6話 エルフの転生者
目の前に広がるのは鬱蒼とした木々。木にはツタが絡まり、地面は草花が生い茂り、見える岩には苔が張り付いている。ここはダンジョンの外だろうか。
後ろを振り返ると洞窟の入り口が見える。多分あれは俺がさっきまでいたダンジョンだろう。
そこでふと、左手に結晶がないことに気がついた。あの結晶は外に脱出する物だったのか。
改めて周りを見る。
それにしても、なんだこの未開の地は。こんなところに人なんているのだろうか。……まぁいい。いないのならいるところに行くまでだ。
早く彼女に会いに行かないと。
しかし、俺が一歩踏み出したところで矢が木々の合間を縫って俺の足元に突き刺さった。
「――、――――」
声のする方向を見ると、緑を基調とした服を着てフードを被っている人がいた。
気配を察するに他に五人いる。
自然にうまく溶け込み姿は見えない。
俺がもう一歩進むと、再び足元に矢が放たれた。
「――!」
何を言っているか分からないが察しはつく。動くなとでも言っているのだろう。
だが俺はそれを無視して進む。
言葉が通じないのなら情報などとれない。
それにあの程度の腕なら避けるのは容易い。まだ蝙蝠のアースアローのほうが速い。
再び矢が放たれた。
今度は足元ではなく俺の軸足に当る軌道だ。
俺はそれを反対の脚で蹴り折った。
すると六人全員で矢を一斉に放ってきた。何発も。
それは俺にとってあまりにも遅く、最小限の動きだけで簡単に避けられた。
斉射が止み、すべてを避け終えたとき、相手からの動揺が読み取れた。
「――!」
また何かを叫んでいるが俺には分からない。
そのまま進もうとしたそのとき、新たな気配が感じられた。そしてその気配が俺の前に現れた。
「動くなって言っているのよ」
そこには他の奴らと同じような衣装に身を包んだ人がいた。
声から察するに女だろう。
その女が俺にも分かる言葉で話しかけてきた。
「あぁ、なんとなくわかってた」
「なら止まりなさいよ!」
女はなぜか怒るように言ってきた。
「言葉が通じなかったんでね。言葉が通じる奴がいるところに行こうと思ったんだ。だけどこうして言葉が通じる奴が現れたからいいさ。おとなしくしてやるよ」
俺はおとなしく左手を上げた。
さっさと女から色々と情報を聞き出さないとな。この世界にも日本語が話せる人がいて助かった。もしかしたら転生者かもしれない。バスの事故以前にも転生してきた人がいたのだろうか。
周りにいた六人も警戒しながら木から降りて姿を現した。
そして目の前の女と何度かやり取りを行って、女が俺を見て何かを言ったところで六人の警戒が解けた。
女は俺に向き直りフードを取ってこう言った。
「私はターニャ。あなたと同じバスで死んだ転生者よ」
その顔はキレイに整っており、すこしつり目で眉がシュッとしていて女性にしては凛々しい顔立ちだ。そして特徴的なのが長いくすんだ金髪の隙間から見える斜めに広がり尖っている耳だ。
……何を言っているんだ、このターニャとかいう女は。
どう見ても俺と同じくらいの年だ。
転生したのならまだ赤ん坊のはずだ。
「どういうことだ?」
周りの警戒も解けているため手を下して尋ねた。
「私もあの変な場所にいたってことよ」
あの神様がいた場所のことだろう。だが俺が聞いているのはそれではない。
「そうじゃなく、なんで赤ん坊じゃないんだ?」
ターニャは俺が何を聞きたかったのか納得したような顔をした。
「それは転生してから十五年も経ったからよ」
十五年!? 十五年って……じゃあなんだ!
俺は十五年も彼女を一人にしたってのか!
「ど、どうしたのよ、おっかない顔して」
どうやらあまりのことに力が入っていたらしい。
気持ちを落ち着つかせて力を抜いた。
「いや、大丈夫だ。俺の名前は灰寺巡だ」
「知っているわ」
知っている? なぜだ?
そう思っていると顔に出ていたのかターニャから申し出があった。
「他に聞きたいことがあるのなら私たちの里で話さない?」
ちょうどいい。色々と聞きたいところだった。ターニャの話にも謎なことがある。
俺はその申し出を受けた。
お読みいただきありがとうございます。