31話 アーミット村
休憩を終えた俺たちは日が暮れる前に森を抜けた。
俺たちだけなら昼過ぎには森を抜けられただろうが仕方ない、ロブたちの案内が無ければこの先からはわからないのだから。
森を抜けたことで進行速度も上がるだろう。できれば日が完全に暮れる前には着きたい。
「おい、村まであとどのくらいで着くんだ?」
「日が暮れるころには着くと思うよ」
「そのためにも少し急ぐぞ」
ロブがそう言うと、三人は少しペースを上げた。と思ったらすぐに立ち止まった。その理由はマヤの一言だった。
「疲れちゃったよー」
またかと思い念動腕で運んでやろうとしたら、ガルトがマヤの目の前まで来て背中を向けて膝を着いた。
どうやらガルトは背負ってやろうとしているらしい。
「ほら、乗って」
マヤは遠慮なくその背中に乗ろうとしたが、手をかけたところで止まった。そしておもむろにガルトの背中を、ドアをノックするように叩いた。
カンカンと甲高い音。
ガルトは金属の鎧を装着している。そのまま背中に乗ったら痛いだろう。ましてやここからペースを上げるのだ。揺れも大きくなる。より痛いことが予想できる。
「どうしたの?」
ガルトはそこまで頭が回っていないようだ。
「ガルトの鎧が痛そうなんじゃない?」
アニーが察して教えてくれたがガルトは困ったような表情になってしまった。
こういうときロブが「俺が」とか言いそうだが何も言わない。斥候(?)だから常に身軽でいたいのだろうか。アニーは……まぁ小さいとはいえ一人背負って移動するのは難しいだろう。
マヤはチラチラと助けを求めるように俺を見てくる。
ロブたちと出会う前は俺が運んでいたからな。森の中という悪路でも揺れのない水平移動。そのとき実際マヤは寝ていたし、ぞんざいな扱いで運んでいたが案外快適だったのかもしれない。
俺としては黙って運ばれるのならそれに越したことはない。
念動腕を創り、マヤの後ろ襟を掴んで持ち上げてやる。ググッと服が身体に密着しラインが強調される。意図せず胸が強調される。意図せず。
いやホント意図せず。
ロブとガルトはそんなマヤを見て恥ずかしそうに眼をそらしている。なぜこいつらが恥ずかしそうにしているのかは謎だ。
ターニャとアニーが俺を親の仇のような目で睨んでくる。キレイな顔が鬼の形相になっている。
……いい殺気だ。四つ手の熊の殺気ですら笑ってしまった俺が思わず目を背けてしまうほどに。思えば、幼馴染もよくこんな感じだったな。
運び方を改めたほうがいいだろうか。
しかし持ち上げられた当の本人はご満悦な表情だ。本人がいいのだったら別にいいのではないだろうか。俺も困ら……う~ん。
「ほら行くぞ!」
背後から突き刺さる視線と殺気を無視して先を行く。
──
それから日が完全に暮れる前に小さな丘を越えた先に小さな村が見えた。簡易的な柵で囲われており、少しだけ火の光が見える。森からは丘が邪魔で見えなかったがそこまで離れていない。
「あそこがアーミット村だ」
森から一番近い村か。ロブたちはあそこの村人に依頼されたんだな。
もう村も見えていることだしマヤを下してやる。
「俺たちとお前はいいが、ターニャとマヤちゃんはフードを被っておいた方がいいと思うぜ。あ、マヤちゃんは仮面を外したままだけでもいいかもな」
ターニャは耳でエルフとバレるがマヤは仮面を外せば人族に見える。ドルイドは身体の中に樹を宿すと聞いたが見た目ではわからない。仮面がドルイドのアイデンティティのように思えるがマヤにとってはイタズラ道具程度だろう。
ターニャは言われた通りフードを被った。そして確認するように俺を見てきた。
俺は頷いて答える。
「それじゃあ僕たちはまず村長の家を訪ねるから一旦別れよう」
「一旦別れると言われてもな。宿屋とかないのか?」
と聞いたのはいいが、金もないから泊まれるとは思えないが。
「この村に宿屋はねーな。あっても馬小屋だけだ」
馬小屋か。まだ外で野宿するよりはマシだろうが臭いのは勘弁だ。こいつらはどうなんだ? 宿屋がないのにどこで寝泊まりするというのだろうか。
「じゃあお前たちはどこに泊まるんだ?」
「んなもん村長の家に決まってるじゃねーか。雇い主がその辺保障してくれてんのさ」
「じゃあ俺もそこに泊めろ」
「無理に決まってんだろ」
少し抜けてるって話の村長のことだ、どうにか話はつけられると思うが。
「私にいい考えがある」
人差し指を立てて一歩前に出るマヤ。なんでこう仕草がわざとらしいんだ。
そして俺たちはマヤの名案(?)を聞いてアーミット村へと入ることになった。
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