11話 念動の使い方
ターニャにどこか広い場所はないかと尋ねるといい場所があると案内された。
診療所から出てターニャの案内のもと向かった先はエルフたちが訓練している場所だった。しかし訓練している者は少ない。
「ここは私たちの修練所なの。いつもならもっと人が多いんだけど……」
すっと顔に影が差す。
「すぐに溢れるさ」
それを聞いてターニャは笑顔を見せる。
なんというか、こういう反応は彼女みたいですぐに返ってくる。
実際に魔物退治を終えて怪我人を治せば、エルフの戦士とやらがすぐにでも訓練を開始するだろ。
「ありがと。……さ、何をするのか分からないけど、思う存分に試すといいわ。明日にはその力を貸してもらうんだから」
「あぁ、それじゃ遠慮なく」
新しく手に入れた念動というギフトの使い道を模索したいと思っていた。
昨日は里長の家で右腕の代用のように扱うことができた。
朝も念動を右腕のように使用すれば右腕で食べる感覚で食べられただろうが、食事にギフトを使うまでもない。
そんなことより、念動の仕様と運魔法との連携を調べておきたい。
とりあえず、すでに念動で分かっていることは直接触らずに物に触れたり動かすことができる力だということだ。力の強さと精密さは筋力と器用に依存しているようで、右腕のように扱えば以前と変わらない感覚で扱える。使用も一瞬ではなくある程度長い時間使えるようだ。どのくらい長く使えるかは分からないが。
まずはその辺からだな。
今日一日、右腕を保持したままで試すか。
念動を使い右腕を創造する。すると垂れていた右の袖がふわりと動き右腕がその場にあるかのように袖の口が開いた。
次は複数同時にできるのかを試すか。
今度は右腕の場所ではなく、空中に想像してみる。
イメージは腕。
一、二、三、四、五……右腕も合わせれば六本か。思ったより多く創れるな。腕ではなく、単純な衝撃のような感じで一瞬創るだけならもっと多くいけそうだが。
四本の念動腕を消して右腕の一本と空中の一本にする。
さて、次は有効範囲の距離だな。何か目安になるものは……。
「何か探しているの?」
俺が距離の目安になる物を探して辺りを見ていると、さっきまで静かに見ていたターニャが話しかけてきた。
「あぁ、念動の有効範囲を調べたくて何か目安になる物はないか探している」
「それだったら対人用の木人があるからそれで距離を測るといいわ。大体二メートル間隔で置かれているから」
ターニャが指で木人がある方を指す。
そちらには二十体の木人が一列に等間隔に並べられていた。
普段は弓の的にされているのか、尖ったものが刺さったような跡がいくつもある。
「助かる」
俺は木人のある方へと向かった。ターニャもついてくる。
「別に付き合わなくてもいいぞ」
初めに言っておけばよかったな。ただの検証に付き合わせるのも悪い。どれくらい時間がかかるかも分からない。
「いいの。……それとも迷惑?」
なぜか瞳を潤ませて聞いてくる。
診療所に行ってからターニャが変な感じだ。
いつもは落ち着いた雰囲気でいるのに、ちょっとしたことでそれがなくなる。出会ったころは大声を上げたりしていたが、それは俺のせいだろう。だが今回のことは意味が分からない。俺はただつまらないことに付き合わせるのは悪いなと思っただけなのに、なんで迷惑ってことになるんだ。
「いや、迷惑ではないが、つまらないだろ」
「そんなことないわ。見ていていいならずっと見ているわ。――あ、ずっとっていうのはそのままの意味じゃなくてあなたの検証が終わるまでってことよ!」
ターニャは自分で言ったことに慌てふためき恥ずかしそうにしすぐに訂正した。
わざわざ訂正しなくても分かるが。
こういう思わず口についてしまう感じはなんだか彼女に似ているな。
ふっと気が緩む。
だが似ているだけで彼女ではない。
ターニャがこちらを見てぼーっとしている。
顔も赤い。
先ほどのことが余程恥ずかしかったのだろうか。
「大丈夫か?」
突然ぼーっとしたので心配になって顔を覗き込もうとした。すると先ほどよりもさらに慌てふためいた。
「え、えぇ大丈夫よ! さ、さぁ早く行きましょ!」
ターニャはそう言って木人のある方へと急いだ。
何をそんな慌てる必要があるんだ。
木人のある場所まで着くと俺は早速空中に出している腕を飛ばした。
速さも良好。
一体目、二体目、三体目の木人にたどり着いたとき腕が消える感覚がした。
大体六メートルといったところか。腕の創れる本数と一致しているな。何か関係があるのだろうか。
次は見えないところにも創れるかだな。
今までは見える範囲で指定した座標を相対的に見て創りだしていた。
見える範囲というのが問題で、見えないところは視覚による座標が分からない。だから見えないところには創れない可能性がある。
まぁ試してみれば早い。
木人を挟んだ反対側に念動腕を創ろうとした。しかし創れた感覚がしない。
うまくいかないようだ。
やはり座標が分からないから無理なのだろう。もしもできたのなら相手の身体の内部から破壊することができるのだが。もしかしたら音で空間が感知できれば見えないところにも創ることができるかもしれないな。
新しく念動腕を創り木人の反対側へと飛ばしUターンさせる。
一度作れば見えないところへと飛ばすことはできるんだな。これなら外側で創って内側に入れさえすれば内部を破壊することができる。
次は運魔法との連携だな。
お読みいただきありがとうございます。