7話 新たなるギフト
新しい力です。いい名前が思いつかなかった……。
案内されたところは見事な風景が広がっていた。
自然と一体化したような建物の数々、木の幹の上に溶け込むように建てられた家。まさに生活が自然の一部のような世界が広がっている。
「すごいでしょ」
ターニャは自慢げに言った。
確かにすごい。自然の景観が一切損なわれずに調和がとれている。
「あぁ、見事なもんだ」
「でしょ! さ、こっちよ」
ターニャは笑顔で里へと入っていった。俺はその後をついていく。
里に入ると嫌な感じがした。
ジロジロと無遠慮に見られている。
仕事をしていた者もその動きを止めてこちらを警戒するように見ている。しかし俺は気にせずターニャの後についていった。
案内されたのは里の中央にあるひときわ大きな建物だった。
建物の中央には巨大な木が天井を貫いてそびえ立っている。今までに見たどの木よりも生命力に満ち溢れていて、他の木にはない力を感じる。
「今から里長に会うから変なことしないでね」
「あぁ、わかった」
言われなくても聞きたいことが聞けるまではおとなしくするつもりだ。
建物の中に入ると中央の木を支柱にして広々とした空間が広がっていた。その支柱の横を通り奥へと行くと、齢百歳を超えているんじゃないかと思えるような皺くちゃな老人と、その両隣に同じように皺くちゃな老人が出迎えてくれた。
真ん中の老人が里長だろう。
「――、――」
里長が何を言っているのかさっぱり分からん。
俺はターニャを見る
「あぁ、そうだったわね。ちょっと待って」
ターニャをそう言って、腰につけている袋からネックレスを取り出した。
「これを着ければ言葉が分かるから。……着けてあげる」
ネックレスを差し出したと思ったら、俺の無くなった右腕を見てそう申し出た。
俺はターニャのほうへと身体ごと向くと、ターニャは両腕を俺の首の後ろへと回し抱き付くような姿勢になってネックレスをつけてくれた。
ふわっと鼻孔をくすぐる花の香りがした。
しかし貧乳だから当たるものはない。
そんなことを考えていたからか、離れたターニャは微妙な表情をしていた。
俺は構わず里長たちへと向き直った。
「人族の子よ。なぜあのダンジョンの前にいたのじゃ?」
今度ははっきりと里長の言葉が分かる。
なぜあのダンジョンにいたか、俺の方が知りたい。なぜ運魔法は俺をあのダンジョンへと運んだんだ。
「分からない」
俺の回答に里長たちは渋い顔をした。
「では、どうやってあそこまでたどり着いたのじゃ?」
「ダンジョンの奥にあるクリスタルの結晶のようなものを触ったらあそこにいた」
「えッ!?」
横にいたターニャの驚く声が聞こえた。
里長たちも細い目をこれでもかと見開き驚いているようだ。
「それはつまり、ダンジョンを攻略して出てきたということかの?」
里長がおそるおそる聞いてきた。そうなのだろうか。あの結晶を触ることがダンジョン攻略だというのならそうだろうが、実際のところ攻略したのかは俺には分からない。だから俺はターニャに「そうなのか?」と聞いた。
「わ、私に聞かないでよ! まったく。ステータスを見てギフトが増えていたら攻略しているはずよ」
──
名前:灰寺 巡
レベル:49
HP:589(1023)
MP:17(65)
筋力:33
耐久:31
器用:60
敏捷:48
魔力:13
幸運:6
ギフト:運魔法、念動
──
ステータスを確認すると念動というギフトが増えていた。
どういったギフトなのだろうか。
そう考えると念動の使い方の情報が頭へと直接植えつけられたかのように理解できた。どうやら直接触らずに物に触れたり動かすことができる力のようだ。それなら右腕の代わりになるかもしれない。
右腕のように念動の力を想像する。
すると熊に食い破られた制服の袖がフワッと浮き上がり、腕のあったときの感触が感じられた。
透明な右腕の手を開いたり閉じたりしてしっかりと確かめる。力も精密さも問題ない。
「あなた、それ……」
ターニャが俺の透明の右腕があるあたりを見て戸惑うように言った。
「新しくギフトがあった。あのダンジョンを攻略したらしい」
「……本当に攻略してたのね」
ターニャは信じられないものを見たような反応だ。
里長は目を瞑り何かを考えている。その両隣の老人たちは何やら小声でやり取りをしている。
少しして里長が目を開けると、両隣の老人たちは静かになった。
「人族の子よ。にわかには信じがたいが里の危機を――いや、この森の危機を救ってくれたようじゃな」
森の危機、なんのことだ?
ダンジョンの攻略と森の危機に何のつながりがあるっていうんだ。
俺が困惑しているとターニャが教えてくれた。
「あのダンジョンは最近できたダンジョンなの。ダンジョンから時折魔物が出てきて森に住む生き物を襲っていたのよ。それを防ぐために私たちは交代で常にダンジョンの入り口を見張っていたの。でもあなたが攻略してくれたおかげでダンジョンの活性化が収まって魔物も外に出てこなくなるわ」
ターニャは最後にお礼を言って里長へと向いた。
「それで里長――」
「わかっておる。恩人に対して無礼なことはせん。しっかりとエルフの里の客人として迎え入れよう」
ターニャの言葉を遮って、里長がそう言った。両隣の老人も小さく頷いた。
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