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異世界のコラプス  作者: のこ
章間 幼馴染(物理)
31/41

番外5話 初めての戦い

うーん、長い。

 初めて身体強化の訓練をしてから半年。


 もうそろそろ寒くなってくる時期、魔物たちもこの時期になると食料をため込むため村の外では見かけることが多くなるらしい。


 そんな時期にアルフが言った。


「俺たちで狩りに行こうぜ」


 こういうことはレーナとマックスと遊んでいるときによくあった。でもそのときはレーナもマックスもアルフの提案に反対して結局アルフもただ遊ぶだけだった。


 でもこのときは違った。


 最近お父さんたちの狩りがうまくいっていないせいでご飯が少ないときがある。理由は教えてくれないけど、魔物が多いからだと思う。毎年この時期はご飯が少ないときがある。今年も同じだと思ったけど、最近はその頻度が多い。


 そのせいもあってか、レーナもマックスもすぐに否定をしなかった。


 もちろん私も。


 私は早く強くなりたいから魔物を倒してレベルを上げたいと思っていた。だから毎回アルフが提案するのに反対はしていない。お父さんに鍛えてもらってから強くなっている自信もある。実際、最近三人と遊ぶときも三人の動きに余裕でついていけるようになっている。


「危ないんじゃない?」


 レーナが不安そうに言う。マックスもうんうんと頷いている。


 このままだと今回も狩りにはいけそうにない。


 アルフを援護しないと。


「でも今日もご飯少ないかも」


 私の言葉に頷いていたマックスの動きが止まった。


 実はマックスは食いしん坊だ。他の子より体が大きい分たくさん食べるみたい。


「確かに」


 マックスが腕を組んで思案している。狩りをする方向で考えてくれているのかも。


「私たちまだ大人と一緒に狩りに行ったこともないし、わざわざこんな危ない時期に行かなくてもいいじゃない」


 レーナははっきりと否定的な意見を言った。


 確かに最初は大人と言った方が安心かもしれない。だけどちょっと出てすぐに戻ってくればいいと思う。


「僕は狩りについて行ったことあるよ。でも多分この時期は大人に言ったら行けないかもしれない」


 マックスは狩りにいったことがあるみたい。


 大人に言ってもダメっていうことはこの時期はやっぱり危険なんだ。ちょっと挫けそうになるけど、これも強くなるためだと自分に言い聞かせる。


「ちょっと出て、すぐに戻ってくれば大丈夫じゃないかな?」


 私にはこれくらいしか思いつかない。


「でもそれじゃあ獲物は見つからないぜ? それに動物は森の奥だし」


 なぜかアルフに否定された。


 アルフが狩りに行こうって意見を出したくせに。あなたは賛成派でしょ!


「それじゃあエサを使っておびき寄せればいいんじゃないかな。魔物が来ると思うけど、村からあまり離れなければ安全だと思うし」


 マックスが良さそうな意見を出してくれた。


 動物は無理でも魔物ならエサを使えばおびき寄せられる。さすが狩りに行ったことがあるだけのことはある。


 私はむしろ魔物が倒したかったから大賛成。


 アルフも納得したらしく何も言わない。


 レーナは安全っていう言葉を聞いてなんとか納得してくれたみたい。


 でも、魔物って食べられるのかな?


 それから各々一旦家に帰って準備して、また集合することになった。


 家に帰るとお母さんがいた。


 また外に行こうとする私にどこに行くのか聞いてきたけど、またレーナたちと遊んでくると言って誤魔化した。


 食べ物を少し持っていこうかと思ったけど無理そう。


 五歳の誕生日のときにもらった革のグローブをつけて戻ることにした。今は六歳だからちょっとだけ小さいけど、ないよりはマシだと思う。


 集合場所に戻るとレーナがいた。


 レーナは弓を持っている。レーナのお父さんも弓を使っていて結構うまい。だからレーナも弓を教わっていると聞いたことがある。


「レーナ早いね」


「えぇ。リズはそのグローブだけ?」


 レーナは私のグローブを見て心配そうになっている。


 レーナは弓だから遠くから攻撃できるけど、私が習っているのは体術だから近づかないと戦えない。


 ……あ、でも攻撃は習ってないや。


 どうしよ。


 まぁでも、きっと大丈夫。


「お父さんから体術ならっているから大丈夫。私、避けるのうまいんだよ」


 しかしレーナは変わらず心配そうに見てくる。


「おーい、二人ともー」


 そこへアルフとマックスが戻ってきた。


 アルフは私と同じようにグローブだけだ。


 マックスは短剣と動物の干し肉を持っている。


 ピューラっていう鹿みたいな動物の肉だと思う。干し肉だからあまり臭いはしないけど大丈夫かな?


 まぁマックスしかエサを持ってきていないんだから文句は言えないよね。


「揃ったみたいだから行こうか」


 マックスがリーダーとなって近くの森の入り口に向かうことになった。


 森までは私たちでも走れば二十分もしないくらい。日はまだ天辺を過ぎたくらいだから行って帰ってくる時間を入れても狩りの時間が結構あると思う。


 だけど私たちは少し小走りに移動した。


 あまり遅いとお父さんたちに途中でバレちゃう。


 森にたどり着くとそこには少し不気味な雰囲気があった。まだ日があり明るいというのに森の奥は暗い。動物たちの声も聞こえない。


 私は腰が少し引けた。


 レーナも同じようで弓を胸の前で抱くようにしている。


「なんだよレーナ、ここまで来てビビってるのか?」


「ビビッてないわ。ビビッてないけど、ただ……なんでもない」


 アルフのおちょくりにレーナが反論するけどやっぱり怖がっているようにしか見えない。アルフとマックスは物怖じしてないようで、こういうときは可愛いけど男の子だなと思う。


「それじゃあ三人とも、僕から離れないでね。危なくなったらすぐに逃げるんだよ」


 マックスの言葉に全員で頷く。


 森の中に入ると不気味さが一層感じられた。さっきまでレーナをおちょくっていたアルフまで静かになるほどに。


「それじゃあこの辺にエサを置こう」


 森に入って全然進んでいないけど、マックスの意見に誰も反論しなかった。


 普段ならアルフあたりがもっと奥に行こうと言いそうだけど、アルフも少し怖がっているのかもしれない。


 私も少し怖いから反論はしない。


 私たちの無言にマックスは賛成したとみたのか、干し肉をナイフで三つにちぎって地面に置いた。


「ねぇ、そういえば、魔物ってどういうのがいるの?」


 私は気になっていたことを聞いてみた。食べられるような魔物が出てくるのかも私にはわからない。


「ゴブリンとかオークかな」


 マックスが教えてくれたけど、ゴブリンもオークもどんなのだかよく分からない。


 首をかしげるしかない。


「ゴブリンもオークも亜人種っていう魔物で人型なんだよ。でも僕たちみたいな人のように頭はあまりよくないんだ。ゴブリンは食べられないけど、オークは豚みたいな感じだから食べられると思うよ」


 マックスがさらに補足してくれたおかげでなんとなくわかった。人型ならお父さんとの訓練が役に立つと思う。


 マックスはどっちとも戦ったことあるのかな。


「よし、それじゃあ近くの草むらに隠れて獲物を待とう」


 私もレーナもアルフも静かにそれに従った。私たちはエサから少し離れた草むらに身を潜めて獲物を待った。


 しばらくするとフゴフゴという音が聴こえた。


 レーナがビクッと反応して音が立ちそうになった。マックスが口元に指を当てて静かにするようなジェスチャーをして、レーナはすぐに自分を落ち着かせるように目を閉じた。


 さらにそのフゴフゴという音がはっきりと近づいてきている。


 ゴクッとアルフの息を飲む音が聴こえた。


「オークだ。一匹だけみたいだ」


 マックスが小さな声で音の主に当たりをつける。


 なるほど、あのフゴフゴという音はオークの鼻を鳴らしている音なのか。確かに豚みたいな音かも。見た目も豚みたいなのかな。


 そしてちょうどフゴフゴという音がエサを置いた方から聴こえたとき、高い位置から豚のような顔が見えた。


 あれがオーク!


「うっ、僕が戦ったゴブリンよりずっと大きい……」


 それは予想していたよりも凶悪な顔で体躯もがっしりとしている。マックスもそう思ったのか小さな声が漏れ聞こえた。私たちだけで倒せるのかとても不安だ。


「レーナ、あいつがエサを食べたら弓で攻撃するんだ。それを合図に僕たちが行くから」


 マックスがレーナに言うが、レーナはぶるぶる震えていて返事がない。レーナもオークを見て怖がっているみたい。


 私だって怖いの我慢しているのに、レーナが怖がるせいで私も少し震えてきちゃう。


「レーナ」


 アルフがレーナの手を握ってあげている。


 レーナの震えはゆっくりだけど治まってきたみたい。


「大丈夫、行けるよ」


 震えの治まったレーナを見てマックスが頷き、アルフも飛び出す準備を始めた。


 私も出遅れないようにしないと。


 ゆっくりと深呼吸をする。


 ここでオークを倒してレベルを上げて、もっと強くなるんだ。そうじゃないと巡に会えない。


 フゴフゴと言っているオークは私たちが設置したエサを見つけたようで、その場に座ってエサに手を付けた。


 弓を構えて立ち上がったレーナはガサッと草を揺らす音など構わず弓を引き絞り、ギリギリと弓を軋ませ矢を放った。レーナ用だから大人が使うよりは少し小さい弓だけど、それでも全力で放たれた矢は凄まじいスピードだった。


 これなら一撃で倒せるかもと思った。


 だけどレーナの放った矢はオークの体に当たり、少し傷をつけただけではじき返されてしまった。


「うぉおおおおーーーー!」


 オークにはレーナの弓でこちらに気づいているため、マックスは大声で気合を入れて突撃した。


 一歩遅れてアルフと私も飛び出した。


 オークは立ち上がってマックスを迎え撃つつもりだ。


 マックスは右手で短剣を突き出した。左手は右手を補強するように支えている。


 それはオークの喉を狙ったとても鋭い一撃で、後ろで見ていた私はやったと思えた。


 しかしマックスの突きを掌で受け止められてしまった。


 オークはマックスを横殴りに吹き飛ばした。


 後ろではレーナが悲鳴を上げている。


 正直私も叫びたい。


 でもここで諦めたらみんなやられちゃう!


 グッと悲鳴を飲み込む。


 吹き飛ばされたマックスを見る。


 口から血を吐いているが痛みに呻いているところを見るとまだ生きている。


 よかった。


「何してんだリズ! 避けろ!」


 アルフの声が聞こえてすぐに前を見るとオークがこちらに突進してきていた。


 なんとか避けることが間に合ったが、肩を少しかすった。


 かすった部分がジワジワと痛む。思わず手で押さえてしまう。


「きゃあああ!」


 レーナの苦悶な悲鳴が響く。


 後ろを振り返るとレーナがオークに捕まってしまっている。


 レーナを両手で握りしめているオークの顔は笑っているかのように醜悪に歪んでいる。それを見てしまった私は足が急にガクガクと震えだした。


 レーナを助けなきゃ!


 で、でも、私も捕まったら……。


「レーナを放せ!」


 私が怖気づいている隙にアルフがオークに向かって突っ込んでいった。


 オークもそれに気づいてレーナを投げ捨てると、向かってくるアルフに対して右腕を振るった。


 避けることなんて考えていなかったのか、アルフはそのままそれを食らってしまって遠くの木まで吹き飛んでしまった。


 マックスも、レーナも、アルフも、みんなやられちゃった。


 つ、次は私だ!


 オークは醜悪な笑顔を向けてこちらにのしのしと向かってくる。


 圧迫感がすごい。


 足の震えも止まらない。


「リズ! 逃げて!」


 レーナの声が聞こえた。


 レーナ無事だったんだ!


 でも、逃げられない。


「みんなを置いて逃げられないよ!」


 大声を出して自分を奮い立たせる。


 みんなを置いて逃げるなんていやだ。ここで逃げたら巡にバカにされる。友達も守れないような私じゃ巡に会う資格もない。


 オークを倒して強くなるんだ!


 足の震えが治まってきた。


 私を捕まえようと、オークの腕が伸びる。


 私は重心を高く構え素早く動きやすい構えをとった。


 お父さんとの訓練を思い出すんだ。


 私はオークの腕を躱して後ろに回る。


 だけどそこからつながる攻撃の仕方がわからない。


 私が戸惑っているとオークが振り返り、また腕を伸ばしてくる。


 すぐに回避するが、オークの攻撃は止まらない。


 私はどうにか避けているがギリギリだ。このままだと体力勝負になっちゃう。小さい私じゃ長い間動き回れない。


 このままじゃ――


「リズから離れて!」


 オークに向かって矢が放たれた。


 レーナが射ってくれたんだ!


 しかし邪魔をされたと思ったオークは怒ったようにレーナに突撃していった。このままじゃあさっきと同じだ。捕まったら今度こそ殺されちゃう! でも、私じゃオークの突進なんて止められない。


 こうなったら。


 私は足に魔力を纏わせて全力でレーナのもとに駆けた。初めて使ったときは一瞬しか使えなかったけど、訓練して数秒は使えるようになったんだ。


 一瞬でオークを追い抜く。


 そしてレーナを突き飛ばした。


 後ろを振り返るとオークがすぐそこまで来ている!


 その場から離れようとしたが、そこで纏っていた魔力が尽きてしまった。


 どうにか素の状態で横っ飛びに避けた。


 しかし左足が当たってしまった。


 レーナは私に突き飛ばされて頭をぶつけたのか気を失っているようだ。オークの突進をくらうよりはまだマシなはず。


「痛ッ!」


 オークの突進が当たった左足がズキッと痛む。この足じゃあ攻撃を避けることができない。


 どうしよう。


 私の心配を余所に、オークはレーナのもとに向かっていた。


「レーナ! レーナ!」


 名前を呼んでも反応がない。


 目が覚める気配もない。


 さっきみたいに魔力を纏ってレーナのところまで行かないと。


 だけど魔力がうまく纏えない。さっきのでもうMPが全然ないんだ。足も怪我しているから走れないし……。お父さんと訓練したのに、私がまだまだ弱いから。このままだとみんなやられちゃう。死んじゃったら、お母さんにもお父さんにも、巡にも会えないよ……。


 私があたふたしている間にオークはレーナに手をかけようとしている。


 弱音なんて言っている暇はない。


 そんなことは絶対にさせちゃいけないんだから!


「ダメ! それ以上は絶対に許さないんだから!」


 叫んだ瞬間、突然足の痛みが消えた。


 身体が軽い。


 今ならレーナを助けられる!


 足に力を加える。


 一気に跳ねた。


 レーナのもとまで行き、オークとの間に割り込んだ。


 伸ばされていたオークの腕を弾く。


 訓練通りに重心は少し下げる。歩くときは身体全体で進む。


 腕を弾かれたせいで一瞬態勢が崩れたオークに向かって私は間合いを詰めた。


 右腕を引いて一気に突き出す!


 オークは私の攻撃で吹き飛び、木の幹に突き刺さった。


 オークは苦悶の表情を浮かべ鳴き叫んでいる。


 だけどその声は徐々に力を失っていき、最後には動かなくなった。


 そこには木の幹に突き刺さって息絶えたオークの姿だけになった。それに私は安心してホッと息を吐いた。


 急に安心したからか、足の力が抜けてその場にへたり込んでしまった。


 今までレーナの攻撃もマックスの攻撃も全然怯まなかったオークが私の攻撃で吹き飛ぶなんて。


 これってもしかしてギフトが使えたのかな……。


 あぁ、だけどもうそんなこと考えている余裕がない。


 魔力を纏って戦った反動とギフトを使った反動のせいか、身体のあちこちが動かない。


 肩と足だけじゃなく、身体中が痛い。


 みんな、大丈夫かな……?


 私はそこで気を失ってしまった。

お読みいただきありがとうございます。


このままゆっくり書いてもいいのですが、それだと2章と同じくらいの長さになってしまうので、次で一気に飛びます。

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