貴方に大切な人が出来るまで
とある雨の日、バイトの帰り道で子犬と子猫が入れられたダンボール箱を見つけた。
自転車から降りてダンボール箱に近づく。子犬と子猫がお互いに体を寄せ合って丸くなっていた。
思わず頬が緩む。可愛すぎる。
撫でてみたい、と衝動に駆られ……そっと子猫の頭を人差し指で撫でた。
子猫はゆっくりと体を動かして、僕の顔を見てくる。つぶらな瞳で。
「ニィー……」
胸に突き刺さるような泣き声。もうダメだ。このまま放っておいたら鬱になってしまう。
飼う飼わないは別にして保護しよう。今はネットとかで飼い主とか探せるし……。
そっとダンボールごと持ち上げ、揺れないように気を付けながら自転車の荷台に固定する。
雨で濡れないように傘で庇いながら、ゆっくり自転車を引いて歩き出した。その間ずっと猫は鳴き続けていた。
僕は一軒家に姉と共に住んでいる。両親は既に他界していた。
若くして他界した両親。まだ僕が小学生の頃、二人で旅行に行き事故に合ったのだ。
それからずっと姉は僕を一人で育ててくれた。
大学生でバスケをやっていた姉。両親が亡くなるとすぐに大学もバスケも辞めてしまった。
そして現在の会社に就職し、恋人を作る事も無く僕の母親変わりになってくれている。
そんな姉に、僕は拾ってきた子犬と子猫を見せた。
ダンボール箱に入ったままの子犬と子猫。震えながら姉を見つめている。
「…………」
姉も可愛い動物が大好きだった。ガクガクと震えながら、そっと子猫を抱きかかえ
「あぁあぁああああ!!!! 可愛い! どうしよう! ね、ねえ、どうしよう?!」
「え、えっと、とりあえず落ち着こう、お姉様」
コクンと頷きながら、ダンボール箱に戻す姉。
寒そうに震えている子犬と子猫。とりあえずお風呂に入れてあげるべきだ。
「お姉ちゃん、お風呂に入れてあげないと……寒そうに震えてるし、雨と泥で汚れちゃってるし……」
「うむぅ、よかろう。ならば我が弟よ、この試練は君に託した。私はご飯を準備しようぞ」
なんか姉の言葉使いがおかしいが、この人はいつもこうだ。
いつもこうして僕を笑わせようとしてくる。
もう大丈夫なのに。両親が亡くなって今年で六年。
そろそろ姉も良い人を見つけて貰いたい。
浴室で洗面器にお湯を溜める。あまり熱すぎてもダメな気がするので、ぬるま湯程度で。
「よし……じゃあ猫ちゃんから……」
そのまま子犬に謝りながら子猫をそっと両手で包み、洗面器のお湯をゆっくり手でかけながら洗っていく。
難しい。あまり力を入れると痛そうだし、だからと言って撫でてるだけじゃ泥が落ちない。
指の腹でゆっくり擦りながら洗う。お湯を少しずつかけながら。
「綺麗に……なったかな……」
洗面器の水は赤黒くなる。その色に何処か不安な気持ちが走る。
「ニィー……」
でも子猫の鳴き声で不安な気持ちは何処か行ってしまった。そしてよく見ると、この子猫は足が短い。もしかしたらマンチカンだろうか。
「よし、すぐにドライヤーで乾かさないと……ぁ、でも子犬も洗ってあげないと……」
どうしよう、どっちを優先したら……。
「お困りのようですな。我が弟ヨ。子猫は私に預けるがいい。そして君は子犬を洗うのだ」
いつのまにか浴室を覗く姉が居た。ご飯は用意出来たんだろうか。
そのまま姉はタオルに包み込むように子猫を受け取ると、リビングまで運んでドライヤーで乾かし始めた。
じゃあ僕は子犬を洗ってあげないと……。
そして僕は子犬を抱きかかえた瞬間、背筋が凍った。
冷たすぎる。
氷のように冷たい。
そういえば子犬は一度も泣かなかった。
そしてダンボールに敷かれた一枚のタオルには、今まで泥だと思っていた物がこべりついていた。
泥じゃない。それは子犬の血だ。
何があったのかは分からないが、子犬は怪我をして出血していたのだ。
「お、お姉ちゃん……っ!」
思わず姉を呼んだ。まだかすかに子犬の心臓が動いている事が分かる。
まだ助かるかもしれない。
「ど、どうしたの?」
泣きそうな僕の声に驚いて再び浴室に来る姉。
「こ、この子……し、死んじゃう」
僕がそういうと、姉も状況を理解したのかすぐにタオルを大量に持ってくる。
子犬を包みながら携帯で何処かに電話した。
「ぁ……先輩、すみません、子犬なんですけど……今すぐ大丈夫ですか?!」
先輩……? 獣医の先輩……?
「ぁ、はい、えっと……お腹から血が……もう止まってるみたいですけど体が凄い冷たくて……はい、わかりました、すぐに連れて行きます」
そのまま姉は毛布とタオルで子犬を包み込んで抱きかかえる。
「拓也、子猫のご飯出来てるから。そこの哺乳瓶ね。ちょっと行ってくるから待ってて」
「お姉ちゃん……っ……その子、助かるの?」
姉は車の鍵と携帯、サイフだけ持って靴のカカトを踏みつぶしながら玄関を開ける。外はまだ雨が降っている。
「大丈夫だから。子猫ちゃんと見てるのよ」
そのまま車で子犬を連れていく姉。先輩と言ってたけど……。
そういえば……姉は医大生だった。
獣医の先輩が居るんだろうか……。
獣医の先輩……お願いします。あの子犬を助けてあげてください。
それから数時間。夜の十時を回っても姉は帰ってこなかった。
子猫に哺乳瓶でミルクを与え、タオルを積み重ねたベットで寝かせた。
今は気持ちよさそうに眠っている。
「あの子犬……あんな怪我してたのに……」
子猫を雨から庇いながら、冷えないように包み込んでいた。
その姿に僕は姉を重ねていた。
両親が死んで、自分も泣きたい筈なのに。
お葬式でも涙を見せなかった姉。
いつでも僕を励まそうと、笑わせようとしていた。
そんな姉と、あの子犬が重なる。
深夜二時。まだ姉は帰ってこない。
暗い部屋で僕は子猫が冷えないように抱っこして布団に潜っていた。
(子犬……助かるよね……)
そのまま僕は眠ってしまった。
子猫と一緒に。
そうだ、名前を決めてあげないと。
お姉ちゃんはどんな名前がいい?
ねえ、お姉ちゃん……聞いてる?
ねえってば……
おねえちゃ……
携帯の着信で目が覚めた。
なんか怖い夢を見た気がする。
目を擦りながら電話に出た。
時刻は深夜四時。あれからまだ二時間しか経っていない。
『もしもし、こちら岐阜市民病院ですが……柊 拓也さんですか?』
「ぁ、はい……そうですけど……」
寝ぼけた声で答える。
あれ、なんで病院から……?
『柊 琴音さんはお姉さんですよね?』
「ぁ、はぃ……そうですけど……」
ん? 何?
何の話?
『落ち着いて聞いてください……琴音さんが轢き逃げ事故に遭い、現在緊急で手術を……。大変危険な状況で……』
「え……え?」
頭の中が真っ白になった。そのまま携帯を落とし、居てもたっても居られなくなる。
『もしもし? もしもし?!』
「おねえちゃ……」
子猫を抱きかかえて外に飛び出す。
深夜だろうが何だろうがお構いなしに隣の家のインターホンを連打した。
「すみません……すみません!」
ドアを叩きながら呼び掛けると、中から姉の幼馴染の圭吾さんが出てきた。
「うぃー……なんだ……こんな朝っぱらから……」
「お、お姉ちゃんが……事故にあって……手術……ぁ、ぁの、この子猫、預かってください!」
そのまま子猫を押し付けて走り出す。
ここから市民病院まで走って行ってどのくらいかかるだろうか。たぶん二時間も走れば着くかもしれない。
「は?! おい、拓也! ちょ、まてコラ!」
走りだす僕の首根っこを捕まえて、スポーツカーに放りこむ圭吾さん。
「猫持ってろ!」
そのまま再び猫を受け取り、圭吾さんは家に入ると数秒で車に戻ってくる。
「何処の病院だ?!」
「え、えっと……岐阜市民病院……」
爆音を出しながら急発進するスポーツカー。
発進してからシートベルトを締める圭吾さん。
僕は必死に猫を抱きしめ、圭吾さんと共に病院へと向かった。
病院に着くなり二人で走って救急の窓口へ向かう。
受付の看護師さんに姉の事を聞いた。現在も手術中との事だった。
圭吾さんと一緒に手術室の前に。
赤いランプが不安を掻き立てた。
「お姉ちゃん……っ」
子猫を抱きかかえながら、必死に祈る。
どうか姉を助けて下さい、と。
圭吾さんもソワソワした様子でベンチに座ったり立ったりを繰り返していた。
よく見ると圭吾さんはTシャツに短パン。ほぼパジャマだ。
「拓也……何があったんだ……」
圭吾さんは落ち着かない様子で僕に尋ねてくる。
何があったのかは僕も良く分からない。分かっているのは
「轢き逃げにあったって……」
それを聞いた瞬間、圭吾さんは歯を食いしばって悔しそうにベンチに蹲った。
拳を握りしめながら、必死に怒りを抑えているのが分かる。
圭吾さんは姉の事が好きだった。でも姉は見事に圭吾さんをフった。
『私、拓也きゅんの事が大好きなのーっ、だからお前に構ってるヒマねえから』
そんなフられ方をしたのに、圭吾さんは……
「くそ……くそっ……琴音……」
きっと……まだお姉ちゃんの事が好きなんだ。
朝八時。僕と圭吾さんは一睡もせず手術室の前でひたすら待っていた。
途中看護師さんが仮眠室へと言ってくれたが、僕も圭吾さんも無言で首を振った。
そして、手術中のランプが消える。
僕と圭吾さんは同時に扉を見つめた。
心臓の音が凄い。
破裂してしまいそうだった。
執刀医らしき医師が出てくる。
僕と圭吾さんは無言で近づき、言葉を待った。
「最善は尽くしました。今日、一日が山だと思ってください。ご家族にご連絡を……」
思わず膝を着いて座りこんでしまった。
看護師さんが何か喋りながら僕を立たせようとするけど、全く耳に入ってこない。
お姉ちゃん……もう、助からないの?
お姉ちゃん……もう、会えないの?
お姉ちゃん……もう……
「拓也」
その時、圭吾さんの声だけが耳に届いた。
圭吾さんの方を振り向く僕。
「琴音の家族は誰だ」
僕と目線を合わせてそんな事を言ってくる圭吾さん。
そんなの決まってる。
「僕です……」
「だったらしっかりしろ。琴音の家族はお前だけなんだぞ」
圭吾さんに手を握られ、立たせられる。
そうだ、お姉ちゃんが頑張ってるんだ。
僕が諦めてどうするんだ。
「拓也、飯食うぞ」
「え……いえ、僕は……」
イラっとしたのだろうか。圭吾さんは僕の頬を思いきり抓ってくる。
「い、いふぁぃ……っ」
「琴音が起きた時に……お前がぶっ倒れてたら殺されるの俺なんだぞ。無理やりにでも口に突っ込むからな」
そのまま病院の外、歩いて数分の喫茶店に入り朝食を摂る。
学校にも休むよう連絡しようとした時、家に携帯を忘れた事を思いだした。
圭吾さんに携帯を借り連絡。圭吾さんも仕事を休んで付き添ってくれる事に。
「で……その猫なんだ?」
「あ、えっと……昨日拾って。この子と一緒に子犬も……」
そうだ……。あの子犬はどうなったんだろう。
お姉ちゃんと一緒に居たのなら……。
その後、警察の人も病院に着て状況を教えてくれた。
昨日の夜七時、人が轢かれたと通報があったらしい。
現場は周りに民家など無い田舎道。姉の車は現場近くに乗り捨ててあったとの事だった。
通報してくれた人は、姉が轢かれた場所から一番近い民家の住民だった。それでも徒歩で十分ほど掛かるらしい。
この寒空で昨日は更に雨が降っていた。
夜の七時など普通は出歩かない。
その人はどうやって姉を見つけてくれたんだろう……。
一通り状況を説明してもらった。
雨が降っていたとはいえ、現場には車のヘッドライトの部品が落ちていたそうだ。
時機に犯人も捕まるらしい。
警察の人が帰り、僕と圭吾さんは再び面会謝絶の集中治療室の前で祈っていた。
祈る事しか出来ない。子猫を抱いているのも特別に許してもらえた。それどころか哺乳瓶にミルクを持ってきてくれた。
看護師さんにお礼をいいつつ、子猫にミルクを与える。
美味しそうに飲み干す姿に少しだけ救われた。
きっと、お姉ちゃんは助かる。そう信じる事が出来た。
集中治療室の前でひたすら祈り続ける僕と圭吾さん。いつのまにか夜になっていた。
携帯が無いので圭吾さんへ時間を聞く。
「あの、圭吾さん。今何時ですか……?」
「ん? 八時半……」
もうそんな時間だったのか。
しまった、バイト先に電話するの忘れてた。
どうしよう、今からでも連絡したほうがいいかな……。
「あの、圭吾さん……僕ちょっとバイト先に連絡してきます」
「ん? あぁ、使えよ」
携帯を貸してくれる圭吾さん。一度病院のロビーに出て……って、ぁ……バイト先の電話番号覚えて無い。
どうしよう……、いや……ネットにHPがあったはずだ。そこから調べられる。
岐阜駅付近、執事喫茶と検索してHPを探す。
人気があるのかトップに出てきた。そのまま電話番号をタップして掛ける。
『お電話ありがとうございます、執事喫茶レインセルです』
電話に出たのは執事喫茶のオーナーだった。
オーナー自ら執事として働いている。
「ぁ、央昌さん……すみません、実は……」
姉が事故に遭った事を伝え、バイトを無断欠勤した事を謝った。
『分かりました。無断欠勤など気にする必要はありませんよ。お姉さんの傍についてあげて下さい。落ち着くまで……バイトはいいですから』
「はぃ……ありがとうございます……」
お礼を言いつつ電話を切る。
ロビーから集中治療室の前まで戻ると、看護師と医師が慌ただしく動いていた。
まさか、と体が震える。
慌てて駆け、立ち尽くしている圭吾さんに何があったと尋ねた。
「心臓が……止まった……」
――五カ月後
高校からバイト先の執事喫茶へと直行する。
生徒会が長引いてしまった。このままでは遅刻だ。
裏口から入りオーナーに挨拶。
そのまま更衣室で執事のコスチュームへと着替える。
「すみません、遅くなりました……」
同僚の執事、晶さんに謝りつつホールへと入った。
今日は特別な日。
そんな日に遅刻するなんて有り得ない。
「拓也君ー、ヴェル様に餌やったー?」
ぁ、しまった。忘れてた。
晶さんに言われて思いだす。恩人に餌をやり忘れるなどもっと有り得ない。
ヴェル様、それは執事喫茶の看板犬。
ホールの隅っこに専用のブースが有り、自由にお嬢様が弄れるようになっている。
現在も一人のお嬢様が可愛らしい柴犬を撫でまわしていた。
「申し訳ありません、お嬢様……ヴェル様のお食事の時間ですので少しよろしいですか?」
「ぁっ……拓也きゅん……っ、は、はぃ、どうぞ!」
そのお嬢様は車椅子に座りながら、膝に顎乗せするヴェル様を撫でまわしていた。
ヴェル様専用のお皿にドックフードを盛り付ける。
上品な真っ白のお皿。
底にはヴェル様専用と書いてある。
「待て、待て……ですよ。ヴェル様」
クゥーン、とお座りしながら待つヴェル様。
「た、拓也きゅん。あんまり焦らしちゃ可哀想でござるよ」
「ぁ、ぅん。じゃあ……よし……」
その瞬間、ドッグフードに食らいつくヴェル様。
そのまま車椅子に座ったお嬢様を元のテーブルまでお連れする。
車椅子のお嬢様がヴェル様に夢中になっていたスキに、他の執事達が準備を進めていた。
テーブルの上には大きなホールケーキ。
ケーキの上にはチョコで犬と猫の絵、そして誕生日おめでとうの文字。
「うぁ……ちょ……ひどいっ……」
顔を手で覆いながら泣きだしてしまうお嬢様。
酷いとは何事か。
「だって……こんな不意打ち……」
その時オーナー兼、執事長がマイクを取る。
『あー、マイクテス、マイクテス。本日お越しのお嬢様方、一人残らずここに集りやがれ』
とても執事の口調では無いが、オーナーのキャラ設定はクール眼鏡だ。
クール眼鏡に号令を掛けられ集結するお嬢様方。
車椅子に座って泣き顔を隠しているお嬢様のテーブルを囲むように集まる。
『あー、ではでは……本日はこちらのお嬢様の誕生日ということで……僭越ながら私めが音頭を取らせていただく』
コホン、と喉を整えるクール眼鏡。
『……ハッピバースデーチューユー……ハッピバースデーチューユー』
どうでもいいが、クール眼鏡は歌が下手だ。
それをフォローするように、周りのお嬢様も一緒に歌う。
僕も一緒に歌った。
その場に居る者全員、一人のお嬢様の為に。
「ハッピバースデー、ディア琴音ー、ハッピバースデートゥユー……」
拍手しながら皆で祝う。
僕の姉の誕生日を。
あの日。
姉は僕が拾った子犬を知り合いの獣医へと見せにいった。
しかしあの日は雨で視界が悪く、さらに田舎道を車で走っていた姉は側溝に脱輪してしまった。
抜ける事は難しいと思った姉は、子犬を抱きかかえ車の外に出て走った。
そして現場の道に差し掛かった時、姉は車が来ている事に気がついていた。
道路の隅で車が通り過ぎるのを待つ姉。
でも車は姉に気づいてはいなかった。
姉は轢かれ、抱えていた子犬は投げ出された。
車は走り去り、姉は意識朦朧とする中……投げ出された子犬が歩いているのを見た。
そこで姉の意識は途切れた。
姉を発見したのは現場から一番近い民家の住民。
犬の鳴き声がして外に出たらしい。
こんな雨の中、子犬が鳴きながら民家の住民を何処かに案内しようとしている。
不審に思った住民が子犬に着いていくと、倒れている姉を発見した。そのまま救急車を呼んでくれたらしい。もう少し発見が遅ければ、最悪のケースになっていた。
そしてその子犬は住民の手によって手当てされた。
その住民こそが姉が尋ねようとしていた獣医の先生だったのだ。
そしてその子犬……姉の命の恩人である柴犬のヴェル様は、現在元気に看板犬として執事喫茶に勤務している。
たった五カ月で毛も生え代わり、姉の膝に顎乗せ出来るくらいに大きくなった。
そして姉は事故の影響で半身不随と診断された。
もう普通に歩く事は敵わない。
でも、それでも。
「ハッピバースデー ディア琴音ーっ、ハッピバースデートゥユー……」
「た、拓也きゅん……卑怯で、ござる……」
相変わらずおかしな口調で喋る姉
「今日は……もっとサプライズあるからね」
晶さんと目を合わせてニヤっとする
そのまま後ろから姉を抱きしめて耳元で囁いた
「姉さん、誕生日おめでとう。頼りない弟だけど……姉さんの大切な人が出来るまで……僕が支えるから……」