道民の魂の食材を手に入れよう!
「冒険家になろう!~スキルボードでダンジョン攻略~」
発売まであと2日!!
温泉から上がった晴輝は、ぐったりしながらパソコンを起動した。
ダンジョン『神居古潭』を攻略する上で、木の根対策は絶対に必要だ。
『木の根 息の根 止める方法』で検索をかけると、千件ヒットした。
千件すべてが神居古潭の木の根に関わる記事ではない。『俺は殺し屋と呼ばれる男』や『アナタの息の根を止める方法』など、謎のページも引っかかっている。
その中から『神居古潭』に関係するものだけをピックアップする。
それでも、百件はヒットした。
かのダンジョンを攻略する冒険家は、よほど木の根に対してストレスを感じているらしい。
見るブログ見るブログ、端から端までドロドロとした怨嗟の言葉が書き連ねられていた。
晴輝も木の根の餌食になったばかりだ。
ブログの執筆者に感情移入し、苦労話に涙が浮かんでしまった。
なんとしてでもあの木の根を浄化・滅絶させなくては……。
「……っと、本題を忘れるところだった」
晴輝は我を取り戻し、ダンジョン攻略法を検索する。
冒険家と木の根との戦いには、長い歴史があった。
冒険家達は過去、『神居古潭』の木の根を相手に、様々な戦いを挑んできた。
ある者は強力な除草剤をまき散らし、またある者は木の根全てを切断しようと大剣を振るった。
除草剤はさして効かなかった。
大剣を振るったものは、切っても切っても現れる木の根を殲滅し切ることが出来なかった。
木の根と戦った彼らはその後、しばらく木の根に恨まれてダンジョンから出られなくなった。
そんな涙なくしては語れない戦いの中でついに、冒険家は木の根に効果があるものを割り出した。
それは火。
もちろん、ただの火ではない。
ただの火であれば、初期段階で既に試している。
ある冒険家がたいまつを用いて木の根に接近すると、木の根が冒険家を避けたのだ。
それ以来、『神居古潭』を攻略する冒険家は皆、たいまつを手にしてダンジョンに潜っていったという。
そのたいまつは、ダンジョンで取れた木の根を用いたものだった。
木の根で作ったたいまつを燃やすと、木の根はまるで自らが燃やされているかのように感じて怯えるのではないか? と考えられている。
それはゴミ収集所に吊したカラス人形と同じ。
『お前もこうなるぞ?』と目に見える形で脅すことで、悪戯を回避出来るようになる。
その情報を見て、晴輝は思わず小さく拳を握りしめた。
殲滅出来ないのは残念だが、これであの憎き木の根の妨害とはおさらばだ!
*
【亜人獣人】エルフを抱きしめ隊 4【大歓迎】
1 名前:高貴なエルフに蔑まれ隊名無し
このスレはダンジョンで見つかる亜人・獣人について語らう冒険の書です。
我々の第一目標は、いまだに姿を現さない恥ずかしがり屋さんなエルフちゃんを発見することですが、その他の亜人・獣人の女の子の話題でもオーケィです。
ただし、エルフ原理主義者はお断り。また他人の教義や経典に対し、邪教認定する方もアクセス禁止と致します。
一人一人形の違うエルフ愛を認め合いながら、ダンジョンでエルフちゃんの発見に尽力致しましょう!
2 名前:高貴なエルフに蔑まれ隊名無し
一応報告だが亜人娘を発見したぞ
しかも姫らしい
3 名前:高貴なエルフに蔑まれ隊名無し
>>1 冒険の書作成おつ
>>2 まじか!? くわしく!!
4 名前:高貴なエルフに蔑まれ隊名無し
きたぁぁぁ!!
語尾はのじゃ?
一人称はわらわがベスト!
5 名前:高貴なエルフに蔑まれ隊名無し
高慢な性格でおなしゃす!!
6 名前:高貴なエルフに蔑まれ隊名無し
30センチくらいの鮭の魚人
人魚じゃないぞ。魚人だからな?
7 名前:高貴なエルフに蔑まれ隊名無し
はい解散
8 名前:高貴なエルフに蔑まれ隊名無し
>>2 無能
9 名前:高貴なエルフに蔑まれ隊名無し
くっそ期待させやがって
俺の夢と希望を返せ!
10 名前:高貴なエルフに蔑まれ隊名無し
>>2 は全亜人娘スキーの期待を裏切ったのだ
しばらく亜人娘とイチャラブする夢が見られると思うなよ?
11 名前:高貴なエルフに蔑まれ隊名無し
>>10 さっそく夢に出てきたんだがな
姫と称した魚人に迫られる夢な
まあ、悪夢だ・・・
12 名前:高貴なエルフに蔑まれ隊名無し
お、おう
お前もいろいろやられてたんだな
すまんかった・・・
13 名前:高貴なエルフに蔑まれ隊名無し
オレらは同志だろ?
いいってことよ・・・
*
翌日になって、晴輝はさっそくダンジョンの近くにある道具屋に足を運んだ。
札幌にあるお店と同じ系列店だ。
ここにもまた、不可思議なアイテムが所狭しと並んでいる。
その中から、木の根を用いたたいまつを見つけ、10本購入した。
「空星さん、少し買いすぎじゃ……」
「火蓮。俺たちが向かうのはダンジョンだ。どれほど備えても、備えすぎという言葉はない!」
「は、はあ……」
呆れた様子の火蓮とは裏腹に、晴輝の体には活力がみなぎっていた。
このたいまつがあれば、ストレスフリーでダンジョンを攻略出来るのだ。
冒険家であり、冒険が大好きな晴輝が、ダンジョン攻略の足がかりを手にしたのだから、みなぎらないはずがなかった。
たいまつを片手に改札口を抜け、ゲートで5階に下りる。
ゲートを抜けると、すぐに木の根が通行の邪魔をしてきた。
「くっくっく……」
昨日は散々(心が)痛めつけられたが、今日の俺はひと味違うのだよ!!
早速、晴輝はたいまつに火を付ける。
途端に木の根が、僅かに身じろぎした。
「おお!」
たいまつから木の根まではまだ10メートル以上離れている。
にもかかわらず、木の根はうねうね動き、近いものは既に撤退を始めていた。
晴輝が想像していたよりも、過敏な反応である。
「これで攻略が楽になりますね」
「ああ。張り切っていくぞ!」
「あ、空星さん。あまり張り切りすぎないでくださいね」
体、壊れちゃいますよ? と火蓮が苦笑する。
火蓮の反応で、晴輝は少し前まで全力で戦えなかったことを思い出した。
木の根があまりに憎らしくて、体が痛かった過去をすっかり忘れていた。
激痛がトラウマになれば、戦闘中に大きな隙が生まれてしまったかもしれない。
痛みへの怯えも、木の根の一件で少しは和らいだか。
(かといって決して有り難いとも思わないが)
晴輝は手を握ったり開いたりして、体調をチェックする。
しかし痛みも、痛みへの不安や怯えが表れそうな気配も感じない。
問題なく、全力で戦えそうだ。
「ああ。わかった」
しかし、あまり火蓮に心配させるのも悪い。
しばらくの間は気をつけようと、晴輝は自重の二文字を心に刻み込むのだった。
5階に出現する魔物は4階とは違い、キルラビットだった。
火蓮とレアがキルラビットの処理を行い、晴輝は攻撃に参加出来ないエスタを撫でながら、たいまつの維持に精を出す。
6階からはシルバーウルフが登場した。
強さは車庫のダンジョンや、『ちかほ』の6階と同じ程度。
油断さえしなければ、怪我をすることもない相手である。
この階も、晴輝らは木の根や魔物に行く手を阻まれることなく、ストレスフリーで通過することが出来た。
「……んー」
「どうしました?」
階段を下りながら、晴輝は首を傾げる。
晴輝の様子に問題が起こったのかと慌てたか、火蓮が不安げに眉根を寄せた。
「ここまでボスに遭ってないと思って」
「……確かに、ボスが居ませんでしたね。神居古潭って、ボスがいないダンジョンでしたっけ?」
「いや、たしかボスはいるはずだ」
それで遭えないとなると、理由は一つ。
ダンジョンを攻略中の冒険家が、ボスを倒してしまったのだ。
ボスは倒してからリポップするまでに、数時間から数日かかると言われている。
なのでボスが居ないということは、晴輝らが到着する前にボスが狩られてしまっていたのだろう。
「折角だからボスとも一度は戦ってみたかったんだけどな」
「そうですね……せめて10階のボスは見てみたいですね」
ダンジョンの最も奥に現れるボス――通称ダンジョン主は、通常の階層ボスとは趣が異なる。
どう異なるかはダンジョンによるが、『神居古潭』に関しては、10階に到達するまでの苦労が報われる類いのボスだと言われている。
ダンジョン主についての情報はWIKIに掲載されているが、ネタバレ注意として隔離されている。
冒険家の醍醐味は、未知に出会うことだ。
その醍醐味を自ら投げ捨てる冒険家は少ない。
おまけに相手はダンジョン主。名前を聞くだけでもワクワクする相手の情報を事前にチェックするなど、晴輝にとっては問題外だった。
たしかに、遭えるなら遭いたいものだ。
「ダンジョン主がいればいいな」
「ですねえ」
「リポップ時間が一定なら、地元冒険家が討伐時間を記録して、リポップと同時に討伐って、ボスの独占をしてそうだよな」
「もしそうなら、最悪ですね……」
願わくば『神居古潭』のダンジョン主が、独占出来ないタイプの魔物であるよう。
晴輝は祈らずにはいられなかった。
7階に下りた晴輝らはゲートをアクティベートし、先へ進む。
先頭を行く晴輝の探知範囲に、もこもことした物体が触れた。
初めて感じる類いの魔物の形状だ。
「なんだ?」
晴輝は顔を上げ、じっと目をこらす。
晴輝の視線の先。
大量の木の根が壁に絡みついた通路の向こう側から、白い塊が姿を現した。
「ひ――」
晴輝は、震える。
緩んだ手からたいまつが落下した。
白いモコモコの毛に、黒い顔。
ぽってりとした胴体に、小さな尻尾。
現れた魔物は、
「羊だぁぁぁぁ!!」
現れた羊の魔物を前にして、晴輝は猛った。
待ってろぉ生ラム!
上ラム、ラムタン、ジンギスカンンンッ!!
「――アフン!?」
臀部がビリビリと痺れて、晴輝は意識を取り戻した。
手元には真っ裸になった羊と、大量の毛。
出現した羊の魔物は、無残な姿となって晴輝の前で果てていた。
「……一体、何があったんだ!」
まるで記憶にない。
晴輝は首を傾げた。
しかし、体は熱を帯びていた。
全力で戦った後の熱だ。
「……ま、いっか」
ひとまず、解体してしまおう!
うきうきで、晴輝は羊を解体していく。
「空星さん、ずいぶんと楽しそうですね」
「――ッ!」
火照った体が急速に冷凍されるような、底冷えする声が背後から聞こえた。
ギクリと体を震わせ、油の切れた機械のように、晴輝はギギギと振り返る。
「か、火蓮サン!?」
「空星さん、少しは自重しませんか?」
「ヤダナー。じ、自重シテマスヨ?」
晴輝がぎこちなく愛想笑いを浮かべると、火蓮の笑みが壮絶さを増した。
「これで、自重ですか?」
火蓮が横を指さした。
そこには、大量の羊――いずれも丸裸にされている――が横たわっていた。
ざっと見ただけでも40頭は居る。
「……一体誰がこんなことを!?」
「空星さんです!」
記憶にゴザイマセン。
晴輝はプルプルと首を振る。
その様子を見てなにを思ったか。
火蓮が深い、深いため息を吐き出すのだった。




