28話 仲がいいのか悪いのか
斥候の男が仲間に手で止まれと指示した。
警戒はしているようでこちらの出方を伺うようだ。
こちらとしては道案内を失いたくないので手を出すつもりはない。友好的にいきたいものだ。だがなんて声をかけたものか。この世界の作法なんて知らない。エルフのときとは状況が違うしな。
とりあえず困っている風を装って声をかけるか。
「おーい!」
俺は手を振りながら近づいて行く。
それに対して相手方は警戒を強めているようだ。
「ちょっと道に迷っちまったんだが、村ってどっちの方角だか教えてくれないか?」
斥候の男は怪訝な表情を浮かべた。
やはり近くにあるのは村じゃなかったか。それとも俺がこんなところに一人でいるのを怪しまれたか。失敗したか?
しかし、剣士の男が無警戒に答えた。
「村だったら僕らが来た道を戻ればたどり着くよ」
ここまで真っ直ぐ来たのか? それなら来た道を来た方向ととらえることができるのだが。
「それよりお前、ここへ一人で何しに来たんだ」
斥候の男が警戒するよう腰のナイフに手をかけて聞いてきた。これにはどう答えていいものか。
「俺は……ちょっと頼まれてな」
「村の人に頼まれたってことかな」
魔法使いの女が小声で言う。だが俺にはしっかりと聞こえている。
エルフに頼まれて少し留まっていたのは確かだ。エルフだということは言わず、拡大解釈できるように大雑把に言ってみたが、それを村の人に頼まれたと勘違いしてくれたようだ。
「村の人は誰も別の奴に頼んだなんて言ってなかったぞ」
斥候の男が腰のナイフを抜いた。やはり戦うことになるのか、と思ったら。
「やめなよロブ。迷子なんだよ。助けてあげなきゃ」
剣士の男がロブと呼んだ斥候の男を窘めた。剣士の男がお人よしで助かる。
「そうだ落ち着け、村の人もただ言い忘れていただけかもしれない」
このチャンスをみすみす逃すわけにはいかないため、ダメ押しで言ってみる。
「そうかもしれない。あそこの村長さん少し抜けてたし」
やはり独り言のように小声の魔法使いの女。これはいい情報だ。
「あそこの村長少し抜けてただろ」
俺の言葉に魔法使い女がうんうんと頷く。お前の言ったことをそのまま言っただけなんだがな、まさか小声で言ったことが聞こえているとは思っていないのだろう。
だが斥候の男はまだ警戒を解かない。それに対して魔法使いの女が杖でボコっと叩いた。
「何すんだアニー! いてーじゃねーか!」
「ロブがナイフをしまわないからだろ」
「うるせーガルト! こいつはまだ怪しい!」
突然喧嘩が始まった。
どうやらガルトと呼ばれた剣士とアニーと呼ばれた魔法使いは俺の言うことを信じたようだ。だがロブはまだ信じられないようで、警戒を解きたくないようだ。……まぁ喧嘩が始まったことで俺への意識がそれているが。
「ロブの方がうるさい」
再度アニーが杖でロブを叩こうとしたがロブはそれを避けた。
「避けちゃダメ」
アニーの杖ラッシュ。
ロブはギャーギャー喚きながら避ける避ける。
なんなんだこれは。
「はいストップ」
ガルトがアニーの杖をパシッと手で受けとめた。
「助かったぜガルト。じゃ、じゃあ一つだけ質問だ」
ロブがこちらに向き直って人差し指を立てた。
これはまずい。
知らないことが多すぎる俺にとって何かを聞かれるのはボロが出やすい。最初から力ずくで行くべきだったか。
「村の名前を言え」
やはり俺の知らないことだ。どうする……。
俺が沈黙しているとガルトやアニーまで怪訝そうな顔をし始めた。
「敵だ!」
ナイフを構え直したロブのその一言でガルトもアニーも一瞬で戦闘態勢に入った。
ガルトは剣を抜き前面に出て、アニーはバックステップして杖を構えて魔法を撃ち出そうとしている。
こちらの動きを見逃さないとばかりにロブの青い目が鋭く俺を射抜く。
先ほど喧嘩していたパーティとは思えない陣形構築の速さだ。
それにしても質問に答えられなかっただけで敵認定とはな。人族に化けられる魔物が存在していたとして、そういうものと思われたのだろうか。認定の理由はわからないが相手が敵と言ったのだ。戦うしかないだろうな。
ガルトとロブまでの距離は五メートルもないが、アニーまでの距離はギリギリ六メートル以上ある。念動腕だけでは対処できないか。
俺はガルトとロブに対して念動腕で地面に抑え込み、アニーの杖に対して念動の衝撃を加えた。念動“腕”だけでは対処できないからな。
アニーが杖を構えたところをみるとアレを魔法の触媒か何かにしているのだろう。エルフたちは使っていなかったが、何かあると見た。
俺のその考えが当たったようで、杖を吹き飛ばされたアニーは魔法を使わなかった。
突然のことにロブもガルトも懸命に足掻きながら喚いているが、アニーはペタンとその場に力なく座り込んだ。
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