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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
5章 神の気配を宿しても、影の薄さは治らない
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EX.聖なる夜に祝福を!

冒険家になろう!2巻の発売まで、あと3日と迫りました!

どうぞ、宜しくお願いいたしますm(_ _)m

 毎年、冬になるとK町は深い雪に覆われる。

 今年も、その例外ではない。


 ダンジョンに除雪機を奪われた晴輝は、今朝も涙を流しながら雪かきに追われていた。


「除雪機があれば楽なのに……」


 しかし、除雪機はダンジョンの中。

 新たな除雪機を購入出来る見込みは、今のところなかった。


 家の中ではレアとエスタが、薪ストーブの前で暖を取っていた。

 レアはレア用に製作したホワイトボアローブを身に纏い、ストーブの前で震えている。

 エスタは毛布にくるまって、ストーブの横で眠っていた。


 二人とも、夏に比べてほとんど動かなくなっていた。

 それも無理はない。レアもエスタも、冬の寒さに弱いのだ。


 夏は、歩けるようになったレアが晴輝の部屋に度々侵入したり、エスタが窓の外で動き回っていたり(夜になると窓の明かりに誘われた虫たちが集まってくるので、恰好の餌場となっていた)、一人で居ても晴輝の傍に、レアやエスタの姿がいつもあった。


 だがいまは違う。

 冬になってから、晴輝は一人でいる時間が多くなった。


 部屋が寒いのは、きっと気温のせいだけではないはずだ。



 休耕地が雪で平らになり、その上を地吹雪が舞い上がる。

 太陽に反射してキラキラと輝く雪のカーテンが、ゆったりと波打ちながら平野を駆け抜けていった。


 そんな中、一人の少女が晴輝の家を訪れた。

 パーティメンバーの火蓮だ。


「こんにちは。空星さん、良いものが手に入ったので持ってきました!」


 火蓮はポシェットを開いて、中から白い固まりを取りだした。

 それは――、


「餅、だとっ!? 火蓮、一体どこから手に入れてきたんだ!!」

「えへへぇ。実はホテルで仲良くなった支配人が、年越し用にプレゼントしてくれたんです」

「おお! 良かったな、火蓮」

「はい! 折角なんで、その……空星さんと、い、一緒に食べようと思いまして」

「なんだか悪いな。ささ、中に上がってくれ」


 晴輝は受け取った餅を、「雑煮~みたらし、あんころ、きなこ~」などとぶつぶつ歌いながら台所に運び込む。

 そんな晴輝の様子を見て、火蓮は少しだけ唇を尖らせた。


 火蓮はコートから雪を払って中に入り、レアの横にちょこんと腰を下ろす。

『ちょっと、纏った空気が冷たいんだけど。こっちにこないでよ』とレアが鈍い動きでシッシッと手を振った。


 そんなレアに、火蓮が悪戯な笑みを浮かべた。

 彼女は素早く動き、かじかんだ手でレアに触れた。

 火蓮の襲撃を受けたレアが、『にゃぁぁ!』と体を震わせた。


 その横で、エスタが僅かに触角を動かし……自分の好物がないことを悟ったのだろう、再びまったりと眠りに就いた。


 晴輝が餅を切り分けている時、再びインターフォンがなった。

 玄関の扉を開くと、その向こう側で朱音が満面の笑みを浮かべていた。


 彼女は白いファーの着いた、真っ赤な帽子とローブを身に纏っている。


「……サンタのコスプレか?」

「ちっがうわよ! 天使の朱音さんよ」

「そうか。じゃあな」

「ちょ、まって、扉を閉めないで! アハーッハハァーン!!」


 扉を閉めようとすると、ドアノブにしがみついて泣き出した。

 一体この女はなにをしにきたんだ……。


「なんの用だ?」

「今日はね――じゃじゃーん! こんなものを仕入れてきたのよ!」


 彼女は鞄の中から、セルフ効果音付きで四合瓶を取り出した。

 瓶のラベルには『北の錦』と書かれている。

 それは地元酒造の名前だった。


「日本酒じゃないか! どうしたんだ!?」

「数量限定で売ってるのを買ってきたのよ」


 日本酒は寒造が主流である。

 彼女が清酒を手に入れられたのは、丁度新酒を蔵出ししたタイミングで酒造に駆けつけたからだろう。


「さ、お酒を運んできた天使で女神でキュートでビューティーなアタシを、さっさと中に入れなさいよぉ寒いんだから」

「ああ、わかった。酒は有り難く受け取ろう」

「ちょ、まっ、お酒だけじゃなくて、アタシも中に入れてよぉ!!」


 いつまでも寒い玄関で立ち往生していたくはない。

 晴輝は朱音を(仕方なく)家の中に通した。


 朱音を家に通して少しすると、再びインターフォンが鳴った。


 今度は誰だろう?

 晴輝が扉を開けると一瞬、外のまぶしさに目が眩んだ。


「うーっす」

「カゲミツさん!」


 そこには、北海道で最も存在感の強い男。カゲミツが居た。

 目が眩んだのは外の明かりではなく、彼の存在感だったようだ。


「久しぶりだな。今日はどうしたんだ?」

「今年は俺だけじゃなく、仲間も色々と世話になったからな。そのお礼に、シャケ獲ってきたぞシャケ」

「はわわッ!?」


 カゲミツが逆さづりにしたシャケに、チェプが敏感に反応。火蓮のポケットがブルブルと震えた。


 寒かった部屋が、人が増えたことで一気に暖まる。

 音がなかった家に音が溢れ、笑いが溢れ、泣き声が響く。


 そんな温もりと音を感じながら、晴輝は餅を調理した。


 今日の料理はシンプルに焼き餅。付け合わせにズンダ餡と、砂糖醤油を用意した。

 それと、カゲミツが用意した鮭で石狩鍋。ジャガイモにタマネギと、木寅さんに頂いた人参を入れて、味噌味を付けた。


 それらをテーブルに並べ、酒をつぐ。

 火蓮も物欲しそうに見ていたが、まだ未成年だ。

 もちろん、火蓮にお酒は当たらない。果汁100%のメロンジュースで乾杯だ。


 みんなで鮭鍋をつつきながら、餅を食べて、日本酒を飲んで……。

 気がつくと、それまであまり身動きを取らなかったレアとエスタも、晴輝らの宴会に参加していた。


 こんな時間は、いついらいだろう?

 第一次スタンピードから、ずっと晴輝は一人だった。

 一人が当たり前だった。寂しくないと、思ってた。


 けれどこうして皆が集まると、やはり賑やかな方が良いな、と思う。


 四合瓶が空いた頃。

 お酒が回ったカゲミツと朱音の目に映らなくなった晴輝は、涙を流しながら一人寂しく皿洗いを行うのだった。


 その涙だって、きっとどこか、温かい。

 こうした思い出がいつか、素敵な思い出の1ページに、なるのかもしれない。


 いや、いつか素敵な思い出として、思い出せる日になるように……。

 これからも、全力で冒険を行おう。

 そう、晴輝は心に誓ったのだった。

メリークリスマス&ハッピーニューイヤー!


番外編にも拘わらず、重要な伏線があったり、設定開示がある回でした。

(伏線は6章にならないと回収されません……)


さて、「冒険家になろう!」2巻のお知らせです。


活動報告にも書きましたが、2巻はWEB版と比べて4万字以上修正・新規執筆・書き下ろしとなっております。

WEB版にはないシーンも盛りだくさん!

さらに、具体的な設定開示(伏線の回収)、描写の拡充をしております。


そして、萩鵜完全監修!(口出ししすぎただけとも言う)

『仮面さん(本気モード)』も遂にビジュアル化!


修正につぐ修正でTEDDYさんにはご迷惑をおかけしましたが、おかげ様でイメージ通りに仕上がりました!


さらには1巻のご購入者から頂きましたご意見を、ほぼ100%フィードバックいたしました。

編集さん、TEDDYさんだけでなく、デザイナーさんにも無理をさせてしまいました……。


その甲斐あって、パッと見ただけで「これはWEBとは違う!」と感じて頂ける本となりました。


今後「冒険家になろう!」を末永く続けて行くためには、なによりも売り上げが大切でございます。

私が出来ることは、たとえどんなことであれ、すべて行いました。


ですのでどうか、書籍版購入のご協力を宜しくお願いいたします。m(_ _)m

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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