32話 変な女だ
辺りは暗くなり始めているためか村では外を歩く人は見えない。だが決して人がいないわけではない。家の中からは人の気配はしっかり感じられる。
ロブたちに連れられて村の中を進んでいく。
村の中に井戸のような水場がないがどうしているのだろうか。近くに川があるからそこから毎回汲んでいるのだろうか。
現代日本なら蛇口をひねっただけで水が出てくるが、この世界ではそうではないだろう。もしかしたら魔法か何かの道具でそういうことができるのかもしれないが。
そして遠くから火の光が見えていた一軒の家にたどり着いた。火の光はその家の玄関を照らしているが熱は感じられない。火のようであって火ではないのだろうか。これも魔法の一種なのだろうか。
「ここが村長の家だ。マヤちゃんが何をするかわからねーが、俺らは泊まることに対して手助けすることはできない。俺らも泊まらせてもらっている身だからな」
村長の家か。あまり大きくはないな。俺たちも泊まれるほど余裕があるだろうか。
「それに今回は僕たち何もせずに終わっちゃったから尚更だね」
「だったらその魔物退治をやった俺らは泊まってもいいんじゃないか?」
元々ロブたちの依頼が魔物退治だったんだ。それを代わりにやったとして俺らが泊まることはできるのではないか。
「それを決めるのは俺たちじゃねーよ」
確かにそうだ。まぁ交渉材料が一つできたはいいが、それを相手が信じるかは別だ。そのときはそのときだ。マヤには何かいい考えがあるようだし、それに頼る羽目になるだけだ。
チラッとマヤを見るとンフフフフと余裕の……いや、気色悪い笑みを漏らしている。そのマヤの頭を撫でているアニー。
シュールな光景が展開されている。
ターニャは目立たないように気配を殺している。森から近い村だけあって森に入ってくる人はこの村の人たちだろう。そんな村の村長にエルフだとバレればどうなるか。まぁ遅い時間だし追い出されるだけだろう。エルフだとバレないに越したことはない。
「それじゃあ入るぜ」
そう言ってロブが木の扉をコンコンコンコンと四回ノックした。
しばらくして扉が開かれた。そこにいたのはアニーくらいの年齢のふんわりした雰囲気の女性だった。
「あらロブさんたち。なかなか戻ってこなかったので魔物にやられてしまったのではないかと心配していたところでしたよ」
女性は見た目とは裏腹に軽い毒を吐いた。
「いや、さすがにそれはひどいんじゃ」
女性の第一声の勢いにロブもたじたじで返事をした。
「そうですよパームさん。それに結局魔物に遭いませんでしたし」
「あらそうなんですか」
パームと呼ばれた女性は少し残念そうな顔をする。
まさかこのパームとかいう女性が村長なんてことはないだろうな。抜けているとかいうベクトルじゃないだろ。
「とりあえず中に入って。お話は中で聞くわ」
「あぁ。それですまないけど、後ろの奴らもいいか?」
ロブがパームを見ながら手を軽く上げて後ろにいる俺たちを親指で指す。
「あらあら、そんなこと言われてもうちでは飼えませんよ?」
なんだこの女は。飼うって俺たちを? どんな思考回路してんだ。
「そうじゃねーよ。後ろの奴らが村長に話しがあるんだとよ」
「そうなの。まぁどちらでも構わないわ。話はお爺ちゃんが聞くから」
爺さんが話を聞くというところから察するに、パームが村長ではないようだ。よかった。
俺たちはパームに案内されて家の中へと入った。ターニャはできるだけ目立たないように一番後ろをついてきている。
案内された部屋は客間のようだが、椅子のようなものはなく藁で編んだ座布団のようなものがちょうど六つ置かれていた。
「それじゃあお爺ちゃんを呼んでくるからちょっと待っててね」
ここまでパームが持っていたランプの光で案内されてきた。その火を部屋のランプに移す。
そしてパームは村長を呼びに部屋を出ていった。部屋を出る一瞬、ターニャに視線が止まった気がしたが気のせいだろうか。
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