12話 運魔法と念動
さて運魔法との連携を確かめる前に。
「ターニャ、これから少し危険なことをするから離れていてくれ」
ターニャは俺の言葉通り結構な距離を取ってくれた。
「ああ! それくらいでいい! すまない!」
俺が声を張り上げると、ターニャはこちらへ向かって手を振り返した。
それじゃあ早速連携を試すか。
まずはサイコロを念動で抑えて止めた場合どうなるか。念動が透明であるところを考えると見た目では分からないから威力が落ちずにそのまま魔法が発動すると思うが。
グラサイではない普通の四面体のサイコロを左手に創りだして放る。
回転しながら落ちるサイコロを念動腕で押さえつけて止める。
すると豆電球くらいのライトがピカッと光った。
案の定、威力に変わりない。
これでローデッドダイスだけではなく、念動による保険が掛けられる。そうそう敵に邪魔されなくなるだろう。
あとは一番試したかったことだけだ。
念動でサイコロを空中で止めた場合に魔法は発動するのか。
これができれば念動の有効範囲内なら魔法をどの座標でも発動させられる。
念動で空中に簡易的な板のような物を創る。もちろん透明だから見えないが創れた感覚はある。
そこへ向けてサイコロを放る。
コロコロと空中を転がるサイコロ。
その途中で念動腕を使って止めた。
またもやさっきと同じ威力のライトが発動した。
問題なく発動するようだ。
さて、この次の段階だ。
念動腕の手の中にサイコロを創り振っても発動するか。
今までは左右の手の中と口の中にしか創ったことはないが、とにかく振ることができれば発動していた。放った後のサイコロを敵にはじかれても発動していたことを考えれば、念動腕で振ったとしても発動するはずだ。
右腕が無い今、右腕の念動腕でサイコロを創りそのまま地面に押し付けるだけで発動することもできる。
遠距離にサイコロを創り上げることもできるはずだ。
そうすれば攻撃スピードも飛躍的に上がる。
不意打ちも容易だ。
これだけで戦術の幅が倍以上になる。そう考えると幾分か緊張してきた。緊張したところで結果は変わらないのだが。
慎重に右腕の念動腕にサイコロを創造する。
右腕からはサイコロの感触が確認できる。
右腕を見ると透明な右腕の中にしっかりとサイコロが存在していた。
「……よし」
思わずサイコロを握っていた右腕に力が入る。
「何かあったの!?」
ターニャが遠くから声をかけてきた。
サイコロを創るのに微動だにしていなかったから心配になったのだろうか。
「心配ない!」
一通り確認したいことは終わったな。
どうするか……。
ポイッと右腕のサイコロを放り棄てる。
視界の端でピカッと光る。
最後に魔法の威力と身体の調子を確認して終わりにするか。
木人を一体引っこ抜き広い場所に突き刺す。
周りには誰も、何もない。
ターニャを見ると不思議そうに首をかしげている。
俺は気にせず木人から少し距離を取った。
そして左右と前方、それと上空に念動腕を展開する。
さらに上空には念動板。
それぞれに一つずつサイコロを持たせて地面と念動板にサイコロを押し付けた。
左はファイアアロー。
右はウォータアロー。
前方はエアアロー。
そして上空はアースボール。
それぞれ速度や大きさを指定している。
まずエアアローが初めに木人の頭を吹き飛ばす。
次いで細く鋭いファイアアローが木人の心臓部分を貫き燃やす。
そしてウォータアローが一瞬の誤差でファイアアローの着弾した部分と寸分違わない位置を貫き消火する。
最後に巨大なアースボールが高速で木人を粉々に粉砕した。
複数展開も問題なしだし精度も良好。威力も十分。
あとは……。
足に力を込める。
一瞬でアースボールのもとまで。
念動で創り上げた右腕でそのアースボールを殴り砕ききった。
筋力、器用、敏捷、問題なし。耐久は……また今度だな。
「な、なにをしたの!? というかあの威力は何!?」
ターニャはこちらへと走り寄りながら驚きの大声を上げた。やたらと興奮している。
「今までの検証をもとに少し確認してみた。一応威力は抑えたから森に被害はないはずだ」
「あ、あれで威力を抑えたって……。それにさっき、複数の魔法を同時に……!」
ターニャは驚きの表情のまま固まってしまった。
森に被害が出ないように注意をしたんだから威力を抑えるのは当たり前だろ。それに他人に全力は見せたくない。
まぁそれはいいが、後半の言葉が気になった。
「複数の魔法の同時発動ってのは普通はできないのか?」
ダンジョンにいた真っ黒な狼はダークの他にもう一つの魔法を同時に発動していたように見えたが。
俺の疑問を聞いてターニャがふっと我に返った。
「あ、当たり前でしょ! 普通は一つの魔法を発動させるのに結構集中力がいるものなのよ! 確かに二つ同時に発動する人も里にはいるけど、四つも同時に発動させられないわよ! それも複数属性を!」
ターニャは息切れしながらプルプル震えている。言い終わったかなと思ったが。
「それに最後の岩を破壊したのは何!? 何かのギフト!? あんな巨大な岩を片手で砕くなんて今まで出会った魔物でも見たことないわよ!」
……どうやら全て言い終わったようだ。はぁはぁと息切れして髪も乱れている。なんだか、本当に最初のころとは雰囲気が変わりすぎだろ。
少し呆れる。
「なによ!」
「いや……あれはギフトだからとしか言いようがない。岩を砕いたのもギフトだが、一応あれは俺の筋力の能力値によるものだ」
今度はターニャが呆れかえった。
「あぁ、そうだったわ。あなたの能力値がとんでもないってことを忘れていたわ。魔法は診療所のときもそうだったし、もう驚かないようにする」
疲れ切った表情で一人納得するターニャ。
分かってくれればそれでいい。
周りが何やら騒がしい。
「ふふっ、どうやらあなたの凄さに周りがびっくりしているみたいね」
さっきまで同じように驚いていた奴のセリフとは思えない。だがツッコんだら余計な手間がかかりそうだ。
「あぁ、確認も終わったし、人が集まる前に戻ろう」
そう言ってターニャと一緒にターニャの家へと戻った。
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