ヴァンに斧を薦めよう!
「冒険家になろう!~スキルボードでダンジョン攻略~2」(コミックス)
8月30日に発売(予定
何卒、ご購入をお願いしますm(_ _)m
「後はマァトだが……」
「ピッ」
羽根輪から顔を出したマァトが、体をもふっと膨らませながら目を細めた。
「くるしうない。好きに振って良いぞよ」とでも言うような態度である。
そんな愛くるしいマァトの態度に晴輝は相好を崩す。
酷い姫(自称)を見た後なので、とても癒やされた。
マァト(??) 性別:女
スキルポイント:17→21
評価:癒裁精霊帝
守護:最後の審判〈アカトリエル〉
-生命力〈-〉
├スタミナ:3
└自然回復:2
-筋力〈-〉
├筋力:1
└被損軽減:2
-気力〈-〉
├気力2
├気量3
└気力操作5
-魔力〈-〉
├魔力:7
├魔術適正:5
└魔力操作:8
└変化〈癒〉:4
-敏捷力〈-〉
├瞬発力:3
└器用さ:4
-技術〈-〉
└武具習熟
└羽根:3
-直感〈-〉
└探知:6
-特殊
├守護:MAX
└秤:Non
「うーん」
自由に振って良いとはいえ、マァトのツリーは現時点で振る必要がないほどレベルが高い。
無理に振れば、現在のスキルバランスを壊しかねない不安もあった。
どうするかしばし考え、晴輝は意を決してスキルをタップした。
スキルポイント:21→0
評価:癒裁精霊帝
守護:最後の審判〈アカトリエル〉
-生命力〈-〉
├スタミナ:3→5
└自然回復:2→3
-筋力〈-〉
├筋力:1→3
└被損軽減:2→7
-気力〈-〉→〈+1〉
├気力2→3
├気量3→5
└気力操作5→6
-魔力〈-〉→〈+1〉
├魔力:7
├魔術適正:5
└魔力操作:8
└変化〈癒〉:4→MAX
-敏捷力〈-〉
├瞬発力:3
└器用さ:4
-技術〈-〉
└武具習熟
└羽根:3
-直感〈-〉
└探知:6
-特殊
├守護:MAX
└秤:Non
被ダメージを抑えつつ、メインスキルを全体的に底上げした。
スキルの平均値だけをみれば、カゲミツと同じレベルになっている。
これだけあれば、相当先の階までスキルを振らなくても問題は起きないだろう。
*
ついに、それは来た。
待ちに待った器が、やっと彼らの望みの階まで到達した。
実力は十分。
にもかかわらず、その器はまっすぐその階には向かわず寄り道を続けていた。
遙かなる頂にのみ目が向いている彼らには、一切理解出来ない迂回であった。
「こうなれば、もっと早く彼を引きよせていれば……」
「いやいや。近くにかの精霊がいる」
「精霊を用いても彼に誘導術は効かなかったではないか!」
「実に厄介な」
「しかし、やっとだ」
「我々はやっと――」
第二段階目を成就させることが出来る。
そう、彼らは口を揃えた。
それは彼らにとっての悲願。
人類を導く目標点であり、通過点でもある。
これは生物の、文化の、技術の――。
生命の袋小路から抜け出すために、決してなくてはならない試練だった。
故に彼らは、この日のために万全を尽くし、試練を用意した。
頂に届く「器」を持つ者のための試練を……。
彼らの準備は整った。
あとは、実行の声を上げるのみ。
彼らは、大器を持つ者が失敗するとは、少しも思っていなかった。
ただその者が試練を乗り越える瞬間を、いまかいまかと待ちわびていた。
「真なる英雄の器よ」
「大いなる英雄よ!」
「力を示せ」
「英雄たる力を」
「大いなる力を!」
「さすれば道は拓かれん」
「では――」
この世界のどこにもない、空間すらあやふやな場所で。
彼らは、厳かに試練の開始を告げたのだった。
*
19階に入って2日が経った頃、ヴァンの木材収集が終わりを迎えた。
晴輝はヴァンが集めた木材を受け取った。
その際にヴァンは、戦斧も返そうしたが、晴輝はこれを受け取らなかった。
「もう少し使っていてください。すぐに売り払いたいわけではありませんから」
「う……む、しかし――」
「それに斧を使って戦えば、なにか閃くかもしれませんよ?」
彼のメイン武器は大剣なのだが、何故か斧も育っている。
それもスキルレベルが3と、(育成してないにしては)結構高いのだ。
だから晴輝は、もしかしたらヴァンの適性は大剣ではなく斧にあるのではないか? と考えていた。
本当は斧に適性があるかもしれない。それを知ってか知らずか、ヴァンは攻略上最も使い勝手が良いからと大剣を装備した、と。十分ありえる話である。
故に晴輝は、そう提案してみた。
この発言が、ヴァンが壁を突破する一助となればと願って。
「別の武器を使えば見えてくるものがあるかもしれませんしね。実際俺は学生の頃、陸上部に所属してたんですけど、そこでは週に1度、別のスポーツの練習を真剣にしてたんですよ。
野球とかサッカーとか、バスケにバレーにバドミントン、卓球もやりました。
そうやって別のスポーツを練習することで、走るだけじゃ不足してしまう筋肉と感覚を、バランス良く鍛えていったんです」
「……なるほど」
「だから、ヴァンさんも斧を使うことでもしかしたら……と思ったんですけど」
一般人からすればもっともらしい提案だ。
だが冒険家視点では――メイン武器の熟練を鍛えず、サブ武器の熟練を育てることは、少々スタンダードからはかけ離れている。
冒険家は武器に命を預けるものだ。長年使った武器を置いて、別の武器を装備するのは並大抵のことではない。
しかし、さすがに本音――スキルボードを見て斧のスキルレベルが高かったから――は口に出来ない。
なので晴輝は遠回しに、斧の装備をヴァンに薦めた。
「……」
「……」
さすがに上級冒険家に武器の変更を進めるのは無謀だったか……。
そう、諦め掛けた晴輝だったが、
「……わかった。試してみよう」
晴輝の言葉になにか感じるものがあったか。
ヴァンは睨み付けるように戦斧を見て、決意するように顎を引いたのだった。
大剣ではなく戦斧を装備したヴァンとともに、晴輝らは19階を目指す。
ヴァンも今日からダンジョン攻略を行う予定である。
(……さて)
晴輝らはヴァンとは別行動となる。
だが、共に同じ階で戦えば、いつか必ず戦っている姿を目撃されるだろう。
火蓮が魔法を使っているところを、目撃される。
先んじて「戦っている姿を見ても誰にも言わないで」とお願いしてはいるが、もし見られたらその時にも改めてお願いせねばなるまい。
その時のことを脳内でシミュレーションしながら、晴輝はゲートからフロアに足を踏み出した。
その瞬間、
「――ッ!?」
「――んっ?」
「――えっ?」
なんの前触れもなく、突如として晴輝の視界が変化した。
すみません。
物語の流れ的に、今回は短めです。




