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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
6章 ダンジョンの悪意を倒しても、影の薄さは変わらない
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詳細鑑定の報告を受けよう!

『【飛ぶ】仮面さんの出現を報告する書1【消える】』


51 名前:仮面さんを見守る名無し

 仮面さん発見!

 たしかに函館にいたぞ

 仮面、神々しく光ってたw


52 名前:仮面さんを見守る名無し

 マジか詳しく!


53 名前:仮面さんを見守る名無し

 詳しくもなにもねーぞ

 いつもの仮面さんだ


54 夕日に照らされる中

 仮面を神々しく光らせて

 自衛団員を平伏させてた


55 名前:仮面さんを見守る名無し

>>自衛団員を平伏させてた

 くそわらたwwww


56 名前:仮面さんを見守る名無し

 仮面さん原理主義者は殺せって言ってたけど

 さすが仮面さん

 服従か死か選ばせてあげるなんて、慈悲深い・・・


57 名前:仮面さんを見守る名無し

 ついに函館をその手中に収められたか

 ・・・尊い


58 名前:仮面さんを見守る名無し

 さて、次はどこが仮面さんの手に落ちることやら・・・


          *


 函館山ダンジョンでの一件が終わってから、晴輝らはまっすぐK町まで戻ってきた。


 K町に着いて荷物を家に運び込み、お土産を木寅さんに届けたあと。

 晴輝は火蓮と共に朱音のいるプレハブへと赴いた。


 数日前に、晴輝は朱音に新たな防具の発注を行っていた。

 きっと朱音のことだ。既に装備は揃っているだろう。


 プレハブに入ると、やはり蜜柑箱の上に晴輝ら用とおぼしき防具が並べられていた。


 一菱のミドルクラス“壱”上位シリーズのグローブに靴。

 さらに先日発注したばかりの鞘まで並んでいる。

 超特急で製作を依頼したのか。実に仕事が早い。


「朱音。戻っ――」

「しーっ!」


 晴輝が朱音に話しかけようとしたところ、すぐさま火蓮に止められた。


「朱音さん、寝てますから」

「……お、おう」


 見れば、確かに朱音はカウンターに突っ伏して眠っていた。

 真夏の日差しに当てられたプレハブは、うだるほどの熱が籠もっている。


 そんな中で眠るのは自殺行為である。

 すぐに熱中症になってしまうだろう。


 それでも、晴輝が朱音を起こすのをためらってしまうくらいに、彼女は安らかな表情をして眠っていた。


「購入の際に起こしたのでも、問題はないか」


 晴輝は少しの間、朱音をこのまま眠らせておくことにした。


 ――さて。

 仕事が早いからといって、良い装備を揃えたかどうかはまだ判らない。


 晴輝は蜜柑箱の上に乗った装備を、一つずつ確かめていく。


 まずグローブを手にはめた。

 サイズはぴったり。

 現在装備している装備と同じはめ心地だ。


 大きな違いは、革が薄くなっていることか。

 おかげで指先の感覚がより伝わりやすくなっている。


 これで細かい指先の感覚も、グローブに大きく阻害されることもないだろう。

 手袋を装着したままでも、お札を数えられそうなほどだ。


 革が薄くなったからといって、耐久性が犠牲になっているわけでもなさそうだ。

 ぐっと握りしめると、革の確かな強さが晴輝には感じられた。


 グリップ力も大きく向上している。


 短剣を握り込んだときの摩擦係数は、攻撃力に直結する。

 実に地味だが、グローブは攻撃力を底上げする装備部位なのだ。


 次に晴輝は靴に足を装備する。

 こちらもグローブと同じ“壱”上位シリーズだ。


 オーダーメイドの鞘も、“壱”シリーズで製作されていた。


「壱だとなにか違うのか?」


 魔剣を収めて、腰に吊す。

 鯉口を切って、抜く。


 するとすぐに、鞘の違いが体感出来た。


「おお。かなり滑るんだな」


 晴輝が保有する他の鞘よりも、明らかに鞘走りのときの抵抗が少なかった。

 また音もかなり小さい。無駄が少ないのだ。


 これが“壱”の所以か。

 性能の高さを実感し、晴輝はふっと口角を緩めた。


「さすが、だな」

「凄いですね。これ、気力が通りますよ」

「ん? 気力が?」


 火蓮に言われ、晴輝は試しに手足防具に気力を通してみる。

 すると、以前の防具とは違って気力がスムーズに手足防具に流れ込んでいった。


「おお……本当だ」


 気力が籠もるとどうなるかは定かではない。

 いまのところ、気力を通す前と後とで、晴輝に違いは感じられなかった。


 だがなにかしらの変化はあるだろう。

 今後、ダンジョンで確かめようと晴輝は脳内のメモに書き込んだ。


「ん……」


 晴輝らが防具の付け心地を確かめていると、カウンターで眠っていた朱音がゆっくりとした動作で起き上がった。


「おう。起きたか」

「……ん? え? なんで居るの!?」

「居たらダメなのか?」

「ダメじゃないけどっ。ダメじゃないけど、アタシ、アンタの希望した防具を取りそろえるのに頑張ったのよ!? なんでそんなに、あっさり装備しちゃってるのよ!!」

「……?」


 いきり立つ朱音に、晴輝が首を傾げた。

 一体彼女はなにを怒っているのやら。


「アタシが取り寄せた防具を最初に見た、アンタの驚く顔が見たかったのにいっ!!」

「……そんなことか」

「そんなことって何よ!?」

「だったら、店を開いているときに居眠りするなよ……」

「そ、それはアンタが早くK町に戻ってこないのがいけないんでしょ!?」

「はぁ?」

「折角アタシが急いで防具を用意したってのに、いつまで待っても来ないんだから! アンタがアタシの実力にひれ伏す様を見るのが楽しみで楽しみで――」

「眠れなかったのか」

「…………」


 すい、と朱音の目が逃げる。


「子供か!」

「ぐぎぎぎ……」


 朱音は悔しげに顔を歪ませた。


 まさかたった1組の冒険家の発注に、朱音がここまで喜んでいたとは……。

 店の経営は大丈夫だろうか?

 晴輝はどうしようもなく不安を覚えてしまう。


「もう一回最初から。最初からもう一回やり直しなさいよ!」

「何故そんな面倒なことをしなければならんのだ……。いいから、この防具と鞘の金額を言え」

「買ってくれるのね!?」


 値段を聞くと、途端にころっと表情が変わった。


 値段は聞いたが、買うとはまだ言ってないのだが?

 そう内心反論するも、晴輝はほとんどこの防具と鞘の購入を決めていた。

 あとは値段が、晴輝の予算をオーバーしないかどうかだけだ。


 朱音はうっとりした表情で電卓を叩く。

 表情は夢想する麗しの乙女。健全な男性であれば、一目で恋に落ちそうな、甘い熱を帯びている。

 だが、口元の涎のせいで、全てが台無しだ。


「全部で50万ポッキリでいいわよ。内訳は――」

「そんなものか」


 朱音が用意した装備が上位のミドルクラスであったため、晴輝はもっと巨額を請求されるものと思っていた。

 そのため50万と聞かされ、晴輝はやや拍子抜けしてしまった。


「手足装備はメイン武具じゃないもの。高かったら誰も手を出さないでしょう?」

「なるほどな」


 冒険家にとって重要な装備は武器だ。次いで鎧。

 手足防具はさして重要ではなく、手を抜く冒険家が多い。

 もちろん、最前線に向かう冒険家は違うが。


 高いと誰も購入しなくなる。

 購入者がいなければ、商売として成り立たない。

 だから、手足防具の値段は安いのだ。


「それで、アタシが用意した防具はどうよ?」


 カードを翳して会計が終わると、朱音が表情を変えて晴輝に尋ねた。

 彼女の顔は一見すれば不機嫌なものだが、瞳が僅かに揺れ動いている。


 表情では取り繕っているが、朱音は自らが用意した防具を晴輝がどう感じているか、不安なのだろう。


 普通だな、と挑発するのも考えたが、さすがにそれはないなと思い直した。


「素晴らしい。良い仕事だった」


 事実。朱音が用意した手足防具は素晴らしく、オーダーの鞘も文句の付けようがなかった。

 特に手足防具に気力が籠められるのが素晴らしい。


 現時点でどのような運用が出来るかは不明だ。

 だが、これにより冒険に新たな広がりが生まれた。


 適切なタイミングで、適切な防具を晴輝らに提供した。

 朱音の実力は疑いようもなく、これを(いつもの挑発とはいえ)認めなければ、器の小ささを露呈させるだけである。


「……っくぅぅぅ!!」


 晴輝の言葉に、朱音が力一杯両拳を握りしめた。

 よほど嬉しかったのか。

 プルプルと手が震え、目元に涙が浮かんでいる。


 彼女の仕草は、決してオーバーなものではない。


 社会に出ると、どれほど真剣に仕事をこなしても、褒められることはほとんどない。

 何故なら真剣に仕事をすることが、社会では当たり前だからだ。


 100点が当たり前。

 80点だとクレームが入る、そんな世界。


 だから――真剣に仕事をし、自信を持って送り出した商品が評価される。

 これほど仕事人冥利に尽きる結果はないのだ。

 朱音が全身で喜びを表現しても無理はない。


「うふーふふーん。さっすがアタシね! あーアタシってなんて素晴らしい店員なのかしら。もはや神ね、神。神のアタシがこんな田舎くんだりまで出張してお店を開いてることを、アンタはちゃんと感謝しなさいよぉー? むふふ」

「黙れ」


 だからといって増長して良いわけではない。

 晴輝は浮かれた朱音を冷たくあしらった。


「……っと、そうだ! 前に詳細鑑定に出してた、ワーウルフの素材が戻ってきたわよ」


 朱音が口にした素材は、稀少種の取り巻きだった紫色のワーウルフのことである。

 少量の素材であれば問題は無かったが、確保した素材は大量だった。


 いい加減に査定しては、晴輝か朱音のいずれかが被る不利益が膨大になる。


 命が削られるような戦闘を行い、苦労して手に入れた素材だ。多少評価方法が雑でも高く買い取って貰いたい。

 ――それが冒険家の本音である。


 だが朱音がその分不利益を被れば、店が潰れかねない。

 店が潰れて困るのは朱音だけではないのだから、無理は言えない。


 そのため適切な評価額を出すために、詳細鑑定に回すことにしたのだ。


「もうそんなに経ったか……」


 晴輝は感慨深げに息を吐いた。


 車庫のダンジョンで鹿の稀少種が現れてから1ヶ月が経っていた。

 しかし、晴輝の感覚では1ヶ月経ったという感覚はなかった。


 時間を忘れるほど、冒険に夢中だったのだ。

 それこそ、夏休みの小学生のように。


「それで?」

「これが詳細鑑定の結果よ」


 朱音が一枚の封筒を差し出した。

 晴輝は封筒を丁寧に開封して中身を確認する。


 名称:A・変色ワーウルフの牙  種類:牙

    B・変色ワーウルフの毛皮 種類:皮

    C・変色ワーウルフの爪  種類:爪

 等級:唯一級(ユニーク) 品質:並

 詳細:通常種よりも品質が低いため、通常加工では強い武具には向かない――。


「うーん……」


 書かれている鑑定表を見て、晴輝は僅かに肩を落とした。

 この紙を見る限り、変色ワーウルフの素材は通常のワーウルフ素材より劣っていると取れる。


 ならば、買取価格も通常種より低くなるだろう。

 大量の素材を売って一気に大金持ち! という夢が潰えてしまった。


 価格にもよるが、カゲミツに依頼費を支払ったらほとんどお金が残らないなどという事態も発生しかねない。


「それで、全部売却すると幾らになる?」

「買取価格は通常種のものと比べて1,5倍ね」

「い、1,5倍!? 通常種より弱い素材なのにか?」

「確かに弱い素材かもしれないけど、その分面白い素材でもあるのよ?」


 そう言って、朱音はカウンターの下から1本の剣を取り出した。

 その剣には、一菱の武具にはあるはずのロゴマークがなかった。


「この武器は?」

「うちの試作品よ。東京でも同じタイプの魔物の素材が取れたから、試作したものなんだけど、どう思う?」


 尋ねられ、晴輝は刃渡り40センチほどの短剣を手に取った。

 短剣は拒絶することなく、晴輝の手によく馴染んだ。


 鞘から抜くと、真っ白な刀身が顔を覗かせた。

 まるでセラミックのような見た目だが、重量はセラミックよりも重い。


 晴輝が扱えていることから、そこまで高レベルの武器でないことが判る。

 かといって、エントリーほどちゃちくもない。


「俺が装備してるワーウルフの短剣と同等、くらいか?」

「お見事。正確には通常のワーウルフの短剣より性能は低いけど、その代わり特殊性能が発現したのよ」

「特殊性能? ……魔武器と同じか?」

「そうね」

「けど……」


 魔武器には様々な特殊性能が籠もっていると言われている。

 たとえば魔武器の刃溢れのしにくさがその一つだ。


 しかし人が製作した武器で特殊性能など、聞いたことがない。

 晴輝は首を傾げた。


「その短剣は、石の切断能力が付与されているのよ」

「石の切断?」

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