17話 ロートベアの親子
二匹のロートベアは遠くから聴こえた吠え声のする方向へと走って行った。
ターニャを含めた数人のエルフはその後ろ姿に弓を引いたが、二匹のロートベアの背後で炎が発生し矢が防がれた。
あれは火魔法のファイアか。
ロートベアが使ったのだろうが、生木は燃えにくいとはいえこんなところでファイアなんて使ったら火事になるのでは、と思ったが、生えている木に燃え移る前に火は消えた。
二匹の向かった先から地鳴りが響く。
それは徐々にこちらに向かってくる。
エルフたちはそれを迎え撃つ用意をしている。木に登っても先ほどのように落とされてしまうため、今はほとんどのエルフが地面に降りている。
二匹のロートベアとは明らかに違う威嚇するような大きな吠え声がすぐそこで響いた。しかしまだ見えてはいない。訓練されているエルフたちはその吠え声にもビビらずにしっかりと弓を構える。
そして逃げた二匹のロートベアよりも一回り大きいロートベアが木々をなぎ倒して姿を現した。
それと同時にエルフたちが矢を放つ。
前方と上方から放たれた矢を大きいロートベアが腕を振りかぶり横薙ぎにへし折っていく。
何発かは当たるのだが、その体毛を貫くことができず刺さらない。
大きいロートベアの後ろには逃げたはずの二匹のロートベアが隠れている。あの大きいのは二匹のロートベアたちの親なのだろう。
さて、あの三匹のロートベアに対してエルフの戦士たちはどう戦うのだろうか。今の戦い方ではロートベアの親を殺すことができない。
他の手が必要だろう。
……場合によっては俺も直接戦うかもしれないな。
「転ばせろ!」
戦士長が木の上からエルフたちに命令する。
エルフたちはその命令を聞き、矢を放ってロートベアを足止めする役とエアボールを発動させて転ばせる役に分かれた。
矢は常に射られる中、エアボールがロートベアの足を狙う。
エアボールに足元をすくわれ、ロートベアは前のめりに倒れた。
その瞬間、戦士長は木から飛び降りロートベアの首もと目がけてショートソードを突き刺そうとした。
それは重力による勢いがあり、ロートベアの体毛も貫けるのではないかと思われた。
しかし、そう簡単にことは運ばなかった。
親の背後にいた子の二匹が戦士長に気づいて、その進路を塞ごうとした。エルフたちもそれは見越していたため矢と魔法によって二匹のロートベアを留めようとしたが、二匹のロートベアは傷つきながら怯まなかった。一匹は落下する戦士長目がけてその太い腕を振り、一匹は親を守ろうと親に覆いかぶさった。
ロートベアの攻撃が戦士長に当る前にどうにかショートソードを突き立てられたが、それは親に覆いかぶさった子のロートベアの背中だった。
貫通することができなかったため親のロートベアまでたどり着かなかった。
そして戦士長の身体はロートベアの攻撃によって嫌な音を立てながら遠くまで吹き飛ばされた。
俺はすぐに吹き飛ばされた戦士長のもとへ向い、戦士長にサイコロでキュアを発動させる。折れた骨が内臓を傷つけたのか、吐血していた戦士長はみるみる回復していく。
そのとき、怒りが込められたロートベアの吠え声が響いた。
そちらを見ると親のロートベアが真っ赤な体毛をさらに真っ赤に燃え上がらせている。
あれはターニャが言っていたロートベアの特性だ。
ファイアで自分を燃え上がらせ怒りを露わにしている。その近くには背中から血を流し倒れている子とそれを心配げに労わる子のロートベアがいる。
さっきの戦士長の攻撃で一匹は死んだのだろうか。
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