27話 三人の冒険者
3章開始です。
俺とターニャとマヤの三人は東に向かって森を進んでいた。
「こっちの方向でいいのか?」
「えぇ、人族はみんなこっちの方から来るからこの先に村か何かがあるはずよ」
俺の質問にターニャが答える。
ターニャも実際のところ知らないのか。てっきりターニャは知っているものだと思っていた。それなら里長か戦士長にでもしっかり聞いておくんだったな。
「はぁ、はぁ。ね、ねぇ、もうちょっとゆっくり移動してくれないかな?」
マヤは息を切らせている。
仮面が息苦しいようで外している。……ドルイドとしてどうなんだ?
まぁそれを咎める奴はここにはいないからそのままでいいだろう。
俺は走ってはいないが、走りに近い速度で歩いている。ターニャはそれに普通についてきているから問題ないと思っていた。マヤは森人族だというのに森の中の移動が遅い。必死についてきている。
鬱蒼とした森であるため移動には障害物が多い。そのため移動速度が落ちるのは仕方ないとは思う。だがいつも森の中を移動しているだろうマヤが遅いのはなんでだ。
「森はいつごろ抜けられそうなんだ?」
余裕があるのなら速度を落としてもいいのだが。
「この速度ならお昼過ぎには抜けられると思うわよ」
今の速度で森を抜けるのに昼過ぎ。そこから村まではどのくらいだろうか。
村までたどり着けなかったら野宿になるだろうが、野営の仕方なんてわからない。二人はわかるのだろうか。
「もしも速度を落として夜までに村か何かに着かなかった場合、野営することになると思うが、二人は野営の仕方はわかるのか?」
それに対してターニャは首を横に振るだけだった。マヤは首を振る余裕がないのか、それとも話すら聞いていないのか反応はない。
クソ。だったらさっさと人のいるところまで行かないとな
念動腕を創りだしてマヤの服の後ろ襟を掴んで持ち上げてやる。
「このままの速度で移動する。マヤは運ばれてろ」
「ふぁーい」
マヤの気のない返事。
優しく運んでとかふざけたことを言うのかと思ったが、その元気もないようだ。こちらとしては楽で助かる。
……服が胸を強調するような形になっているのは気のせいだ。
ターニャは空中を移動するシュールなマヤを見てから俺を見た。
「なんだ?」
「……なんでもない!」
語気を強めて顔を背けて先に行ってしまった。
なんで怒っているんだ?
「おいマヤ、なんかターニャの機嫌が悪いぞ」
念動腕で運んでいるマヤを近くまで引き寄せ声をかけた。しかし返事がない。
……寝てやがる。
朝早かったこともあってちゃんと寝ていなかったのだろうか。里を出てから結構経っている。ずっと移動しっぱなしで疲れたのか。
「チッ」
無邪気な顔で寝息を立てて寝やがって。可愛いっちゃ可愛いが、なんだか憎たらしい。
俺は無視してターニャを追った。
しばらく進むと何かの気配がした。俺が止まって辺りを警戒しているとターニャも気配を感じたようで警戒し始めた。
マヤはいまだ暢気に寝ている。
そろそろ起こすか。
念動腕をさっと消してやると重力のままにマヤが地面に落下した。
地面に落ちる前にビクッと反応して目が覚めるも、急には着地に対応できなかったようでケツから地面に着地した。
「ぎゃ!」
女の子らしからぬ声を上げて周りをキョロキョロと見ている。
「もう、私女の子だよ。丁重に扱ってよ」
マヤは俺を見て怒っていますというように頬を膨らませている。仕草が子どもすぎるだろ。狙っているのか?
だが俺はロリコンではないので反応はしない。
「静かにしろ。何かの気配がする」
俺が言うとマヤは黙って辺りの気配を探る。
さっきから小さいが、ゆっくりと警戒しながら移動する音が聴こえる。察するに二足歩行の生き物が三体。金属音も聞こえるところをみると金属製の何かを着ているのだろうか。人か魔物か。魔物にそういったものを装備する奴がいたらの場合だが。ファンタジーならゴブリンやオーク、オーガなどもいるだろうから、そういう奴かもしれない。
だが森の魔物はあの時に殲滅したはずだ。ということはやはり人だろうか。
「人族よ」
ターニャは言うが思わしくない顔だ。
森に人族が入った際には追い返していたから人族とはあまり仲が良くないのだろうか。出会った瞬間に戦闘も考えられる。相手にもよるだろうが。いずれは人の多いところに行くのだ。実際にあっちがどう思っているか知らないが、出会うのが早まっただけだ。
どちらにせよ、人族が森に入ってきているのだ。エルフに追い返されるか俺たちに追い返されるか。もしくは対面してそのまま近くの村まで案内してもらおうか。
それが楽そうだ。
「このまま出会って近くの村か町か、人の集まるところに案内させる」
ターニャは本気なのかというような目で俺を見てくる。
「いいんじゃない?」
そう言ったマヤは腰につけていた袋から仮面を取り出して顔に装着した。
「マヤまで。戦いになったらどうするのよ」
「そのときはそのときだろ。力でねじ伏せればいい」
ジト目で見られた。
相手の力量はわからないが、こちらはすでに気づいているのに対して相手はこちらに気づいていない。
結構距離があるはずなのにここまで歩く音が聴こえるほどに堂々と歩いているのだ。私たちはここですと宣伝して歩いているようなもので、ただのバカか肝の据わったバカなのだろう。極端に移動速度が遅いから警戒しているとわかるんだがな。
「わかったわ。そうね、それじゃあまず巡くんだけで会ってきてくれる?」
人族の俺だけで会ったほうがエルフと一緒よりは警戒が少ないからか。
結局はターニャとマヤも一緒に行くことになるのだろうから変わらない気がするが、まぁそれで納得できるというのならどちらでもいい。
「わかった」
俺が気配のする方へと向かおうとするとなぜかマヤまでついて来ようとした。
なんでお前まで来るんだよと思って睨みつけると、マヤはビクッと反応してニヒヒと笑った。
「ジョークだよ、ジョーク」
ぶん殴ってもいいか?
拳を振り上げようとしたところでターニャがマヤの腕を引っ張り戻した。
ターニャは心底怒っているような顔をしているので後は任せよう。あいつの対応は疲れる。
気配のする方へと歩いて行く。
少しすると相手が視界に入ってきた。
男二人に女一人。
男の一人は軽装で辺りの気配を探っているようだ。斥候か何かだろうか。
もう一人の男はスマートな鎧に身を包み腰に剣を携えている。剣士か。
一人だけいる女はローブに身を包み杖のようなものを持っている。いかにも魔法使いって感じだな。
よくあるRPGの冒険者パーティって感じだ。三人とも見た目は若い。二十はいっていないと思う。
軽装の男が俺に気づいたようだ。
さぁ、どんな対応で来る。
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