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異世界のコラプス  作者: のこ
2章 エルフの里
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26話 エルフの里を出発

 宴が無事に終わり次の日の朝。


 まだ朝食を食べるには早い時間、俺とターニャは出発前の最後の荷造りをしていた。といっても、俺の分はすでに終わっている。


 あとはターニャの分だけだ。ここにある荷物はその袋に入るのだろうか。袋の容量に対して荷物が倍くらいあるように見えるが。


 マヤは宴の後についてくるのなら準備をしとけと言っておいたがまだ来ない。置いていったところで困ることはないのだが。そんなことを考えていると玄関の扉がノックもなしに開かれた。


「さぁお二人さん! 準備はできているかい?」


 そこには二ヒヒと笑っているマヤがいた。


 準備はできているかと言いながら、マヤの方は腰に小さな袋をつけているだけだった。朝からテンションが高いな。


「そういうお前はどうなんだよ。そんな小さな袋で大丈夫なのか?」


 遠足に行くんじゃないんだ。そんな小さな袋じゃ頑張っても一日分の食料しか入らない。どのくらいで森を抜けられるか知らないが、一日でこの森を抜けられるのだろうか。だが、マヤはふふんと得意げに鼻を鳴らしてパンッと袋を叩いた。


「これにはね、錬金術によって次元収納のギフトがかかっているのだよ!」


 ほう、英雄の話に出てきた空間に物をしまうギフトか。じゃああの袋には相当な荷物が入っているのだろうか。


「どれくらい入るんだ?」


 マヤはさらに得意げになって腰に手をあて胸を張った。背は小さいくせに大きな胸が強調される。


「聞いて驚くな! なんと通常の五倍だ! 赤い機体よりもすごいのさ!」


 赤い機体というのはよくわからないが、五倍の容量になるのならあの小さな袋にはそれなりの食料と着替えなどが入っているのだろう。俺の袋にも次元収納の能力を付加してくれないだろうか。


「なぁ、それ俺の袋にもできないか?」


 それに対してマヤは渋い顔をした。


「できることにはできるけど、これ結構MP使うからねぇ。私のMPだとポンポン作れないんだよ。これ作るのにだって何日にも分けて1000近いMP使ったし」


 マヤは恨めしそうにポンポンと袋を叩いた。


 俺のMPが今65だから、俺基準で言えば十五日近く、二週間以上かかるのか。だが、そうだとしても今までに何年も時間があっただろうに。他の人にギフトの存在をバレないようにだとか考えていたとしてもこっそり作っておけばよかったはずだ。


「事前に作っていなかったのか?」


「何言ってんの。事前に作るも何も、MPはそれだけに使ってるわけじゃないんだからね。君がつけてるネックレスを作るのにだってMP使ったし、日常で魔法を使ったりするし、練習だって必要なんだから」


 最後に「まったくもう、これだから素人は」と付け加えたマヤに、俺は心底イラッときた。こいつは人をおちょくる天才か何かか?


「今は無理ってわかって満足?」


「満足なわけねーだろ」


 追撃とばかりに言ってきた言葉に俺は我慢できなかった。念動腕を創りだし、離れているマヤの胸ぐらを掴んで上下左右に揺さぶった。


 あまりの速さにマヤはあうあう言いながら目を回している。


 それをターニャが止めに入った。どうやら荷造りが終わったようだ。


「巡くん、それくらいにしてあげて。それ以上やったらマヤが女の子として生きていけない失態を犯しそうだわ」


 仕方なくターニャの言うとおりにマヤを放してやった。するとマヤは四つん這いになって吐きそうになりながらも懸命に吐かないようにしている。自業自得だ。相手を選んでおちょくりやがれ。


「二度とするなよ」


 最後に忠告してやる。


「ふぁ、ふぁい。……うっ――」


 返事がきっかけで危うく吐きそうになったマヤは、それをどうにか飲み込み、涙目になりながらひっひっふーとラマーズ法で気分を落ち着かせている。


 それは出すほうだろうに、とツッコんでやりたい気分だが、これ以上何かを言うとイライラが募りそうだ。


 正直連れていくと言ったのは失敗だったかもしれない。久々に自分の運の能力値が低いことを思い出す。


「ほら、さっさと立て。出発するぞ」


 俺が言うと、マヤは小鹿のように足をプルプルと震わせながらどうにか立ち上がった。


「お、鬼や。あんさん鬼や」


 突然関西弁を使うようなやつはもう知らん。


 ターニャのほうを見ると背負った袋を見せてきて準備オーケーと言ってきた。


 俺も自分の荷物を持つ。そんなに大きな袋ではないが、ずっしりと重みがある。しかしこの程度の重さなら余裕だ。


 そのまま玄関に向かう。


 念動腕で玄関の扉を開けた。するとそこには里長といつもの老人二人、それに戦士長とマヤの父親がいた。見送りだろうか。朝早くからご苦労なこった。


 ターニャとマヤはそれぞれ最後のお別れの挨拶をしに行った。


 マヤの奴はあの小さな袋について何も言われていないようだ。荷物の少なさに疑問を抱かない辺り、マヤの父親はギフトのことを知っていたのか? それとも娘のことだから実は何も考えていないだけだとでも思っているのだろうか。


 マヤの父親は俺に対して粗相のないようにと念を押している。もう今更だ。


 ターニャとマヤは二言三言やり取りをしてすぐに戻ってきた。


「もういいのか?」


「うん。昨日の間に別れの挨拶は済ませてあるの。さっきのは改めてってだけだもの」


「私のほうは元気で楽しく自由に生きなさいだってさ」


 何を平然と嘘を言っているんだ。聞こえてたっての。


 だが無視だ。


「何々? 無視? 無視するの?」


 マヤは自分が言ったことを俺が嘘だとわかっているようで、さらに無視を決め込んでいることに対してうざいくらいに絡んでくる。


「マヤ、いい加減にしなさい」


 ターニャが窘めるがマヤは収まらない。


 マヤは俺が無視していることをいいことに、ゲヘヘと言いながら俺の腹筋に手を伸ばしてきた。この女は本当に懲りないな。


 空に打ち上げてやろう。


 念動腕を出してマヤの胸ぐらを掴んで盛大に空へとぶん投げた。ぶん投げられたマヤはギャーギャー叫んでいるが高さはせいぜい十メートルくらいだろう。キャッチはしっかりしてやる。


「ちょいと」


 里長が指を上にしてクイクイと曲げて俺を呼んだ。


 里長のところまではマヤの落下地点まで六メートルも離れていないから大丈夫だろう。まぁキャッチが失敗しても目測がまだ甘いということだ。これも経験。


 里長のところへ歩く。


 マヤはちょうど念動腕でキャッチされたことだろう。里長のところにたどり着いたときにチラっとマヤを見ると、しっかりと念動腕でキャッチされている。放してやると家にいたときと同じように四つん這いでオエーオエー言っている。吐いてはいないが。


「なんだいじいさん」


 里長のほうに向きなおって聞くと、里長はまだ指を曲げて近寄れと合図する。しょうがなくさらに近づく。


 誰にも聞かれたくないのか俺の耳元で話し始めた。


「今、この世界は大変な方向へと進んでおる。できればおぬしにどうにかしてほしいのじゃ」


 世界ときたか。


 つい先日まではこの森だけだったと思えるんだがな。だがなぜそれを知っていて俺に頼むのか。


 すると里長は目だけで自分の家の中央にそびえ立っている大樹を見る。


 それにつられて俺も見た。


 あれが何だというんだ。初めて見たときは確かに何か力のようなものを感じたが。長い年月を生きたものだからとかそういうものじゃないのか?


 それに――


「何をどうしろってんだ」


 どうにかしてほしいと言われても具体的に何をしろというんだ。そんな曖昧な頼まれごとをされてもできないぞ。


 だが里長は俺の問いに首を振るだけだった。再度追求しようかと思ったが、これで話しはおしまいだというように里長が一歩引いた。訳がわからん。


「頼んじゃぞ」


「……あぁ」


 詳細も何も教えてくれないのに頼んだと言われても、俺は適当に答えるしかない。俺はそのままターニャとマヤのいるところまで歩く。


「ターニャのこと、よろしく頼むぞ」


「娘のこと、よろしくお願いします」


 戦士長とマヤの父親とのすれ違いざま、それぞれから頼まれた。


「分かったよ」


 ターニャのことはそれなりに守ってやろうとは思うが、マヤのほうは……まぁ父親に免じてできるだけのことはしよう。


「里長、なんだって?」


「さっぱりわからん」


 ターニャが聞いてくるが言葉の通りさっぱりわからん。世界が大変な方向にって、どの方向だよ。


 マヤはいまだに息を切らせて深呼吸している。


「おら、行くぞ」


 念動腕で立てなさそうなマヤの首根っこを掴んで持ち上げてやった。


「うぅ、もっと優しく。お・ね・が・い」


 マヤは上目遣いで涙目になりながら懇願してきた。十分に優しいだろうに。ったくしょうがねぇ。


「このまま運んでやるよ」


 俺は念動腕でマヤの首根っこを掴んだまま運んでやった。


「うがー! そうじゃなーい!」


 対応が不満だったようでマヤは大声で抗議した。なんだ元気じゃないか。後ろの方ではマヤの父親のやれやれという声と、里長の笑い声が聞こえた。

お読みいただきありがとうございます。

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