18話 両親の仇討ち
親のロートベアはエルフたちの矢や魔法をお構いなしに突っ込んでいく。
その先にはターニャがいた。
ターニャは最初、エアボールを放って親のロートベアを止めようとしていたが、一向に怯む兆しが見えないためすぐに回避行動に切り替えた。
しかし、切り替えるタイミングが遅く、親のロートベアの鋭い爪を生やした大きな手がターニャを襲う。
「ターニャ!」
さすがにあの一撃はヤバイ!
俺はターニャの名を叫び、足へと力を加えた。
勢いのあまり地面がえぐれる。
そして一気にロートベアとターニャの間に入り、その攻撃を右手で受けとめた。念動腕で受け止めたおかげで熱さは感じない。
ロートベアの手を抑えながら後ろを見ると、ターニャは目を瞑って攻撃が来るのを待っている態勢になっていた。
「大丈夫か」
俺の声にターニャはハッとなり目を開けた。
「巡くん!」
戦闘中だというのにターニャは胸を撫で下ろして驚きと安心が混ざったような声を上げた。
「生きていれば回復できるが、死んじまったら回復できないからな」
ターニャは俺の言葉になぜか顔色を変える。
「じゃあ死なない攻撃だったら守ってくれなかったの!?」
できるだけ手を出さないでくれと言われているのだ。回復は別だとしても戦闘に加わるのはギリギリまでしないのがそちらの約束のはずだ。
「あぁ」
「なによそれ!」
ターニャは俺に怒りを露わにする。
戦闘中だというのにこの女……。
「そんなことはどうでもいい。いいか、この状態のロートベアはお前たちエルフじゃ相手にならん。だが、自分たちの戦いだとお前たちは言った。だから俺もできるだけ直接手は下したくない」
俺が喋っている隙にロートベアがもう片方の腕を振り下ろした。
俺は新たに念動腕を創りだしそれを防ぐ。
「じゃあ、私たちはどうすればいいのよ」
「お前たちが納得できるか分からないが、俺がこいつらを抑えているから一斉に急所を攻撃しろ」
ターニャは返事に詰まっているようだ。
それもそうだろう。俺が抑えている間に急所を攻撃するなんて卑怯ではある。
だがそれがなんだ。
生きるか死ぬかなんだ、卑怯なんて言っていられない。
ダンジョンでは上空から一方的に攻撃してくる奴もいれば罠を使ってハメようとしてくる奴もいる。卑怯なんてものはない。
「仲間の恨みを晴らしたいというエルフたちの思いは分かる。だが自分たちで勝てないのだ。力がないのが悪い。だが今はエルフたちには俺という駒がいる。それを力として使え」
これで納得してくれるかはわからない。
五年前に突然ダンジョンができ、そのせいでエルフたちが何人も死に、森の危機にまで追いやられた。何百年と何千年と続いていたかは分からないが、それでも長い時がたった五年で滅ぼされるなんてあまりにも理不尽だろう。だからこれ以上死ぬ必要などない。
これ以上戦えば俺が回復する暇もなく死ぬことになる。
「頼む、やってくれ」
傷の治った戦士長がすぐ近くまで来ていてそう言った。
その顔には悔しさが感じられる。
「あぁ、親と子は俺が押さえておく」
念動腕を創り、それで親を持ち上げて歩く。
その先には倒れている子のロートベアとそれを労わりながらも俺を見るもう一匹のロートベア。
俺がそいつらの前まで行くと俺を見ていたロートベアが立ち上がり怒りで身体を燃え上がらせる。
だがその瞬間に俺は一本の念動腕で組み伏せた。
親も同様に押さえつける。
倒れていたロートベアはすでに動いていない。
やはり死んだのだろう。
「さぁやれ」
俺はエルフたちに言い渡す。
「待って……大きい方のロートベアは私に殺させて」
ターニャが申し出る。周りのエルフたちはそれを了承した。他のエルフたちも恨みを晴らすため止めを刺したいだろうに。
「やれるのか?」
俺はターニャに確認した。
あのとき返事に詰まったが本当にやれるのだろうか。
「えぇ、両親の仇ですもの。私が殺すわ」
ターニャは淡々と述べながら弓を引く。必要以上に手に力が入っているのか、引いている弓がキリキリと軋む。
親のロートベアは弓を引くターニャを見て何度も吠えている。
……やはり両親は殺されていたのか。だが、その仇が目の前にいるのだ。これで多少は報われるだろう。
そしてターニャは矢を放った。
矢はロートベアの喉元を貫いた。
ロートベアは何度も苦しみながら暴れるが、俺が押さえているせいで動くことができないでいる。
そして、徐々に暴れる力がなくなり、やがて絶命した。
「……気分のいいものじゃないわね」
構えていた弓を下してターニャは言った。
あのロートベアも子のいる親だったのだ。
「そうか」
俺はそれだけで言葉を切った。
その後、もう一匹のロートベアを戦士長が同じように殺した。
そして魔物退治が終わった。
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