20話 森人族のドルイド
他の種族です。
次の日、里長に呼び出されターニャと一緒に里長の家に行くと、里長と両隣にエルフの老人、そして戦士長と見覚えのない男がいた。
見覚えのない男は木の仮面を被っていて顔は見えない。しかし耳が長くないところを見るとエルフではないようだ。
何者だろうか。
「この人族の子がダンジョンを攻略し、森の魔物たちを退治してくれた者ですか?」
木の仮面を被った人が俺を見て里長に言った。
「そうじゃ」
里長は簡潔の返事をした。
木の仮面を被っている者が敬語で、里長がそうでないところを見ると他の種族だろうが、里長の方が上の扱いなのだろう。
というか、ここにいる他の種族ならばほぼ森人族のドルイドか。俺のような例外は抜きにするのならばだが。
「まずはお礼を。この森を救ってくれてありがとうございます」
木の仮面を被った男がこちらに身体を向けて頭を下げ、お礼を言った。仮面を外さないのは何かの仕来りなのだろうか。
「すまないのう、人族の子よ。ドルイドは他種族に対して顔を見せたがらないのじゃ。だから仮面については追及しないでやってほしい」
里長が俺の考えていることを読んだようにそう言った。長い年を生きているのだ。何かのギフトだろうか。
「顔に出ているわよ」
横からターニャにツッコまれた。
……なるほど。
「マナーなんて人それぞれだ。ましてや種族が違うのだから気にしていない」
最初から俺は里長にすら敬語を使っていないのだ。マナーなんて関係ない。他の人に強制される言われもないし、強制させることもない。その人の自由にすればいい。
「申し訳ない」
ドルイドの男が再度頭を下げた。それに対して俺は一瞥してから里長に向き直った。
「それで俺を呼び出したのはこのドルイドに礼を言わせるだけか?」
「いやなに、おぬしが森を救ってくれたからの、今晩は宴を開こうと思ったんじゃ。まだ食料の問題が改善されていないから盛大にとはいかないがの。それの誘いじゃ」
それならわざわざ呼び出さなくても使いの者にその旨を連絡するだけでいいだろうに。
「ドルイドもそれに参加するようじゃし、先にお礼を言いたいと言われたんでの」
俺の顔を見た里長が付け加えた。それを聞いたドルイドの男がさらに申し訳なさそうにした。
「俺は気にしていない。だがそっちが気にするというのなら、宴のときにでも英雄の話を詳しく話してくれ」
ターニャからはドルイドに伝わっている英雄の話はエルフに伝わっている英雄の話の違いしか聞いていない。ターニャに聞けば早いかもしれないが、ドルイドがいるのだから直接聞いた方が確実だろう。
「それでいいのでしたらこちらからは是非もないです」
さて、用事はこれだけだろうか。
「あぁ、それともう一つ。おぬしは何か必要な物はないかの? 言葉だけでなくしっかりとお礼をしたいのじゃ」
お礼は宴じゃないのか? まぁもらえるというのならもらおうかと思うが、必要な物といったら、これから色んな所に行かなきゃいけないだろうから服や食料くらいだろうか。
「それなら数日分の服と食料、あとはそれを入れる袋をくれ」
「それだけでいいのかの?」
里長が細い目を片方だけ開いて意外そうに言う。
「あぁ、それだけで十分だ」
ここには本がないしこれといった情報がない。まぁ例え本があったとしてもこちらの文字が読めるとは思えない。実際ダンジョンに中にあったクリスタルの結晶に書いてあった文字は読めなかったわけだし。このネックレスも言葉だけは理解できるが文字は無理だとターニャが言っていた。
「それでは服と食料とそれを入れる袋をターニャの家に運んでおこう」
里長がそう言って、戦士長に頷いて合図を送る。戦士長もそれに応えてすぐに里長の家から出ていった。
さて、これで今度こそおしまいか。あとはターニャの家に戻って服と食料をもらったら、明日の朝にはここを出られるように準備をするか。といっても特に荷物がないから準備も何もないが。
ターニャの家に戻ろうと里長の家から出ようとしたとき、大きな声ともに小さい女の子が里長の家に入ってきた。
「お父さん! ターニャいないよ!」
その子はドルイドの男と同じように木の仮面を被っていて、背が小さいくせにけしからん胸をしていた。
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