具習熟4
-直感〈-〉
└探知1
-特殊
├守護1 NEW
└身体強化・窮0 NEW
ヴァンのスキルに守護が発現していた。
ひとまず晴輝はスタミナと自然回復を上昇させ、新たなスキルのチェックを行う。
身体強化・窮『追い詰められると身体能力が増幅する:MAX5』
身体強化・窮は、いわゆる火事場の馬鹿力という奴か。
これほどボロボロになりながらも、死まであと一歩のところでヴァンが踏みとどまれたのは、この力があったからかもしれない。
このスキルは、守護のおかげで発現した可能性が高い。
(なんたって“力者”だしね……)
どうするか逡巡し、けれど晴輝は誘惑に耐えきれず守護を一気にカンストさせた。
守護1→MAX
加護:力者〈?????〉→力天使〈デュナミス〉
「……ああ、そうか。なるほど」
守護を与えた者の名が表示されたとき、晴輝は『何故その者が守護を与えた』か、すぐに納得した。
デュナミスは力を司る天使である。
デュナミスがヴァンを守護する力を与えたのは、なによりヴァンが力を求めたからだ。
彼は自分の力の無さをずっと嘆いていた。
だからといって、破壊や殺戮を求めたわけではない。
彼は純粋に、“誰かを守る力”を求め続けた。
デュナミスの名は、高潔や美徳を表す。
ヴァンの願いが高潔だったからこそ、力天使デュナミスに念が届いたのだ。
晴輝がスタミナ、自然回復、それに守護とスキルを振ったおかげか、真っ白だったヴァンの顔に、次第に赤みが戻ってきた。
これで死ぬことはないだろう。
そう判断をして、晴輝は火蓮の元へ。
「……火蓮は、大丈夫そうだな」
火蓮の体に異常はない。
せいぜい、頭にたんこぶが出来ていたくらいだ。
攻撃を受けた衝撃で、気絶してしまったのだろう。
これならポーションを飲ませる必要はないか。
念のため、晴輝はマァトを火蓮の肩に置いた。
「マァトはここで火蓮を守って」
「ぴょ……」
晴輝を回復しすぎてかなり疲労困憊のマァトが、弱々しいながらも羽で敬礼した。
その姿にほっこりし、晴輝は振り返る。
振り返った晴輝は、既に臨戦態勢だった。
仮面に気力を込めつつ、魔剣と短剣の両方を持ち上げる。
ゴーレムは、1歩も動いていなかった。
もしゴーレムが動けば、晴輝は即座に迎撃していただろう。
もちろん晴輝だけじゃない。
レアもエスタも、晴輝と同じようにゴーレムを監視し続けていた。
もしゴーレムが殺意を僅かでも灯せば、レアは一斉にジャガイモ弾を発射し、エスタはその体についたクリスタルをカリカリ切断して回っただろう。
その闘志に気付いていたからか。
あるいは他に狙いがあったか。
いずれにせよ、晴輝は邪魔されることなくヴァンと火蓮を救い出すことが出来た。
これで心置きなく、試練に集中出来る。
(存在感を高める試練――ひゃっほう!!)
じり、とすり足で近づくと、ゴーレムの腰が引けた。
先ほどからゴーレムに、当初の覇気が見られない。
「……罠か?」
晴輝を死線におびき寄せる罠の可能性は否めない。
だが、晴輝はあえて、前に出た。
ここで手をこまねいていては、なにも始まらない。
冒険せねば、冒険家ではないのだ。
すべては存在感を手に入れるために。
晴輝は、全力でゴーレムに突っ込んだ。
「――シィ!!」
短剣と魔剣を組み合わせ、時間差でゴーレムに斬り掛かる。
それに、ゴーレムが対応。
受け流し、ガードし、反撃。
左の拳が晴輝の顔面に迫る。
だが、
「それはもう見た」
既にその攻撃は何度も目にしている。
目にして、記憶している。
始まりの兆候、通る軌道、威力、衝撃、ダメージ、隙。
全てが晴輝の頭にインプットされていた。
だから晴輝は、最適解をなぞるだけで良い。
晴輝は最小限の力で拳を回避。
すぐさま反撃。
ゴーレムの攻撃の威力に合せ、短剣を振る。
――ガギィ!!
ゴーレムの腕が甲高く鳴いた。
「ッチ」
少しタイミングが遅かった。
相手の攻撃の、最も力が働く瞬間に、こちらの攻撃を合せること。
それこそ時雨やマサツグの、攻撃の極意。
隠し部屋で晴輝がゴーレムに初めて傷を付けたのが、この動きである。
極意を掴んだからこその、スキルの増加。
それでもまだ、完璧にはほど遠い。
「クク……」
――もっとだ。
――もっと!!
だから晴輝は、ゴーレムに挑む。
より完璧な状態に、自らの技術を高めるために。
そして――自らの存在感を高めるために。
「ハハハ……」
――もっと、存在感を寄こせ!!
「ハーッハハハハハ!!」
嗤いながら、晴輝は次々とゴーレムに斬り掛かる。
斬って、突いて、蹴って、払って。
回り込んで、バックアタック、カウンター。
晴輝の攻撃は気の籠もった腕に防がれ、回避される。
しかしそのうち1割は、ゴーレムの体を着実に削っていく。
――タタタタン!!
――カリカリカリ!!
晴輝に負けじと、レアとエスタが攻撃を開始。
「ぬぁっ!?」
驚くべきことに、レアの攻撃の一部がほんの少しだけゴーレムにダメージを与えていた。
目をこらすと、ジャガイモ弾に気力が大量に込められているのが見えた。
「(ふふーり!)」
どう? すごいでしょ? と言うみたいに、レアは投擲を行いながら器用に胸を張った。
ゴーレムにダメージを与えるほどの攻撃は、確かにすごい。
晴輝は空いた手で、レアの葉を軽く撫でる。
エスタも負けてない。
重量差で自動防衛システムが機能しないため、防衛を捨てたエスタはゴーレムの体を素早く動き回り、カリカリと囓りやすいところを囓っていく。
すると、ゴーレムの表面を被った水晶がみるみる折れて落ちていく。
エスタはレアと違い、気力攻撃を行っていない。
どうやらカリカリは、気力に関係なく武具破壊を行えるらしい。
レアもエスタも、一度晴輝に突き放されたから、役に立つところを見せたいのか。
役に立つから、追い詰められても最後まで捨てないで……。そう訴えるかのように、2人が次々と力を示していく。
「ハ、ハハッ!!」
その二人の姿に、晴輝は笑った。
レアにもエスタにも、負けてられないと。
斬る突く蹴る払う。
守り避けてカウンター。
晴輝はギアを上げた。
スキルが増えて、動きのコツを掴んだ晴輝は、
どこまでも、どこまでも、加速する。
いままで感じていた天井を破壊し、技術の頂目指して一気に駆け上っていく。
――否。
天井がある思い込んでいただけ。
始めから、そこにはなにもなかった。
なにもない“空”が、広がっていた。
それを知った晴輝は、どこまでも飛翔する。
ゴーレムの攻撃は、ほとんど見ている。
もう二度と、食らわない。
攻撃に合せて、動く。
すると、面白いように硬い装甲にダメージが通る。
斬れば岩を切断し、蹴ればゴーレムを怯ませる。
突けば岩に穴穿ち、払えばゴーレムを転ばせた。
「グ、ゴォォォ!!」
為す術なく攻撃を受け続けていたからか。
晴輝らの猛攻に、ゴーレムが吠えた。
「――ッ!?」
その声に反応。
警戒して、晴輝はバックステップした。
一応解説
ゴーレム視点:「見ぃつけた!」=逃げたのに見つけられてしまった!
晴輝視点:「見ぃつけた!」=やった! 弱点看破の光が見つかったぞ!
【次回予告】
『ゴーレムさんついに覚醒! 変形飛翔~モードチェンジで空を飛べ!~』
追い詰められたゴーレムさんは、悪魔の仮面から逃れることが出来るのか?
乞うご期待!(嘘です)
 




