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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
6章 ダンジョンの悪意を倒しても、影の薄さは変わらない
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仮面の化物に立ち向かおう!

 ダンジョンに生じたゴーレムは、か弱い生き物と対峙していた。


 触れればすぐに消し飛ぶほどの、文字通り木っ端のような生物だった。

 あまりに貧弱すぎて、あまりに脆弱すぎて、戦う気力さえ削がれてしまう。


 なのにゴーレムは、この生物に執着していた。


 何故か?

 もしゴーレムに高い知能があれば、そう疑問に思ったに違いない。


『試セ、試セ、試セ、試セ』

『ソノ者ノ実力ヲ、試スンダ!』


 多少原始的な知能を有してはいたが、ゴーレムの存在意義は相手を試すことにある。

 故にゴーレムは、目の前の生物を殴るのを辞めなかった。


 殴り殴り殴り殴り殴り殴り……。

 何度も何度も、ゴーレムは生物を殴り続ける。


 弱い。

 あまりに惰弱である。


 妙に意識が惹かれる仮面を装備し、首には羽根。体は鱗のその生物は、殴られても殴られても殴られても殴られても、ゴーレムに立ち向かってくる。


 殴られても殴られても殴られても殴られても。

 その仮面は以前と全く同じ所作で、ゴーレムに立ち向かってきた。


(…………オカシイ)


 ゴーレムはようやく、異変に気がついた。


 ゴーレムはこれまで、何度もその仮面を殴りつけている。

 時々打点をズラされることはあったが、数え切れないほど直撃していた。


(ナノニ、何故動キニ変化ガナイ?)


 通常の生物は、攻撃が当たれば当たるほど、体にダメージが蓄積して動きが緩慢になる。

 それは体が破壊されるためだ。


 痛みによって動きが減衰することもあるが、痛みを感じなくともダメージを受ければ動きは鈍くなる。


 それはゴーレムであっても同じだ。

 ゴーレムは痛みを感じない。

 だから痛みによって動きが減衰することはない。


 しかし体の部位が破壊されれば、ゴーレムの動きは必ず衰える。


(……ナゼ)


 ゴーレムの胸に、奇妙な感覚が生まれた。

 だがそれを無視して、ゴーレムは攻撃を続ける。


 相手の攻撃を受け止め、カウンター。

 これは、外れた。


 しかし、ゴーレムは慌てない。

 相手がどれほど攻撃したところで、こちらには一切のダメージはないのだ。


 相手の攻撃に、怖れる必要がない。

 こちらはただ、当てることだけに集中すれば良い。


 ゴーレムの攻撃を躱したことで、仮面には僅かな隙が生まれていた。

 その隙に、ゴーレムは冷徹に合せた。


 ――ドゥッ!!


「ガハッ――!!」


 ゴーレムの拳が、仮面の腹部に直撃した。


 10メートル吹き飛び、5メートル転がってようやっと仮面は停止した。


 今の攻撃、内臓を破壊するほどのものだった。

 実際に、内臓を破壊する感覚をゴーレムは捉えていた。


 これでもう、奴は立ち上がれまい。

 そう思い、僅かに――そう、ほんの僅かに気を緩めた。


 その時、


(――――ッ!?)


 ゴーレムは初めて、背筋が凍った。

 そもそもゴーレムの体にはほとんど感覚はないので、背筋が凍るという表現が正しいかどうか……。

 しかしゴーレムは、背筋が凍ったとしか思えぬほどの衝撃を感じていた。


 確実に、内臓を破裂させた。

 腹部はぐちゃぐちゃで、肺も損傷していたに違いない。

 それほどの攻撃を受けて、仮面はこれまでと全く同じ所作で、すくっと立ち上がったのだ。


(アリエナイ……)


 あり得なかった。

 それは、生物としては決してあってはならなかった。


 ほんの少しだけ、ゴーレムは焦りを覚えた。

 この生物を、生かしておくのは危険だと思った。


 ゴーレムが、地面を踏み込み跳躍。

 地面とほぼ平行に飛翔。

 その勢いを以て、再び仮面に攻撃を仕掛けた。


 しかし、


「それはもう“見た”」

「――ッ!?」


 仮面がゴーレムの攻撃を回避した。

 それも、以前とは違う。

 全く隙を生じさせない、綺麗な躱し方だった。


(コレハ……イヤ、気ノセイダ)


 ふと、脳裡になにかが浮かびかけたが、ゴーレムは無視をした。

 無視をして、攻撃に集中する。


 足で地面を蹴って急停止。

 体を捻って旋回。攻撃。


 その攻撃が、仮面を呑み込んだ。

 ……いや、呑み込んだかに思えた仮面だったが、紙一重でゴーレムの攻撃を回避した。


 次の瞬間、

 仮面が旋回。


 ――パリッ!


 ゴーレムの体表面のごくごく一部が、僅かに削れた。


「――ナッ!?」


 その衝撃に、ゴーレムは思わず動きを停止させた。


 アリエナイ、と何度も胸の中で現実を否定する。


 仮面の攻撃は、決してこちらの体に傷を付けられるものではなかった。

 気力を用いた攻撃でも、こちらの気力で防御可能であった。


 なのに、仮面が旋回しただけで、肘の表面が僅かに削り取られてしまった。


「……ハハ、やっと、掴めてきた」


 ゴーレムの懐で、仮面が掠れた声を漏らした。

 その仮面に、ゴーレムは素早く足蹴りを入れた。


「――ガハッ!!」


 再び仮面が吹き飛び、転がる。

 その仮面を追い、ゴーレムが接近。


 蹴って潰して、飛ばして砕く。

 もう二度と立ち上がれぬように、

 何度も何度も、執拗に責め立てる。


 足の裏で仮面を踏み潰す。

 その瞬間、仮面が怪しげに“光った”。


 ゾクっとゴーレムの精神が震えた。


 ゴーレムはより力を込めて、仮面を足の裏で踏みつける。

 そうせねば、大いなるなにかが姿を現わすような気がした。

 それも、邪神が司る絶対的ななにかが……。


 ――ズゥゥゥン!!


 ゴーレムの渾身のスタンプにより、ダンジョンの床が僅かに揺れた。

 ゴーレムの攻撃は、それほどの威力だった。

 これを受けては、仮面も二度と起き上がれまい。


 だが、


「あっぶなかったぁ……」

「――ッ!?」


 ゴーレムの足の僅か先に、仮面がいた。

 仮面がゴーレムの足を眺めながら、目の奥を点滅させていた。


(一体……イツ!?)


 確実に踏み潰したと思っていた。

 だが、仮面を踏み潰し損ねてしまった。


 原因は、光だ。

 仮面の怪しげな光に惑わされ、ゴーレムは力みすぎてしまった。


 力みにより、仮面への接触まで、コンマ1秒のズレが生じた。

 そのズレのせいで、ゴーレムは仮面を逃してしまったのだ。


(ナントイウ……)


 もはや、言葉にならなかった。

 思考さえ、停止してしまいそうだった。


 ゴーレムは散々仮面を攻撃して弱らせてきた。

 たったコンマ1秒のズレといえど、避けられぬほどに追い詰めていたはずだった。


 にも拘わらず、仮面は攻撃を避けた。

 あたかも、ゴーレムの攻撃の一切が、仮面に通じていないかのように。


 もしや、仮面は不死身か。

 生命を刈り取る、手応えが感じられない。

 ゴーレムはまるで、“空気”と戦っている気分だった。


 ゴーレムの目の前で、仮面がすくっと俊敏に立ち上がった。

 ゾゾゾ、とゴーレムの背筋が震えた。


(アレダケノ攻撃ヲ食ラッテ、ナゼ普通ニ動ケル!!)


 ゴーレムの思考回路が、乱れに乱れた。

 辛うじて戦闘状態を保ってはいるが、それもギリギリだった。


「ハハ……さあ、寄こせ」


 ズッ、と仮面が光を宿しながら一歩前に出た。

 その一歩に、ゴーレムは思わず一歩、引いた。


「俺に……強い存在感を寄こせ!!」


 カッ! と仮面の目に光が集中。

 咄嗟にゴーレムがその場を離脱。


 瞬間、


 ――ガギィッ!!


 ゴーレムの腕が、鳴いた。


 ゴーレムはすぐに何が起ったのか理解出来なかった。

 仮面の光を見て反射的に離脱したが、仮面は動いていないように見えた。


 なのに、現在仮面は左手の短剣を振った体勢で残心していた。


 右のものとは違う。

 仮面が持つ、左の短剣――あれは、先ほど砕いたはず。


(予備武器……カ)


 質は以前のものと同じだが、やや刀身が幅広だ。


(アレデ、攻撃シタ? シカシ……)


 前の刃に比べて鋭さはない。

 ゴーレムの体の硬さを思えば、その武器にさしたる脅威はない。


 なのに、ゴーレムは必要以上に仮面の攻撃を警戒した。

 以前の攻撃と、何かが違う、と……。


 その警戒心が、結果としてゴーレムを救った。


 ――ピシッ!


 洞窟に乾いた音が響いた。

 その音に、仮面が肩で嗤った。


 音の出所は、腕だ。

 先ほど仮面の攻撃が軽く当たった腕に、僅かな亀裂が走っていた。


(ソンナ!!)


 混乱しているところに、更なる衝撃。

 鋭利ではない武器による攻撃で、ゴーレムの硬い装甲が打ち砕かれた。


 さしたるダメージはまだない。

 しかし、ゴーレムに与えた衝撃は、混乱状態の最中ということもあり、甚大だった。


 混乱は衝撃にて恐慌へ変化。

 一瞬でゴーレムを蝕んだ。


(ウ、オ……オオォォォ!!)


 威圧するように、畏怖させるように、

 強く激しく輝く仮面。


 危険だ。

 この仮面は危険である。

 断定したゴーレムが、遮二無二攻撃を繰り出した。


 コレを、この仮面を一刻も早く破壊せねば!!

 焦燥にせき立てられるまま、ゴーレムは次々と攻撃を繰り出した。


 だが、これまでとは違い、ゴーレムの攻撃が直撃しない。


(何故ダ何故ダ何故ダ何故ダ何故ダ?!)


 先ほどまでは確実に直撃していた拳が、蹴りが、体当たりが、ことごとく打点をズラされる。


 それでも仮面に衝撃は伝わる。

 質量を生かしたゴーレムの攻撃により、仮面の体のいたる箇所から血液が噴き出した。


 それでもなお、仮面は立っていた。

 立って、肩を振わせていた。


 クツクツクツクツ。

 仮面の嗤いが響く。


 仮面の光が鋭く収束し、変質。

 仮面の光に、神の如き強大な威圧感が突如として宿った。


 全ての色を保持し、全ての色を呑み込む透明な光に、ゴーレムの精神がついに屈した。


(ア……アア……)


 何度殴っても死なず、ましてやダメージさえ受けた様子も見られない。


 もしかすると自分は、とんでもない化物を呼び覚ましてしまったのではないか……。


「俺の存在感(チカラ)を、もっと見ろぉぉぉ!!」


 一際強く仮面が光った。

 神の気配を宿した仮面を見て、ゴーレムのどこかで、何かがプツンと千切れ飛ぶ音が響いた。


(アァァァァァァァァ!!)


 瞬間、ゴーレムは逃げた。


 目の前の仮面から。

 仮面を被った化物から。


 ――それが悪魔か、あるいは邪神か?

 いずれかは知らぬし、知りたくもない。


 とにかく、ゴーレムは全力で逃げた。

 この先にある、隠し部屋と通常フロアを繋ぐ壁に向けて……。

『【飛ぶ】仮面さんの出現を報告する書1【消える】』


68 名前:仮面さんを見守る名無し

 仮面さんの伝説に新たなる1頁が!


 ・宙に浮かぶ仮面

 ・首から羽が生えている

 ・蠢く植物を背負っている

 ・身体は鱗で出来ている

 ・背中に白い顔がある

 ・腰の辺りに触手がある

 ・腹部に多足虫が寄生している

 ・分神体が出せる

 ・仮面が光る

 ・空を飛ぶ

 ・函館を支配している


 ・不死身←NEW


69 名前:仮面さんを見守る名無し

 さすが仮面さん……尊い……



※このスレッドは本編に一切関係ありません。

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