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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
4章 派手に暴れ回っても、影の薄さは治らない
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新しい機能を試してみよう!

≪ダンジョンコアよりエネルギィを吸収しました≫

≪条件を達成しました≫

≪条件達成によりデモ・グラフ機能の解放を申請――承認≫

≪アイテム強化機能が解放されました≫


 このログが事実であれば、晴輝が触れたステージはダンジョンコアということになる。


 ダンジョンコア――ダンジョンを構成する核だ。

『なろう』掲示板では、ダンジョンのいずこかにこのコアが存在すると言われ続けられている。

 コアはダンジョンを維持するだけのエネルギィが蓄えられた、宝石のような石であると……。


 いまだに発見されないことから、現在ではダンジョンにコアがないという考え方が広まりつつあるところだ。


 しかしまさか本当にコアがあったとは。

 そしてこんなみすぼらしいステージがダンジョンコアだったとは、晴輝は思いも寄らなかった。


 しかし仮にログが事実だとして、最下層に潜った冒険家たちが誰一人見つけられないのも頷ける。

 晴輝もダンジョンコアはもっと煌びやかな見栄えだと思っていたほどだ。

 どんな冒険家でも、ただの石のステージがダンジョンコアだとは思うまい。


 続いて≪エネルギィを吸収しました≫という文言。

 これは、ステージが色を変化させたことと関係しているのだろう。


 明るい側にはエネルギィが蓄積されていて、暗い方がエネルギィを失った側だ。

 そうしてダンジョンコアのエネルギィが流入したせいで、条件を達成したと。


 そこで、はっ! と晴輝は息を飲んだ。

 あれ。

 やっぱりこれ、俺が悪いんじゃ……。


「空星さん、どうしたんですか?」

「いや……あー……うん」


 晴輝はダラダラと脂汗を流す。

 その様子に、火蓮の目がだんだんと冷えていく。


 あー、やっぱり犯人は空星さんだったんですねーと。

 ほらー、私が言った通りじゃないですかー、と。


「それで、空星さんはいったいどんなことをしでかしたんですか?」

「ぐっ……。ど、どうやらこのステージ、ダンジョンコアだったみたいだ」

「……え? ダンジョンコアって、あのダンジョンコアですか!?」

「ああ」

「けど、ダンジョンコアは今まで誰も見つけたことがなくて……いえ、ここってもうクリア済みでしたっけ? だったら皆が見てるはずで……」

「誰が見ても、コレがダンジョンコアだって気づかないだろ?」

「そうですけど……。本当に気づけないものなんでしょうか?」


 火蓮が怪訝な表情を浮かべてダンジョンコアを眺めた。

 何を考えたか、火蓮がコアに近づいて手を乗せた。


「……あれ?」

「変化しないな」


 コアに火蓮が触れても、一切色に変化はなかった。

 それを見て、今度は晴輝がコアに触れる。


「おうっ!」


 色が変化し、晴輝は素早く手を引いた。


≪ダンジョンコアよりエネルギィを吸収しました≫


 ログにはばっちり、エネルギィの吸収が記載されている。


「空星さんじゃないと反応しないですね」

「……ああ。しかし、なるほど」


 どうやらこのコアは、スキルボードを持っている人物にしか反応しないようだ。

 あるいは、このスキルボードがダンジョンコアからエネルギィを吸い取る能力があるのか。


 いずれにせよ、ボードがキーアイテムになっているのは間違いない。


「このコアのエネルギィを全部抜いたら、どうなるんでしょうか?」

「掲示板だと、ダンジョンが枯れるっていうのが主流だったな」


 他にはコアを壊した途端にダンジョンが崩れ落ちるという意見もあった。

 エネルギィを全て抜いた瞬間に、ダンジョンが崩れ落ちるなんて悪夢である。


 もしかしたら、世界から初めてダンジョンを消せるかもしれない!

 そんな期待とは裏腹に、ダンジョン崩落への不安が頭を過ぎる。


「……どうする?」

「せっかくですし、全部エネルギィを抜いてみたらどうですか?」

「崩れたらどうする?」

「全力で脱出です!」


 目に光を宿した火蓮が拳を握りしめる。

 どうやら彼女はインディ・ジョーンズ的脱出劇に不安はないようだ。


 確かに幸運スキルがあれば、生き延びる可能性は高いのだろうが……。


「ふぅ……」


 晴輝はひとしきり悩み、意を決してダンジョンコアに手を置いた。


 コアからどんどん色が失われていく。

 その失われ方は、まるでステージ内部に灯った光が抜け落ちていくかのようだった。


 最後のねずみ色一欠片が、ステージから失われる。

 そのとき、ふぅっとステージから光が飛び出して晴輝の胸に接触。

 弾けた光が晴輝の胸に吸い寄せられるように溶け込んでいった。


 ステージの全てが黒色へと変化した。

 即座に晴輝と火蓮が身構える。


 もしダンジョンが崩落するなら、変化はすぐだ。

 5秒。10秒。

 じっと息を潜めて、変化を警戒する。


 20秒、30秒。

 しかしダンジョン内部には、一切の変化が起こらない。


「……なにもないな」

「……ですね」


 晴輝と火蓮は互いに頷いて、僅かに緊張感を緩めた。

 まだ、完全に油断は出来ないが、すぐに崩落する心配はなさそうだ。


 晴輝は再びスキルボードを取り出した。


≪ダンジョンコアよりエネルギィが流入しました≫

≪コアのエネルギィを全て吸収しました≫

≪コアが一時的に活動を停止させました≫

≪次回スタンピード発生時期が後退しました≫


「…………これは」


 晴輝はログに何度も目を通し、一気に脱力した。


「空星さん、なにかわかりましたか?」

「ああ。ダンジョンは崩壊しない。コアが休眠状態になっただけだ。……どうやらこのコアが、スタンピードの発生に関わってたみたいだ」

「へ?」


 火蓮が奇妙な声を上げた。

 語尾は疑問形だが、晴輝の言葉を理解していないわけではない。

 その証拠に、目はまん丸に見開かれている。


「スタンピードって、ダンジョンコアが引き起こしてたんですか!?」

「ログを解釈するならな。だがこのログ、ちょっと言葉足らずなんだよ」


 もう少し説明を付け加えてもらいたい。

 ログの文言だけでは解釈の幅が広くて断定出来ないのだ。


「ログに≪コアが一時的に活動を停止した≫って出た。これは俺がエネルギィをすべて吸収したからだ」

「一時的に停止……なんですね」


 火蓮が眉を落とした。

 そこは、確かに晴輝も残念でならない。


 一時的ということは、いつかまた復活するということだ。

 それがいつになるか、ログにも載っていない。


 また活動停止もなにを指しているのか曖昧である。

 このログからでは、ダンジョンの活動なのか、スタンピードを発生させる活動なのかが読み取れない。


「エネルギィを奪って活動を停止させたことで、≪次のスタンピード発生時期が後退≫したって出たから、もしかしたらスタンピードを発生させるのに、ダンジョンコアのエネルギィが使われていたのかもしれないな」

「スタンピードはたくさんの魔物が一気に生まれて、ダンジョンからあふれ出す現象ですもんね」


 大量の魔物を生み出すのにエネルギィが使われるのだとすると、晴輝の考えはあながち外れてはいないはずだ。


「スタンピードを発生させないためには、空星さんがエネルギィを吸い取る必要があると」

「そうとも言えるが……」


 しかしそう口にしてしまうと、晴輝が持つスキルボードの凶悪さに浮き彫りになる。


 人の才能を開花させたり、スキルやツリーを強化したり、おまけにスタンピードを抑制も出来る。


 もしスタンピードの抑制さえも出来ると知られれば、ダンジョンコアがあるだろう最下層まで到達しているダンジョンの、周辺に住まう住民と冒険家から、一斉に請願という名の脅迫を受けるに違いない。


 人助けは構わない。

 スタンピードが起こらないことで、多くの人が救われるのだから。


 しかし、晴輝の力だけでダンジョンを回りきれなくなったとき、いままで晴輝に救われてきた人たちは、簡単に手の平を裏返す。


『なんでうちのダンジョンを攻略してくれないんだ!』『あんたはうちを助けてくれないのか!』『俺たちが死ねば良いと思ってんのか!』『人でなし!』『差別主義者め!』『ぶっ殺してやる!!』


 これはもはや、一個人の手に負えるアイテムではない。


 とはいえ、スキルボードを誰かに譲渡する方法は不明。

 スキルボードから一定距離を空けると晴輝の胸の中に戻ってくる。誰かに手渡したとして、その人から離れただけで晴輝の中に舞い戻ってしまう。


 となると、最終手段として残っているのが――殺して奪う、だ。


「ますます、スキルボードを口外出来なくなったな」

「ですね……」


 ずぅぅん、と晴輝と火蓮が沈み込む。

 スキルボードの存在が明るみに出れば、晴輝は永遠に命を付け狙われるだろう。


「……いざとなったら、隠密をカンストまで強化して――」

「ダメです空星さん! 自分から希望を捨てるんですか!? 誰からも見えなくなったらどうするんですか!!」

「しかし、そうするしか手はッ――」

「どれほどちっぽけでも、最後まで存在感(きぼう)を捨ててはいけません!!」

「…………っく!」


 火蓮の言う通りだ。

 晴輝は目に浮かんだ涙を拭う。


 どれほど“ちっぽけな存在感”でも――ん、あれ??


 ――なんか俺、火蓮にディスられてる?

 晴輝がじとっとした目で火蓮を見る。


 ディスったとおぼしき当の本人からは、まるで悪意が感じられない。


 もしこれが、悪意なくぽろっと溢れた本音なのだとしたら……。

 ――いやいや、穿ち過ぎだ。

 そんな悲しすぎる本音(しんじつ)が、あるはずがないではないか!


 どうやら晴輝はスキルボードがあまりに強化されて、少々ナイーブになってたらしい。

 脳裡に浮かんだ憶測に、心がうっかりへし折られるところだった。


 溢れ出る涙を拭い、晴輝は頭を振って思考を切り替える。


 スキルボードの能力がいささか強化されてしまったが、これからも晴輝はやることは変わらない。


 人助けは、自分の手の届く範囲だけで。

 その代わり、手が届く範囲は全力で。


 一番大切なのは、晴輝が目立つこと。

 そして一人前の存在感を手に入れるのだ!


「……っと、最後に一番大切な、新機能確認だ!」


 暗い雰囲気を振り払うように、晴輝は明るく声を出してボードをタップする。

 スワイプして新機能【アイテム強化】のページを表示する。


「ええと……これはなんだ?」


 晴輝が想像したアイテム強化は、手にしているアイテムを文字通り強化していく機能だった。

 晴輝の考えに、大きな間違いはないのだろう。

 違いがあるとすれば、


【アイテム強化】

【強化ポイント】3089pt

 小石0

 小石0

 小石0

 小石0

 小石0

 …………

 ……


 アイテム強化に表示されたアイテムが、石ばかりだということだ。

 どうやらボードは、晴輝の周囲にあるものをまるごと認識しているらしい。


 試しに晴輝は1歩ずつ移動する。

 10歩ほど横に移動したところで、新たに『暗黒巨木の枝』が新しく表示された。


 辺りを見回すと、晴輝は足下に落ちた枝を発見した。

「認識範囲は、割と狭いな」


 晴輝から枝までの距離は3メートル程。

 これ以上広いと強化する気もないゴミの表示が膨大になってしまう。


 元の位置まで戻った晴輝は、続いて小石ばかり並ぶページを下にスワイプしていく。


 スワイプしてもしても小石小石小石……。

 もはやアイテム強化ではなく小石強化ではないか?

 晴輝が諦めかけたそのとき、


「……おっ!」


 小石以外のアイテムを発見した。


【アイテム強化】

【強化ポイント】3089pt

 コッコの羽根輪0

 ジャガイモ石0

 ジャガイモ石0

 ジャガイモ石0

 ジャガイモ石0

 ジャガイモ石0

 ジャガイモ石0


 コッコの羽根輪は、晴輝が付けている首飾りだ。

 ジャガイモ石はいわずもがない。


 現時点で確認出来たアイテムは、レアが入っているプランターと、晴輝のシルバーウルフの短剣のみ。

 晴輝らが装備している武具は、まだ見つかっていない。


「もしかして、一定以上のレベルのアイテムは強化出来ないのか?」


 晴輝の装備が出現してもすべて表示されないので、その可能性は十分ある。

 ただ、ボードの等級が上昇すると強化出来るようになるのか、はたまた等級が上昇しても強化出来ないのかは、現状では確認しようがない。

 いずれ、再び等級が上昇するときまで判断はお預けだ。


 現在装備しているメイン武具が強化出来たら、すごく楽だったのに……。

 強化出来るアイテムが低レベルなものばかりで、晴輝は少々落胆した。


 気を取り直して、晴輝はひとまず一番わかりやすいコッコの羽根輪をタップする。


『コッコの羽根輪を強化しますか?』

『強化値0/3』

『強化必要ポイント50pt』

『Y/N』


 羽根輪は装備しても、変化が体感しにくい装備だった。

 これが強化でどう変化するか……。


(もしかして、強化したら一気にハイエンド・アクセサリレベルになってしまうんじゃ!?)


 強化ポイントさえあればタダでハイエンドが手に入る。

 その高揚感に晴輝の心拍数が上がっていく。


「ふぅ……ふぅ……」


 晴輝は胸の高鳴りを抑えながら、力強く『Y』を押した。


 2段階目が100ポイント。3段階目が150ポイント。

 そしてマックスで200ポイント。


 合計500ポイントを費やし、高揚感がもたらした勢いのまま、晴輝は羽根輪を一気にマックスまで強化した。


 強化した羽根輪が変化しているのだろう。

 首元が僅かに光り、熱を帯びる。


「――どうだ!?」

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