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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
4章 派手に暴れ回っても、影の薄さは治らない
102/166

道民の魂の食材を堪能しよう!

「冒険家になろう!~スキルボードでダンジョン攻略~」

発売まであと1日!!

 折角の羊肉が手に入ったため、本日の探索は終了となった。


 なんせ北海道の魂的食材こと羊肉が手に入ったのだ。

 これを鮮度の高いうちに堪能しないわけにはいかなかった。


 羊は全部で101頭。

 余すところなく詰め込んだため、マジックバッグが満タンになってしまった。

(バッグが満タンになったせいで帰還を余儀なくされたとも言うが)


 食べきれない分を持っていても、ダメにするだけだ。

 自分達用に1頭分を残し、他の羊肉は全て買取店で販売した。


 美味しそうな羊肉を前にして感極まったのか。

 買取店の店員が震えながら涙を浮かべていた。


 残った1頭分を旅館に運び込み、調理を依頼した。

 ダンジョンで取れた羊肉はなかなか値段が下がらないため、ホテルではあまり扱う機会がないらしい。

 晴輝が羊肉を渡すと、女将と料理長が大層喜んでいた。


 今夜は晴輝念願の、良質な食事だった。


 運び込まれた料理はまず、生ラムの炭火焼きから。

 黄金色に変化した肉から、油がじわっと溶け出している。


「「頂きます!」」


 頂いた命に感謝を述べて、晴輝らは早速ラム肉を口に運んだ。


「んーーーまいっ!!」

「~~~~~ッ!」


 晴輝は叫び、火蓮が表情を綻ばせる。


 ラム肉を口にした途端に、口の中にラムの脂身が溶けだした。

 ラムの香りと同時に、炭火の香ばしさも広がっていく。

 その甘さに、口の中が幸福に包まれる。


 肉を咀嚼すればするほど、強いうま味がにじみ出してくる。


 ラム肉はマトンと違って臭いが少ない。

 それでも、道外の人にとっては馴染みがない臭いなため、臭くて食べられない人もいるという。


 なにを馬鹿な……と晴輝は思う。

 この臭いこそが羊のうま味本体なのだ! と。


「火蓮さん、今日はビールを1杯注文してもよろしいでしょうか?」

「許可しましょう」

「ひゃっふう!!」


 晴輝は嬉嬉としてメニュ表から、ジョッキビールを注文した。


 やはり、ラム肉といえばビールである。

 晴輝はラム肉を食らい、ジョッキビールに口を付けた。


「――っくぅぅぅ!!」


 染みる!

 晴輝は目に涙を浮かべた。

 ラムとビールは、やはり至高の組合せだった。


「んまいッ!!」

「そんなにですか?」


 火蓮の瞳が、ビールに固定されている。ラム肉とビールの組合せに興味があるのかもしれない。

 しかし彼女はまだ未成年である。


 お酒は二十歳から!

 炭酸飲料で我慢しなさい。


 続いて晴輝は、もやしが沢山乗せられたプレートに味つきラム肉を乗せる。

 ジュッと鉄板に触れたジンギスカンのタレが、湯気と共にかぐわしい芳香を放った。

 胃袋が騒ぎたてるその匂いに、晴輝はゴクリと喉を鳴らす。


 火が通ったら肉ともやしを掴んでご飯の上へ。

 米は中札内ダンジョン産。晴輝らが羊をまるまる差し入れたので、料理長がお返しにと特別に用意してくれた。


 白米をすくい上げ、晴輝は一気に肉ともやしごとご飯をかっこんだ。


「んー!!」


 ジンギスカンのタレと、肉の脂が染みこんだ米の美味さに、晴輝は危うく失神しそうになった。


 ジンギスカンのタレの味が染みこんだ肉に、肉から出たうま味が染みこんだもやし。

 それらをより良く引き立てる白米の存在感。

 まさに最強の組合せだ。


(この味が、恋しかった……)


 二週間以上、ダンジョン食を口にしていなかった晴輝らの目からは、先ほどからぽろぽろと涙がこぼれ落ち続けている。


 晴輝は涙を拭いながら手を止めることなく、次々とジンギスカンを消化していく。

 火蓮は流れ落ちる涙もそのままに、無言でジンギスカンを貪った。


 晴輝の横でエスタが、タオルに隠れながらラム肉を頬張る。よほど美味しいのだろう、プリプリお尻を振っている。

 お尻を振る度にまくれ上がるタオルを、レアが「もう!」とお姉さん顔でかけ直している。


 まるで一家団欒の食事のようだ。

 晴輝はほっこりする。


 前の座席の火蓮は、マジックバッグにラム肉を運んでいる。

 中に居るのはチェプだ。

 バッグの中から「んふー!!」と食の感動を表す吐息が聞こえてくる。


 何故一番働いてない奴が食べているのか?

 このタダ飯食らいめ……。

 晴輝は内心舌打ちをした。


 用意されたラム肉料理が尽きるのは、あっという間だった。


「生きててよかったあ……」

「ほんとですね……」


 晴輝と火蓮はめいっぱいラム肉を堪能し、感動の涙を流し、いまある生に感謝した。

 提供された料理すべてを平らげた二人は手を合わせ、調理してくれた料理人と、頂いた命に感謝の念を捧げるのだった。


「「ごちそうさまでした!!」」


          *


【天国か】ガチャ玉の中身を方向するスレ 61【地獄か】


769 名前:レアアイテムが当たらない名無し

 ダンジョンで手に入ったカプセル開いたら

 なんか持てない武器が出てきたんだが?

 これがガチャ玉ってのでいいのか?


770 名前:レアアイテムが当たらない名無し

 >>769

 詳しく!!


771 名前:レアアイテムが当たらない名無し

 >>1にあるテンプレ通りに詳細報告よろ


772 名前:レアアイテムが当たらない名無し

 了解


【ランク】中級冒険家

【ドロップ地】新潟南魚沼ダンジョン中層

【カプセルの特徴】拳サイズで半分が赤のもう半分が白

【ガチャから出たアイテム】大剣(未鑑定)


 メイン武器が大剣なんだが

 店に並んでるハイエンドシリーズ以外持てない大剣は初めて

 開封時にカプセルよりデカいサイズの大剣が出たからびびったし


773 名前:レアアイテムが当たらない名無し

 中級冒険家がメイン武器で装備出来ないとなると

 暫定だがSSRっぽいな・・・


774 名前:レアアイテムが当たらない名無し

 >>773

 大当たりじゃねーかよ! クソ裏山!!


775 名前:レアアイテムが当たらない名無し

 謝れ!

 一千万円分買い込んで全開封してエントリーモデルレベル程度しか出なかった

 俺に謝れ!!


776 名前:レアアイテムが当たらない名無し

 無知なふりして自慢とか

 マジで○ねばいいのに


777 名前:レアアイテムが当たらない名無し

 まーた嘘報告の自慢合戦かよ

 かまってちゃんだからほっとけ


778 名前:レアアイテムが当たらない名無し

 誰か>>775の心を癒やしてあげてくれ

 大爆死でさらにスルーは不憫すぎる・・・


779 名前:レアアイテムが当たらない名無し

 いやマジなんだが

 質問に来ただけなのになんでメタクソに言われなきゃいけないんだよ・・・


780 名前:レアアイテムが当たらない名無し

 >>779

 これはレアアイテムを引き当てた相手に対する

 低レアしか引き当てられない幸運度クソ雑魚なめくじ達の嫉妬口撃だ

 高レア税だと思って諦めろ


781 名前:レアアイテムが当たらない名無し

 久々のSSR報告で荒れてんなー

 殺伐とするのは仕方ねーが

 リアルでは自重しろよ?

 殺伐がネタで終わるのは掲示板だけだからな


          *


 翌日、晴輝らは支配人と女将に笑顔で見送られながらダンジョンに向かった。


 本日は7階からのスタートとなるが、晴輝はまっすぐ下階に進む予定だ。

 宿にはまだ沢山の羊肉が余っているし、買取店にも大量に供給をしている。これ以上、羊肉を集める必要はない。


 7階に降り立ち、晴輝はたいまつを掲げて8階を目指した。

 羊狩りに精を出さないおかげで、昼前には8階への階段が見つかった。


 ボスの居ない部屋を抜けて8階へ。

 ゲートをアクティベートして、奥に進む。


 8階に現れたのは、色の濃いシルバーウルフだった。

『ちかほ』の7階に登場するものとレベルは同程度。

 晴輝らの敵ではない。


 ここまで、対羊戦以外のほとんどの戦闘を火蓮とレアのみで行っている。

 メインアタッカーは火蓮。サブアタッカーがレアだ。


 一人でも対処可能なレベルの魔物を相手に、火蓮が魔法杖攻撃の訓練を行う。

 火蓮が一度に対処出来ない数の魔物が現れたら、レアが魔物の数を減らした。


 ここまでの戦闘で、火蓮は自らの魔法杖攻撃の威力をかなり抑えられるようになっていた。


 杖攻撃の際に火蓮は杖に魔力を込めている。

 その魔力量によって威力が上下するようだ。


 とはいえ、現時点でも完璧にコントロールしているわけではない。

 時々、火蓮は魔物の頭を派手に吹き飛ばしてしまい嗚咽を漏らしている。


 火蓮の魔力操作スキルのレベルは5だ。

 さらに魔力ツリーの強化を1段階行っている。


 にもかかわらず、ここまでコントロールに時間がかかっているのは、魔法杖攻撃に関連しているのが魔力ツリーだけではないからか。


 杖を扱うスキル――火蓮の鈍器スキルは1だ。

 おそらく、このスキルレベルの低さがネックになっているのだろうと晴輝は予測している。


(スキルレベルが1だから、ポイントを使って上昇させるのはもったいないよな……)


 スキルレベルは低いうちだと上昇しやすい。

 得られるスキルポイントが少ない以上、上がりやすいレベル帯のスキルにポイントを振れるほどの余裕はない。


 現時点で火蓮のスキルポイント残はゼロ。

 新たにポイントを手に入れる最も手近な方法は16階に到達することだ。

 しかし16階に到達して得られたポイントを、鈍器スキルのレベル1から2に上昇させるために使うなど、1ポイント分の価値が釣り合わない。


 おまけに現在、晴輝のスキルボードはツリーも強化出来るようになった。

 いずれ上がるだろうスキルを強化するより、訓練しても上がらないだろうツリーの強化にポイントを割り振った方が効率的だ。


 スキル振りに関して、晴輝はいままで以上に慎重になっていた。

 ポイントがあまり入手出来ないのに、ポイント振りの選択肢が増えてしまったからだ。

 慎重になるのも仕方が無い。


 自力でレベルアップ出来るなら、それに越したことはない。

 晴輝はスキル振りの選択肢を頭から追いやって、火蓮の努力を見守るのだった。



 9階もシルバーウルフが登場した。

 こちらは『ちかほ』の8階と同程度の強さだ。

 一度に出現する数は4・5匹と『ちかほ』よりも少し多い。


『神居古潭』は全10階編成だが、ノーマルモンスターが出現するのは9階まで。

 10階はダンジョン主しか登場しない。


 通常戦闘が最後の階層となる9階に降り立った晴輝は、一体どんな魔物が出現するのだろうとワクワクした。


 しかし、出現したのはシルバーウルフ。

 実にがっかりだ。


「面白くないなあ」

「ダンジョンに面白さを求めるのは間違ってるんじゃないでしょうか……」

「うーん」


 火蓮の真面目な突っ込みに、晴輝は首を傾げた。


「俺はダンジョンに面白さを求めてるんだが……」

「それは空星さんだけじゃないですか?」

「じゃあ他の冒険家って、一体なにを楽しみにダンジョンに潜ってるんだ?」

「……日本を救うためですよね?」


 本質を忘れちゃいけませんよ? と火蓮が睨みを利かせてきた。

 確かに、冒険家がダンジョンに潜ることを許可された一番の理由は、ダンジョン攻略である。


 しかし、男の子は探検や冒険に憧れる。

 晴輝も幼い頃は、冒険ごっこと称して手に棒を持って近くの山に踏み入っていた。


 目的もなく、ただただその状況を楽しみ、棒を振り回しては魔物に見立てた雑草を倒して回った。


 晴輝だけじゃない。

 他の男の子も、晴輝と同じように(形は違えど)様々な冒険ごっこに精を出した。

 実際にダンジョンに潜って魔物と戦うことになるとは、当時の青少年たちは予想だにしなかっただろうが……。


 過去に戻って「お前は将来、ダンジョンに潜って冒険するんだぞ」と伝えたら、きっと子供達は大喜びするに違いない。


 男の子とは、そういう生き物なのだ。

 目的を理解していても、冒険を一番に楽しんだって仕方がない。


 そう、晴輝は心の中で言い訳をしながら、どんどん冷たくなっていく火蓮の視線から逃れるのだった。

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