29話 可愛ければいいってものじゃないだろ
ロブとガルトは散々足掻いていたが、まったく動けないとわかって大人しくなった。
そんな二人を見てアニーも戦意を失くして大人しくしている。
「てめぇ、俺たちに何をする気だ」
「言うことを聞くのならこれ以上は何もしない」
ロブは憎々し気に俺を見る。
「僕たちは何をすればいいの?」
「近くの村まで案内してくれればいい」
そう言って念動腕を消して二人を解放してやる。この程度の相手ならいくら挑んで来ようともどうとでもできる。それに解放してやることでこれ以上危害を加えないという意思表示になるだろう。
フッと消えた圧迫感に二人は驚きながらもゆっくり起き上がった。
アニーは立ち上がると、二人の下へ駆けた。
「二人とも大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「あぁ、大丈夫だ。アニーこそ杖はいいのかよ」
二人を労わるアニーに対してロブが体に付いた汚れを払いながら杖の行方を聞いている。
アニーは辺りを見回すと、元々いた場所の近くの木で目が留まった。木の枝に引っ掛かっている。
「それで、俺たちが村まで案内をして、あんたは村で何をするんだ?」
「それはお前たちには関係ないことだ」
「いんや関係ある。俺たちが案内したせいで村に被害が及んだらどうする」
なるほど。俺が村に何かすると思っているのか。そんなことするつもりはないが、本当のことを言ったとして信じるはずもない。
「ロブ、大丈夫だよ。僕たち怪我してないし、アニーだって杖を吹き飛ばされただけじゃないか。それにしっかり受け答えできているから魔物とかじゃないよ」
「そんなことはわかってる。だけど片手がなくてこんなに圧倒的に強い奴なんて聞いたことねぇ。もしも冒険者だってーのなら噂ぐらい聞いたことあるはずなんだ」
ロブが俺の右手を見る。そこには念動腕があるため腕までは袖の状態を見ればあるように見えるが、その先の手は透明だ。
「それにこの森に来るためには村を通るはずなのに村の名前を知らねーときた。ますます怪しいじゃねーか。魔物じゃなかったとしても何かあるに違いねぇ」
疑り深い奴だ。……どうしたものか。
ロブの言葉にアニーも頷いている。
もう面倒くさいな。ターニャたちを呼んで任せるか。
「おいターニャ! もう出てこい!」
大声でターニャの名を呼ぶと、少し離れた草陰からガサガサと音を立ててターニャが姿を現した。マヤもその後ろにいる。
二人はこちらに向かってくる。
「なんだ仲間か……?」
「ターニャ、あとは任せた」
ロブの呟きを無視してターニャに一任した。
ターニャはなんだか微妙な表情をしている。
「任せるって、遠くから見ていたけど戦闘になっていて全然ダメだったじゃない。何を話していたかわからないけど」
「まぁなんだ。あのロブって奴が疑り深くてうまくいかなかったんだ。とりあえず、これ以上何もしないってことと村まで案内してくれってことは言った」
ロブを指さす。
当人はターニャとマヤを見て警戒している。ロブだけじゃない、アニーもだ。
「エルフが出てくるとはな。それにドルイドか?」
やはりエルフにはいい感情を持っていないようだ。ドルイドに対しても同じかはわからないが、マヤに任せたら絶対にダメだってことはわかる。
「私たちはあなたたちに危害を加えるつもりはないわ」
ターニャは説得を試みるようだ。だが、すでに俺が少し加えちまったがな。
「そうなんだ。よかった」
お人よしのガルトが一人安心している。ここまでくるとお人よしというよりバカなんじゃないだろうか。
「バカかガルト。ここのエルフは排他的だって聞くぞ」
「そうよ。先輩たちも言っていたじゃない」
さっそくダメそうだ。取り付く島もないな。
ターニャもすでに渋い顔をしている。
「ねぇねぇ!」
マヤは空気を読んで静かにしていたかと思っていたら、突然大声を上げた。
ズンズンと前面に出る。すれ違いざま、ふふんと鼻先で笑う音が聴こえた。
まずいと思いマヤを止めようとしたが、すでにまずい状態だ。これ以上どうにもならないのなら、マヤに任せるのもありか?
マヤの後ろ姿には迷いがない。何か秘策があるのだろうか。
ターニャも止める気がないようだ。
おもむろにマヤは仮面に手をかけた。
ロブとアニーはマヤを警戒している。ガルトだけマヤの行動をポカンと見ている。
「あのね、村の場所まで一緒に来てほしいの。……お願い」
マヤは仮面を外しておねだりする子どものようなポーズをとった。
本当にマヤかと思えるような甘える声が聞こえた。後ろ姿だからわからないが、マヤのことだから目をうるうるさせて上目遣いにあざとさマックスなのだろう。
そんなのでどうにかなるわけないだろうに。失敗したな。
「何この子! 可愛いー!」
「チッ、しょうがねーな」
「お兄さんに任せるといい!」
真っ先にアニーがおかしなテンションになり、ロブは顔を赤らめてそっぽを向いて了承し、ガルトは意気揚々と任されていた。
なんだこいつらロリコンか? 可愛ければいいってものじゃないだろ。
まぁこいつらはマヤのキモさを知らないからな。こんなこともあるだろ。
「いやねーよ!」
俺の心からの叫びに全員びっくりしていた。
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