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異世界のコラプス  作者: のこ
2章 エルフの里
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22話 ドルイドに伝わる英雄のお話

 ターニャの家に戻ると、二人はすでにお茶を用意して席についていた。


「聞いたよ、君、巡っていうんだね。ターニャに聞いていると思うけど、私はマヤって名前だから、気軽にマヤちゃんって呼んでいいよ! よろしくね!」


 家に入った俺に気づいてマヤが立ち上がって左手を差し出して握手を求めてきた。


 明るい声音や見た目から元気いっぱいの女の子って感じだが、木の仮面が表情を覆い隠し、描かれている模様と色によって雰囲気とは違って不安を煽りたてる。


 里長の家に来た時とは模様や色が違う。あの時は緑色や黄色で波うち広がるキレイな模様だったが、今は黒と灰色で渦巻がいくつも描かれている。


 俺は気にせず差し出された手を握り返した。するとマヤからおかしなものでも見たような笑い声が聞こえた。


「マヤ!」


ターニャがマヤに対して責めるように名前を呼んだ。


「ふふっ、ごめんごめん」


 マヤはそう言うと握手している手とは反対の手で自分の仮面に触れた。


 その瞬間、みるみる仮面の模様が変わった。


 先ほどのような不安を煽りたてるような模様ではなく、里長の家でしていた模様になった。


 どうやらあの仮面は着用者が自由に変えられるようだ。ということはあの不安を掻き立てるような仮面はわざとなのだろう。マヤの父親が言っていたのはこういうことだったのか。


「それにしても君、いい筋肉してるね。レベルが高いからかな。ホント無駄がないって感だよね」


 マヤは握手している手に力を入れたり緩めたりして確かめるように握ってきた。


「ちょっと直にみていいかな?」


 マヤは握手していない手をワキワキと動かしている。仮面で見えないが舌なめずりするような音が聴こえて、危険な感じがした。


 俺は握手していた手をすぐさま放してマヤから距離をとった。


「なんだよ、ケチだなぁ君は」


 少し残念そうにするマヤ。元原型師だけあって、そういった筋肉などの造形に異常に興味があるのだろうか。あのまま見せていたらそれだけでは終わらないような気がする。


「マヤ!」


 ターニャが再度マヤの名を呼ぶ。


「わかったよ、ターニャ」


 マヤは素直にトコトコと席に戻った。


 マヤの隣の席の前にお茶の入った木のコップが置いてある。あれは俺のだろうが、マヤの隣にいるのは危険だと思い、ターニャの隣の席に着いた。


 ターニャはやれやれといった感じでマヤの隣にあったお茶を俺の前にまで持ってきた。


「えー、なんでそっちに座るの? こっちにコップあったじゃん」


 マヤが不満そうに言うが、ターニャの当たり前でしょという一言で黙った。


 マヤの父親は最初の仮面のこと以外にも筋肉のことを謝っていたのだろうか。もっとあるかもしれないな。先に釘をさしておくべきか。


「次に何かしたら、殺す」


 俺は殺すという言葉だけに力を込めて言った。念を押して言ったからこれで大丈夫だろうと思ったら、マヤの仮面がみるみる青ざめていく。


 やりすぎただろうか。


 隣のターニャを見ると、なぜかターニャも少し引き気味でいる。


「大丈夫か?」


 さっきのはマヤに対して言ったのだからターニャは関係ないだろう。


 俺の問いにターニャはうんうんと頷いた。どうやら大丈夫なようだ。


「あ、ははは、マジこっわ。何あの顔、本当に殺されるかと思ったんだけど。……こ、殺さないよね?」


 乾いた笑い声を出すマヤ。仮面は未だに青ざめている。


「あぁ、多分な」


「た、多分?」


 マヤはチラっと確認するように俺ではなくターニャを見た。横ではターニャが顔を左右に振っている気配がする。これ以上変なことをやって聞きたいことが聞けなかったら痛い目を見てもらおうとは思っている。


「はい、もうしません」


 マヤはテーブル越しに頭を下げた。どうやら分かってくれたらしい。これで話しができる。


「分かればいい。それじゃあちょっと聞きたいことがあるんだが、ドルイドに伝わる英雄の話についてだ。宴のときに聞くつもりだったが、今聞いたほうが早いからな」


「はい、はい、それでは話させていただきます」


 必要以上に怯えながらマヤは答え、英雄の話を話し始めた。


 その内容は人々が神様からギフトを与えられたところまではエルフに伝わる英雄の話しと一緒だった。違う部分はそれからだった。



──



 ――それを見かねた神様は、異世界から一人の人族を召喚しました。その人族は見慣れない物を顔にかけていました。しかし神様から与えられた魔力とギフトを使いこなしていくうちに顔にかけていた物はいらない物になっていました。その人族は人々を救っていき、英雄と呼ばれる存在になりました。英雄のギフトはすごく、どんな物でも空間にしまうことができます。人々が困っていれば空間から必要な物を取り出し救っていきました。


 人々が魔力に慣れたころ、英雄が突然いなくなりました。人々は恐怖しましたが、慣れた魔力を使って自分たちで魔物を倒すことができるようになっていました。



──



「これが私たちドルイドに伝わっている英雄の話です、はい」


 最後の最後でマヤは恐縮した。


 召喚された人の顔にあった見慣れない物というのがメガネなのだろう。確かに前にターニャが言っていたようにメガネと空間に物をしまうギフトが出てきた。あとは人々の救い方に違いがあるだけか。


 転移については新しい情報はなさそうだ。……いや、もう一つ、召喚された人が魔力とギフトを使いこなしていくうちにメガネがいらない物になっている。転移とは関係ないが、これは魔力かギフトだろうか。


「ね、前に言った通りでしょ?」


「そうだな。だけど一つ疑問だ。英雄にメガネがいらなくなった理由は何だ?」


 聞いていることはくだらないような気もするが、どんな情報でも欲しい。


「あ、それはレベルだと思うよ」


 さっきまで恐縮していたマヤが気を取り直して軽く答えた。仮面の色と模様も戻っている。


「魔力やギフトではないのか?」


「そうかもしれないけど、レベルっていうのは語弊があったかな。正確には能力値が関係あるっぽいよ。能力値が上がるとね、身体が引き締まっていい筋肉になるんだよ」


 マヤは仮面の隙間から涎を垂らしている。


 能力値か。


 確かにレベルが上がって能力値が上がることで身体の調子や五感なども鋭くなった気がする。英雄もレベルを上げて能力値が上がり、視力が上がったのだろうか。


 だがやはり、ギフトの線も否めないか。


 英雄の話の締めはドルイドも同じようで中途半端だったな。あとは四種族。人族、獣人族、小人族、竜人族。どんな話になっているのか。


 その後、俺とターニャとマヤの三人で英雄の話について軽く話し合っていると、途中で戦士長が家を訪ねてきた。礼の食料と服とそれをまとめる袋を持ってきたようだ。


 そしてターニャとマヤは戦士長に呼ばれて宴の準備を手伝いに行ってしまった。


 さて、俺は必要な物をまとめる作業に入るか。

お読みいただきありがとうござます。

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