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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
5章 神の気配を宿しても、影の薄さは治らない
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監禁部屋から抜けだそう!

「……終わったぞ」

「「「「「「――――ッ!?」」」」」」


 仮面を外して監禁部屋に戻った晴輝は、仮面を付けて報告を行……おうとしたのだが、その前に皆が一斉に戦闘モードに入り、晴輝は慌てて両手を上げた。


「……なんだ空気かよ脅かすな」

「いや、全く驚かそうとしてないんだが?」


 ほっと息を吐いたカゲミツに、晴輝は声を震わせた。

 先ほどの自衛団の一件があったおかげで、彼らの反応が胸に深く突き刺さった。


 晴輝はこっそり部屋に入ってきたが、決して誰かを驚かせようとはしていなかった。

 こっそり部屋に入ったのだって、部屋にいるはずの人物が外に出ていたら面倒なことになりそうだと思ったから。当然の行動である。


「そもそも転移したわけじゃないんだ。扉が開かれたことくらい気付いただろ?」

「いや……」


 カゲミツは否定し、しかし言葉が続かない。

 どうやら本当に気付かなかったようだ。


 何故仮面を外すと、あらゆる行動の存在感が消え去ってしまうのか。

 隠密がカンストしたら、晴輝が住んでいるというだけで建物さえも、人の目に留まらなくなるのではないだろうか?

 そんな恐るべき不安がわき上がってくる。


「空気。少し遅すぎるんじゃねえか? ……ってか一人か!?」

「ん? ああ、一人だが……何か問題が?」

「……ええと、あー、ちょっと待ってくれ」


 カゲミツが顔を歪めて額に手を当てた。

 まるで酷い頭痛でも抱えているような態度である。


「色々と聞きたい事はあるが……そうだな。まず、お前は何をした?」


 何をしたとは、ずいぶんな言いようである。

 晴輝は拗ねるように唇を突き出した。


「ダンジョン主を倒してきた」

「「「「「「はぁ!?」」」」」」


 晴輝の言葉で、室内にいる全員の声がハモった。

 一体なにを驚くことがあったのか。


 晴輝は僅かに首を傾げて、


「……あ」


 思い出した。


 晴輝の目的は、エアリアルらと火蓮を開放することか、あるいは自衛団を逃走させるかのいずれかだった。


 カゲミツは晴輝に一言も、『ダンジョン主を倒せ』とは口にしていない。

 つまりゴッコ討伐はカゲミツの作戦にはない、独断だったということ。


 おまけに独断の理由が、『それが最善だったから』ではなく、単に『ゴッコを見て興奮してしまった』から。


(……しまった。なんて言い訳しよう!?)


 晴輝の頭から血液がサァーっと音を立てて急落。

 そんな晴輝の首に、カゲミツの太い腕が回った。


「……きちんと説明してくれるよなあ、空気ィ?」

「はひ……」


 プルプルと震えながら、晴輝はその場に素早く正座し、自衛団との戦いについてさわりを語った。

 勿論、スキルボードを使ったことは伏せている。


「――というわけで、ゴッコの討伐に成功致しました」

「「「「「「……はぁ」」」」」」


 晴輝の説明に、6つのため息が漏れた。

 そのため息に晴輝の身がますます縮こまっていく。


 6人の中で晴輝の話を信じたものは2人――カゲミツと火蓮のみ。残りの4名のため息は疑問が混じっていた。


「……で、唯一種の強さはどんなもんだったんだ?」

「戦闘力そのものは、ワーウルフくらいか。けどワーウルフより攻撃は大味だったな。パターンを見れば攻撃が予測出来るから、中級冒険家だったら対処出来る。だが生命力がずば抜けてた。かなり大きい奴だったから、体当たり攻撃も厄介だった」


 実際攻撃を読み切れなかった自衛団は、トラックに撥ねられたように吹き飛ばされ大けがを負った。


「わ、ワーウルフよか強ぇのかよ……! それでよく自衛団を守れたな。あいつら、中級どころか初級の中堅レベルだったろ?」


 カゲミツの指摘は最もで、実際自衛団のレベルは『ちかほ』でシルバーウルフをギリギリ倒せるかどうか程度だった。


 その自衛団が、亜人のワーウルフと同程度以上の相手をするなど荷が勝ちすぎている。

 実際、彼らのスキルボードを弄らなければ、晴輝が5階に到着する前に自衛団は壊滅させられていたはずだ。


 スキルボードの話は出来ないが、被害を抑えられたタネを明かさなければ、皆は納得しないだろう。

 そう思い、晴輝は口を開く。


「指揮の上手い人がいたんだ」


 事実として榎本の指揮は、自衛団として戦う上で格別の効果を発揮していた。

 なので晴輝はカゲミツの追及を躱すために、榎本にスケープゴートになってもらった。


「たぶんあれは、開眼能力の類いじゃないかと思う。それくらい、巧みな指揮だった」

「……ああ。確かに開眼能力なら、場を持たすことが出来るかもしれんな」

「なるほどー」

「指揮において効果を発揮する能力なのでしょうか」

「かもしれないね。かなり限定的だけど、集団戦(レイド)で著しく効果を発揮するスキルかも」


 エアリアルが思い思いに口を開く。

 その言葉は既に、晴輝の話を信じている前提のものだ。


 良かった、と晴輝はほっと胸をなで下ろす。


「空気、よくやった。お前のおかげで、多くの自衛団の命が救われた。最高の結果だ。それは間違いない。俺らの代わりにダンジョン主と戦ってくれて、ありがとう」


 カゲミツが、普段とは比べものにならないほど真面目な顔で、晴輝に向かって頭を下げた。

 それは頭を下げられた晴輝が思わず背筋を伸ばしてしまうほど、立派な誠意だった。


 晴輝は無言でそれを受け取り、大切に胸に保管した。


 今回の討伐は書面上では、晴輝は一切手を出さなかったことになるかもしれない。

 自衛団だけで倒したとされる可能性がある。

 それでも自衛団の笑顔と、カゲミツの誠意があれば、それ以上は必要なかった。


 何故なら晴輝は、自分の手で命を救うことに執着してはいないから。

 誰が救ったって良いのだ。

 自分が救った命が、たとえ誰かの手柄になろうとも、命が失われなかった事実は変わらない。


 晴輝は名声が欲しいわけじゃない。

 お金が欲しいわけでもない。


 存在感があれば、それだけで良い。


 今回は一瞬とはいえ、自衛団に自らの存在感をしっかりと伝えられた気がした。


 怒られようと、期待外れと思われようと、

 存在感が伝わった。

 その手応えがあるだけで、

 晴輝は十分、冒険して良かったと、頑張って良かったと、

 幸せな気持ちになれるのだった。



 カゲミツらと話をしていると、廊下の向こう側からドタドタと足音を立てて何者かが近づいてきた。


 その人物は扉の前で立ち止まり、ギャーギャー叫びながら扉を開いた。


「何故鍵が開いているんだ!?」


 声を聞いた時、晴輝は『ようやくお出ましか』と思った。

 扉を開いたのは確認するまでもない、吉岡だった。


「貴様ら、勝手に抜け出しやがったな!?」

「おいおいずいぶんじゃねぇかよ。オレらがいつ抜け出したって?」

「しらばくれるな! 鍵が開いてたんだぞ?!」

「俺達はただ休憩してただけだが、鍵が開いてたらなんなんだ? もしかして、鍵を閉めてたのか? 俺達が中から出られないように? まさか函館を守っている自衛団が、冒険家を軟禁したって言いたいのか?」


 カゲミツの言葉で、吉岡が顔を青く変色させて口を噤んだ。

 今回監禁されたのは吉岡の指示で間違いない。


 だが吉岡が影で指示を出したことと、ここで監禁指示を自白したでは、意味合いが大きく変わってくる。


 もし自白すれば、知らぬ存ぜぬ、部下が勝手にやったで通せなくなるのだ。

 それがわかった吉岡は、額に脂汗を浮かべて黙り込んでいる。


「…………ぐ」

「語るに落ちたな。さて、休憩も十分取ったし、そろそろ行くか」

「了解」

「おう」

「あーい」

「はい」


 カゲミツに続いて、エアリアルのメンバーが扉に近づいていく。

 吉岡がその場を死守するように、扉の前で仁王立ちした。

 だがカゲミツが軽く存在感を放つと、彼は青い顔をさらに青くして後ずさった。


 吉岡は自分の体に触れたその瞬間に、公務執行妨害を訴えるつもりだったか。

 しかし、格が違いすぎる。


 そもそも、ダンジョン主を倒したいま、冒険家を拘束しても無意味。

 悪あがきも良いところである。


 晴輝は吉岡の行動に気をつけながらも、監禁部屋を出た。

 その時、


「――い゛い゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」


 口角から泡を飛ばしながら、目を血走らせた吉岡が素手で晴輝につかみかかろうとした。


 即座に晴輝のスイッチが切り替わる。

 意識が集中し、集約し、1秒が永遠に引き延ばされる。


 ――鈍い。

 晴輝の目には、吉岡がコマ送りに見えた。

 実力に差がありすぎるのだ。

 おそらく彼につかまれたところで怪我さえしないだろう。


 避けることは簡単だ。

 だが避けたら避けたで、さらに絡まれそうである。


 さてどうしたものか……。

 うんざりした気持ちで考えていると、晴輝と吉岡のあいだに火蓮が割り込んだ。


「あっ」と思ったが、もう遅い。


 吉岡の手が火蓮に触れた。

 その時、


「……ふふ」


 火蓮が、身も凍るような笑みを浮かべた。

 その笑みに、晴輝のみならず激高したハズの吉岡が気圧された。


 ――ッダァァァン!!


 突如、彼女が手にした杖が廊下の壁を、3メートルほど吹き飛ばしてしまった。

 音に驚いたマァトが、晴輝の肩を離れてピチチと空に舞い上がった。


「行っても……いいですか?」

「……」

「いいですよねぇ?」

「はっ、はいぃ……」


 吉岡はダラダラと脂汗を流しながら、火蓮から視線を背け、「ひいぃ」と声を上げながら逃げるように廊下の端を走り抜けて消えていった。


「さすがは、空気のチームメンバーだな」


 カゲミツが吐き出すように口にした言葉に、深い同情の響きを感じたのは、晴輝の気のせいではないだろう……。

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