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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
6章 ダンジョンの悪意を倒しても、影の薄さは変わらない

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魅惑の食材を食べ尽くそう!

 朝の出来事による心の傷を修復しつつ、晴輝は火蓮と合流して18階に向かった。

 今日からは新たな階の探索を開始する。


 新しいフロアに足を踏み入れることに、晴輝はいつだって胸を高鳴らせる。

 だが今日は、特別だった。


 なにせ前日に勇者マサツグとの模擬戦を実施していたのだ。

 苛烈な模擬戦だったが、得られるものは多かった。


 マサツグから学んだ動きを、実践で試し、取り入れる。

 彼の動きを完璧に模倣出来たら、どれほど強くなれるだろう?

 想像すると、修学旅行前夜のようなワクワクが止まらない。


「この階はどんな魔物が出るんでしょうか?」

「うーん。少し大きな魔物が出るかも?」


 17階までの木の間隔と、18階の間隔に若干の差があった。

 17階までのそれとくらべ、18階の方がやや広いのだ。


 そこから晴輝は、もしかしたらこの階の魔物は17階までの魔物よりもサイズが大きいのでは? と考えた。


 その予測は正しいか。

 実際に会えばすぐにわかる。


 晴輝は早速、魔物の気配探知を開始する。


 しばらく探知を行い続けると、伸びた感覚の先に魔物の気配が触れた。


 瞬時に晴輝は短剣を抜いた。

 遅れず火蓮も杖を構える。


 長年……とまではいかないが、ここまでずっと二人でチームを続けてきたおかげで、声をかけずとも意思の疎通が可能となっていた。


 晴輝の胸に嬉しさがこみ上げるが、いまは戦闘前だ。

 気を引き締めて、魔物の登場を待つ。


 ザッ、ザッ、ザッ。

 森の向こうから魔物の足音が響く。


 その音は徐々に晴輝らに近づき、そして――。


「……ミノタウロス」


 晴輝の唇が僅かに震えた。


 表れたのは亜人タイプの魔物。

 2本の短角に牛の顔。

 筋骨隆々の黒毛の肉体。

 その魔物は、ボロボロの斧を装備していた。


 鼻息荒く晴輝らに近づいてくるその魔物は、ギリシア神話に登場する牛頭人身の化け物を彷彿とさせた。


「ブオォォォ!!」


 ミノタウロスが憎悪たっぷりの咆哮を上げた。

 次の瞬間、


「――早っ!」


 たった1歩で晴輝に接近し、ミノタウロスは巨大な斧を振り上げていた。

 その攻撃を、晴輝は横へ回避。

 回避から遅れて、斧が地面に激突。


 衝撃。

 振動。

 土が、舞い上がる。


 ミノタウロスの攻撃は、晴輝が立っていた地面を深く抉り、さらに周囲に大きなひび割れを生んだ。


 その攻撃を見て、晴輝の背筋がゾクゾクと震えた。


 いいね。

 実に良い!


 晴輝は仮面の裏で、唇を舐めた。


 これは、マサツグと戦ったあとの第一戦だ。

 下手な相手じゃ、試したくても試せないことが沢山ある。

 だから、丁度良い。


「あっさり死んでくれるなよ」


 ミノタウロスが、再び斧を振り下ろす。

 その攻撃に、晴輝は短剣を突き出した。


 短剣に斧が接触。

 その瞬間、

 晴輝は柔らかく手首を返す。


 時雨が用いた、柔らかいパリィ。

 それを模倣し、攻撃を受け流す。


 ミノタウロスが振った斧は、晴輝から大きく逸れてた。

 その隙に、晴輝は接近。


 ミノタウロスの死角から、その横っ腹に回し蹴りを入れた。


「ぶもぉぉぉ!!」


 空振りの勢いに回し蹴りが加算。

 ミノタウロスがバランスを崩して転倒した。


「よし!」


 いまの蹴りは、相手の重心の僅かな傾きを利用して隙を作る、マサツグの技である。

 この蹴りを用いると、僅かな力で相手の体勢を崩すことが出来る。

 晴輝はマサツグと戦っている時に、この蹴りを模倣し記憶していた。


 晴輝がミノタウロスを蹴り倒した直後。


 ――ッタァァァン!!


 火蓮の雷撃が炸裂。

 ミノタウロスの筋肉が引きつるように痙攣した。


 しかし動きが止まったのは一瞬。

 ミノタウロスは目に強い憎悪を宿しながら起き上がった。


 火蓮の雷撃による麻痺がなかなか決まらなくなってきた。

 とはいえダメージと阻害は健在だ。

 ミノタウロスの動きは、先ほどよりもややぎこちない。


 晴輝は反撃に警戒しつつ、ミノタウロスに攻撃を仕掛けた。


 斬る、突く、裂く、蹴る。

 守り、避けて、カウンター。


 晴輝の攻撃に合わせ、火蓮が雷撃を、レアが投擲をそれぞれ放つ。


 晴輝は二人の呼吸に合わせつつ、マサツグの姿を思い起こす。

 意識するのは気の流れ。


 体の動きに合わせて気を動かす。

 動作の起点から終点まで、筋肉の動きと気を連動させる。


 この技も、マサツグが用いていた。

 だが、難易度が高い。

 マサツグのように滑らかに気を動かすことが出来ない。


 また気の強弱を間違えると、あっという間に体が制御を失ってしまう。

 マサツグの技を完全に模倣するには、まだまだ時間がかかりそうだ。


「――シッ!!」


 晴輝の魔剣が、ミノタウロスの胸に浮かんだ光に接触。

 魔剣の先端がスルリと胸部に滑り込んだ。


 手首を返して、魔剣をねじる。

 即座に離脱。


「ブモォォォ!!」


 ミノタウロスは一際大きな雄叫びを上げ、地面に倒れ込んだ。

 ミノタウロスの絶命と同時に、僅かなレベルアップ酔いを感じた。


 かなり強い魔物ではなかったが、経験値はそこそこあるらしい。


「……ふぅ。お疲れ様」

「お疲れ様です。結構体力の高い魔物でしたね」

「そうだな。でもこのくらいなら、すぐに19階に抜けられそうだ」

「はい。……ところで、この魔物ですけど、牛の亜人でいいんですよね?」

「んー」


 ミノタウロスを『牛』と称して良いのだろうか? と晴輝は首を傾げた。

 ミノタウロスは、牛の頭を持つ怪物である。

 あくまでギリシア神話の伝承ではだが……。


「一応牛じゃなくて、牛頭人身の…………ん?」


 晴輝は言葉を止めた。

 なにか、大切なことが頭のどこかに引っかかった気がしたのだ。


 現在の階層は18階。

 ミノタウロスの魔物。

 偶数、食料……。


「火蓮、もしかしたらこいつ……食えるかもしれんぞ!?」


 脳裡に浮かんだ『牛肉』の二文字に、晴輝は歓喜が瞬時に大爆発した。


 第一次スタンピード以降、牛肉など食する機会がほとんどなくなっていた。

 その牛肉を、いま、手に入れてしまったのかもしれないのだ。


 おまけにこの牛は、ただの牛ではない。

 黒毛ウシである!


「……ジュルリ」


 晴輝の興奮に合せて、チカチカ仮面が輝き始めた。

 涎を啜り晴輝は、絶命したミノタウロスと、森の奥を凝視する。


 ――待ってろォ、牛肉!!

 ヒレ、バラ、ロース、サーロインンン!!


          *


「――あふん!!」


 バシュッ! と臀部に無属性魔法が食い込み、晴輝はその痛みに声を上げた。


 なんだ? どうした!?

 突然の痛みに混乱し、晴輝は辺りを見回した。


 そこには、


「……なんだ、これはッ!?」


 ミノタウロスが山ほど転がっていた。

 絶命したミノタウロスが、うずたかく積み重ねられていた。


「一体誰がこんなことを……」

「空星さんですからね?」


 晴輝のすぐ後ろから、氷点下の声が響いた。

 はっと息を飲んで振り返る。


 そこには、満面の笑みを浮かべた火蓮がいた。

 火蓮はコテンと首を傾げながら、晴輝に笑顔を向けていた。

 絶対零度の笑顔を……。


「空星さん」

「ハヒッ!?」

「自重してくださいね?」

「ハイッ!!」


 我は火蓮の従順なる僕なり。

 心で念じながら、晴輝はこれ以上火蓮の怒りを買わぬよう、平身低頭を心がける。


「あの……すみませんでした……」


 全身全霊で謝罪する。


 悪かった。

 俺が悪かったから、頼む。

 その握りしめた杖を、頭に振り下ろすのに丁度良い位置に掲げるのは辞めてくれ……。


 汗や体の損耗具合から、晴輝は自らがかなり長時間狩りをしていたのだと推測した。


 腕時計を見れば、時針が6時を指している。

 晴輝らが18階に踏み入った時間と同じだ。


 だが同じ時間であるはずがない。

 一回りした6時――現在夕方の6時なのだろう。


 なるほど。12時間ぶっ続けでミノタウロスを狩り続けていたのだ。

 火蓮が笑みを浮かべながら、杖を掲げて迫ってくる気持ちが晴輝にも理解出来た。


 晴輝は背中に火蓮の強い視線を感じながら、ミノタウロスを全力で手早く解体する。

 戦闘中ではないのに、冷たい汗が止まらなかった。


 ミノタウロスの解体を終えて、地上に戻る。

 ダンジョンに入った時とは真逆の方向に太陽が傾いていた。

 晴輝が想像した通り、現在は夕方の6時で合っていたようだ。


「空星さん、私、ステーキが食べたいです」

「了解」


 火蓮の機嫌が治るのなら、料理くらい安いものである。

 晴輝は自宅に戻り、七輪と熱石を庭に運び出す。

 それともう一つ。


「空星さん、その石はなんですか?」

「溶岩プレート。今日はこれで肉を焼く」


 晴輝が運び出した溶岩プレートは、文字通り溶岩石を長方形に形成したプレートである。


 使い方は簡単。

 叩いた熱石を七輪に放り込み、その上でプレートを温めるだけ。


 この溶岩プレートは以前、晴輝が個人的に肉を焼くのに購入したものである。

 じっくりと肉が焼ける。煙が出にくい。遠赤外線効果など、謳い文句に購入したものだが、現在は納戸の肥やしになっていた。


 スタンピードが起きてから焼き肉をする機会なんてなかったし、そもそも独り身の晴輝では、溶岩プレートを使ってまで肉を焼きたいとも思わない。ただ手間なだけである。


 さておき、プレートを熱する間に晴輝はミノタウロスの肉を捌いていく。

 リブロース、肩ロース、そしてサーロイン。


 肉は、驚くほど柔らかかった。

 生前は巨大な斧を振り回していた生物とは思えないほどである。


 肉はかなりサシが入っている。

 捌いている間に手の熱で脂がじとっと溶け出すほどだった。


 捌いた肉を皿に盛り付けて外へ。

 プレートの前で火蓮がクピクピと水筒を傾けている。


 その横に、


「わー待ってましたー!!」


 朱音が拍手をしながら晴輝を向かい入れた。


「……何故お前がここにいる?」

「お店を閉めて帰ろうと思ってたら、なんか家の前でやってるからさー。火蓮に聞いたら、これから焼き肉だって言うじゃない! ねー、アタシにもウシ食べさせなさいよーウシ!」


 何故だろう?

 この女にだけは絶対に食べさせたくないと思ってしまうのは。


 晴輝はこめかみをひくつかせながら、胸の奥から湧き上がる熱い衝動を抑え込む。


「さあ火蓮、牛肉を食べよう。どの部位から食べたい?」

「そうですね。まずサーロインからお願いします!」

「ちょっと待ちなさいよ! ねえ無視? アタシのことは無視なの!?」


 仲間はずれにされそうな空気になった途端に、朱音が目に涙を貯めて抗議する。

 だから、涙目になるなら何故最初に図々しい態度を見せるのか。

 彼女は断られる未来を想像出来ないのか?


 もしかしたら彼女は、強請って断られた経験が少ないのかもしれない。

 朱音は見た目だけは良いので、案外晴輝が想像した通りかもしれない。


 あまり意地悪をしても、彼女が泣き出したら収拾が付かなくなる。

 晴輝ははぁとため息吐いて、暖まった溶岩プレートに肉を並べていく。


 プレートに肉を載せると、パチパチと音を立てながら脂が踊り出した。

 それと共に香ばしい匂いを伴って辺りに立ちこめる。


「……素晴らしい!」

「良い匂いですね!」

「うんうん。この匂いだけでご飯3杯は行けるわね!」


 塩を振りかけながら、晴輝は焼き加減を確認する。

 片面が仕上がったら、反対を焼く。

 表面に焼き色が付いたら中身に火が通る前に皿に盛り付ける。


 全員分の肉が焼けたところで、晴輝は手を合せた。


「それじゃあ感謝を込めて」

「「「頂きます!!」」」


 かけ声と共に、晴輝は肉にかぶり付く。

 すると、ジュワ……と肉から脂があふれ出した。


 肉質は柔らかく、歯で噛まなくてもほろほろと肉が解けていく。

 脂はさらさらとしていて、しつこくなく、強い甘みとうま味があった。


「美味い!!」

「はふはふ!」

「んふー!」


 3人がそれぞれ、美味しい悲鳴を上げる。

 そこに、


「はふっはふっ! むほぉぉぉ!」

「……」


 いつしかチェプも交わっていた。


(こいつ。しばらく大人しいと思ったら、こっそり肉を狙ってやがったか……)


 ミノタウロスの肉の在庫は沢山ある。

 しかし、肉を食べるなら最低でも食事代分くらいは働いて貰いたいものである。


 レアとエスタは肉に興味なし。

 マートは軽く肉をついばんで、驚いたように首をブルブルっと振ったきり、羽根輪の中に隠れてしまった。

 牛の脂がダメだったようだ。


 初めはサーロイン。

 次に肩ロース。

 最後にリブロース。

 合計5キロほどの肉を、晴輝らは一気に完食した。


 晴輝はまさか準備した5キロもの肉を、3人で平らげられるとは思ってもいなかった。

 だが、一度この肉を口に放り込んだ晴輝は、肉を焼き、食べ進める手を止められなかった。


 熱石の放熱が収まる頃、晴輝の家の前に至福の息が3つ、宙に浮かんだ。

 皆、久しぶりの牛肉をたらふく食べて幸福の笑みを浮かべていた。


 晴輝は箸を置き、手を合せる。

 頂いた命に、感謝を……。


「ご馳走様でした」

「「ご馳走様でした」」

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