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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
6章 ダンジョンの悪意を倒しても、影の薄さは変わらない
155/166

スキルの真価を感じ取ろう!

「……全然気付かなかった」


 晴輝が気がつかなかったのは、丁度気を緩めていたせいもある。

 しかしそれでもダンジョンの中にいるのだから、一定レベルで警戒はしていた。


 相手は晴輝の警戒をかいくぐるほど、気配を消せる魔物。


「……なるほど、フクロウですか」


 ヴァンの斧により一撃で真っ二つに切断されたそれは、大きなフクロウだった。

 サイズは羽も含めると晴輝より大きい。


 北海道に生息するシマフクロウのような“眉毛”があり、体には縞模様が入っている。


「シマフクロウの魔物ですか?」

「正式名、ブラッディオウル」

「ああ! これが噂の……」

「空星さん、この魔物をご存じなんですか?」

「ああ。一時期『なろう』で話題になった難敵だ」


 ブラッディオウルは隠密性の優れた魔物だ。

 森に潜み、近づいてきた冒険家に無音で近づき襲いかかる。


 隠密性が高いのは、羽根の構造が原因だ。

 フクロウの羽根は風切り音を極限まで低減させる構造になっている。


 自然界でも森のハンターなどと呼ばれるほどに、フクロウは奇襲による狩りを得意としている。


 急襲された冒険家の血しぶきで、フクロウが一方的に赤く染まったことから血濡れの梟(ブラッディオウル)と名付けられた。


「確か、低確率だけど羽根を飛ばす攻撃もするとか……」


 そこまで口にした晴輝ははたと気づき、即座に探知の精度を上げ、範囲を拡大した。

 気配を意識すると――なるほど森の中にはポツポツとブラッディオウルの存在が感じられた。


 そもそも探知スキルがレベル1のヴァンに感じられたのだ。

 レベル5の晴輝が感じられぬはずがない。


 ではなぜあのとき、ヴァンは晴輝よりも先にブラッディオウルの接近に気づけたのだろうか?

 晴輝が首を傾げると、仕草から疑問を読み取ったのか、


「……危険度高い場所。油断大敵」

「……ええと、危険度の高い場所、ですか」

「ん……」


 ヴァンの少ない言葉から、晴輝は彼が言わんとしていることを読み取った。


 なるほど。

 ヴァンが気づけて晴輝が気づけなかったのは、基本的な経験の差だ。


 晴輝は冒険家になって4ヶ月。

 対してヴァンは4・5年は冒険を行っている。


 ダンジョン内で常に警戒し続けた経験が、ヴァンは圧倒的である。

 だからどのタイミングで、どういう襲撃があるか。襲撃の経験を積み重ねたために、おおよそ襲撃を受ける場所やタイミングの予測が付くのだろう。


(やっぱり、上級冒険家は凄いんだな……)


 これがスキルだけでは測れない、上級冒険家たる強さだ。


 火蓮が魔法の制御に時間がかかったように、晴輝が気の扱いに手間取ったように。

 そもそもスキルレベルが高くても、そのスキルを100%扱えるかどうかは別問題である。


 スキルレベルだけで強さを判断するのは危険だな。

 晴輝は今回の出来事を戒めとして、胸に刻み込んだ。


(けど……)


 同時に晴輝は、ふとした疑問を感じて首を傾げた。


(こんなに凄い人なのに、どうして自分が弱いと思ったんだろう?)


 彼には加護や守護スキルがない。

 それらスキルの有無で、力の差を感じることはあるだろう。


 だが晴輝の目からは、ヴァンは第一線で戦うのに十分な実力のある冒険家のようにしか見えなかった。


(ますます判らなくなってきた……)


 単純に加護か守護のスキルが発現すれば良い、という問題でもなさそうである。


 ヴァンが求める強さが一体なんなのか。

 晴輝には、皆目見当がつかなかった。


          *


 18階で魔武器を手に入れてから、ヴァンの木材伐採速度は目に見えて上がった。

 晴輝が19階で狩りをしているあいだに、ヴァンは空き地に木材を次々と積み重ねていた。


 総量は、既に晴輝が保有していた暗黒巨木の素材量を超えた。

 だがそれでもヴァンはまだ木材を伐採していた。

 自らの家をさらに修繕するための素材もついでに集めているのだ。


 ヴァンが木材を集めているあいだ、晴輝らは19階のブラッディオウル討伐に精を出した。


 はじめは、音もなく近づいてくるオウルに手間取った晴輝だったが、元より探知能力が高かったこともあって、すぐにオウルの接近に気づけるようになった。


 晴輝以外のレア、エスタ、火蓮はオウルの接近に気づけない。

 さすがに探知1や2で気づくには、並大抵のことではないらしい。


「探知スキルを上げようか?」

「……いえ。もう少し頑張ってみます。なにか掴めそうな気がするんで」


 ヴァンは探知スキル1でオウルの接近に気がついた。

 対して火蓮は探知レベル2だ。


 大切なのは、手にしたスキルを使いこなすこと。

 探知レベル2を十全に使いこなせるようになれば、オウルの接近にも気づけるようになるはずだ。



 黒咲火蓮(18) 性別:女

 スキルポイント:4→8

 評価:精霊王槌人

 加護:雷鳴神人〈オキクルミ〉


-生命力〈-〉

 ├スタミナ3

 └自然回復1


-筋力〈-〉

 └筋力2


-気力〈-〉

 ├気力1→2

 ├気量3

 └気力操作0


-魔力〈+3〉

 ├魔力5

 ├魔術適正5

 └魔力操作5

  ├変化〈雷〉4

  └変化〈風刃〉0→2


-敏捷力〈-〉

 ├瞬発力1

 └器用さ3


-技術〈-〉

 └武具習熟

  ├鈍器2

  └軽装2


-直感〈-〉

 └探知2


-特殊

 ├運2

 └加護 MAX



 この階に来るまでのあいだ、火蓮は気量が1つと、風刃を2つ伸ばしていた。


 スキルポイントがかなり溜まっている。

 しかし火蓮はギリギリまでポイントに頼りたくないようで、ポイントの使用に消極的だった。


 それはスキルボードを忌避しているわけではない。

 出来る場所まで自力でどうにかしたい、という熱意の表れである。


 現時点で、苦戦するような魔物は現われていない。

 かといって決して弱い魔物ではない。


 19階は腰を据えて基礎力をアップさせるには最適な場所だった。


 晴輝も火蓮と同様に、スキルポイントの振り分けはしばらく保留にしていた。

 というのもマサツグと戦ってから、自らの戦い方に僅かな変化が見え始めていたからだ。


 その変化は意識だったり無意識だったり、あるいは心理的なものだけではない。



 空星晴輝(27) 性別:男

 スキルポイント:9→13

 評価:隠倣剣王

 加護:打倒神〈メジェド〉


-生命力〈-〉

 ├スタミナ4

 └自然回復2→3


-筋力〈-〉

 └筋力5


-気力〈-〉

 ├気力2

 ├気量5

 ├気力操作1→2

 └脱力耐性MAX


-敏捷力〈+2〉

 ├瞬発力6

 └器用さ5


-技術〈-〉

 ├武具習熟

 │├片手剣5

 │├投擲2

 │└軽装5

 ├蹴術2→4

 ├隠密5

 └模倣3→4


-直感〈-〉

 探知5

 └弱点看破 MAX


-特殊

 ├成長加速 MAX

 ├テイム2

 ├加護 MAX

 └神気 MAX



 スキルが自然上昇していた。

 特に蹴術。いままであまり上がらなかったこのスキルが、短期間のうちに2つもアップしてた。


 このことから、晴輝の戦闘スタイルが大きく変化していることがわかる。


 戦闘スタイルが完成するのはまだまだ先だが、スタイルが形になるのはそう遠くない未来。

 スキルポイントを振り分けるのは、スタイルが決まってから。そのスタイルになにが必要かを考えてからもで遅くない。


 また折角自然上昇の波が来ているので、ポイントを使わずにスキルが上がるなら上げてしまいたいという思いもあった。


 続いて晴輝は画面をスワイプした。



 エスタ(0) 性別:男

 スキルポイント:5→9

 評価:硬殻帝

 加護:辟邪神〈神虫〉


-生命力〈-〉

 ├スタミナ2

 ├自然回復2

 └防疫1


-筋力〈+4〉

 ├筋力3

 └被損軽減7


-気力〈-〉

 ├気力0→1

 ├気量0

 └気力操作0

  └変化〈纏衣〉0→1


-敏捷力〈-〉

 ├瞬発力5

 └器用さ2


-技術〈-〉

 └武具習熟

  └甲殻7


-直感〈-〉

 └探知1


-特殊

 ├武具破壊4

 └加護 MAX



 エスタはこの階までに、気力と纏衣をそれぞれ1つずつ伸ばしていた。

 1伸びた実感を、晴輝はあまり感じられていない。本人(虫?)はどうか気になるところである。


 もっと上がれば、目に見えて違うものだろうか?


「……ん? なにか上げて欲しいのか?」

「(チロチロ、シュンシュン、ピトッピトッ)」


 これと、これと、これ。

 エスタがスキルボードをのぞき込んで、上げて欲しいスキルを触角で指し示した。


「了解。じゃあ一気に使い切っちゃうね」

「(にゅんにゅん!)」



 エスタ(0) 性別:男

 スキルポイント:9→0

 評価:硬殻帝

 加護:辟邪神(神虫)


-生命力〈-〉

 ├スタミナ2

 ├自然回復2

 └防疫1


-筋力〈+4〉→〈+5〉

 ├筋力3

 └被損軽減7


-気力〈-〉→〈+1〉

 ├気力1

 ├気量0→1

 └気力操作0→1

  └変化〈纏衣〉1


-敏捷力〈-〉

 ├瞬発力5

 └器用さ2


-技術〈-〉

 └武具習熟

  └甲殻7


-直感〈-〉

 └探知1→2


-特殊

 ├武具破壊4

 └加護 MAX



 エスタは筋力ツリーと気力ツリーを強化し、さらに気量と気力操作も1に引き上げた。

 探知を2に上げたのは、オウルの接近に気付くためでもあるが――。


 腹部に僅かな衝撃を感じて晴輝はボードから顔を上げた。

 視線の先で、焔色が動く。


 腹部を離れたエスタが着地。

 その場の土を軽く足で払った。


 すると、にゅん! と土の中からミミズが顔を出す。


「(シュンシュン!)」


 エスタが晴輝にドヤ!? と言うように触覚を高く持ち上げた。

 探知を引き上げたことで、地面を触覚で探ることなくミミズを見つけられるようになったらしい。


「……えーと、うん……すごいね」


 正直、探知能力の無駄遣いでは? と思いもしたが、エスタにとってミミズ探索は生存活動である。

 本人(虫)にとっては、とても大切なことなのかもしれない。


 そんな弟(というより弟分か)を見て、レアが葉をギザギザさせた。

「わたしもスキルを振って!」と言うようにペンペンペンペン! と晴輝の肩を叩く。


「……わかったわかった」


 晴輝は苦笑しつつ、スキルボードをスワイプしてレアのツリーを表示。

 レアが素早く、上昇させたいスキルを葉で指し示した。



 レア(0) 性別:女

 スキルポイント:9→0

 評価:二丁葉撃帝

 加護:地下宝守護神〈プタハ〉


-生命力〈-〉

 ├スタミナ2

 └自然回復1


-筋力〈-〉

 └筋力5


-気力〈-〉→〈+1〉

 ├気力3

 ├気量1

 └気力操作0


-敏捷力〈-〉

 ├瞬発力2

 └器用さ3


-技術〈+3〉→〈+4〉

 └武具習熟

  └投擲5

   └二丁投擲4


-直感〈-〉

 └探知1→4


-特殊

 ├宝物庫2

 ├加護 MAX

 └擬態3



 レアもエスタと同じように気力ツリーを上げ、攻撃の威力を底上げするために技術ツリーもレベルアップ。

 ブラッディオウルの接近にいち早く気づき、相手の攻撃範囲外から投擲するため、探知を3つ上昇させた。


 レアの投擲の威力は(相性が悪い相手を除けば)十分確保出来ている。

 そのため、攻撃よりサポート系のスキルをアップさせた。


「わ、わたくしも上げて頂きたいですわ!」

「……」


 ん、なにか聞こえたような?

 晴輝はキョロキョロ見回し、肩をすくめた。


「気のせいか」

「気のせいじゃありませんわ! ここですわよ! こ! こ!!」

「……」


 火蓮のポケットの中から顔を出したチェプが、ポケットの縁をパンパン叩きながら抗議の声を上げた。


 当然のように、晴輝には誰が声を上げたのかは気付いていた。

 だが――チェプのスキルを上げたら、戦闘が優位に進むわけではない。

 晴輝は出来れば気のせいにしたかったのだが……スルーさせては貰えなかった。


 はあ、とため息を吐いて、晴輝はスキルボードを素早くタップした。



 チェプ(0) 性別:女

 スキルポイント:9→0

 評価:巫魚→巫術帝魚

 守護:英雄神人〈サマイクル〉


-生命力〈-〉

 ├スタミナ0

 └自然回復1


-筋力〈-〉

 └筋力0


-気力〈-〉→〈+1〉

 ├気力0

 ├気量1

 └気力操作3


-巫力〈+2〉→〈+4〉

 ├巫力6

 ├巫術適正7

 └巫力操作7


-敏捷力〈-〉

 ├瞬発力0

 └器用さ0


-技術〈-〉

 └武具習熟

  ├ヒレ1

  └魚鱗1


-直感〈-〉

 └探知0


-特殊

 ├姫1→2

 ├守護 MAX

 └精霊 Non



 晴輝はほぼブラインドタッチで、気力ツリーを1つ、巫力ツリーを2つレベルアップさせた。

 特殊の姫は自然上昇である。


 一体どうして上がったのか晴輝は首を捻る。

 こいつ、姫らしいことをしてたのか? と。


「なぁぁぁ!? どうして勝手にポイントを振り分けてしまわれたんですの!? わたくし、姫をアップさせて頂きたかったのにぃ!」

「……働いたら考えてもいいぞ」

「ハ、働いて、おります、ワヨ!?」


 何故言葉がたどたどしくなるのやら。

 じとっとした目を向けると、チェプはすいっと目を泳がせた。


「はあ」

「空星さん、なんだか……すみません」


 晴輝がため息を吐いた横で、火蓮が苦笑を浮かべた。

 悪いのは火蓮ではない。魚である。


「ある意味、火蓮も被害者なんだから言うべきことは言った方が良いぞ」

「はい。ダメそうなら腕輪を川に投げ捨てるんで……」

「ひょう!?」


 腕輪に入っているチェプは、その腕輪から一定範囲以上離れることが出来ない。なので腕輪を捨てられると、一切身動きが取れなくなってしまうのだ。


 火蓮がチラつかせた最大級の危機に、さしものチェプも息を飲んだ。

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