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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
6章 ダンジョンの悪意を倒しても、影の薄さは変わらない
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ヴァンの悩みを内側から確認しよう!

「「「「……」」」


 ギクシャクとした雰囲気が、ガラガラと音を立てて崩れ去っていく。

 晴輝も火蓮もヴァンさえも、繕うことさえ出来ずに呆然としていた。


「んもぅ! 火蓮さん、いい加減わたくしを腕輪に閉じ込めるのはよしてくださらないかしら!? わたくしにも、自由を謳歌する権利というものが――んまぁ!?」


 目をつり上げて火蓮にクレームを入れていたチェプが、突如ヴァンを見て一際高い声を発した。

 ツンツンした雰囲気が丸みを帯び、徐々にこんにゃくのようにクネクネと変化する。


「まぁまぁまぁまぁ! 素敵な殿方。たしかヴァン様、でしたわよね? まさか、わたくしに会いに来てくださったんですの!?」


「……」(おい火蓮、どうにかしてくれ)

「……」(すみません。抵抗さえて腕輪に入りません!)

「……」(……さすが、空気チーム)

「「……ぐっ」」


「そこでひそひそと話されておりますけれど。わたくしも仲間にいれてくださってもよろしいんですわよ?」

「「「……」」」(勘弁してくれ)


 チェプを除く3人の心がいま、はっきりと一致した。


「それで、ヴァン様はわたくしに会いに来て下さったんですのよね?」

「いや……」

「ほら、わたくしとヴァン様の逢瀬の邪魔になりますので、お二人はこの場から消え――ぶげらぼげっ!!」


 チェプの暴走に誰しもが諦めかけたそのとき、救いの手ならぬジャガイモが飛び出した。

 レアのジャガイモ弾をまともに食らったチェプがもんどりを打った。


 ぴゃっ! と嫌な音を立てて壁に激突。

 さすがはダンジョン主の素材。ジャガイモとチェプが激突したというのに、綺麗なままである。

 チェプはというと、ジャガイモと壁のダブルパンチで、白目を向いて痙攣している。


「……素晴らしい強度だ」

「本当ですね」

「……ああ。かなり、硬かった。加工がな、大変だった」

「ちょっとわたくしのことを無視しないでくださいまし!!」


 意識を取り戻したチェプがいきり立つ。

 レアの投擲は結構強めだったが、チェプにはこれといってダメージが見当たらない。


 経験値の山分けで、かなり肉体のレベルが上昇したのだろう。

 自らの体のためとはいえ、晴輝はとんでもないものを育ててしまったのではないだろうかと不安になる。


 このままいけば、大型トラックに踏み潰されても傷一つ負わない、二足歩行の鮭が爆誕してしまいそうだ。




 目を爛々とさせるチェプを引きずり離し、晴輝らはヴァンの家を後にした。


「ヴァンさん、どうしたんでしょうね」

「大体想像は出来るけどなあ」

「空星さんは、わかるんですか?」

「まあ……」


 断片的なヴァンの言葉から、晴輝は彼がなにを抱えているのかが想像出来た。


 仲間と比較して、劣っていると感じたヴァンは、一人武者修行に出たのだ。

 だが晴輝がそれを口にしてしまえば、ヴァンの矜持を傷付ける。


 黙ってなにかを成そうとする者には、百の言葉を重ねるよりも、成すのを黙って待つのが一番なのだ。


「なにかお手伝い出来ますかね?」

「いまのところはなにも」

「そう、ですか……」


 ホテルに戻る火蓮の背中を見送って、晴輝はダンジョンの入り口に移動した。


 入り口の階段1段目に降りて、壁に体を寄せる。

 そこでスキルボードを取り出して、晴輝は素早く画面をスワイプした。


「ここからだとギリギリ届く気がするんだけど……」


 申し訳ないと思ったが、晴輝はヴァンが『力不足』と落胆する原因を突き止めておきたかった。


 突き止めたからといって、いますぐどうするつもりもない。

 ただ、求められた時にすぐに応えられるようにはしておきたかった。


「おっ!」


 晴輝の予想通り感知範囲に入っていたのだろう。ヴァンのツリーが画面に出現した。



 板野(ばんの)達也(たつや)(24) 性別:男

 スキルポイント:33

 評価:大剣王級


-生命力〈-〉

 ├スタミナ4

 └自然回復3


-筋力〈-〉

 └筋力6


-気力〈-〉

 ├気力3

 ├気量1

 └気力操作0


-敏捷力〈-〉

 ├瞬発力4

 └器用さ3


-技術〈-〉

 ├武具習熟

 │├大剣5

 │└重装4

 └道具習熟4


-直感〈-〉

 └探知1



「あ、あれ?」


 スキルツリーを見て、晴輝はすぐに異変に気がついた。


「加護がない……」


 ヴァンはエアリアルのメンバーであり、『ちかほ』の最高到達階層はカゲミツと同じだ。

 にも拘わらず、何故か彼のツリーには加護が表示されていなかった。


「……変だな。いままで10階に到達したら現われてたはずなんだけど」


 いや、と晴輝は頭を振る。

 中札内ダンジョンでは、10階にたどり着いてもエスタに加護が現われなかった。


 その後、車庫のダンジョンの10階で加護が発現したが、それと同じ現象が起っているのか。


「けど、同じダンジョンで同じ階層まで潜ってるのに、カゲミツさんは加護が発現してるんだよなあ……」


 この違いがなんなのかが、わからない。

 加護は、特定階まで潜れば自動的に取得出来るものではないのか。


「うーん。困った」


 晴輝は、いざとなればスキルボードでなんとかしようと思っていた。

 実際、スキルボードを弄ればヴァンを一気に強化出来る。


 しかし加護の発現だけは、スキルボードで操作できない。


(……なるほど。これが原因かもしれないな)


 ヴァンが自らに力不足を感じている原因が、加護なのかもしれないと晴輝は思った。


 晴輝や火蓮は、加護によって大きく強化されている。

 晴輝は弱点看破というかなり強いスキルを得られたし、火蓮は目に見えて雷撃の威力が上がり、外でも魔法が使えるようになった。


 加護があるだけで、能力は劇的に上昇するのだ。


 もしエアリアルのメンバー全員が加護を得ていて、ヴァンだけが加護がなかったら。

 メンバーと自分の力の差を、はっきりと認識出来てしまう。


 スキル全体を見れば決して低くない。身体能力も同じはずだ。

 つまり、加護の有無――ひいては開眼能力の有無が、彼の自信喪失の原因だとわかる。


 いずれにせよ、現状晴輝に出来ることはなさそうだ。

 火蓮に言った通りになるが、しばらく見守る他ない。


          *


 ヴァンの家を訪問してから1週間。

 2日の休みを挟みながら、晴輝らは17階のマッピングを続けた。


 地下1階に比べて4、5倍もの広さに、森林ステージということも相まって、マッピングにはかなりの時間が掛かってしまった。


 しかし、時間をかけた甲斐あって、晴輝らはようやくボスの姿を発見した。


「うわぁ……」

「かなりデカいな」

「はい。あんな鹿、初めてみました」


 ボスは晴輝の二倍はあろうかという背丈の鹿だった。

 体型はエゾシカというより、ヘラジカが近い。

 見ているだけで遠近感が狂うほど巨大だった。


 角は先端に向けてヘラのように広がっていて、サイズも鹿の頭より大きい。

 この角で攻撃されれば、晴輝ならば簡単に投げ飛ばされてしまうだろう。


「それじゃ、行くぞ」

「はい!」


 3,2,1とカウントし、ゼロでスタート。

 森のなかから飛び出して、晴輝はまっすぐ鹿に向かう。


 木々の合間から飛び出した時点で、鹿が晴輝の存在に気がついた。

 奇襲は不可能。


 しかし、勢いはそのままに、晴輝は鹿に斬り掛かる。


「――ッシ!!」


 首を狙った短剣が、角に遮られた。

 鹿は鬱陶しげに首を揺らす。


「――うわ!」


 すると、角の突起に短剣が引っかかった。

 短剣が弾かれそうになるのを、身を引いて回避する。


「…………」


 いままでの鹿と違い、ボスの角には大きな突起がある。

 これに引っかけられたら、武器を失ってしまう。


 厄介だな。

 晴輝は内心舌打ちした。


 ――ッタァァァン!!

 ――ダダダダダ!!


 晴輝が身を引くと同時に、火蓮とレアがほぼ同時に攻撃を開始。


 火蓮の雷撃がボスの肉を焦がし、レアの投擲が足にダメージを蓄積させる。

 雷撃と投擲のダブル攻撃により、ボスが膝を折る。

 そこに、


「――ッシ!!」


 晴輝が合せた。

 魔剣を振い、光の筋へ。


 魔剣が筋に接触する、その前に、


「っく!」


 僅かにボスが体を動かした。

 晴輝の攻撃は完全に回避されるまでに至らなかったが、傷はかなり浅い。


 もう1撃。

 そう思い切り返そうとしたが、


「――ぅわっと!」


 反撃の兆しを感じて急停止。

 即座に離脱。


 遅れてボスの角が、元居た場所を通過した。

 ゾクゾク、と晴輝の背筋が震えた。


 体を硬直させるほどの攻撃を受けてなお、反撃に出られる強靱な精神力。

 そしてその精神力のコントロールを離れない強い肉体。


 この鹿は、これまでのボスとは一線を画すレベルの高さだった。


 HPが高いのか、肉体が強いのか、それとも精神力か。

 相手がどこまで戦えるのか、晴輝は強く興味を惹かれた。


 いいね。実にいい。


 相手が対応してくるならば、対応出来なくなるまで突き放すのみ。

 晴輝は意識のギアを上げた。


 斬る、裂く、突く、蹴る。

 回り込んで、バックアタック。


 思考の速度を上げていく。


 攻撃、即応、反射、反転。

 守り、避けて、カウンター。


 肉体の速度を、限界まで加速させる。


 晴輝がギアを上げると、徐々にボスの反応が遅れ出した。

 ボスが、晴輝の動きに翻弄される。

 翻弄されて、隙だらけの横腹に、


 ――ッタァァァン!!

 ――ダダダダダ!!


 雷撃と投擲が直撃。

 攻撃の威力に押され、ボスが態勢を崩した。


 そのボスの胸部を


「うおぉぉぉ!!」


 魔剣の先端が深々と穿つ。


 強烈な光の灯った胸の1点に、晴輝は魔剣を押し込んだ。

 その先端が心臓に到達したのだろう。ボスはビクンと大きく体を跳ね上げ、すぐに身動きを止めた。


「はぁ……はぁ……」


 軽くバックステップし、距離を空ける。

 痙攣する鹿の様子を、晴輝は注意深く見守る。


 ボスの痙攣がやがて完全に止まる頃、ダンジョンが軽く明滅した。

 それと同時に軽い目眩。

 久しぶりのレベルアップ酔いだ。


「……ふぅ」

「空星さん、お疲れ様でした」

「火蓮も。お疲れさん」


 張り詰めた緊張の糸を緩め、晴輝は武器を鞘にパチンと収めた。


 ボスの体がズブズブと地面に埋まっていく様子を眺めながら火蓮が、


「今回のボスは結構強かったですね。雷撃でも、完全に動きを封じられませんでした」

「そうだな。さすがに暗黒騎士ほどじゃなかったけど……」


 あれは別格。晴輝にとって暗黒騎士は、もう二度と戦いたくない相手だった。

 強さはもちろんのことだが、晴輝は暗黒騎士の『わかりにくさ』がとにかく嫌だった。


 ダメージを与えた時、攻撃を躱した時、相手の予想を裏切った時。

 生身の魔物であれば、必ず体や顔に反応が浮かぶ。


 だが暗黒騎士に表情はなく、また筋肉もない。

 攻撃を与えてもどれほどダメージがあったのかわからないし、攻撃を躱し続けてもそれが相手の狙いなのか疑心暗鬼になる。

 相手が無反応だと、精神が追い詰められていくのだ。


 対して鹿のボスは、ダメージを与えた時は痛がり、攻撃を躱した時には動揺していた。 確かにレベルは高かったかもしれないが、暗黒騎士と比べればまだまだ戦いやすい相手であった。


「たしかにアレよりは良いですね。けど、ダンジョンを進んで行くといずれ普通の魔物が、アレと同じレベルの強さになるんですよね、きっと……」

「だろうな」


 うんざりした表情を浮かべた火蓮の内心が手に取るように理解出来、晴輝は思わず苦笑してしまった。

 いずれあの強さが基本になると考えると、どうしたって憂鬱になる。


「けど、その頃には俺たちも強くなってるだろう。それまでレベリングを頑張ろう」

「はい!」


 基本になるにはまだまだ時間はあるはずだ。

 それまでレベリングをして、暗黒騎士よりも強くなる。

 強くなって、苦戦せずに倒せる冒険家になれば良いのだ。


 ボスが沈んだ地面から、2つのアイテムが浮上する。

 一つは鹿の角で、長さは1メートルを超える大物だ。

 もう1つは銀色の塊。


「これは鉱石か。初めて見るな」

「ですね。銀でしょうか?」


 晴輝が銀色の塊を手に取ると、かなりずっしりとした重みを感じた。

 顔を寄せて塊を観察するが、その鉱石の正体はわからない。


 それもそのはず。晴輝は観察眼が優れているが、鑑定眼があるわけではない。

 これが銀なのか、それとも別の素材なのか判断する眼も、知識もなかった。


(もしこの塊が銀なら、レアが反応しそうなんだが……)


 いまのところレアは、物珍しそうに眺めているだけで、鉱石を欲しがる様子がない。

 これはレアが欲しがる宝系アイテムではないのだろう。

 とすると銀の可能性は薄いか。


「とりあえず、朱音の店に持って行くか」

「そうですね」


 素材をマジックバッグに収納し、18階に降りてゲートをアクティベート。

 ちらりと18階のフロアを確認する。

 この階も17階と同じく森林ステージだった。


 時計を見ると既に5時。

 ここから狩りをしては、朱音の店が閉まる時間までに地上に戻れない。

 晴輝らは翌日から18階を探索することにして、ゲートで地上へと戻っていった。

チェプは日頃、腕輪の中で(外に出るために)猛烈に戦っております。

「ンホォォォォ!!」とは、火蓮の押さえ込みをはね除ける、気合の声だったのです。(どうでもいい解説)


大変お待たせしておりました、漫画版「冒険家になろう!」の6話が更新されました。

なんでしょう、やっとまともな人間が出て来た気がします……(ピシャーン!)

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