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異世界のコラプス  作者: のこ
章間 幼馴染(物理)
28/41

番外2話 私の生まれは

前の章ではターニャとマヤに女子力を持っていかれましたが、この章間で幼馴染に戻して見せます。

女子力(物理)を!

 私が初めてこの世界に来たとき、オギャーと泣いた。他の人と同じだと思う。転生したからといって生まれたときは赤ちゃんだ。赤ちゃんは母親のお腹の中でも意識があるのかわからないけど、ポコポコとお腹を蹴ったりする。だけど私が私と意識したのは生まれてからだ。


「――、――――」


 生まれてからすぐ男性の声が聞こえた。


「――」


 その後にすぐ女性の声も聞こえた。


 何を言っているのかわからないけど、なんだか優しそうな声だ。声のするほうを見るもまだ目がよく見えないためぼやけた人影しか見えない。


 よかった。しっかり人だ。人の子として生まれることができた。あの女の人のことだから、もしかしたら人じゃなくて魔物に生まれるとか意味のわからない転生をさせられるかもとも心配した。ちょっとしたユーモアですとか言いながら……。


 一先ず心配事が一つなくなって泣きつかれた私はすぐに眠りについた。



──



 あれから時が経って私も一歳になった。あのとき自分で約束した通り、自分から巡に会いに行くため、この一年間赤ちゃんのときからできることをできるだけやった。


 魔物という危険な生き物がいるこの世界で重要なのは力だと思う。力と言っても色々あるけど、私が今身につけられるのは純粋な腕っぷしだけ。赤ちゃんなのに権力とか財力なんて無理だろうし。


 だから私は赤ちゃんのときから筋力を高めようとした。生まれてすぐの動けないときは物を投げたり引っ張ったり。ハイハイができるようになったらとにかく家中を動き回った。お母さんとお父さんにとっては迷惑かもしれないけど、やんちゃな赤ちゃんだと思って勘弁してほしいなと思う。


 言葉のほうは一歳で結構聞き取れるようになった。お母さんもお父さんも私の名前を頻繁に呼ぶから自分の名前を最初に覚えた。私の名前はリズというらしい。いつもリズリズ言っていて嫌でも覚えたのは内緒。


 でもある日、知らない家に行ったとき、お父さんがそこにいたおじいさんに私を紹介したのだけど、そこでは私のことをリズベットと紹介していた。どうやらリズは愛称だったみたい。おじいさんが私のことを見て、この子は立派に育つと太鼓判を押してくれた。


 そういえば、もう一つの心配事のステータス。生まれたときにこの世界の身体のステータスを見たときちょっと絶望した。


 ──

 名前:リズベット

 レベル:1

 HP:9(9)

 MP:10(10)

 筋力:3

 耐久:3

 器用:4

 敏捷:5

 魔力:2

 幸運:11

 ギフト:金剛

 ──


 どう見ても低い。なんでこんなに低いんだろうと思ったら、多分これはまだ赤ちゃんだからだという考えに行き着いた。これから徐々に成長していけば、この能力値も成長していくと思った。


 だけど一歳になって改めてステータスを見たとき、また絶望した。


 ──

 名前:リズベット

 レベル:1

 HP:12(12)

 MP:10(10)

 筋力:4

 耐久:3

 器用:4

 敏捷:5

 魔力:2

 幸運:11

 ギフト:金剛

 ──


 筋力が1しか増えていない。約一年間の私のトレーニングでは筋力1しか上げることができなかった。このままで強くなれるのかしら……。おじいさんが太鼓判を押してくれたけど、本当に立派に育つのだろうかととても不安になった。もっと鍛えないと。


 そうそう、この衝撃的なことの次に衝撃的なことがあったんだった。それはお父さんとお母さんに動物の耳と尻尾があったの。リスみたいに小さなお耳にふんわりとした尻尾。それ以外の部分は人と変わらないんだけど、全体的に見ると……可愛い。両親に失礼かもしれないけど、とっても可愛いの。


 お母さんが私を抱っこして子守唄を歌っているときにお父さんの足音が遠くから聴こえると、お母さんの耳がピクピクってしてとっても可愛い。お母さんの尻尾はとってもキレイで柔らかくていつもそれを抱きしめて寝ている。お父さんの耳は可愛いけど、尻尾はちょっと汚れている。お仕事しているからかな? 


 自分にもこんなに可愛いお耳とキレイな尻尾が生えていると思うとなんだかうれしい。早く巡に見せびらかしたいなぁ。そのためにも、もっと鍛えて強くならなきゃ!


 一歳になってからすぐ、私は歩けるようになった。


「あなた、リズが立ったわ!」


 私が歩くのを見たお母さんは私が初めて「パパ、ママ」と喋ったときと同じくらいの大声でお父さんを呼んだ。口元を抑えて感極まっている。今までにも物に捕まって歩くところは見ていたが、今回は何も捕まらずに自立しているからかもしれない。


「なんだって! 本当かいリーサ?」


 遠くからお父さんの声が聞こえ、すぐにこちらに来た。そうそう、お母さんの名前はリーサでお父さんの名前はヴァロ。そして私の名前がリズベット。しつこいかしら? でもこのリズベットっていう名前は結構気に入っている。


「村長の言う通り、立派に育ちそうだ」


 村長? 村長ってこの前知らない家にいたおじいさんのことかな。多分そうだと思う。


 お父さんはフラフラ危なっかしく歩いている私をヒョイっと抱き上げると私の顔をじっと見つめた。毎回お父さんの顔をよく見るとイケメンだなぁと思う。お母さんもキレイな人だし、これは私も自分に期待が膨らんじゃう。


「あなた」


 お母さんはそう言ってお父さんに抱きついた。


「リーサ」


 お父さんはお母さんの名を呼び、私を間に挟むような形でお母さんを抱きしめた。私は二人の温もりを感じながら、あぁいいお母さんとお父さんの間に生まれてよかったと思った。


 だけど、私は早く身体を鍛えたいの! 歩いて歩いて歩きまくって鍛えたいの! そんな私を捕まえて、いい家族だなぁと思わせて、今じゃなくてもいいじゃない! そう思ったとしても残念。私にはこの空気を壊す度胸はない。大人しくしていればすぐに解放されることはわかっている。だから騒がず大人しく待っていれば――


「ふぁー」


 欠伸が出てしまった。


「あらあら、うふふ」


「もうおねむの時間か」


 二人は私を見て慈しむような眼差しを向けてくる。眠くない! 眠くないから! まだ何も鍛えられていないんだから!


「やっ、やっ」


 私は身体をゆすってイヤイヤとするがお父さんにもお母さんにも私の考えは伝わらない。それでも一生懸命に意思表示するが徐々に疲れてきた。こ、これもいい訓練になるかもしれない……。


「おうおう、ごめんな。ちょっと暑かったかな。ほら、ママといい子に寝なさい」


 お父さんは私をお母さんに預けた。お母さんは私を抱いてそのまま寝室に向かってしまう。


「うー、もっと、歩く」


 言葉に出してはっきりと意思を伝える。そしてまた欠伸も出てくる。この二律背反な身体と意思が憎い。


 そんな私を見てお母さんはうふふと笑うだけ。そのまま寝室のベッドに横たえられてしまった。お母さんも添い寝してくれている。私の大好きな尻尾を私の前に出してくれる。うれしいけどそうじゃない。私にはやらなきゃいけないことがあるんだ。


 でも、くぅ~。この尻尾を抱きしめていると眠気に逆らえない。これは悪魔の尻尾だ……。


──


 ハッとなって目が覚めた。あれからどのくらい経ったんだろう。窓からはまだ若干の明かりが入ってきている。どうやら夕暮れ前には起きられたみたい。


 隣にはお母さんがいない。お母さんが寝ていた場所はまだ少し温かいが、きっと私が寝てからどこかに行ったんだと思う。このチャンスを逃してはいけない。今のうちに歩き回って、歩きをマスターしよう。


 まずはベッドからゆっくりと降りよう。赤ちゃんの私にはこのベッドの高さが何メートルにも感じられる。実際は一メートルもないんだろうけど。


 くっ、はっ、とりゃ! ズリズリと足からゆっくりとベッドから降りる。後半からは重力で一気に落ちないように勢いを抑えながら慎重に。最後に前のめりになりながら四つん這いでキレイに降りられた。


「ふぅ」


 ベッドから降りるだけだというのにこの難易度。十分疲れてしまった。ちょっと休憩しよ。


 床に仰向けになって倒れる。するとお腹が鳴ってしまった。身体を鍛える前に何か食べたいなぁ。お母さん来ないかなぁ。ってダメダメ。何のためにこんな高いベッドから降りたと思っているの。私は身体を鍛えるためにベッドから降りたのよ。


 というか今更だけどお母さん、よく柵もないベッドに私一人だけで寝かそうとしたわね。……いや待って、よく考えるとお母さんが寝ていた辺りはまだ温かかったってことは、もしかしてお母さんはトイレか何かでちょっと離れただけなのかもしれない。


 ドアがガチャっと開かれた。お母さんだ。やっぱりちょっと離れただけみたい。部屋に入ってきたお母さんが私を見て急に慌てだした。


「リ、リズ! 大丈夫!?」


 急いで私のところまで飛んできて身体を隅々まで調べている。


「だいじょうぶだよ」


 私の一言でお母さんは安心したようだ。


「よかった。怪我はないみたいね」


 お母さんは気が済んだみたいでホッと溜息を吐いた。そしてガバッと私を抱きしめた。ベッドから落ちて怪我をしたって思ったのかな。そうだとしたらちょっと悪いことをしたかも。


「ごめんね。ちょっと目を離した隙に危ない目に遭わせてしまって」


 私を抱きしめながら反省しているお母さんをしり目に、もうちょっと目を離してくれていたら身体を鍛えられたのにと思ってしまう。ごめんなさい。私にはやらなければいけないことがあるの。


 そんな風にお互いにシリアスな雰囲気でいると、ぐぅ~っとお腹が鳴った。このお腹の虫め! 私の邪魔をする気ね!


「ふふっ、お腹が空いたのね」


 お母さんは私を抱き上げてリビングに向かった。もしかして起きたときにいなかったのはご飯の準備をしていたからかな。……うーん、しょうがない。ここは大人しくしよう。食べることも成長には大切だしね。


 悪魔の誘惑に負けながらも私は自分に言い訳をする。


お読みいただきありがとうございます。


0歳から一歳までのお話でした。

なんだかこのまま幼馴染が主人公で物語が始まりそうなレベルです。

私はそれでもいいんじゃないかと思うレベルで書いています。

転生直前はちょっとヤンデレ臭い感じになりましたが、優しい両親のもとに生まれて少しは落ち着きましたかね。

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