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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
5章 神の気配を宿しても、影の薄さは治らない
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悩みを解決しよう!

すみません、いろいろやってたら、更新を忘れてましたorz

 監禁部屋を出て外の空気を吸い込んでも、ヴァンの心は一切穏やかにはならなかった。


 心が乱れている原因は、空気だ。

 ひっそりと彼の作戦遂行失敗を願っていたが、空気は見事カゲミツから与えられた任務をこなして帰還した。


 それも、ただ任務をこなしたわけじゃない。

 カゲミツの予想を超えるほどの成果を上げて、だ。


 そのことに、ヴァンは大いに動揺した。


 自分よりも、空気のほうがカゲミツの役に立っている。

 カゲミツに期待され、期待された以上の成果を上げている。


 彼の姿は、ヴァンの憧れそのものだった。

 カゲミツの期待に応え、さらに期待以上の成果を出す。そんな光景をヴァンは幾度、夢見たことか……。


 ヴァンとカゲミツは一番長い付き合いだ。

 彼らはこれまで、様々な苦悩を共に過ごしてきた。


 注目を集めることが苦手なカゲミツが、仲間のためにどれほど胃壁をすり減らしているかを、ヴァンはよくよく知っている。


 だからこそ、ヴァンはカゲミツの足を引っ張るような人材にはなりたくなかった。

 カゲミツの役に立って、彼のストレスを少しでも肩代わりしてあげたかった。


 だが現実として、今回の作戦で唯一ヴァンはなんの役にも立っていなかった。


 これまでヴァンは、空気チームの火蓮と同等の立ち位置だった。

 彼女もまた、ダンジョン主討伐メンバーの中でなにも出来なかった一人である。


 ヴァンは彼女の存在があることでどこか安堵していた。

 使えない奴でも、この場に居て良いんだと。


 しかし、先ほど彼女は怒れる吉岡を、その身を張って撃退した。

 女性が――それも未成年の少女が、自らの身を張って男性を退けるなど、男性のヴァンには想像が及ばぬほど勇気が必要であっただろう。


 彼女はさらにその杖で、本部の壁を破壊し力を見せつけた。

 あれはヴァンが初めて見る類いの攻撃だった。


 単純に力が強いわけではないだろう。

 腕力だけならば、攻撃した箇所だけ穴が空く。

 細い杖だけで、まるで巨大な鉄球をぶつけたように、3メートルもの範囲を吹き飛ぶ事など出来るはずがないのだ。


 彼女もまた、開眼能力者であることが予想出来た。


(この中で、俺だけが……)


 ヴァンは火蓮と自分を比べて、戦闘になりさえすれば……と考えていた。

 だが実際戦闘になっても、ヴァンが火蓮にチーム貢献度で勝てるかどうか。


 彼女の杖攻撃の威力を目にした後では、彼女に勝てる自信はほとんどなかった。


 おまけに彼女は18歳だと口にしていた。

 その事実が、ヴァンをさらに驚かせた。

 何故なら彼女は、今年の4月に免許を取ったばかりの冒険家なのだから!


 その若さで、エアリアルと同じ依頼を受けられる実力があるのだ。

 ――たとえそれが、空気のおかげだとしても、だ。


 少なくとも火蓮は、ただ空気について歩いている子供というわけではない。

 それを、ヴァンは驚異的な杖攻撃を目にし、理解した。


(俺の5年間は、一体なんだったんだ……)


 そんな思いが、ヴァンの胸に去来した。


(一体俺は、どうしたらいいんだべか……)


 空は青く澄み渡っているというのに、ヴァンの心にはどんよりとした雲が漂い続けるのだった。


          *


「くそっ、くそっ、くそぉぉぉ!!」


 団長室に戻った吉岡は、顔を真っ赤にして書類棚にある書類を床へとぶちまけた。

 怒りにまかせ、次から次へと書類を床に投げつけていく。


「はぁ……はぁ……!!」


 何故上手く行かなかったのか?

 すべて上手く行っていたはずではなかったのか!?


 吉岡は肩で呼吸をしながら、奥歯を噛みしめる。


 彼の予想では、自衛団の半分が非業の死を遂げるはずだった。

 最悪全滅でも良かった。

 自分という頭が居る限り、そして自分が上手く立ち回れる限り、自衛団は募集され、復活するのだから。


 今回吉岡が自衛団に特攻じみた作戦を命じたのは、自衛団の待遇を改善させるためである。


 函館市の自衛団費予算は、ほとんど人件費にしかならない。

 自衛団は素手で魔物を倒すわけではない。裸一貫でダンジョンに潜るわけじゃない。


 武器と防具を装備せねば、まともにダンジョンを攻略出来ないのだ。

 にも拘わらず、予算はほとんど人件費に消えてしまう。


 どれほど武具が損耗しようと、新しい装備が購入出来ない。

 このままではまたスタンピードが発生した場合、自衛団が機能しなくなってしまう。


 市曰く、自衛団の装備費用はダンジョンを攻略した分でまかなってほしいとのこと。


(そんなはした金で、装備が買えるはずがないだろう!!)


 そう激高し、吉岡は市側に窮状を説明した。

 だが市は首を縦に振らなかった。


 市は、『稼げている冒険家』のデータしか集めていなかったのだ。

 函館山でいくら稼げるかなど知りもしないのだから、吉岡の説明が彼らに届くはずがなかった。


 その状況を打開するために、吉岡は一度自衛団を潰そうと考えた。


 函館を守るために戦ったが、装備の品質が悪くて負けた。

 その筋書きがあれば、『武具を購入するよう要請していたのに、その要請を無視した市』を叩くことが出来る。


 二度と同じ間違いを犯さぬよう、自衛団壊滅の責任を市に取らせ、自衛団費を増額させる。

 たとえ自衛団が半壊しようと全壊しようと、函館という土地が魔物に奪われるよりマシである。


 必要な犠牲と割り切って、吉岡は彼らを死地へと追いやった。


 だというのに、


「何故奴らは死ななかったんだ!!」


 先に戻ってきた団員の報告によれば、けが人はいるものの、死人はゼロということだった。


 驚くべき事に、死者すら出なかった!

 これでは市に予算を要求出来なくなってしまう。


『問題があるなどと口にしていたが、ほれ見たことか』

『現在の予算で十分足りているじゃないか!』

『死ぬ気でやればなんとなるじゃないか』

『苦しいと言いつつ、実は予算のおねだりがしたいだけだったんだろう?』


 そう口にする市議会の面が目に浮かぶ。

 クソったれめ!


 奴らはダンジョンがどれほど危険か、函館が壊滅するまで気づけないだろう。


 だからこその作戦だった。

 完璧な作戦だったはずだ。


 予算を勝ち取るために部下を見殺しにする決心さえ固めていた。

 なのに失敗するとは!

 誠に……由々しき事態である。


「団長。ただいま戻りました」


 一人の男が団長室に入り、敬礼した。

 指揮官の榎本だ。


「貴様ァ……。一体なんてことをしてくれたんだ!!」

「……は!?」


 突然の吉岡の怒号に、榎本が目を丸くした。

 ダンジョン主の稀少種を討伐した後だというのに、彼の佇まいには一切の疲労が感じられない。


 吉岡は作戦が失敗したことで参ってしまっていた。

 反面、彼はピンピンしている。

 それが吉岡の気に障った。


「貴様、冒険家共を閉じ込めておく部屋の鍵を、かけ忘れただろ!!」

「……は? え、いえ。私はしっかり鍵を掛け――」

「嘘をつくなァァ! サっき扉を見たら、鍵が開イてた!! お前がかけ忘れたから、鍵が開イてイたんだろォォ!!」

「し、しかし……」

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェェェ!!」


 体が熱い。頭が白む。

 目眩のように重心が動き、ゆらゆらと全身が揺れる。


 吉岡は、怒りすぎて血が上り、興奮しすぎて酸欠だった。

 だがそうなってもまだ、己の怒りが収まりそうになかった。


 一体この怒りはどこからわき上がってくるのか。

 ふと疑問に思ったが、疑問は即座に怒りに塗り潰されて消えた。


「貴様は、首だァァ!!」

「は!?」

「首だと言ってる。貴様のよウな使えなイぐずは、自衛団になぞ必要なイ。イますぐココから出てイけェェ!!」


 相手の言葉を封じるように、ダムンダムンと吉岡は両手で机を激しく叩く。


 そんな吉岡の姿をどう感じたか。

 榎本は一度礼をし、顔をしかめたまま団長室を後にした。


 吉岡は拳を握りしめ、机の上に強く押しつける。


 榎本が最後に浮かべたあの顔。

 まるで団長である自分を小馬鹿にするような顔だった。


「……許せん」


 おそらく彼は吉岡を、バカだと思っているのだ。

 一体どれほど自衛団のためを思って心を折り続けてきたか、奴にはわからないんだ。

 にも拘わらず、あのような顔をするとは……。


 一体誰が育ててやったと思っているんだ!

 団長である自分を見下し蔑む恩知らずの人間は、今すぐ殺してしまおうか?


「……ソウダ。ソウシヨウ。クァハハハ!」


 決心すると、吉岡の心が一気に楽になった。

 なるほど、初めから殺せばよかったのだ。


 気にくわない奴ら、邪魔な奴らを纏めて殺せば、全てが丸く収まるじゃないか!


「……アア、何故モット早クニ気付カナカッタンダロウ!」


 ドクドクと心臓が熱い血液を送り出す。

 血液が、ドロドロと全身を駆け巡る。

 ダンダン意識が……。

  なく

    なって――。


「誰ダ!?」


 突如部屋の中に現れた影を見て、吉岡は声を上げた。

 現れたのは……小鳥。

 真っ白で、ふわふわした見た目の幼鳥だった。


「……どこから入った?」


 見つめていると、小鳥がこてんと首を傾げた。

 そんな暢気な態度に、吉岡の腹の虫がまた、ムカムカと蠢きだした。


「殺ス」


 散歩に出かけよう、と言うような口調で吉岡は禍々しい言葉を口にした。


 そんな吉岡を前に、小鳥はふわり羽を広げた。

 吉岡の目の前に、白いものが舞い落ちる。


「……羽根?」


 次の瞬間。


「グアァァァア!!」


 吉岡の体が突如地面に叩きつけられた。

 吉岡の内部で、床にたたきつけられた肋骨が折れる音が響いた。


(一体何が起こってるんだ!?)


 吉岡は一瞬にしてパニックに陥った。

 小鳥が羽を広げただけで、吉岡は自らの体が重力に抗えなくなったかのように床に倒れ込んでしまったのだ。

 まるで強烈な磁石に引きよせられるかのように。


 立ち上がろうとしても立ち上がれない。

 全力で腕に力を込めるが、まるで力が入らない。


 立ち上がろうと藻掻いている間にも、吉岡を捕縛する謎の力が強大になっていく。


「グ……ギィ……カァツ!!」


 吉岡はズル、と体の芯から何かが抜き取られるような感覚を覚えた。

 何が起こっているのかも判らぬまま、吉岡の意識は消散したのだった。

いよいよ来週28日に、漫画版「冒険家になろう!」が発売となります!

是非ご購入を、宜しくお願いいたします。m(_ _)m

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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