番外4話 訓練、そして身体強化
武術わからないです。
レーナ、アルフ、マックスと友達になったことで、お母さんは約束通りにお父さんに鍛えて欲しいというお願いをしてくれた。一応私がお父さんにお願いしたときには断られてしまったけど、お母さんからの後押しもあったことでお父さんも了承してくれた。
それから毎日、お父さんによる訓練が始まった。お父さんが教えてくれたのは主に武術の基礎のようなものだった。初めのころは十分、二十分くらいの短い時間だったけど、徐々にその時間も長くなった。四歳を過ぎたころには訓練の時間が毎日一時間くらいだ。
お父さんは狩りのときに剣や弓などの武器を使うみたいだけど、その扱い方は教えてくれなかった。子どもの私には危険だからだって。それに私用の小さいものは置いていないからだと思う。だから私も武器の扱い方を教わろうとはしなかった。
ひたすら体術を教わった。まずは歩き方から。ほんの少し重心を下げて身体の中心線がブレないように身体全体を同時に進ませる。足や上半身が先に出ないように注意が必要。それ以外にも重心を高く保ち小股で浮くような感覚で移動する歩き方も教わった。これはちょっと忍者みたいな歩き方だ。攻撃や防御をするなら前者、戦闘中に速い動きや回避をするなら後者をするように言われた。
そしてその後に攻撃の受け方と避け方を教わった。というよりは、攻撃の見方かな。相手の動きを常に見て、どんな攻撃が来るのかを見極めることに重点が置かれている。だけどこれは基本的に対人戦であって、魔物との戦いでは距離を大切にしろと言われた。人ができる動きには限りがあるけど、魔物の動きや攻撃には予想だにしないことが多いからだって。
歩き方と攻撃の見方を大体三年近く徹底的に教わった。これに関しては多少文句があったから、途中で攻撃の仕方も教えてほしいって抗議したけどダメだった。まずは生き残ることが先決で勝てないと思っても時間を稼ぐことが必要だって言われて仕方なく納得した。まぁ小さい私が攻撃しても体重がないからあまり意味がないかもしれないし。それに攻撃の見方から受けたり避けたりするのはとても器用の訓練にいいかもと思ったりもした。そのおかげで実際に器用も上がったし。
お父さんの訓練もあって六歳になった私のステータスは結構上がっている。
──
名前:リズベット
レベル:4
HP:30(30)
MP:10(10)
筋力:5
耐久:6
器用:6
敏捷:7
魔力:2
幸運:11
ギフト:金剛
──
レベルも上がっている。二歳、四歳、六歳と1レベルずつ上がっているから、多分二歳ごとにレベルが上がっていくんだと思う。とにかく順調に成長していて器用なんて前世の私をすでに超えちゃった。レベルが上がったときにも器用が増えていたし、ある日突然増えてもいた。魔力が上がらないのがちょっと心配だけど、お母さんもお父さんも魔法を使わないからいらないかな。そう思っていた。
「リズ、この三年間ずっと歩き方と攻撃の見方を教えてきたが、そろそろ魔力を使った訓練をしようと思う」
お父さんからそんなことを言われてしまった。今まで魔法だって見たことないのにそんなこと言われてもついて行けるか心配だよ。
「リズの魔力はどのくらいだ?」
「えっと、2しかないよ」
あの神様とかいう女の人の言うことを信じれば、魔力の平均は10だ。まだ六歳の私が2しかないのは子どもだからだと思うけど、このまま大人になったとしても魔力は10に届く気がしない。他の能力値は平均を超えられると思うんだけど。
「まぁ六歳の獣人族にしては普通だな。それなら大丈夫そうだ」
あれ? 六歳で2しかないけど普通なの? もしかして、獣人は魔力が少ないのかな。でも、魔力が2しかないからまともに訓練ができるのかがまた心配。
「大丈夫なの?」
「あぁ、私たち獣人族は魔力を魔法じゃなくて身体強化に直接使うからな」
心配で不安になっている私の頭を撫でてくれた。
魔法じゃなくて身体強化に使うのか。身体強化だとあまり魔力いらないのかな。
「心配しなくても、リズならすぐにできるようになるさ。まずは私が使うところを見るといい」
そう言ったお父さんは、私から少し離れて忍者みたいな歩き方で移動し始めた。最初は普通だったけど、途中から動きがブレて見えて突然目の前に現れた。
「こういう感じだ。今のは足に魔力を纏わせたんだ」
そんなこと言われても速くてよくわからない。途中でブレたときに使ったのはなんとなくわかるけど……。
「よくわかんない」
「んー、そうだな。まずは魔力の使い方か」
お父さんは私の前でしゃがみ、私に向かって手を伸ばしてきた。私の視線がお父さんの手に吸い込まれるようにその先を見る。そして私の胸に手を当てられてドキッとした。何!? 娘の私に突然セクハラ? まだ膨らんでいないかもしれないけど、お母さんみたいに大きくなる予定なの。そう思ってバッとお父さんの顔を見るととても真剣な顔でいる。やっぱりイケメンだ。だけど耳が可愛い。
「いいか、私の手を意識しながら心臓の鼓動を感じなさい」
イケメンとか可愛いとか考えている場合じゃなかった。お父さんは真面目に魔力の使い方を教えてくれているんだ。
私はすぐにお父さんの手から伝わる熱を感じ、その先にある自分の心臓の鼓動を感じた。ドクンドクンと鳴っている。お父さんの突然のセクハラ……じゃなかった。胸に伸ばされた手にドキッとしたせいで、ちょっと鼓動が速い。だけど段々と落ち着いてきた。
「次にそこから流れる血の動きを想像するんだ。心臓から手や頭、足、色んなところを流れていることを」
言われたとおりに想像していく。なんというか、これはギフトの金剛の使い方と少し似ている気がする。確かここから身体が金属のように硬くなることを想像するとできたはず。……まだできないみたいだけど。でも、なんだか血の流れを想像していると、お父さんの手から伝わる熱が体中を巡っているように熱く感じる。
「身体が熱くなってきた気がするみたいだな。それが身体強化をするときに使う魔力だ」
私のちょっとした変化にお父さんが気づいたみたいだ。なるほど、この身体がポカポカ温かくなる感じが魔力なのか。ちゃんと使えるみたいでよかった。
「よし、それじゃあその熱を足に纏わせてさっきの私のように歩いてみなさい」
血の流れを足に意識し、熱も一緒に移動するように想像する。そしてその熱を足に纏わせていく。お父さんから離れて忍者みたいに歩くと、いつもよりも速く動けている気がする。歩いているのに走っているくらいに速い。でもすぐに疲れていつもと同じ速度になってしまった。
「さすがリズだ。もう使えるようになるなんてな」
お父さんに褒められて嬉しい。ちょっと得意げ。でも本当に疲れた。息が切れるような疲れじゃなくて、なんていうか、疲労がどっとくるような感じ。
「あぁ、初めてだから一気に疲れちゃったか」
お疲れな私を見てお父さんも察してくれた。
「うん。今日はこれ以上無理そう」
「使っていけば慣れるさ。魔力も多くなればもっと長く使えるしな。今日は短いけどこれで終わりにするか」
また私の頭を撫でてくれる。
いつもは一時間くらい訓練するけど、身体強化を使った訓練だけで終わってしまった。この日は十分もやってない気がする。
お読みいただきありがとうございます。
六歳のお話でした。
まだ(物理)にならずすみません。
この次の話もほとんど書けているのですが、長くなりすぎたので分割しました。
番外はあと二話くらいの予定です。