21話 ドルイドの転生者
「あ! ターニャこんなところにいたんだ! 行き違いだったのかな?」
ドルイドの女の子がトコトコとターニャのところまで走ってくる。ドルイドの男をお父さんと言っていたから、ドルイドの男の娘なのだろう。
やたらとターニャに懐いているな。
やってしまったというようにドルイドの男は顔(仮面)を抑えて頭を振っている。今までのドルイドの男の所作をみていると礼儀というのを弁えている。しかし大切な話の後だとはいえ、娘の失態を目の当たりにして叱らないところをみると、いつものことなのだろう。
「いやー、ダンジョンは攻略されるわ魔物退治はされるわで、これで安心だよ。やったー!」
ドルイドの女の子は父のことなどお構いなしにターニャの両腕を取って万歳する。ターニャとの身長差があるため、ドルイドの女の子が目一杯両手を上げているのに対してターニャは顔辺りまでしか上がっていない。
ドルイドの女の子はテンションを上げているが、ターニャは突然のことについていけていない。ターニャは先ほどの空気があるからだろう。しかし、何度か両手を上げ下げしているうちにドルイドの女の子は周りの空気に気づいて動作がゆっくりになる。
「マヤ、とりあえず私の家にいこうか」
ターニャは苦笑いを浮かべてそう言った。
マヤ……マヤ……どこかで聞いた覚えがあるが……あぁ、ドルイドの転生者か。ターニャの話とは雰囲気が違いすぎていてうまくつながらなかった。
いや、待て、転生者ってことはこれで十五歳なのか?
身長はここにいる誰よりも小さい。百三十、いや百二十代かもしれない。ドルイドだからだというわけじゃないだろう。現にドルイドの男のほうは戦士長と同じくらいで、百七十後半はある。百二十代なんて下手したら十歳くらいだ。まぁ胸を見れば十歳じゃないと分かるが。
里長と二人の老人はターニャとマヤのやり取りを見て小さく声に出して笑った。
ドルイドの男はそれに救われたようですぐに叱る行動に出た。顔(仮面)を抑えていた手でマヤの頭を叩いた。
コンっと力ない音とイタッというマヤの声。
「ターニャの家で大人しくしていなさい」
「はーい」
マヤは父に叩かれた頭を押さえながら不貞腐れていた。
「それじゃあ巡くん、行きましょう」
ターニャは俺にそう言いながらマヤの背中を押して早く里長の家から出るように急かした。マヤは頭を押さえながらも従順にそれに押されている。俺もそれについて行こうとした。
「あぁ、巡さん。娘もいることですし、ターニャの家に戻ったときに娘からお礼のお話を聞いた方が早いと思います。宴の席で真面目な話はもったいないですから」
お礼とは英雄の話のことだろう。確かにまだ朝で宴まで十分に時間がある。荷物をまとめたとしても余裕だろう。それならマヤから話を聞いた方がいいか。
「それと、ターニャの家でも娘がご迷惑をおかけすると思いますので、先に謝っておきます。申し訳ありません」
マヤの父親が頭を下げようとしたので俺は先に手で制した。
今は十五歳とはいえ、元の世界では働いていた身なんだ。本人だってある程度弁えている……と思う。先ほどの空気の読めなさであまり自信がないが。
「大丈夫だ」
話しを聞くだけで悪意や殺意があるわけでもなし、たかがうるさいだけだろう。
「いえ、多分巡さんが思われているような軽いものではないと思います。……やはり謝らせてください」
顔に出ていたのだろうか。表情に出やすいというのは便利だが、まずい場面もあるだろう。俺も仮面を被った方がいいのだろうか。
マヤの父親はしっかりと頭を下げて謝罪した。
すぐに頭を戻すだろうと思ったが、なぜかこの謝罪はやたら長い。
俺は不安を胸に抱きながら里長の家を出てターニャの家に戻った。
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