25話 宴は続く
ターニャとマヤが踊った場所では別のエルフとドルイドがゆったりとした曲調に合わせて踊っている。
周りではそれを観ながら食事をとったり談笑している。
俺はマヤから錬金術の詳細を聞きたいが、いまだに復活しないマヤを見て、明日の出発後でもいいかと思った。やることがないので俺も周りと同じように踊りを観ながら出されている料理を食べることにした。
「そういえば、なんでターニャとマヤは初めに踊ったんだ?」
何気なく疑問に思ったことを聞いた。
「こういったエルフとドルイドの合同の宴ではお互いに一人の若い女が選ばれるの。それで私とマヤがたまたま選ばれて踊ることになったの。まぁ選ばれた人は初めだけだから。その後は誰でも自由に踊れるわ」
「そうなのか」
なんだ、たまたまだったのか。俺がそう納得しかけたとき、マヤの父親は自分の娘を扇ぎながら話に入ってきた。
「私たちのほうでは私がマヤを推薦したのですがね。娘は見てくれだけはいいですし、踊りもうまいので」
自分の娘に向かって見てくれだけとは父親の言葉とは思えない言いぐさだな。だがまぁ、あの中身だからな、仕方ない。十人が十人可愛いと思えるような見た目でも、常に仮面はつけているし、素顔が見えていてもあの中身で台無しだ。あれを好む者は余程のロリコンだけだろう。
「ふぉっふぉ、ワシらのほうではワシたちがターニャを推薦したのじゃ」
里長がそう言うと、両隣の老人もうんうんと頷いた。
全然たまたまじゃないじゃねーか。
ターニャはそれを知らなかったようで、少し驚いたような顔をしている。
「ターニャはここを離れるようじゃしの」
里長の心遣いというやつなのか。ターニャがここにいたということを里のエルフやドルイドたちの記憶に残すためにやったのだろうか。実際のところはわからないが、それを聞くほど野暮ではない。
ターニャもそう思ったのかただ礼を述べるだけで追及しなかった。
そんな俺とターニャを見て、里長はまた笑うだけだった。
ダンジョンやダンジョンから出てきた魔物たちを相手にしているだけではわからなかっただろうが、この世界でも人の間ではこういう心遣いというものがしっかりとあるんだなと目の当たりにして思えた。
むやみに秘密にしたり警戒するんじゃなく、しっかりと相手を見て俺のことなどを話していこうと思う。特にターニャには俺のギフトのこととかいずれは話してもいいかもしれない。……マヤにはまだ早いな
「何ニヤけてんの?」
復活したらしいマヤがニヤニヤしながら言ってきた。お前には言われたくない。だが、どうやら俺は笑っていたようだ。
この世界に来てからそんなに時間は経っていないが、久々に心休まるような時間だと感じられた。
「いや、何でもない」
だからと言って、それを口に出すのは違う気がする。
いや、単に気恥ずかしいだけかもしれない。
「そんなこと言っちゃって、ホントのこと言いなよこのこの」
マヤは人差し指を伸ばして突いてくるのかと思いきや、俺の腹筋を両手で堪能しようと両腕を伸ばしてきた。一瞬身の毛がよだったため、俺はたまらずマヤの頭にコブシを落とした。
「ギャフッ」
マヤは間の抜けた声を上げてまた撃沈した。
「あーあー申し訳ありません」
マヤの父親が代わりに謝り、撃沈したマヤを再度叱っている。
「巡くん、何かいいことあったの?」
今度はターニャが聞いてきた。笑っていたことに対してだろう。
「いや、本当に何でもない」
「……そう」
秘密にしたからか、ターニャは残念そうにしながらもそれだけ言って何も聞いてこなかった。
こういうことも秘密にしないで言った方がいいのかもしれないが、気恥ずかしいものはしょうがない。
「少しだけ楽しいと思っただけだ」
だから俺はそう言うしかできなかった。
「ふふっ」
今度は満面の笑みが返ってきた。
お読みいただきありがとうございます。