表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
6章 ダンジョンの悪意を倒しても、影の薄さは変わらない
161/166

喋る魚をすり潰そう!

小説「冒険家になろう!」の2巻と3巻が、アマゾンKindleにて半額セール中!

まだ購入されてないかたは、是非ご購入をお願いします(੭ु ›ω‹ )੭ु⁾⁾


※今度こそちゃんと半額セール中のはずっ!(8/16現在)

 現われたのは、二足歩行をする岩――ゴーレムだった。

 3メートル近い大岩が、申し訳程度に人の形をしている。


 ゴーレムは『ちかほ』でも出現するが、『ちかほ』の魔物はもっと小型で、さらにこの魔物のように体表が水晶で被われてもいない。


 それは、ヴァンが初めて見る魔物だった。


『ちかほ』や『神居古潭』、『函館山』や『中札内』などのダンジョンを回った経験のあるヴァンが知らないのだ。

 それだけで、ヴァンの警戒心が数段階上昇した。


「稀少種でしょうか」

「……唯一種かもしれん」


 いずれにせよ、油断出来る相手ではない。

 ヴァンは戦斧を持つ両手にぐっと力を込めた。


 しかし、ヴァンは戦おうとせず、真っ先に逃走を図るべきだった。


「……ぁ」


 気付いたときには、ヴァンの目の前に大きな拳があった。

 巨大な体躯からは想像出来ぬほど俊敏に動いたゴーレムが、ヴァン目がけてその拳を振り抜いていた。


 ほぼ反射的にヴァンは目の前に戦斧を翳した。

 次の瞬間、


「――ック!!」


 拳が戦斧に接触。

 体中を、激しい衝撃が襲った。


 その衝撃に耐えきれず、ヴァンは後方に吹き飛ばされた。


 ヴァンはすぐに足裏を地面に突き出した。

 ガガガ、と土を削りながら、ヴァンは勢いを削いでいく。


(クソッ!)


 ヴァンは油断したつもりはなかったが、どうせ19階に出てくる魔物だから――そんな心のどこかに隙があった。


 その結果が、これだ。

 ヴァンは悔しさに臍を噛む。


 とはいえ、油断せずとも受け切れたかは怪しい。

 ゴーレムの質量は尋常ではない。

 トラックに跳ねられる子鹿のように、いくらガードしたところで吹き飛ばされてしまうだろう。


 衝撃を堪えきったヴァンは、すぐさま前に出ようと足を持ち上げた。

 しかし、


「……うぅ!」


 ダメージではない、攻撃がもたらした痺れが足の筋肉を僅かに痙攣させていた。


(早く、前に!)


 よろけながらも、ヴァンは気合で足を動かす。

 前衛が吹き飛ばされれば、次に狙われるのは後衛――火蓮だ。


 ヴァンの仕事は後衛を守る盾となることだ。

 決して後ろに下がってはいけない。


 しかしリザードマン戦のとき、ヴァンは攻撃を食らって後方に下がらざるをえなかった。

 そして現在も、ヴァンは攻撃に吹き飛ばされて下がってしまった。


(一体俺は、なにを学んできたんだ!!)


 体の中を焼けるような感情が駆け巡る。


 その時、ヴァンを攻撃したゴーレムが、火蓮に顔を向けた。


「――ッ!!」


 瞬間。

 総毛立ったヴァンは、走った。

 よろけながらも、全力で足を動かした。


「おぉぉぉ!!」


 声を上げ、火蓮とゴーレムの間に滑り込む。

 しかし、その前に――、


「キッ――!!」


 ゴーレムの、悲鳴さえ寸断するほどの攻撃。

 刹那。

 火蓮は逃げるではなく、

 防御するでもなく、

 杖を振った。


 ――ピシッ!!


 辺りに卵の殻が割れるような、乾いた音が響いた。

 次の瞬間、火蓮の体が木の葉のように吹き飛んだ。


 恐ろしい速度で吹き飛んだ火蓮が、後方に生えていた木の幹に激突。

 ズル、ズル……と頭から血を流しながら、火蓮がゆっくりと幹からずり落ちていく。


 その火蓮に追撃しようと、ゴーレムが一歩踏み出した。


「ぅぐ……う、おおおお!!」


 まずい、とヴァンの体が反射的に動いていた。

 戦斧を持ち上げ、ゴーレムに力一杯叩きつける。


 だが、


 ――ガギィッ!!


「ぐっ……」


 攻撃が、通じなかった。

 防御したゴーレムの腕を、戦斧の刃は切り裂くことなく滑った。


(馬鹿な……)


 まさか自分の攻撃が通じないとは考えてもみなかったヴァンは、攻撃が通じないことで体を硬直させてしまった。

 そこを、ゴーレムが見逃してくれるはずが無かった。


 ゴーレムの拳がヴァンを襲う。


「ガハッ――!!」


 拳が左肩に直撃し、ヴァンは大きく吹き飛ばされた。

 あまりの強烈な力に、堪えることさえ出来なかった。


「う……ぐぅ……」


 5メートルほど吹き飛ばされたヴァンは、すぐさま上体を起こす。

 ゴーレムからの更なる追撃に備えるためだ。


 しかし、ゴーレムはヴァンに見向きもしなかった。

 ヴァンを吹き飛ばしたあと、ゴーレムは火蓮に向かった。


(そんな……何故だ……!?)


 吹き飛ばされる直前、火蓮は杖を振った。

 火蓮の杖はゴーレムの腕に直撃した。


 だがそれがゴーレムにダメージを与えられるものように、ヴァンには見えなかった。

 対してヴァンは、さしてダメージを与えられなかったが、ゴーレムの腕に戦斧を叩きつけた。


 同じノーダメージなら、より質量の勝る戦斧の方が憎悪が稼げたはずである。

 なのに、ゴーレムはヴァンではなく火蓮を狙っている。


(……助けないと……いや、しかし……)


 ヴァンは奥歯を強く噛みしめた。


 ヴァンにはゴーレムを倒せる算段が思い浮かばない。

 攻撃力は相手が圧倒的に優位。

 ガードの上からもダメージを与えてくるほどだ。


 対してヴァンは、ゴーレムにダメージを与えられない。

 おまけにいまの攻撃で、左肩が動かない。

 最悪の状況である。


 冒険家として判断するなら、ここは戦うべきではない。

 戦えば、犬死にするだけだ。


 だが、空気のチームメンバーである火蓮を見捨ててもいけない。

 ここで火蓮を見捨ててしまえば、ヴァンは生き延びられるだろう。

 だが、生涯にわたり生き恥をさらし続けることになる。


 そもそもヴァンは、強くなるためにここに来たのだ。

 リザードマンとの一戦で、ふがいなく後ろに下がってしまった自らをたたき直すために。


(血まみれになったカゲミツを救えず、後ろで悔し涙を堪えた経験を、俺は……もう一度繰り返すつもりか!?)


 ここで下がれば、またあのときと一緒だ。

 あるいはこれで引けば、もう二度と前に向かうことが出来なくなるかもしれない。


 勝機はない。

 命だって、きっとない。

 それでもヴァンは立ち上がった。


 ヴァンにとってこの一戦、このタイミング、この状況。

 誰かを守るこの瞬間こそが、冒険家としての分岐点のように感じられた。


 もし引いてしまえば、自分にとって最も大切ななにかが、あっさり失われてしまう気がした。


 もちろんそれは単なる思い込みかもしれない。

 だが、ヴァンはこれが運命だと信じた。

 ここが、運命なのだと。


「うおおぉぉぉ!」


 野獣のような雄叫びを上げ、ヴァンがゴーレムと火蓮の間に割ってはいった。

 そこに、まるでヴァンが割って入ることを知っていたかのように、ゴーレムが拳を突き出した。


「うぐッ――!」


 その攻撃を、ヴァンは踏ん張り堪える。

 しかし堪えきれず、吹き飛ばされてしまう。


「ぐ、……お、おおお!!」


 攻撃された腹部が裏返ったかのように痙攣する。

 絶えず脳を揺さぶる激痛が喧しい。


 それでも即座にヴァンは動いた。

 決して火蓮に指一本触れさせぬために。


 ゴーレムの前に立ち塞がっては吹き飛ばされ、またゴーレムの前に立ち塞がる。


 十発、二十発とゴーレムの攻撃を食らった。

 それでもヴァンは、ゴーレムの前に立つ。


 体中の関節が軋む。

 骨が、何本か折れている。

 攻撃を受けた際に、割れた皮膚から血がしたたり落ちる。


 立ち上がるのにも悲鳴を上げるほどのダメージだった。

 だがヴァンは、奥歯を噛みしめすべてを堪える。


 激痛に襲われているというのに、時々ヴァンは笑みを浮かべていた。

 これがあの時、カゲミツが感じていた痛みなのかと思うと、カゲミツと同じ場所に立てた喜びを、ヴァンは場違いにも感じてしまうのだ。


 ヴァンは必死にゴーレムの前に立ち塞がった。

 だが、吹き飛ばされる度に一歩、また一歩とゴーレムが火蓮に近づいていく。


 いつしか、両者の間の距離はほとんどなくなった。

 ほんの一息で、ゴーレムは火蓮を攻撃出来てしまう。


「ちくしょぉぉぉ!!」


 ヴァンは火蓮をかばうように、ゴーレムに背を向けた。


 次の攻撃で吹き飛ばされれば、確実にゴーレムは火蓮を攻撃する。

 だから、なんとしてでもこの場から動いてはいけない。

 たとえ命を落とそうとも……。


 ヴァンは必死の形相で四肢に力を込めた。

 そのヴァンに、ゴーレムが攻撃を開始。


「ガハッ……ウグッ……!!」


 一撃、二撃、三撃……。

 次から次へと、ゴーレムがヴァンに攻撃を行う。


 それは、酷く重い攻撃だった。

 肉体だけでなく決意ごと粉砕しかねないほどのダメージが、ヴァンの魂を急速に蝕んでいく。


 苛烈な攻撃を、しかしヴァンは必死になって堪える。


(守るんだ……)

(今度は俺が、守るんだッ!!)


 ぼた、ぼた。


 眼下で意識を失っている火蓮の頬に、赤い雫が落ちていく。

 頭部から流れ落ちたヴァンの血液が、汗と涙と交わって、ボタボタ、ボタボタ、落ちていく。


 何度も、何度も、何度も……。

 森の中に、肉を打つ湿った音が響き渡る。


 したたり落ちる雫を薄ぼんやりと眺めながら、ヴァンは不思議な感覚を覚えた。


 体の奥底から激しい力が湧き上がってくるような。

 もしかしたらこのまま、ゴーレムの攻撃に耐えられるのではないか。

 振り返ってゴーレムを殴りつければ、腕の一本くらいもぎ取れるのではないか。


 そう錯覚させるような、力の奔流がヴァンの中で胎動していた。


(これが火事場の馬鹿力というやつか……)


 しかし、力が湧き上がるのがあまりに遅すぎた。

 もう少し早ければ、あるいはヴァンは反撃に打ってでたかも知れない。


 だが、ヴァンの体はダメージを蓄積しすぎて、体を支えるので精一杯だった。


「……ッ」


 ゴーレムの攻撃が、横腹を直撃。

 骨の折れる鈍い音が複数響いた。


(肋骨がすべてイったか……)


 顔をしかめながら、それでも耐えようとしたヴァンは――限界を超えた。


 白目を向いて、背中から地面に倒れ込む。


(守るんだ……)

(今度は、俺が……守るんだ……)


 それでもヴァンは戦意を一切失うことなく、


 ――そのまま意識を失った。




 ゴーレムの攻撃を受けて男が倒れた。

 これで邪魔者が消えた。


 ゴーレムはこれでやっと女を消し去れると内心安堵した。


 先ほど、1発殴ったきり動きがない女だが、ゴーレムはこの女に、強い危機感を覚えていた。


 それはこの女から、強い気力の波動――魔法を感じたためだ。


 普通の攻撃であれば、ゴーレムは傷つかない。

 だが気力を圧縮して放つ魔法は、ゴーレムの気の守りを突破する可能性がある。


 ゴーレムは、自らの存在を脅かす者は、何人たりとも捨て置けなかった。

 自らを守るために……。


 それは、試練として生み出されたゴーレムには不似合いな感情だった。


 試練とは、突破される存在なのだから。

 死してその価値を全う出来るのだ。


 だがゴーレムは、死の恐怖を知った。

 かの仮面が、あの悍ましい空気が、死の恐怖を植え付けたのだ。


 自らを破壊しかねない存在の殲滅は、ゴーレムにとって心の安寧を取り戻すための手段だった。


(ハヤク、殺サネバ)


 ゴーレムが拳を振り上げる。

 女に狙いを定めた、その時。


「んにょほぉぉぉ!!」


 女のポケットから、小さな魚が飛び出した。


「……」

「だだ、だめですわ、いけません! わたくしは美味しくありません――」

「――ッ!」

「――のぉぉぉぅ!! いぃやぁぁぁですわぁぁぁ!!」


 ドスン、ドスン。


 魚はゴーレムの攻撃をひょいひょいと奇跡的に避けながら、森の中に逃げていく。


 その魚を、ゴーレムは一心不乱に追いかけた。


 何故かわからないが、ゴーレムはこの魚を捨て置くことが出来なかった。

 見ているだけで、背筋が逆撫でされるような気分がするのだ。


(一刻モ早ク、世界カラ消シ去ラネバ!!)


 ドスン、ドスン。

 ゴーレムの拳が地面を打つ。


 振動、衝撃。

 ゴーレムが徐々に、魚を追い詰めていく。


「にょほぉぉぉ!!」


 パタパタとヒレを動かしながら、涙を流して逃げ惑う。

 その魚を、ゴーレムの拳がついに捉えた。


 ――ッポン!


 捉えたはずだった。

 だが接触した瞬間に、ゴーレムの拳の先には魚の感触がなかった。


 ゴーレムは、地面に振り下ろした拳をゆっくり持ち上げる。

 そこに魚の死体はなく、すり潰された草だけしかなかった。


「んにょほぉぉぉ!!」


 ポンッという音とともに、ゴーレムの横に魚が姿を現わした。


(一体、イツノ間ニ!?)


 驚愕を覚えつつ、ゴーレムはその魚をすり身にしようと再び拳を振り上げた。


 攻撃してくるわけではない雑魚を相手に、躍起になる必要はない。

 だがゴーレムは、どうしてもその魚をすり潰さねばならない衝動に駆られた。


「んほぉぉぉ!!」

「いやぁぁですのぉぉぉ!!」

「にょぉぉぉ!!」

「ぶげらぼげらぼぐらっ!!」


 何発も何発も、ゴーレムは魚に攻撃を仕掛けた。

 だが、ゴーレムの攻撃はことごとく魚に躱された。


 いや、躱されたのではなく、こちらから攻撃を外されたのか……。

 とにかく、人間相手にはほぼ100%ヒットしていた攻撃が、魚には一切当たらなかった。


「コシャクナッ!」

「喋ったぁぁぁぁ!!」


 ゴーレムが喋ったことに、喋る魚が驚いた。

 ゴーレムは疑問1割、苛立ち9割で、魚目がけて拳を振った。


 ――ズンンンッ!!


 拳が魚の頭上から地面目がけて叩きつけられた。

 その威力に大地が上下に、木々が左右に揺れ動いた。


 それは、ゴーレムの渾身の一撃だった。

 しかし、


「……あら、やっとですのね」


 ゴーレムの拳はまた、魚を捕らえることが出来なかった。


 ギギギギギ。

 ゴーレムの中で、何かがひび割れる音が響く。


 それは、硬い肉体ではなく、ましてやゴーレムを構成するコアでもない。

 ――理性だ。


(コロス……)


 ゴーレムの理性は、ただ逃げ惑うだけの魚に、木っ端微塵に破壊されようとしていた。


(コロスコロスコロスコロスコロスコロスゥァァァァァアアア!!)


 頭を沸騰させ、ゴーレムは辺りを見回した。

 あの尾ひれ、背びれ、細い手足、鱗。

 すべてを見逃すまいと気配を探る。


 しかし、魚の姿はどこにもない。

 その代わり、声が聞こえた。


「――あとは任せましたわよ。()()()()()


 その一言で、ゴーレムが感じていた怒りが突如失われた。

 同時に、小さな魚の気配さえ忽然とかき消えた。


(……ナンダッタンダ)


 幻術、幻覚、幻聴の類いだったか。

 まこと、摩訶不思議な生物である。


 さておき。魚のことなどどうでも良い。

 ゴーレムは我を取り戻す。


 踵を返し、再び女が眠る木の根元に向かった。

(今度コソハ……)


 その女の目の前で、ゴーレムが拳を振り上げる。

 その時ゴーレムは、


「――見ぃつけた!」


 二度と聞きたくなかった声を聞いた。

一応解説

シャケがヘイトを稼ぎつつも生き残れたのは、シャケのスキルのおかげです。

スキルが無かったらヘイトは……稼げたかもしれませんが、ゴーレムの攻撃は回避出来ませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ