番外3話 近所の子どもたちと
なんか平和すぎやしませんか?
漸く私は三歳になった。言葉もたくさん覚えて話せるし、歩きだって完璧マスターできた。ステータスも意外や意外、魔物を倒していないのにレベルが1上がっている。
──
名前:リズベット
レベル:2
HP:16(16)
MP:10(10)
筋力:4
耐久:4
器用:4
敏捷:6
魔力:2
幸運:11
ギフト:金剛
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二歳のときにレベルが上がった。でもそのときには能力値は上がってない。どうしてだろ? でもここ二年間で耐久と敏捷が1ずつ上がっている。これも鍛錬の賜物だよ。本当はギフトの金剛を扱うために器用を上げたいんだけど、どうにも狙って能力値を上げることができない。器用を上げるために片足でずっと立ったり、逆立ちしたりしたのに。料理のお手伝いや片付けも器用の訓練になるかもと思ってやったときなんて、お母さんに「器用ね」って褒められていたのに。もしかして無茶して怪我ばかりしていたから器用よりも耐久のほうが成長しちゃったのかな? うーん、考えていてもよくわからない。
「あら、リズ、今日は大人しいわね。雨でも降るのかしら」
お母さんが大人しい私に対して嫌味を言う。外はいいお天気だ。いや、嫌味と思ってしまうのは私の普段の行いのせいだと思うけど。いつもあちこち動き回って鍛えていたし、暇さえ見つければその場でできる運動をしたりしていたから。お淑やかな女子らしさというのはないかも。お母さんはたまに女の子らしくしましょうねって言うし。
「ちょっと考え事してただけ」
でもやっぱりそういう風に言うなんてひどい。思わず拗ねるように言ってしまった。
「ごめんなさいリズ。でも、拗ねたリズも可愛いわね」
すぐに謝ってくれるのはいいけど、そうやってご機嫌とりをしても許してあげない。
「ふん」
「嫌われちゃったわ。ママは悲しい」
お母さんは悲しそうな声で顔を手で覆う。あぁ、そうじゃないの、嫌いじゃないの。大好きだからそんな悲しそうにしないで。
「ママ、大好きだから元気だして、ね?」
するとお母さんは顔を覆っていた手をガバッと広げて私を抱きしめた。
「ふふっ、私も大好きよ」
先ほどとはうって変わって明るい声で言う。この、ウソ泣きか! 私の純情を返しなさいよ!
「もう、ママ、ウソ泣きダメ!」
「ウソ泣きじゃないわよ。だってリズに嫌われたら本当に悲しいもの」
お母さんは私の頬に自分の頬を当ててスリスリと甘えるようにこすりつける。もう、本当にお母さんは甘えん坊なんだから。
しばらくお母さんが満足するまで大人しくしていると、パッとお母さんが離れた。
「そうだリズ。そろそろ近所の子どもたちと遊びましょうか」
突然の話題転換にちょっと固まってしまった。まぁ大人しくしていたからお母さんにはわからないと思うけど。近所の子どもたちか。たまにお母さんと外に出るときに見かける子はいたからちょっと興味あるけど、私にはやらなきゃいけないことがあるの。
「私は遊んでいるひまはないの。もっと強くならなきゃいけないの」
「リズがどうしてそんなに強くなりたいのかわからないけど、他の子と遊んだらもっと女の子らしさが身に着くと思うわよ?」
女の子らしさは……まぁちょっとは欲しいけど。それよりも強くなって巡を探すっていう大切なことがあるの!
「強くなるの」
私の強情さにお母さんは少し困ったように考え込んでしまった。
「そうね。じゃあ、他の子と遊ぶようになったら、お父さんにリズを鍛えてくれるようにお願いしてもいいわよ?」
「ホント!?」
やった! お父さんはこの村でも一二を争うくらいに強くて、狩りでもいつも大きな獲物を捕まえてくるらしい。それを色んな家で分割するから私たちの家に並ぶものはその一部だけだけど。そんなすごいお父さんに鍛えてもらえるのなら喜んで子どもたちと遊ぶよ!
「えぇ。しっかりとお友達を作るのよ?」
「うん!」
これでお父さんに鍛えてもらえるし、友達もできて女の子らしさも身につければバッチリね。
「それじゃあ早速、今から行くわよ」
「え?」
そんな急に言われても、私にも心の準備というものがあるよ。えーと、えーと、最初の挨拶はどうしよう。おはよう? いや、もうお昼は過ぎているからこんにちはだ。えーと、それにどんな話で盛り上がればいいんだろう。あなたたちはどういう風に身体を鍛えているの? うーん、赤ちゃんのころから身体を鍛えている子とか私以外にいるのかな?
「早くしないと抱っこして行くわよ?」
お母さんはしゃがみこんで、私の両脇に手を差し込んだ。
「わっ、待って、抱っこしなくても大丈夫だから」
もう三歳で歩くのだってへっちゃらなのに、お母さんに抱っこされながら他の子たちに会いに行くなんて恥ずかしい。もしもそれでバカにでもされたら、きっと手が出ちゃう。……なんかこっちに生まれてから少し暴力的な考えが浮かんできやすくなっている気がするな。
私の抱っこ拒否に少し残念がるお母さん。だけど私はそんなお母さんの手を取ってしっかりとつなぐ。手をつなぐくらいだったらバカにされないと思う。
手をつないだことで少し機嫌を直したお母さんと共に外にお出かけをした。
外に出て井戸場に行くと、近所のお母さんたちが三人ほどいた。近くにはその子どもも。いつもなら水を汲んですぐに帰るからあまりここで話さないけど、今日はここで私のお友達を作るのが目的だ。
お母さんは近所のお母さんたちのもとに行く。それに私もついて行く。
「リズはあっちよ」
お母さんが優しく背中を押した先はお母さんたちのところではなく、その子どもたちが遊んでいるほう。男の子が二人に女の子が一人。何かのボールのようなものを投げあっている。
男の子の一人はみんなより少し大きめで多分七歳とか八歳くらいだと思う。灰色がかった髪の毛にちょこんと黒っぽい耳が出ている。尻尾も灰色だ。
もう一人の男の子は女の子よりちょっと小さいけどやんちゃそうで茶色い髪の毛からこげ茶色の耳が飛び出していて、尻尾は茶色をベースに三本の黒い線が入っている。
女の子はちょっと金色がかったススキ穂色のキレイな髪の毛からふさふさなススキ穂色の耳が出ている。尻尾は耳と同じようなふさふさ加減と色だ。
みんな私よりも年上みたいだけど、どの子もとっても可愛い。こんなに可愛いとバカにされても手なんか出せないよ。はぁー、今からあの子たちと遊ぶんだ。……ダ、ダメよ私! 遊ぶのに夢中になって疲れちゃたら鍛えるための体力がなくなっちゃう。いや、でも、遊んで疲れることも鍛えることになるかも。……ダメダメよ。それじゃあまた耐久が上がっちゃうかもしれないじゃない。私は器用を上げたいの。ほどほどに遊びましょう。
「お母さん、行ってくるね」
意を決して、いざ子どもたちのもとへ。
「気合が入っているわね。頑張ってお友達を作るのよ」
お母さんの隣では他のお母さんたちの控えめな笑い声が聞こえる。
三人のところに行くと、すぐに三人とも私に気がついた。投げあっていたボールをいったん止めて私のほうを見る。
あ、そういえば、最初の挨拶をどうするか決めてなかった。どうしよう。
私があたふたしていると、一人だけいる女の子が私の手を取って自己紹介をしてくれた。
「私はレーナ。一緒にボール遊びしよ」
ススキ穂色の髪が揺れて耳がピョコピョコと揺れた。か、可愛すぎる……。
「レーナ、そいつ誰だ!?」
やんちゃそうな男の子が大声で聞いてきた。
「こら、アルフ。大声を出さないの。この子が怖がっちゃうかもしれないでしょ」
アルフという男の子をレーナが叱った。大声くらいで怖がらないけど、叱られたアルフはこげ茶色の耳をしゅんとさせてとっても可愛い。
「大丈夫かい? 僕はね、マックスだよ」
マックスが私の前で膝を曲げ、同じくらいの高さで心配しながら挨拶をしてくれた。可愛いけどとっても紳士だ。
「大丈夫。私はリズ! よろしくね!」
みんなの名前もわかって少し落ち着いた。最初が肝心だと思って元気よく自己紹介して最後にペコっと頭を下げた。
「キャー可愛い!」
もふっとレーナが抱きついてきた。お互いに小さいけど、私よりはレーナの方が大きいから覆いかぶさられるような形になっている。
「むぐむぐ」
ちょっと苦しいから声を出そうとしたけど顔ごと塞がれていてうまく出せない。
「こら、レーナ。リズが苦しそうだよ」
「あ、ごめんなさい」
マックスの助けでどうにか解放された。くぅ、赤ちゃんのころから鍛えているけど、まだ年上には勝てないみたい。
「へへん、レーナが怒られてやんの」
「何よアルフ!」
レーナはアルフを追いかけていってしまった。うーん、可愛いのにみんなちょっと攻撃的だなぁ。他人のこと言えないけど。女の子らしさは身に着くのかな?
「もう、二人ともリズと一緒に遊ぶんじゃないのかよ」
マックスは二人を止めに行ってしまった。ポツンと一人残されてしまった私。
子どもと一緒に遊ぶのは疲れるなぁ。そう思いながら三人を追いかけた。
お読みいただきありがとうございます。
三歳になってお友達を作る回でした。
お父さんに鍛えてもらう約束もしましたし、本格的に幼馴染(物理)になっていきます。