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異世界のコラプス  作者: のこ
2章 エルフの里
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24話 ターニャの思い

 ターニャとマヤは衣装をそのままにこちらに向かってきた。


「どうだった?」


 ターニャはサプライズが成功したかのように得意顔で言った。そして俺の隣に座り、マヤは自分の父親の隣に座った。マヤは早速父親に叱られている。


「よかったんじゃないか?」


「なによそれ」


 俺の曖昧な返事にターニャは気を悪くしたようだ。


「まぁいいわ。それより食べましょ」


 仮面を被ったドルイドの女性が給仕をしており、俺たちの目の前にも料理が運ばれてきた。それはターニャの家で食べたような物ではなく、木の実やキノコがふんだんに使われており、何かの肉もあった。宴用に用意したのか、それともこれはドルイドが用意した物なのか。


「遠慮なく食べていいわよ。そのお肉は巡くんが捕ったようなものなんだから」


 その言いぐさだと、この肉はあのロートベアなのか。俺は遠慮なく念動で創った右腕でフォークを持ってロートベアの肉を突き刺した。硬いかと思ったが、案外すんなりと突き刺さった。そして口に入れた。


 多少臭みはあるが味噌のような風味でほとんど気にならない。柔らかさもありとてもおいしい。


「親熊のほうは少し硬いけど、子熊のほうは柔らかいのよ」


 そう言うターニャもロートベアの肉に手を付ける。まだ昨日のことを気にしているのかと思ったが、その行為には躊躇がない。しっかりと気持ちの整理がついたのだろう。


「うまいな」


 ターニャはふふっと笑って返事するだけだった。


「あのね、巡くん」


 ターニャは改まったように俺のほうを向いた。俺は察して食事をする手を止めた。


「昨日、巡くんに言われたことを考えたんだけど、確かに私が弱いってことが原因だと思ったわ。でもね、あのダンジョンができてからすぐに攻略するなんて無理だったのよ。ダンジョンが見つかったときには何人も挑んだわ。今の私よりも強い人が。だけど誰も帰ってこなかった。強いと言ったって限度があるわ。巡くんみたいに強い人なんてそうそういないわ。……いえ、あなたくらいに強い人なんて私は見たことない」


 ターニャの目が鋭くなった。


「まず私が巡くんと同じレベルになったとしても、同じくらいの能力値にはならないわ」


 何が言いたいのだろうか。


「おかしいのよ、そのレベルでその能力値は。普通、成長割合として、1レベルで全体の能力値が1増えるわ。すごい人でも2が最大だと思うわ。今までに見たことないけど」


 ターニャのギフト、観察眼で見た経験なのだろう。それを言われると俺の成長割合はどのくらいだったか。


「あなたの成長割合は1レベルに対して3あるのよ」


 そうなのか。


 すごいのだろうが別段ぶっ飛んでいる数字でもない気がする。


 いや、だが俺がレベル1だったときの敏捷が10しかなかったときとダンジョン内でレベル15だったときで敏捷20あったときでは明らかに体の調子に違いがあった。ダンジョン内で落とし穴を飛び越えたとき、もしもあのとき敏捷が10しかなかったら途中の足場を経由したとしても失敗していたと思う。敏捷が20あったからこそ勢い余ってたどり着くことができたのだ。


 そう考えると、能力値の10の差は相当大きい。


 たった1の差だとしても壁があるのだろう。


 だが――


「たまたまじゃないか?」


 そうなっている理由も分からないのだからそう答えるしかない。だが、ターニャは首を振る。


「いいえ、今までに何度か成長割合が3の生き物を見たことあるわ。それはね――魔物よ」


 魔物と同じ?


「じゃあなんだ、俺が魔物だっていうのか?」


 何をバカなことをと思い冗談めかしに言った。


「それはないと思うけど、たまたまじゃなくて何かそうなっている理由があるはずよ。私はね、そこに巡くんみたいに強くなれる秘密があるんじゃないかと思っているの」


 理由なんて思いつかない。


 俺だけが転移してこの世界に来たからとかそういう理由だろうか。だがそれでは納得できない。魔物と同じなのだ。もしかして魔物もこの世界に転移してきたのだろうか。


 ……わからない。


「それで結局何が言いたいんだ?」


 結局ターニャは俺が魔物と同じような成長割合だったと言って何がしたいのか。


「私はね、強くなりたいの。巡くんみたいに」


 そう言われても俺も自分の強さの秘密など分からない。


「だから巡くんについて行くわ」


「ついて行くっていうのは一緒に森の外に出て幼馴染を探すってことか?」


 森の外までの同行だけなら願ったり叶ったりだが、ずっとついて来られるというのは邪魔なだけとしか思えない


「そういうことになるわね。お願いできないかしら?」


 思いを強く抱くように胸の前で手を手で掴むんで懇願してきた。だがそう言われてもずっとついて来られても俺にメリットがない。


「私の力があれば何か手がかりが見つかるかもしれないわ」


 俺が悩んでいるとターニャがもうひと押しと言ってきた。


 力というのは観察眼のことだろうが、具体的にどういった手がかりが見つかるのか言わない辺り、観察眼で見られるステータスからは転生者かどうかを判別する方法はないのだろう。……だがまぁ、人は多い方が何かと便利か。それに相手のステータスがわかるのは敵に対して有利に働く。


「わかった。いいぞ」


「ホント!? ありがと!」


 嬉しくて感極まったのかわからないが、ターニャが抱きついてきた。


「どしたのどしたの?」


 父親に怒られていたはずのマヤが俺たちに聞いてきた。どうやら説教は終わったようだ。マヤの声を聞いたターニャは顔を赤くしながらパッと俺から身体を離した。


「いやえっと、巡くんについて行くって言っていいよってなっただけよ」


 いいよってなんだ。そんな軽くは言っていない。


「何それ! 私もついて行きたいんだけど!」


 マヤはゲヘヘヘヘと言いながら垂れた涎を拭っている。こいつはただ俺の筋肉が目当てなのだろう。


「お前は、なぁ……」


 気色悪いからできれば勘弁願いたいが、そういえばマヤのギフトってなんなのだろうか。俺が今つけているネックレスはマヤが作った物だと聞いている。これには言葉を翻訳する機能がついている。


「なぁ、マヤのギフトってなんなんだ?」


 秘密にしているかわからないから、一応周りに聞かれないようにとマヤに顔を近づけて聞いた。するとなぜかピタっとマヤの動作が止まった。


「えっとですね、私のギフトは錬金術っていうんだよ」


 仮面を真っ赤に染めてふにゃふにゃと模様が波うっている。なんだこいつは。変に敬語になったりして意味がわからん。


 それに錬金術とはどういったギフトなんだ?


「それはどういった能力なんだ? それ次第では連れていってもいいぞ」


 再度マヤに顔の傍で聞く。


 するとマヤはあうあう言い始めた。


 耳に息が当たってくすぐったいのだろうか。


「れ、錬金術というのはね。はぁ~……。魔法系と、強化系に、ぞ、属さないその他のギフトの、劣化版を作ることができるギフトですぅ」


 言い切ると空気の抜けた風船のように崩れ落ちた。


 本当になんなんだ。従順に答えてくれるから楽ではあるが。


「あぁ、すいません。娘は変なところで恥ずかしがりやでして。男性に顔を近づけられるとダメなんですよ」


 マヤの父親がマヤのこの状態を説明してくれた。


 どうやら恥ずかしがっていたようだ。また筋肉関係で気色悪くなったらこれで対処してもいいな。いや脅したほうが楽か?


 まぁ今はそんなことどうでもいい。


 それよりも錬金術の能力か。


 魔法系と強化系以外のギフト。魔法系というのは運魔法とかだろう。強化系というのは能力値を強化するようなものだろうか。その他ってなると俺の念動やターニャの観察眼が分類されるのだろうか。


 だが劣化版か。どこまで劣化するのだろうか。


 マヤに聞こうと思うもまだ崩れ落ちたままだ。知っているか分からないが仕方なくターニャに聞こうとして顔を近づける。


 するとターニャもあわあわと慌てながら一定の距離をとりだした。


「落ち着け。ちょっと聞きたいことがあるだけだ」


 念動腕を創りだし、ターニャの顔を固定した。


 そしてゆっくりと顔を近づける。


 なぜかターニャは「ダ、ダメ……」なんて色っぽく言うが、話を聞くだけなのに何がダメなんだ。マヤの父親にギフトの話を聞かれないように必要なことだ。それともマヤの父親はギフトのことを知っているっていうのか?


 チラっとマヤの父親を見ると、こちらを見ないようにわざと顔を背けていた。仮面まで抑えて見ていませんと主張している。


 これじゃあわからないな。やはり聞かれないようにしたほうがいいか。


 再度ターニャに顔を近づけていくと、ターニャは意を決したような顔になり目を瞑った。


 聞きたいことがあるって言ったのになんだこいつは。キスをするわけでもないってのに、目を瞑りやがって。クソ、バカらしくなってきた。錬金術で劣化するといっても、それで観察眼の一部が俺にも使えるようになるっていうのなら意味はあるだろう。


 マヤも連れていくか。


「もういい」


 念動腕を解除してターニャを解放した。するとターニャが「えっ」というような間の抜けた声を出して残念そうにした。


「あのな、聞きたいことがあるってちゃんと言っただろ。まぁいい。マヤも連れていく。だが、ターニャもマヤも許可とかは取ったのか?」


 許可が必要なのかはわからないが、今まで森の外に出たことないターニャをいきなり外に出ることなんてできるのだろうか。しかもすぐに戻るような旅でもない。


「え、えぇ、それなら里長にもう言ってあるわ」


「そうか。それでマヤは?」


 マヤのほうを見るといまだに撃沈していた。仕方なくマヤの父親のほうを見る。すでに顔を背けることをやめていて、こちらとすぐに目が合った。


「それでしたらどうぞ。この森を救ってくれた巡さんの手助けになるのならこちらから差し出したいくらいです」


 なんだろうか。厄介者を差し出された気分だ。……まぁいい。


「それじゃあ二人とも、明日の朝にはここを出発するからな」


 ターニャは頷いて了承するが、マヤは何も反応がない。きっと大丈夫だろう。最悪置いて行くだけだ。

お読みいただきありがとうございます。

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