23話 エルフとドルイドの宴
この章の中では少し長いです。
荷物をまとめ終えて考え事をしていると、ターニャとマヤが戻ってきた。
昼食のために一旦戻ってきたようだ。
ターニャとマヤはパパッと昼食用意し食べ終えると、また宴の準備のために出ていった。
宴の間まで特にやることがない。
だからといって一人でいるとどうしても考えてしまう。
幼馴染のことやこの世界のこと。情報も何もないのだからどうどうめぐりで答えなどでないのに。
さっさとここを出発して他の種族に会って話を聞きたいし、幼馴染も探さなければいけない。だが、どの方角に進んでいいのか。エルフかドルイドに道案内を頼みたい。これはターニャに言えばいいだろう。
とにかく、ここに一人でいても何も始まらない。外に出て宴の準備を手伝う方がまだマシか。
とりあえず、里の中でも適当にぶらつくか。
ここには鍵というものがないので家の扉を閉めただけでそのまま外へと出た。
前いた世界でもすごい田舎では鍵を閉めずにそのままで外出するところもあるらしい。盗むとか盗まれるとか、そういったことがないのだろう。この里もそういった感じだと思う。
ターニャの家は里の中心から外れているから、中心に向かっていけば色々見られるだろう。今まではただ道を通っていただけだが、周りを見ながら進むのもいい。
里の中をゆっくりと見るのは初めてか。
最初ここに来たときは全体を見ることはあったが、そのときは自然との調和のとれた風景にすごいと思えただけだった。実際に中に入って周りを見ると、木をそのままに家を作られているものがほとんどだ。里長の家もそうだったが、できるかぎり木を傷つけずに住みやすい環境を整えている。俺には多様な語彙はないからやはりすごいという言葉しか出てこない。
里の中を歩いているとエルフが何人か声をかけてきてお礼を言われた。たまに悔しそうにしているエルフもいたが、あれはきっと魔物退治にいた奴だろう。
その後、診療所の付近を通りかかったときにマリアンネに声をかけられ怪我人の治療を頼まれたり、ターニャとマヤを見つけて宴の準備を手伝おうかと言うと断られたりした。
どうやらターニャとマヤは宴のときに何かするらしい。それを見られたくないようだ。
仕方なく俺は修練所に行き、ギフトの感覚をより掴むため訓練をした。
そして宴を始める時間になり、ターニャが修練所まで俺を迎えに来た。
そのままターニャについていくと里長の家の前にある広い場所に連れてこられた。
そこには多くのエルフと仮面をつけたドルイドがおり、何かの道具で辺りを照らしている。中央だけには火の光があった。
そのままターニャについていくと里長といつもの老人の三人がいるところに着いた。
「客人よ、ここに座るとよい」
里長に勧められた席に座ると、目の前にあった木のコップに飲み物が注がれた。
嗅ぎ慣れていない匂いに一瞬顔をしかめたが、同じようなものを里長が飲んでいるところを見ると、別に毒などではないのだろう。
俺もそれに口をつけた。
それはどこかで飲んだことのあるようなフルーツのような味がしてながらも、だが今までに飲んだことのないような味だった。
そして身体が火照るような感覚がした。
「言い忘れていたけど、それはワールっていうマンゴーみたいな果物の果実酒だから、あまり飲みすぎないでね」
ターニャが教えてくれた。
道理でどこかで飲んだことがある気がしたのか。だがこの変な味は酒だったのか。俺の口には合わないな。いつものお茶がいい。
「口に合わなかったみたいだから飲みすぎる心配はないわね。代わりにお茶を持ってくるわ」
俺の渋い顔を見たターニャはお茶を取りにどこかに行ってしまった。
座ったのはいいものやることがない。さてどうするかと思っているとドルイドの男がこちらに歩いてきた。仮面をつけていて誰だか分からないが、多分マヤの父親だろう。
「巡さん、よくいらしてくれました。それでですね、やはり娘はご迷惑をおかけしたでしょうか?」
挨拶そうそう申し訳なさそうに娘の迷惑を話題にするなんて、どれだけいつものことなのだろうか。仮面でのイタズラや筋肉については誰にでもやっていることなのだろうか。いや、仮面のイタズラは初めて会ったからこそだろうし、筋肉はあるやつにしかやらないだろう。そう考えるとやはりアレ以外にもあったということか。
だがまぁ、仮面のイタズラはどうでもいいし、筋肉発言は若干気色悪かっただけで実害があったわけではない。
「変なことはあったが、特に問題はなかった」
俺が問題ないと言うも、マヤの父親はすぐに腰を折った。
「変なことはあったのですね、申し訳ないです」
なんとも腰の低いドルイドだ。里長の家でもここでも、謝ってばかりだ。
申し訳なさそうにしながらも仮面の色が変わるわけではないところを見ると慣れているのだろうか。それともただマヤが仮面に感情を出しやすいのか。
「それで、娘はどんなことをしたのでしょうか。ブーブークッションとかいう物でしょうか、それとも魔物が嫌がる臭いを発する臭い玉を投げられましたか? ……あぁ、もしかして筋肉ですか?」
そんなイタズラもするのか。二つのイタズラに俺が反応しなかったからか、俺を見ながら最後に恐る恐る筋肉のことを言った。
その瞬間に俺が顔をしかめた。
マヤの父親は再度頭を下げた。
「娘は赤ん坊のときから筋肉が好きで、なんであんな風になってしまったのか。しっかりと叱っておきますので」
赤ん坊のときからというのはそれもそうだろう。この世界に生まれる前から筋肉が好きだったんだろうからな。これはマヤの父親のせいではない、あいつ本人のせいだ。好きだというだけなら文句はないが、こちらを見て舌なめずりしたり涎を垂らすのは勘弁してほしい。
何度もマヤの父親が頭を下げていると、ターニャがお茶を持って戻ってきた。
「何やってるの?」
「マヤのことだ」
俺がそう言うとターニャはいつものことかというような顔になった。
そして俺にお茶を渡すと、用事があるからとまたどこかに行ってしまった。宴で何かをすると言っていたが、それのことだろうか。そういえば、マヤもいないな。何かをするとかいう準備をしているのだろうか。
「ターニャとマヤは何をするんだ?」
マヤの父親に聞いてみた。
「あぁ、それでしたらすぐに分かると思います」
マヤの父親はようやく頭を下げることをやめ、俺の隣に座った。
お茶を飲みながらしばらく待つと、楽器の音が聴こえてきた。
弦楽器と笛の音だ。太鼓の音も聴こえてくる。
音だけでは楽器の詳細までは分からないが、どこか陽気な音だ。
そして火を背景に入ってきたのは仮面をつけた凸凹の二人だった。
あれはターニャとマヤだろうか。ドルイドのマヤは分かるがターニャまで仮面をつけている。二人は普段着ているようなものではなく、肌を露出させた扇情的な衣装だ。その衣装をヒラヒラと舞わせ、音に合わせて踊り出した。
二人の踊りは、初めはゆっくりだったが音に合わせて時に激しく、時に優雅に、時に悲しげだった。その姿はとても魅力的で惹かれるものがあった。
ターニャの胸とは対照的に、マヤの胸はよく揺れている。
最後に二人は仮面を外して優雅に礼をした。
マヤまで仮面を外してしまったがいいのだろうか。思わずマジマジと見てしまった。
その顔はターニャとは違った愛らしい人形のようだ。
隣でマヤの父親があのバカ娘と悪態をついているところから察するに、こういうときでも仮面を外すのはダメだったようだ。
盛大な拍手が聴こえて本格的に宴が始まったようだ。
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